暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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さっそく実際の検証データを見る事になり、精神論なんか何の役に立たない事を悟らされる双子。

更には苦悩した末につきあってくれたルーシャの事もあります。

失敗は何度でも出来ますが。

手を抜く事は許されないのです。


2、初めての広域試験

ようやく一度家に帰ることが認められた。

 

お父さんは数日しか経過していないと認識していたようだけれども。実際にはもう半年以上体感している。

 

時間を止めた空間に入る事の意味。

 

それを今更ながらに理解した気がする。

 

お父さんは、お母さんといつでも会えるようになったわけで。

 

その分活力を取り戻したようにも見えるのだけれども。

 

その代わり、リディーとスールが深淵の者の幹部になり。更には人間を完全に止めてしまったことも理解した様子で。それについては、口にはしなかったが悲しんでいる様子だった。

 

幾つか話をした後。お母さんに会いに行く。

 

アドバイスがほしかったからだ。

 

リディーはリディーで、シスターグレースに会いに行く。

 

これから行う実験で、可能な限りのデータがほしいからである。

 

今回は、深淵の者で実験場を用意してくれているのだが。それ以外にも広域でデータが採りたいのである。

 

最初は上手く行くかも知れないが。

 

基本的に三傑が行う試験は、数百年単位でやるものだ。上手く行くケースもあるが、世界のあり方をひっくり返すほどの実験が上手く行った例は今のところない。今回考えたやり方は、かなりのビッグプロジェクトであり。これを上手く生かせれば、ソフィーさんも無茶を止めてくれるかも知れない。

 

使えると認識させなければ。

 

ソフィーさんは、どんどん圧力を強くしてくるだろう。

 

勿論潰すところまではやらないだろうけれども。それでもソフィーさんは、手段を選ばなくなっていくはずだ。

 

複数人から意見を聞いた後。夕食を家で過ごす。

 

ルーシャがまだ帰ってきていないと聞いて、目を伏せる。

 

お父さんも、何か大きな事があったことを察したのだろう。それで、以降は何も言わなかった。

 

家では実験の話はしない。実験の具体的な内容も、他の人には話さない。

 

翌日には、来月分の納品を全て調合してしまう。薬やら装備やら、インゴットやら。何もかもが前に比べて質が段違いに上がっている。まだ納品日は少し先になるが、今のうちにすませてしまう。

 

今後、自由時間なんて取れない。

 

だから、こういう作業については、手が空いた時にさっさと全て前倒しで片付けてしまわなければならないのだ。

 

更にはレポートも作成。

 

レポートは、深淵の者に提出するものと、アダレットに提出するもので、内容を変えなければならない。

 

ソフィーさんの場合、空間を切り取って其所で実験をしたりするらしいのだけれど。

 

あくまでリディーとスールは、深淵の者の人員を借りて、他と地続きの村で実験をする事になる。

 

村の人達は、深淵の者の関与を知らない。

 

とにかく、慎重に動かなければならない。

 

「みんな」が如何に愚かしいかはよく分かっている。

 

試験用に提供して貰った村は、既にインフラ整備が終わっていて、安楽に暮らす事が出来ている場所だけれども。

 

それでも下手な事をすれば、あっと言う間に深淵の者が鎮圧に出張らなければならなくなるだろう。

 

調合を終わらせたタイミングで、アンパサンドさんが来たので、軽く話をしておく。

 

深淵の者とのアクセスをアンパサンドさんもしているらしく。リディーとスールが何か始めるらしいと聞いて、様子を見に来たらしい。マティアスがいないのは、忙しいから、だそうだ。

 

丁度良いので、調合はリディーに任せて、軽く話を聞いて貰う。

 

しばし考え込んだ後。

 

アンパサンドさんは、小首をかしげた。

 

「案としては悪くないのですが、どうせそれ、頼りっきりになって駄目になるパターンなのです」

 

「ははは、同じ事言われました。 実際に膨大なデータでも、いずれも肯定的な結果は出ていません」

 

「それなのにどうして?」

 

「恐らく、これがギリギリのラインだと思うから」

 

スールは思うのだ。

 

人間四種族が駄目なのは分かっている。だけれども、あまりにも非人道的な改造を行ったり、スールの主観で強硬的に選別しても、どうせ上手く行かない。全体的な変革を行わなければならないし、選別だってしなければならない。

 

リディーとは方法論も違う。

 

だから妥協案を作る。

 

