暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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イルメリアが双子の師匠を買って出たのは、基本的にフィリスは感覚型の天才で師匠に向いていないからです。

いちおう地獄のような繰り返しの中でフィリスが双子の師匠をやったこともあるのですが、上手く行きませんでした。


3、最初に手に触れる奇蹟

イル師匠は、コバルト草を見ると、かなり険しい表情を作った。これだと品質が厳しいと感じたのだろう。

 

中和剤には自信があるが。

 

それを見ても、表情は変わらなかった。

 

「これはギリギリの品になるわよ」

 

「はい、分かっています」

 

「よろしい。 ではまずコバルト草の加工から」

 

レシピ通り、丁寧に葉脈を取り除く。

 

ピンセットを使って、隅々まで。

 

その途中で言われる。

 

「植物は、部位によって毒があったり薬があったりするのよ。 芋などが有名ね。 このコバルト草はそれが顕著で、葉脈は猛毒よ。 取り除くときには要注意して。 そして取り除いた後も捨てないで取っておきなさい。 毒の材料に出来るわ」

 

「イル師匠、質問」

 

「何かしら、スー」

 

「毒なんてどう使うんですか? 飲ませるのは難しそうだし……」

 

素朴な疑問だ。

 

イル師匠は、即座にスールが真っ青になる答えを返す。

 

「例えば、クラフトの内部に仕込む。 爆圧だけではなく、致死毒が敵を襲う事になるわ」

 

「ひっ……」

 

「相手を殺す以上、手段はどうあれ結局は同じよ。 他にもクラフトに尖った石などを仕込むと、殺傷力が倍増する。 覚えておくと良いわ」

 

恐い。

 

だが、それは確かに事実なのだろう。

 

相手を殺すための道具だ。

 

其処には残酷も何も無い。

 

とにかく、丁寧に葉脈を取り除き。そして、貸してもらった顕微鏡で確認。問題なしとイル師匠が太鼓判を押してくれるまで、三回失敗した。コバルト草はたくさん持ち帰ってきたが。

 

それで正解だっただろう。

 

一発で上手く行くはずはないと考えていたが。

 

これはちょっとやそっとでは出来そうに無い。

 

更に、葉脈を取り除いたコバルト草をすり潰し。

 

中和剤と混ぜる。

 

そして、一旦熱を通して。

 

ゼッテルを使って、固形分を濾し取る。

 

「コバルト草の薬効は、葉の部分の内部にあるの。 葉の「身」は邪魔だから、こうやって濾し取るのよ」

 

「なるほど……」

 

「凄い手間が掛かりますね」

 

「騎士団がこれを貴方たちに要求する理由が分かる? 一回に使用するこの薬、アルファ商会から買うと傭兵を一月雇える額よ。 それもベテランをね」

 

思わずフラスコを取り落としそうになる。

 

確かにそれは、コスト圧縮という点で重要だ。

 

そしてできた液体だが。

 

これも完成ではないという。

 

「これは中間生成液。 今後、難しい調合を行うようになると、こういう単体では何の役にも立たないものを扱うようになるわ。 覚えておきなさい」

 

「はいっ」

 

「ラベルを貼るんでしたね」

 

「そうよリディー。 続けて、次の処置に入るわよ」

 

釜を蒸留水で洗い。

 

丁寧に綺麗にした後。

 

トーンを中心とした薬草を煮込み。

 

薬効成分を抽出する。

 

それも中和剤を使って変質させ。

 

そしてある程度温める。

 

方法としては湯を沸かして、フラスコを温めるのだけれど。この時に温度計を使い。更に温める時間もしっかり計る。

 

きっちり時間を計らないと。

 

同じ温度にはならないのだそうだ。

 

厳しい作業が続くが。

 

二つの中間生成液を温め、同じ温度にした後。

 

一気に言われた通りに混ぜ合わせる。

 

液体だった二つの液が。

 

一気に固体になる。

 

見ていて、声が漏れるほどの変化だった。

 

