暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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アトリエシリーズではかなり出現頻度が高いアードラ。

まあまんま猛禽なんですが、序盤で難敵だったり上位種がいろいろいたり、作品によって立ち位置はまちまちですね……。

空飛ぶ奴だけではなく、ペンギンだったり走鳥だったり、陸上生の鳥も結構アトリエシリーズには登場しています。


2、少しずつ前に

結局三日をおいてもう一度アードラを狩りにでて。

 

合計六羽を仕留めた。

 

この手の獣の駆除任務は、指定の数以上を仕留めれば、それだけ報酬が上がるようになっている。

 

四羽の依頼で六羽。

 

報酬にも色をつけて貰った。

 

その代わり、クラフトはほぼ使い切ってしまったし、せっかく作ったお薬もだいぶ減ってしまった。

 

何よりも、一回目の作戦では、アンパサンドさんを死なせるところだった。

 

殿軍を買って出たアンパサンドさんは、自分が死ぬことを何とも思っていないようだったし。

 

傷の手当てをするときも、苦痛の声どころか、眉一つ動かさなかった。スールだったらピーピー泣いていただろうし。リディーだって、多分其処は変わらなかっただろう。

 

ただ、歴戦の戦士でも、痛い時は痛いらしいし。

 

幾ら感情が薄いホムでも異常だ。

 

だが、そもそもリディーがしっかり指揮を執れていて。錬金術師として腕があれば。あんな目にはあわせずに済んだのであって。

 

全部リディーが悪い。

 

異常かも知れないが、そんな事は一切関係ない。

 

スールはむしろ指示通り今回はきちんと動いた。

 

次は、絶対に同じ失敗をしない。

 

メモを取って、何度も読み返す。

 

そして得られた素材については、しっかり分別して、コンテナに格納した。後は、国に納品する薬品だ。

 

月に一回。

 

必ず納品しなければいけない。

 

これがかなりのネックになる。つまり素材を安定して入手できるようにならなければならないからだ。

 

他の錬金術師達は、恐らく独自のルートで素材を入手しているはず。

 

イル師匠も、場所は教えてくれなかった。

 

図鑑によると、此処から少し離れた湿地帯(勿論危険な獣が山と出る)や。街道を抜けた先にある山の中などにはあるらしいのだが。

 

其処まで行く戦力があるかどうか。

 

とにかくクラフトを作る。

 

細かい作業はリディーが。

 

勘がいる作業はスールが。

 

それぞれ担当し。

 

遠征用の準備を整えていく。

 

スールは昔、自分の力が分かっていなかった頃は。また上手くなったとか、馬鹿な事を抜かしていたが。

 

今はもう、黙々と釜に向かうようになっている。

 

それは当然だろう。

 

現実を次々に見せられているのだ。

 

対応だって、自分で変えて来る。

 

スールでさえそうなのだ。

 

リディーも、もっとしっかりしていかなければならないだろう。

 

「これで、良しと……」

 

リディーは、荷車の底に。アードラの羽根を敷き詰めて。そして、その上に古くなっていた布を乗せた。

 

これで良いクッションになる。

 

問題は側面で。

 

今後糸繰りに頼んで、糸を作れるようになったら。

 

布を造り。

 

側面にも、同じようなクッションをつける必要があるだろう。

 

現状は、古くなっている籠をばらして。

 

荷車の側面に、貼り付ける形で、釘で打っておく。

 

これで荷車には、多少の衝撃があっても。デリケートな瓶などが、割れることは無い。

 

衛生面の問題があるので。

 

植物の繊維をばらし。

 

中和剤で変質させた後。

 

スノコで繊維を何度も行き来させながら水を飛ばし。

 

乾いたところに中和剤を注ぐ。

 

そして日光に当てて乾かし。

 

ゼッテルを作り上げる。

 

この間の強力な肉食植物から、良い素材がたんまりとれたので。それを使ってゼッテルにしたのだ。

 

このゼッテルに、イル師匠に教わりながら、防御強化の魔術を書き。

 

そしてクッションの上に貼り付けた。

 

触ってみたが、確かにただのゼッテル(紙)の割りには、破れる気配もない。

 

もっと腕利きになってくると。

 

このゼッテルを片手間に造り。

 

様々な用途で応用していくのが基本となる。

 

また布などにも、魔法陣を編み込むようにして。

 