それが、これから行う計画なのだ。

 

「試作品についてはアンパサンドさんにも渡します。 使ってくれれば助かります」

 

「話を聞く限り、自分には必要なさそうなのです」

 

「……お願いします」

 

「はあ、分かったのです。 その代わり、騎士団の任務に協力するのですよ」

 

頭を下げると、今まで色々と共同作戦をとってきた仲だからか。それとも、或いはアンパサンドさん自身がこの世界に不満を強く持っている一人だからなのか。意外にもあっさり了承してくれた。

 

さて、此処からだ。

 

やる事をやった後、お父さんの手伝いを少しする。

 

薬用の素材を、オスカーさんにかなり貰ってきたので。それを提供。調合を手伝う。

 

お薬に関しても、お父さんの技量はかなりクリアに「見える」。ギフテッドで素材の声も聞こえるし、薬の出来についてもかなりわかり安く理解出来た。

 

やはりお父さんの実力は確かだ。

 

多くの人がお父さんのお薬で救われる。

 

だけれども、お父さんは此処までだ。無茶をすると、ルーシャみたいな事になる。そうは、させたくない。

 

薬をかなり多めに作ると、お父さんは喜んでくれた。

 

「助かる。 俺はアダレットから、薬の納品だけ頼まれていてな」

 

「そういえば契約内容が違うんだっけ?」

 

「特に俺のように飛び級でアトリエランク制度に参加した錬金術師は、皆得意分野に合わせて国への納品を頼まれている様子だな。 三傑もそうだし、アルトの奴もそうだ」

 

「そっかあ」

 

お父さんも、アルトさんには良い感情が無いのか。

 

一時期リディーが、アルトさんに気があったらしい事を敏感に察知しているのかも知れない。

 

もっとも、今は性欲そのものが消えて失せているので。

 

気も何もあったものではない。

 

それにアルトさんは今もモテモテのようだが。

 

その一方で、見かけに釣られてよってくる人間を、とことん冷徹に見ているのも今なら分かる。

 

アルトさんの過去の話を知った今なら、それも当然の反応だろうとも思うし。

 

何より「みんな」のあり方を知った今であるから、まあそれも当たり前だろうとしか思わない。

 

数日だけ家で過ごした後。

 

まず王宮にレポートを出す。そして、深淵の者本部に戻って、其方にもレポートを出す。レポートをイル師匠に精査して貰う間。提供された鉱石を使って、試作品を作る。

 

賢者の石を作ったアトリエは、もうリディーとスール専用に貸し出されているし。高品質の錬金術道具を作り出すなら、此処以外にない。

 

レシピを淡々と作り。

 

フローを作り。

 

タスクに沿って、処理を開始。

 

レポートを却下されたとしても、この道具そのものは作っておいて損は無い。時間停止も駆使して、タスクを一つずつ確実に潰して行く。

 

試作品が仕上がった頃。

 

イル師匠が戻ってきた。レポートについては、かなりの好感触であるらしい。早速試してみてほしいそうだ。

 

そして、告げられる。

 

ルーシャが、動けるようになった、と。

 

 

 

ルーシャはかなり顔色が悪かったし、まだ咳き込んでいた。ギフテッドがある今なら分かる。まだ内臓が滅茶苦茶で、動けると言っても、スペックの二割も出せないだろう。まずは療養からだ。

 

ソフィーさんの作るような薬なら、一発で治せるだろうけれど。

 

リディーもスールも、ルーシャの回復には手を貸してはいけないとお達しが出ている。

 

スールから見れば歯がゆいが。

 

ルーシャもこの道に足を踏み入れてしまったのだ。ならばこれくらいの苦境、自力で脱出しなければならない。

 

お菓子の差し入れくらいは良いだろう。

 

オイフェさんがお茶を淹れてくれるというので、オスカーさんの森に移動。三人で、しばし休息を楽しむ。

 

なお、この場で仕事の具体的な話は禁止されている。深淵の者も、ブロック化して動いているのだが。

 

これは派閥を安易に形成したり、腐敗が発生するのを防ぐため。

 

人員のブロックは定期的にルアードさんが入れ替えていて。安易なコネなどを作る事は出来ないようになっているし。

 

権力闘争の類をしようとしている者についても、監視が常についている。

 

深淵の者は世界に対する第三者的監視を常に行う組織。

 

深淵の者が腐敗しては話にならない。

 