混ぜ合わさった二つの液を、急いで掻き回すように指示を受けて。頷いて、硝子棒で混ぜる。

 

しばしして。

 

固体化した生成物が。

 

青黒かった色から、白が掛かった赤へと変化していった。

 

できた。

 

悟り、腰が抜けそうになる。

 

アリスさんが、後ろで受け止めてくれた。

 

呼吸を整える。

 

早速、イル師匠が躊躇無く自分の腕をナイフで傷つける。それも結構派手に。ひっと悲鳴を上げるスールだけれども。

 

だらだら血が流れる腕に、イル師匠が少しだけできた薬を塗り込むと。

 

今までの比では無い。

 

まるで輝くようにして、傷口が埋まり、溶けるように消えていった。

 

「まあまあね。 21点」

 

「そ、その、これで納品は……」

 

「まあギリギリだけれども、これならば大丈夫な筈よ。 そうね、今作った分を全て使えば、多分ちぎれた腕くらいならくっつくわ」

 

「……っ!」

 

それは、アルファ商会で売っていた薬に近いと言う事か。

 

思わず歓喜が漏れそうになるが。

 

しかし、他の錬金術師は誰でもできる事なのだと思い出し。

 

気を引き締め直した。

 

「では基本よ。 反復練習と復習。 分かっているわね」

 

「はいっ!」

 

「今度は口出しをしないから、自分達だけでやってみなさい。 さっき作ったのが一月分くらいになるわ。 後の事も考えて、半年分くらいは作っておくべきでしょうね」

 

「分かりましたっ!」

 

二人で声を揃える。

 

今まで作っていた薬の比じゃない。

 

文字通りの奇蹟を起こす薬だ。元々の性質を変質させて、何十倍にも強化している。

 

そして、悟る。

 

これでも、まだあの時のお母さんを治せる次元にない、と言う事だ。

 

お父さんは全盛期には、これを超える薬くらい簡単に作っていたはずで。それでもお母さんは天国に行ってしまった。

 

まだまだ。

 

まだまだ全然足りない。

 

取りに行くのが難しい材料ほど、いいものを作れるようになるのは自明の理。

 

そういうのを取りに行くには、あの恐ろしい獣たちを蹴散らすような実力も必要になってくる。

 

貪欲になってくるのが分かる。

 

でも、一度や二度で上手く行くはずが無い。

 

二人で徹底的に練習する。

 

それから二日間泊まり込みで、イル師匠のアトリエにて調合をずっと繰り返し。

 

騎士団に納入するお薬を造り続けた。

 

一度作る度に、途中では口出ししなかったイル師匠が、丁寧にアドバイスをくれる。それは精神論を一切廃したもので。

 

論理の塊だった。

 

具体的にどうすればどうなる。

 

その話を徹底的にされた。

 

そして明言もされる。

 

根性論は敵だ。精神論は有害だ。理屈に沿って体を動かし、理屈に沿って薬を作っていく。

 

それはイル師匠の理論ではない。

 

錬金術の理論だ。イル師匠も、同じように理論に沿って体を動かし、理屈に沿って錬金術をしている。そう何度も言い聞かされた。

 

そして、出来についても、最終的に点数を言われて。

 

何処でどうなったので、質が落ちた。

 

何処の調合で良くなかったから、こうなった。

 

そういう論理を、まとめたレポートを渡された。

 

見ながらいつレポートを書いていたのか気になるのだけれども。しかしながら、実際に読んで見るとぐうの音も出ない。

 

ならばそれに従うしかない。

 

とにかく、納品できる品質のものを。

 

半年分造り。

 

それでコバルト草は尽きてしまった。

 

「薬効成分が強い植物だから、機会があったらまた採取してきなさい。 別に生えているのは一箇所だけではないから、見つけ次第採取する形でかまわないわ」

 

「はいっ」

 

「分かりました!」

 