強固な道具を作ると言う。

 

金属も同じように加工するという話で。

 

頭がクラクラする。

 

兎に角技術が足りなさすぎる。

 

荷車はこれで現時点でのベストを尽くした。後は装甲板を外側に貼りたいけれども。それもまだ先になるだろう。

 

「スーちゃん、騎士団に手続きに行ってきて。 明日出る」

 

「わかった。 フィンブルさんにも声かけてくるね」

 

「お願い」

 

ぱたぱたアトリエを出ていくスールの足音を背中に。

 

リディーは薬とクラフトの最終調整を行う。

 

普段行くのとは逆方向。

 

東の方には、街道を森で守っている場所が合って。

 

丸一日ほど行った所に、草原が存在している。

 

たくさんは採れないと思うが。

 

此処になら、必要な薬草がある筈だ。

 

普段使っている薬草には、トーンと呼ばれる魔力を込めた草を使うのだが。

 

騎士団が要求している薬は、コバルト草と呼ばれるもっと魔力の強い草を要求してくる。

 

品質は当然相応に要求されるが。

 

中和剤の素材として、この間の強力な肉食植物から、良い体液が採れた。

 

ものの性質を変化させるために重要な基礎となる中和剤には。

 

強力な魔力が籠もったものが必要になってくる。

 

極論すれば、コバルト草を中和剤の素材にしても良いわけで。

 

ただ、これから行こうと考えている草原に、そんな良いのがあるかどうか。

 

「手続きしてきたよ」

 

「じゃあ、此処までだね。 スケジュールは練っておいたから」

 

「そっか、じゃあ自由行動で」

 

「うん」

 

最近。少しずつ、別々に動く時間が増えてきた。

 

リディーはイル師匠の所に行って。正確には、アリスさんの所に行って、座学をする。

 

スールは危険度が少ない調合を兎に角反復練習。

 

このため、精度の高い蒸留水などに関しては。コンテナの中にかなりの量が揃ってきている。

 

イル師匠に言われた通りに徹底的に蒸留した結果。

 

師匠も満足する品に仕上がってきている。

 

蒸留水は正直で。

 

使う器具を毎回丁寧に洗い。

 

蒸留すれば蒸留するほど。

 

良い品に仕上がっていく。

 

この辺りは、技量はほぼ関係無いのだけれど。

 

ただ井戸水を汲んでくる。

 

水を湧かすときに使う燃料。

 

道具の手入れ。

 

いずれにも、それぞれ手順が当然必要になってくる。

 

スールは細かい作業が苦手だから、それらの手順を徹底的に叩き込む必要があるわけで。自主的に、苦手分野を埋めようとしていた。

 

リディーも負けてはいられない。

 

勿論スールと離れて暮らす、なんて事は考えられないけれど。

 

何をするのも一緒、というのもおかしいだろう。

 

それぞれ苦手分野を補うために。

 

それぞれで勉強をする。

 

当たり前の事だ。

 

今日も、アリスさんから、様々な状況での戦略と戦術についてならう。イル師匠は黙々と、よく分からない錬金術を後ろでやっていて。それもとても気になるけれども。今はまずメモだ。

 

座学の後は、勿論体を動かすトレーニングもする。

 

リディーは体が弱いので。

 

魔術でまず防御壁を展開することが基本になるが。

 

アリスさんは素手で、その壁を簡単に抜いてくる。

 

何度も吹っ飛ばされては、受け身を必死に取るが。

 

それだけで痛くて泣きそうだ。

 

傷の手当てをイル師匠にして貰うけれど。

 

その度にまた頭を下げて、お願いしますとアリスさんに打撃をして貰う。

 

防御魔術の精度を少しでも上げる。

 

攻撃補助もそうだけれど。

 

司令塔が潰されたら、戦闘はその時点で終わるのだ。

 

だからまず生き残る。

 

それがアリスさんに、絶対だと言われた事だった。

 

立ち回りも覚えなければならない。

 

だが、後々には錬金術の装備でガチガチに守りを固め。

 

何があっても、司令塔は常時立っていなければならない。

 

今は防御の魔術で。

 

少しでも生存率を上げる。

 

そのために、防御魔術を一撃で抜いてくる打撃に、少しでも対応出来るようにならなければならないのだ。

 

しばらく防御魔術を展開しては。

 