徹底的な措置が、あらゆる場所で行われているのである。

 

「まだ具合悪そうだけれど、大丈夫?」

 

「大丈夫、ですわ。 それよりも、おじさまは元気でしたの?」

 

「うん。 お母さんとも会えるようになって来たし」

 

「それは、何より……ですわ」

 

咳き込むルーシャ。ハンカチに血がにじむ。悲しい話だけれども、まだまだ本当なら寝ている方が良いだろう。

 

ルーシャからも、わき上がるような魔力を感じるし。

 

ルーシャ自身が作った装備品で、常時回復が掛かっている。

 

もう、生半可な錬金術師が及ぶ実力では無くなっているのに。それでもルーシャの体は回復しない。

 

本当に、無理に無理を重ねてパルミラに謁見したんだ。

 

それが分かってしまって、とても悲しい。

 

ルーシャは、寂しげに微笑む。

 

「それで、何か相談があるんですのね」

 

「分かるんだね」

 

「分かりますわよ」

 

リディーに、ルーシャは影のある笑みを向ける。恐らくだけれども、ルーシャはあまりにも強烈な衝撃を受けすぎて、人格に影を抱えてしまったと見て良い。本来、常人がパルミラ本体になんて遭遇したら、精神が崩壊する。肉体もろとも崩壊する。かなり高度な錬金術装備で身を固めていたルーシャですら、この有様だったのだ。下手をすると、欠片も残さず消滅、だったかも知れない。

 

お茶を終えてから、リディーとスールの部屋に移動。

 

のっぺらぼうで。机の上には球体が浮かんでいるパーソナルスペースだ。ルーシャにも席を勧めて。オイフェさんには、外で見張りをして貰う。

 

オイフェさんを見送ってから、スールは咳払いした。

 

「補助システムを作ろうと思ってる」

 

「補助?」

 

「ヒト族の故郷の世界では、AIって呼んでいたらしいものが近いかな。 ホムの故郷の世界にも似たようなものがあって、そっちでは「邪神」って呼ばれていたらしいよ。 ただそれは、人間のいう事を聞かなくなって、圧倒的な力で暴走し始めたからそう呼ばれたらしいんだけれど」

 

「……詳しくお願いしますわ」

 

ルーシャは守護をパルミラに願った。

 

パルミラによる守護では無い。ルーシャが、弱き人々を守る存在になる事を、である。本調子になったら、それこそ絵本に出てくる護法神のように、人々を守る行動を始めるだろう。

 

精神の奥に、そう行動すべくくさびが既に打ち込まれていたし。

 

何よりパルミラによって、それが徹底的に顕在化したのだから。

 

だから。危険な実験を人々にすると判断したら、その主催者がリディーとスールであっても容赦しないし。躊躇もせずに反論してくる。

 

だが、今はその反対意見が聞きたいのだ。

 

咳払いをすると。リディーが話し始める。論理的な説明は、リディーの方が得意だ。

 

「まず此処で要件としてあげるものは、苦手分野をそれぞれ補えるという事」

 

「ふむ。 続けてくださいまし」

 

「ヒト族はその野心とエゴを押さえ込み、状況的に最適の判断を。 ホムは物理的に身を守るための術を。 魔族は内向きになる思考を、状況に応じて外向きに切り替えることを主体に。 獣人族は強すぎる闘争本能の抑制、が主体になるかな」

 

具体的な生成物を見せる。

 

人間四種族それぞれ別に作る予定だが。試作品は、いずれもが違っている。

 

「寄り添う者」という名前をつけようと思っているが。

 

そもそも実体としては、ベルト状のものを用意している。これならば、成長に合わせて身につけやすいからである。

 

ルーシャは即座に応じてくる。

 

「欠点を補うという発想は素晴らしいのですけれども、問題は利便性ですわね。 利便性が高すぎると、人々はあっと言う間にそれに依存しきりますわ。 ただでさえ名君が出るだけで、人々はその存在に依存してしまう傾向がある。 分かっている筈ですわね」

 

「その通り。 今までに似た実験は9000回弱行われていて、同じような結論が出ているんだよね」

 

「スー、何を持って問題を解決するつもりですの?」

 

「……本当に間違ったことをしようとしたときだけの抑止装置にしようと思ってる」

 

ルーシャは腕組みして。

 

考え込もうとしたが、しかしながら額から血が流れはじめたのを見て、慌てて止める。すぐに横になって貰う。ルーシャが自作の薬を自身に投与するが。すごく良い薬だと思うのに、あまり回復していない。