「よろしい。 それでは、最初の義務を果たしてきなさい。 アードラ狩りは貴方たちでなくても、腕利きの戦士でもできる。 でも、その薬を作るのは、貴方たち私たち錬金術師にしかできないのよ。 錬金術師としてするべき最初のことをやりとげなさい」

 

送り出される。

 

そして、お城に行く。

 

受付で、指定のお薬を納品しに来た事を告げる。

 

薬の名前はナイトサポーター。

 

そのまま、騎士の助け手。

 

アダレットで古くに活躍した錬金術師が開発した薬らしく。

 

あまり良い扱いを受けてこなかったアダレットの錬金術師や、依頼を受けたアルファ商会に頼んで騎士団が代々使い続けて来た薬。

 

前線で手傷を負った王族や。

 

騎士団長がこれで傷を癒やしたという逸話もあるという。

 

受付の途中に、話をされる。

 

薬としか聞かされていなかったので。そんな凄いものなのだとは、思いもしなかった。

 

そして、自分がやり遂げて。

 

この薬がこれから、前線で獣や匪賊と戦う騎士達を救うという事を考えると。

 

やっと、役に立てるようになった気もした。

 

受付で対応してくれたのは、モノクロームのホムの役人だったが。

 

この話をしてくれたのはヒト族の役人だった。

 

まあ気が良さそうな人だったし。

 

退屈では無いかと、気を遣ってくれたのかも知れない。

 

ただおじさんにそんな話をされても、喜ぶ女の子はあまりいない事を理解してくれると嬉しい。

 

モノクロームのホムが戻ってきた。

 

そういえばこの人、性別も分からない。

 

ホムは殆ど見た目で性別が分からないので、自己申告を聞くまで何とも言えない。嘘はまずつかないだろうから、自己申告は信頼出来るが。聞く理由も無いし。この人は男女どちらなのかは気になる所ではある。

 

「合格なのです。 来月にも納品はお願いするのです」

 

「分かりました!」

 

「なお、これはどうせ後になれば知らせるので今のうちに行っておくのです。 Gランクのノルマは、基本的にFランクでも引き継がれるのです」

 

「?」

 

「スーちゃん、要するにどんどんノルマが難しく、しかも増えていくって事だよ」

 

「そういうことなのです」

 

無表情のまま、ホムの役人は告げる。

 

まあ概ね知ってはいたから。

 

驚きは少ないけれど。

 

「Fランクへの昇格は、それはそれでまたかなり難しいのです。 充分な実力がつくまでは、まず薬をしっかり蓄えておくのです」

 

「分かりました!」

 

「はい。 それでは、次のお仕事をしに来るのを待つのです」

 

城を出る。

 

スールがぼやく。

 

「もう分かってるよそんなの」

 

「違うよスーちゃん」

 

「え?」

 

「イル師匠に教えて貰って分かったんだよ。 もし不意打ちで聞かされていたら、きっとスーちゃん取り乱したんじゃないのかな」

 

不思議と、スールは静かだった。

 

そうかもね、とだけ言うと。

 

早く帰ろうと促される。

 

少しだけ、お小遣いにも余裕ができた。

 

だから、そのお金を使って、夕食を買ってアトリエに帰る。

 

その途中で、幾つか話をした。

 

「インゴット作ろう」

 

「うちの炉、作るとすると整備しないといけないね」

 

「そういうことだね。 それに、インゴット作れるようになると、錬金術の装備品作成にぐっと近づけるよ」

 

「あ、そうか……」

 

騎士団の強さの秘密の一つは。

 

錬金術で作られた装備品を支給されていることにある。

 

それでも、限界があるのだが。

 

ともかく、傭兵より数段強いのは事実だ。

 

獣がそれ以上に強いので、騎士団は苦戦している、というだけであって。もしもリディーとスールが装備品を造り、同行してくれる護衛に渡せれば。それは大きな戦力強化につながる。

 

今はまだ、難しい。

 

まずは親父さんに合格を貰える位の品質のインゴットを作るところから始めなければならないだろう。

 