打撃を受けて。

 

吹っ飛ばされて、受け身を取る。

 

これをひたすら繰り返す。適当な所で、イル師匠が回復の薬を使ってくれるが。傷が治るだけの今のリディーとスールの薬と違って。

 

体力の疲弊も消える。

 

これは凄い薬だと思うが。

 

イル師匠は、そんなものをリディーに使ってくれている。要するに投資してくれている、と言う事だ。

 

本気で面倒を見てくれているのだ。

 

泣き言は言っていられない。

 

そこまで、と声が掛かるまで修練を続けて。

 

それから、アトリエに戻る。

 

スールはその時、機材を洗っていて。

 

夕飯は、と開口一番に言った。

 

勿論買って帰ってきた。

 

流石に作る余力は無い。

 

「相変わらずぼっこぼこにされてるね」

 

「この虚弱体質、どうにかしないとね……」

 

「具体的に何してるの?」

 

「座学と実習」

 

座学と聞くだけで、スールはうえっと言ったので。リディーは苦笑いするしかなかったけれど。

 

しかしながら、そんなスールでも、こうやって機材の手入れをきちんと出来るようになっている。

 

やはり、負けてはいられないのだ。

 

スケジュールについて、退屈そうではあるけれど、スールには話しておく。

 

「この間のアードラ狩りで分かったと思うけれど、まだ人間の生存圏から露骨に出るのは危険すぎると思う」

 

「うん、本当に死人出す所だったもんね」

 

「そこで、此処に行く」

 

「此処……」

 

珍しい機能している街道の先にある草原だ。

 

森で街道を守っている理由は、その先にラスティンがあるから。

 

まったく機能していない街道は、命がけで行かなければならないが。こうやって森で守られている街道は、獣も大人しく、雇う護衛も最小限で済む。匪賊についても、こういう主要ライフラインの側からは、騎士団も徹底的に駆除しているらしいので、危険度は他の街道に比べると段違いに低い。

 

ということだ。

 

いずれも、アンパサンドさんに聞いた話である。

 

「ただ、此処一つ問題があるんだ」

 

「お化けはやだよ」

 

「そんなんだったらどれだけよかったか。 此処、グリフォンが出るらしいの」

 

「え……」

 

絶句するスール。

 

当然だ。

 

グリフォン。鳥の頭と獅子の体を持つ、獣の中でも強力な存在。一番弱いものでも、生半可な獣では歯が立たないほどの実力を持っている、と聞いている。何よりからだが非常に大きく、背丈でも魔族以上、体の長さはその更に二倍半という事だった。

 

グリフォンとキメラビースト。

 

この二種が、獣として迂闊に手を出してはいけない両筆頭。

 

そういう話を聞かされている。

 

その一方が出るのだ。

 

ぞっとする話だが。

 

営巣期には、これが群れを成して草原に出ると言うことだ。

 

幸い今は違う。

 

だが、いつまでもGランクでもたついていたら。

 

いずれ営巣期が来てしまうだろう。

 

「とにかく、今は危険を覚悟でやるしかないよ。 できるだけコバルト草を手に入れて、当面は大丈夫なようにしよう」

 

「やだあ、こわい……」

 

「もう、まだそんな事言って。 足手まといは卒業したいんでしょ。 私だってまだ足手まといだけれど、そんなんじゃいつまで経っても足手まといだよスーちゃん」

 

「そんな事分かってるよう。 でもお」

 

泣き言を垂れ流すスールに呆れるが。

 

でも、仕方が無い。

 

スールは体こそ頑丈だが、甘えん坊なところが昔っからあった。お母さんが死んだときだって、立ち直ったのはスールの方が遅かった。

 

あの凶悪な肉食植物との戦いでも。

 

相当に恐かったはずで。

 

また目の前で人が死にかけたのであれば。

 

その恐怖も一際だろう。

 

後は、軽くミーティングをした後。

 

荷車にクラフトや傷薬を詰めて、出る準備を済ませ。早めに寝る。リディーは最近兎に角激しく体を酷使しているからか。

 

すっかりよく眠れるようになった。

 

スールはというと、朝に弱いのは相変わらず治らず。

 

いつも朝方はフラフラしている。

 

お姉ちゃんなんだから。

 

スールを守らなければならない。

 

どこかで、リディーはまだそう思っているけれど。

 

