暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
賢者の石を完成させた後。
全身に凄まじい反動が来た。今までの無理が一気に襲いかかってきたのだ。体中が内側から引き裂かれるかのよう。痛みが全ての神経を痛めつけているかのよう。全身に釘を打ち込まれているかのよう。
あらゆる苦痛の形容をもってしても、ルーシャの全身を襲っている痛みは、例えられなかった。
ベッドで悶絶しているルーシャを一瞥すると、イルメリアはしばらく休むようにとだけ言い残して、部屋を出て行く。更に、賢者の石そのものも、上位次元からの空間干渉で封印したようだった。
血迷ってルーシャが破壊したりしないようにとの処置なのだろうが。
それにしても、本当に徹底的に先手を打ってくる。
涙が止まらない。
胸をかきむしって、何度も血を吐いた。無理に回復を続けた結果、全身がもう滅茶苦茶になっている。時間を戻して体だけは治したが、神経が内臓が痛みを覚えている。だから、吐血くらいする。
胃が空になるまで吐き戻す。
その後は、ひたすら胃液だけをはき続けた。
喉が焼け付くようだけれども。
必死の思いで耐え続ける。
双子は多分、此処までの苦労はしていないはずだ。才覚はもう双子の方が上だったのだから。
そして錬金術は才覚の学問。
本来、ルーシャは賢者の石に触れる事さえ許されない状態だったのだ。
それなのに、賢者の石を作り上げた。
その反動だと自分に言い聞かせて、必死に耐え抜く。意識が何度も飛んだ。ベッドは血と吐瀉物だらけ。もうお嬢様を気取っている余裕など、欠片もありはしなかった。
気がつくと、オイフェが来ていて、ルーシャをリネンに着替えさせ。そして吐瀉物も綺麗にしてくれていた。
錬金術の装備だけはそのまま。
回復力を上げるためだろう。
殆ど湯だけの粥をくれたので、半身を起こして飲む。胃が滅茶苦茶になっているようで。酷い痛みを感じた。喉も痛い。カミソリをそのまま喉に押し込まれているかのようだ。それでも、少しずつ栄養を摂取していく。
「オイフェ」
「如何なさいましたか、お嬢様」
「今まで、有難う」
「これからもお仕えいたします」
そうだろうな。
ソフィーがオイフェに何か仕込んでいるのは分かっているが。それでも、オイフェの忠義そのものは本物だ。だから、ルーシャが信じなければならない。
もしもルーシャが余計な事をしたら、今後は双子だけでは無く、オイフェも殺されるかも知れない。
絶対に、させない。
ルーシャが有用な存在だと、ソフィー=ノイエンミュラーに。あの特異点に、思い知らせなければならない。
そのためだったら。
どんなことだって。
また眠って、そして起きて。少しずつ、栄養を体に入れていく。一週間以上が過ぎているだろうが。此処は時間を止めた空間。外では一瞬も経過していないだろう。やがて、自分で作った神秘の霊薬を飲み始めるようになると。体は一気に回復した。だが、ひび割れた精神だけはどうにもならなかった。
賢者の石を作り上げたことで、体中が滅茶苦茶になった。その体には、心も含まれている。
これは、双子も無事では済まなかっただろうなと、ルーシャは冷静に分析していた。冷静に分析出来てしまった。
賢者の石を取りだす。
そして、部屋を出る。触れるように、空間の封印が解除されていた。つまり、イルメリアはルーシャの七転八倒を見ていたと言うことだ。悪趣味だけれども、ルーシャでもそうしただろう。
時間停止を解除。部屋の外に出ると、見張りの魔族がいたので、案内を頼む。頷くと、魔族の戦士は、ルーシャを儀式が行われる部屋へと案内してくれた。
「賢者の石を特異点が作ってから、深淵の者は一気に強くなった。 世界の隅々まで影響力を持てるようになった。 それまでは、二大国を作って維持するので精一杯で、殆ど対処療法だったからな」
懐かしそうに魔族の戦士は言う。
相当な古参なのだろう。
連れて行かれた先は、広間で。巨大な魔法陣が描かれている。そして、表情が完全に消えたリディーとスールも含めて。
深淵の者の幹部が勢揃いしていた。
唇を噛む。
これから、想像を絶する恐怖を体験することになるだろう。
だが、負けるものか。
他の誰にも出来ないのだ。だからルーシャがやるしかない。
魔法陣の中央に、賢者の石を置く。
パルミラが降臨する。
以降の問答はよく覚えていない。
だが、はっきりしている事はある。
ルーシャは本来だったらあり得ない存在でありながら。
あり得ない場所に立ったのだと。
(続)
最大の奇蹟の達成。
この周回は、色々と一気に問題が解決したのだと言えます。
ルーシャは自主的意思で深淵に立つ事に成功しました。
万のリトライと地獄の下準備でお膳立てされていた双子とは違う、本当の意味での奇蹟を掴んだのはルーシャだったのです。