それも、インゴットと一言で言っても。

 

色々な種類が存在している。

 

最高位の錬金術金属であるハルモニウムに至っては、竜の鱗を素材として必要とすると聞いている。

 

そうなると、ドラゴンを撃ち倒さなければならないか。

 

或いはアルファ商会に、下手するとお城が買えるようなお金を払ってドラゴンの鱗を手に入れなければならないわけで。

 

いずれにしても前途多難だ。

 

まずは最底辺であるツィンクの作成から、だろう。

 

この辺りでも素材は採れるはず。

 

ただし森の中で見つけるのは難しいから。

 

必然的に荒野に行かなければならないが。

 

そうなると、また獣の駆除任務に出ないといけない。

 

クラフトの作成を先にやる必要があるし。

 

戦闘慣れも必要になってくるだろう。

 

家に帰るまでに、そんな話をして。スールはぼやく。

 

「やる事が多すぎるね」

 

「こう、土台をしっかり積み重ねていかないと厳しいんだと思うよこの世界。 多分だけれど……天才って言われているような人は、土台を素早くぱぱっと作れる人なんだと思うな」

 

「そうだけどさ……」

 

「いきなり難しいのに手を出しても、火傷するだけだよ」

 

その通りだと思ったからか。

 

スールはそれ以上、何も文句は言わなかった。

 

家の中は暗く。

 

お父さんもいなかった。

 

地下室にいる様子も無い。

 

多分だけれど、何処かに出かけているのだろう。何をしに、何処に出かけているのかは。もう詮索するつもりは無い。

 

もしもお父さんが錬金術師としてやる気を取り戻してくれたら。

 

こんなに頼りになる話はない。

 

だけれども、もう無理だろう。

 

今のお父さんはやっぱり嫌いだ。

 

買ってきた夕食で、適当に食事を済ませると。

 

体を動かし始めるスールを横目に、軽くスケジュールを組み始める。

 

まず鉱石類を手に入れるには何処が良いかを図鑑で確認。

 

近場、一泊二日で行ってこられる場所に、幾つか良さそうな所がある。

 

その内の一つに目をつけて。

 

出る獣などをチェックするが。

 

うっと声が漏れた。

 

ネームドの出現報告があるのだ。

 

この図鑑は、少し前に見聞院から借りてきたものだから、情報がかなり新しい筈。

 

騎士団が駆除してくれていると良いのだけれど。

 

はてさて。

 

スールは何だかうねうねよく分からない動きをしているけれど。

 

あれはこの間の採取で、アンパサンドさんとガールズトークしようとして暖簾に腕押しだった後。

 

アンパサンドさんに教えて貰った、基礎の一つらしい。

 

筋肉をどう動かすかを、体で学ぶやり方らしく。

 

スールは筋力については充分あるので、上手く制御すれば或いは達人になれるとアンパサンドさんは言っていた。

 

ただ、アンパサンドさんがやっていたのと比べると。

 

ものすごくたどたどしい。

 

此方もまだまだ道は遠いか。

 

それにしても、こんな技、誰が教えたのだろう。

 

「ふええ、何か普段使ってない筋肉が悲鳴上げてるう……」

 

「情けない声を出さないのスーちゃん」

 

「だってえ」

 

「ほら、もう今日は休もう。 明日、また騎士団に依頼出してきて。 採取に行くよ」

 

スケジュールは組んだ。

 

クラフトは幸い前回の探索では殆ど使わなかったので。

 

新しく、更に品質が良いのを造れば良い。

 

型落ちになって来た品は、もしも余って邪魔になるようだったら、騎士団にでも納品すれば良い。

 

どんな道具でも、使えるなら歓迎してくれるはずだ。

 

まだ道は遠いけれど。

 

先に行くには、一歩ずつ、足を踏み出していくしかない。

 

リディーは、まだまだやっと半人前になった所なのだ。

 

これから先の道は。

 

あまりにも長すぎる。

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