スールが守られているばかりでは、駄目だと言うこともはっきり分かっている。

 

それにリディーも、勘が足りない事は自覚している。

 

普通魔術を使える人間は、勘が優れている事が多いのだが。

 

どうしてなのだろう。

 

その辺り、リディーにはよく分からなかった。

 

 

 

いつもと違う城門前に集まり。

 

そしてスケジュールについて説明をもう一度する。

 

フィンブルさんは話を聞いてむしろ安心したようだった。

 

「あっちにいくのか。 あっちはある程度安全だからな、助かる」

 

「いや、街道は安全なんですが、目的地はグリフォンが出るらしくて」

 

「うえ……本当かよ」

 

「もし見かけたら、即座に逃げるのです。 現状の戦力では、死人が出るのです」

 

露骨に青ざめるマティアスさんと、当然のように言うアンパサンドさん。

 

当然殿軍を買って出るつもりだろう。

 

この人は、自分の命を何とも思っていない。

 

それが分かってしまう。

 

あの肉食植物との戦いでもそうだったが。

 

暗い目をしているという事には。

 

相応の理由がある、と言う事だ。

 

勿論死なせる訳にはいかない。誰だって、目の前で死なせる訳にはいかないのだ。

 

「と、とにかく、さっと行ってさっと帰りましょう。 街道の先にある宿場町で一泊するので、行程としては一泊二日、帰りは明日の夜になります」

 

「採集には時間をそれほど掛けないんだな」

 

「グリフォンに遭遇する確率が跳ね上がりますので」

 

「……そ、そうだよな。 やばい獣にはあいたくない」

 

マティアスさんは、スールにそっくりだな。

 

不謹慎だが、そんな事を思ってしまった。

 

だだのこね方とかがよく似ている。

 

不覚にも、だが。

 

今のお父さんとも被る。

 

スールは能力ではお母さん似だが。

 

性格は何処かお父さんと似ている部分もある。

 

特に、戦闘関連では、お父さんにびっくりするほど似ている所がある。勿論お父さんが戦っている所は見たことが無いが。その辺りは、性格面がどうしても出てきてしまう。

 

手続きを終えて。

 

城門から出る。街道の左右に木々が生えていて、空気が露骨に違った。森の中を歩く逆方向とは違って、明らかに手を入れた街道が続いていて。最小限の護衛を連れた馬車が行き交っている。

 

それだけ安全、と言う事だ。

 

とはいっても、場所によっては街道にも匪賊が出ると聞いている。

 

森関係無しの匪賊は、場所によっては獣より危険だ。特にホムにとっては死に等しい。

 

匪賊がホムの肉を好んで食らう事は、誰でも知っていることだ。

 

アンパサンドさんみたいに自衛能力のあるホムはごく少数。

 

肉が美味い上に狙いやすいとなれば。

 

それは匪賊も嬉々として狙う。

 

最低限まで落ちた人間にとっては。

 

同じ人間も食糧に過ぎないのだ。

 

時々、傭兵が巡回しているのが見える。騎士だと分かると、マティアスさんとアンパサンドさんに敬礼していく。

 

軽く話を聞いて、状況を確認もするアンパサンドさんは隙が無い。

 

アードラが遠くを飛んでいるのが見えたが。

 

やはり森を傷つけるのは好まないのか。

 

此方に近付いてくる様子はなかった。

 

昼少し過ぎには隣街に到着。

 

街と言っても宿場町なので、宿と、周辺施設と。城壁に守られているだけの小さなものである。

 

宿を取る。

 

こう言う場所の宿は、騎士団が巡回しているので、盗人も入らない。王都から離れるとかなり危ないらしいけれど、此処は流石に安全だ。

 

事実、巡回中の騎士団も見かけた。

 

従騎士ばかりだったが、それでも率いているのは騎士。

 

生半可な盗人など、速攻で捕まるだろう。

 

馬車とかがあれば、もっと積載量は増えるのだけれども。いずれにしても、まだそんなものは求めようがない。

 

陽が落ちる前に、草原に出る。

 

草原に出ると、当然この辺りは木も無いからか、かなり遠くで獣が既に威嚇している。下手に近付けば、すぐにでも襲いかかってくるだろう。

 

言葉は既に皆発しない。

 

必死にハンドサインを覚えたスールも。

 