 

口惜しい。

 

今のルーシャの作っている薬、リディーとスールが全力で作るお薬と、あまり質は変わらない。

 

それでも、この程度しか回復しない。

 

と言う事は、リディーとスールが手伝っても結果は同じという事だ。

 

早く、もっと技量を上げないと。

 

スールは唇を噛む。

 

頬に、冷たいルーシャの手が触れた。

 

「良いんですのよスー。 笑っていてくださいまし」

 

「わらえ……ないよ」

 

「リディーも。 わたくしは、二人の笑っている姿が一番好きですわ。 きっとおじさまも、おばさまも。 わたくしはどうしても二人の笑顔を取り戻せなかった。 だから、これはわたくしの罰。 わたくしの事は気にせず、二人が笑ってくれさえすれば」

 

咳き込むルーシャ。

 

ともかく、参考になった。やはりルーシャも指摘してきたとおりだ。

 

資料を見る限り、ホムのいた世界にいた「邪神」は暴走した。

 

また、ヒト族の世界にあった「AI」は、結局データを集めて其所から判断をするだけの代物。人工知能どころか、いわば「人工無能」に過ぎなかった。

 

そして此方の世界で、9000回近く実験されているAIに近いものは。

 

いずれもが、人間をどうしても堕落させることが分かってしまっている。

 

その欠点を克服するためには。

 

やはり抑止装置として活動させるしかない。

 

例えば、児童虐待をしようとした親を止める。犯罪に手を染めようとした者を止める。せっかくの力を活用出来ない者を止める。獣に襲われて身を守れない者を危急の際だけに助ける。強すぎる戦闘本能を抑制して、不要な戦いはさせない。

 

だがそれらを実現するには、極めて高度な判断能力が必要になってくる。

 

恐らく最終的には、周囲の状況を把握しつつ、高度な客観的判断を下し。必要な時だけの抑止になる装置が必要になってくる。それも、押しつけであってはならない。例えば嗜好などに関しては、相当に慎重な吟味が必要になるだろう。

 

そして便利すぎれば堕落する。

 

事実、楽園に案内された人間四種族は、瞬く間に滅びてしまった。

 

堕落の結果だ。

 

此処からの実験は本当に難しいものとなる。多分年単位で、時間が止まった実験室で、調整を続けなければならないだろう。

 

ルーシャの体調が安定したので、戻って貰う。

 

オイフェさんに肩を借りて戻っていくルーシャ。実時間で数年は回復までにかかってくるだろう。

 

ルーシャは今、全身が酷く痛くて苦しいはずだ。

 

そしてこの世界で何も成果が上げられない場合。また同じ苦しみを味合わせることになる。

 

イル師匠に聞いた話によると、どれだけ頑張っても、この世界、特に文明はあと5000年もたないという。無理に引き延ばせば10000年を超えるらしいが、それはとても無理矢理な延命措置に近く、可能性を模索できる状態ではなくなるそうだ。

 

資源が枯渇してしまうのだ。

 

深淵の者は基本的に数百年単位で実験を行い、あらゆる情報を総合的に見ながら判断をする。

 

ソフィーさんの実験結果ですら忖度はされない。

 

そう考えると、これからの時間は、かなり厳しいものとなってくる。数百年単位での実験が基本になってくるとなると。5000年なんてあっと言う間だからだ。

 

徹底的に、妥協無く装置の調整を開始する。

 

まずは、人間四種族、それぞれ用に作っていく必要があるだろう。

 

ヒト族と獣人族はある程度精神性が似通っているから、基礎部分は同じで良いだろう。

 

問題は魔族とホム。

 

どちらもかなり他とは精神構造が違う。特にホムは、パルミラに接触して知ったが、元々は奉仕種族だったのだ。

 

自分の身を守ることに頓着が薄く、野心がほぼないのもそれが理由。

 

ホムの自尊自立が、恐らく一番難しいかも知れない。

 

途中、何度かイル師匠に試作品を見せに行く。

 

その時間すらも惜しい。

 

アダレットでの作業が終わり、まずはルアードさんが引き上げ。そしてソフィーさんも引き上げた。

 

深淵の者に所属してから。

 

既に実時間で数ヶ月、体感時間で十年が経過していた。

 

肉体はもはや一切成長せず。

 

衰えるどころか、じわじわと強くなるばかりだった。

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