既に、緊張したまま、ホルスターに手を掛けていた。

 

リディーは図鑑を取りだすと。

 

辺りを徹底的に調べ始める。

 

この辺りには小さな川も流れているが。

 

川の中には、陸上とは比べものにならないほど巨大な獣がいて。しかもとてつもなく凶暴だ。

 

絶対に川には近付くな。

 

この採取場に行く前に。

 

イル師匠に言われた言葉だ。

 

少しずつ暗くなってきた。岩陰を探すが、確かにそれらしい草はある。

 

コバルト草は、名前の通り青っぽい薬草で。非常に強い薬効があるため、使い方によっては毒にもなる。逆に言うと、薬効を制御すれば、とても頼りになるお薬になる。騎士団では、アルファ商会から相当量を買い込んでいたらしいのだが。それを今回のアトリエランク制度で緩和し。

 

そして騎士団の規模を拡充。

 

治安の維持に、更に力を入れるのだろう。

 

何しろ、首都近辺でも、あれだけ強力な獣が出るのである。

 

国家予算だって限られている。

 

騎士団の規模拡大は急務だし。

 

それはリディーやスールにとっても他人事ではないのだ。

 

アンパサンドさんがハンドサイン。

 

引き上げ、の指示だ。

 

獣から距離を取りながら採集をしていたが。

 

それでも何度か鋭い声で獣に威嚇された。

 

巨大な兎や、もっと大きいぷにぷにが徘徊していて。

 

戦闘になったら、一斉に襲いかかってきた可能性も高い。兎に角、初日は戦闘を避けられた。それで良しとするしかない。

 

宿に戻った後。

 

回収してきた薬草を調べる。

 

多分コバルト草だろうと思って取ってきたものを見てみるが。図鑑を見ると、特徴が違っているものが幾つも紛れていた。

 

思わず呻いて、違うものは分ける。

 

スールはこの辺鋭くて。

 

図鑑を見て、現物を見た後。

 

これは違う、これはコバルト草と、ひょいひょい分けていく。リディーも確認するけれど。確かにスールの勘は頼りになる。

 

マティアスさんは言う。

 

「どうだ、必要量には足りそうか」

 

「はい、何とか……。 ただ、予定通り、明日の朝も、少し採集したいです」

 

「一応足りたんなら、もう危険を冒す必要なくないか?」

 

「いえ、毎月納入しないといけない事を考えると、回収出来るだけ回収した方が良いかなって」

 

幸い、コバルト草はあの広大な草原には、相応量が生えている。どんなにリディーとスールが頑張っても、取り尽くすことは無理だろう。

 

それにしても。

 

お世辞にも、品質が良いとは言えないコバルト草だ。

 

早めに持ち帰らないと痛む。

 

コンテナに入れてしまえば大丈夫だが。

 

そういう意味でも、早々に戻る必要があるだろう。

 

勿論宿の部屋は男女別。

 

二部屋に別れて寝る。疲れ切っているので、ガールズトークもあったものではない。すぐに眠くなってきたが。スールはアンパサンドさんに色々聞きたがった。

 

「アンパサンドさんってもてるほう? 彼氏いる?」

 

「特定の異性はいないのです」

 

「あれ、ホムの戦士って珍しいし、もてそうだと思うんだけれどなあ」

 

「万年発情期のヒト族と違って、ホムは欲望が薄いのです。 ヒト族で言う男女交際も、ほぼ同じ形ではあり得ないのです。 そもそもホムは生殖によって欲望を発散することもないのです」

 

感情が薄いからか。

 

思わず真顔になったスールが口をつぐむような単語がドカンドカン出てくる。

 

リディーも、ホムが子供を産まず、文字通り「作る」事は知っているが。

 

それでも根本的に考え方が違いすぎる。

 

アンパサンドさんは平然としているが。

 

ませていてもまだ子供なスールは、真っ赤になって、以降は何も言わなかった。多分ヒト族の女子とするようなガールズトークは無理だと判断したのだろう。

 

そういえば。

 

確かホムは、環境が安定するまで子供をまず作らないと聞いた事がある。欲望に負けて無計画に子供を作るヒト族とはその辺りからして違うのだろう。しかしながら、商人になって成功したりすると、かなりたくさん子供を作ったりするらしい。考え方が違うのだと思う。

 

欲望の形も。そのあり方も。

 

ヒト族とホムは違いすぎるのだろう。

 

だから役人や商人には向いているが。

 

その一方で野心に著しく欠けるから、出世はしづらいとも聞いている。

 

評判が悪いヒト族の役人が出世する傾向にあるのも。

 

野心が強いから、なのだろう。

 

一晩眠って。

 

翌朝、コバルト草を集める。

 

遠くに巨大な影が見える。絶対に近付かないようにと、ハンドサインを出された。恐らく、相当に危険な獣なのだろう。

 

頷くと、黙々とコバルト草を集める。

 

昨日と違って、スールが手伝ってくれる。コツを覚えたのか、リディーの倍くらいの速度で、コバルト草を集めてくれた。ただし、途中で二回、虫を至近で見た様子で、ひゃあっとか悲鳴を上げて。

 

アンパサンドさんに睨まれていたが。

 

ともかく、戦闘は回避し。

 

そのまま帰路につく。

 

「あー恐かった」

 

情けない事を言うマティアスさん。

 

フィンブルさんは、戦いたかったと顔に書いてあるが。フィンブルさんがいてくれたおかげで手数が増え、多分回避できた戦闘もあったはずだ。いつ襲われてもおかしくない緊張感の中に身を置くのは、決して無駄では無かったはず。

 

「時にアンパサンドさん、遠くに見えたあのおっきいのは」

 

「ネームド、疾風のかぎ爪なのです」

 

「!」

 

「おいおい、アレが……」

 

マティアスさんが呻く。

 

騎士団なら知っている程度の相手、と言う事だろう。

 

フィンブルさんが話を聞きたがったので、アンパサンドさんが応える。

 

「比較的最近確認されたネームドで、グリフォンのネームドなのです。 ネームドの好戦性は非常に高く、人間が視界に入ったら躊躇無く殺しに来るのです。 彼奴は縄張りが街に近すぎる。 恐らくですが、近々錬金術師も交えた討伐作戦が展開される筈なのです」

 

「グリフォンだけでも厄介なのに、グリフォンのネームド!?」

 

「戦闘力は並みのグリフォン十体分以上と思って良いのです。 魔術も当然使ってくるのです」

 

「か、帰ろ! いそご!」

 

スールが真っ青になり。

 

マティアスがそれに同意して、こくこく頷く。

 

リディーは呆れたが。

 

だが、分かる。

 

ネームドは、そこまで危険なのか。多分あの肉食植物なんて、虎の前の子猫も同じなのだろう。

 

森に守られた街道を通っているからか。

 

帰り道で獣に襲われることはなかった。

 

予定通り夜には王都に到着。門で別れる。

 

フィンブルさんに給金を渡すと。少し悩んだ末に、言われる。

 

「なあ、俺役に立ててるか?」

 

「はい。 手数が増えるだけで、戦闘が回避できています」

 

「そうか。 手数、か」

 

「その内良い装備を作ります。 そうしたら、きっと活躍も今よりずっと出来る筈ですよ」

 

しばし黙っていたフィンブルさんだが。

 

言う。

 

「俺たち……まあ獣人族には普遍的な価値なんだが、とにかく戦士としてのある程度の実績はみんな欲しがるんだ。 俺も欲しい。 やっぱり強い獣を倒せば、傭兵としても箔がつく」

 

「何となく分かる気がします」

 

「とにかく、強い武器とか装備が作れるなら……くれると嬉しい。 貰った分の活躍はして見せる」

 

頷くと、後はその場で別れる。

 

今日は重い荷物もなかったし、コンテナへの搬入は手伝いも必要ないだろう。

 

家に戻ると、珍しくお父さんがいたが。

 

娘の顔を見ると、それだけで地下室に戻っていった。

 

後は何をしているのかも分からない。

 

ただ、表情は消えていたし。

 

何を考えているのかもよく分からなかった。

 

さて、後は。

 

最低限の義務をクリアしなければならない。アダレットだって、余裕がある訳では無いのだから。

 

まず取ってきたコバルト草を、コンテナの中に整備。

 

後はイル師匠に相談しながら、調合を試してみなければならない。

 

問題は強すぎる薬効の制御だ。

 

明日が、本番になる。

 

スールにも言い聞かせる。

 

次の調合は、今までに無いほど難しいと。スールも、緊張した顔で頷いていた。

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