暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、賢者の共同

外での実時間が一年経過した頃、リディーとスールは時の止まった部屋で過ごすことも多かった事もあって。

 

体感時間は既に二十五年を超えていた。

 

勿論体に変化はない。肉体は全盛期で完全に固定されてしまっている。アンチエイジング処置など必要ない。

 

その間、500回を超える会議を行い。

 

他の超越錬金術師達が進めているプロジェクトについて、貪欲に情報を習得していった。

 

ルーシャも既にプロジェクトを開始している。

 

ガーディアンプロジェクトというのがそれだ。

 

このガーディアンというのは、自動操作で人間を守るもので。この守るというのは、何も獣やらドラゴンやら、疫病やらと言った人間の外敵に限らない。人間そのものの社会もガードする、大規模なシステムだ。

 

まだ不思議な絵を独自に作成して、その中で実験的に行っているのだが。

 

もしも完成した場合、世界そのものを覆う超巨大ネットワークになるだろう事が想定されている。

 

物資も膨大に使うが。

 

まだそれは心配の必要がない。現状ガーディアンシステムは極めて複雑で、ルーシャは四苦八苦を続けている段階だからである。なおフィリスさんが補助しているが、それでもまだ手が足りない様子だ。

 

フィリスさんは既存のシステムを壊す実験の途中。

 

此方も、深淵の者が所持しているかなり大規模な不思議な絵画世界で行っているのだけれども。

 

ドラゴンと邪神の数を調整するのと同時に。人間社会にも圧を加えて、いざシステムが完成して人間の絶対数を増やし、文明の発展を爆発的にさせる場合に備えた実験である。

 

上手くいくようなら、パルミラと連携して実際にこの世界の仕組みそのものを変えていくらしい。

 

なお、他にも幾つか色々小さめのプロジェクトを平行で進めている様子だが、内容はどれも血なまぐさいものばかり。人体実験を要するものも少なくない様子だった。素材には主に死刑が決まった賊を利用しているらしい。

 

イル師匠は、神を創造するプロジェクトを手がけている。

 

これは捕縛し集めて来た邪神を融合させ、パルミラとは別方向の神。すなわち、人間に対する罰を執行する抑止力としての神を出現させるのが目的であるらしい。神の名前はテルミナ。

 

深淵の者による抑止では限界がある。

 

目に見えてわかり安い「罰」を司るもの。

 

それが必要だ、というわけだ。

 

例えばティアナさんの場合、どうしても「鏖殺」として匪賊を怖れさせるものではあるのだけれども。

 

しかしながら、「得体が知れない」という欠点がある。

 

得体が知れないものは、正体を暴かれてしまうとあっと言う間にその恐怖が薄れるものである。

 

ティアナさんは超越錬金術師並みの殺戮兵器だが。

 

だが、あくまで人型。

 

存在そのものが、恐怖にはなり得ない。

 

其所で、そもそも超越錬金術師や、超一流の錬金術師が束にならなければ手に負えない邪神。それも、生半可な邪神ではなく、あのファルギオルをも遙かに凌ぐ邪神を抑止力としてわかり安く配置し。

 

更に罰が降されることを明確化すれば。

 

強烈な犯罪抑止効果を発生させることが出来る、というのがイル師匠のもくろみだそうだ。

 

テルミナについては、今不思議な絵画の一つで実験を進めており。

 

フィリスさんが以前倒した邪神なども含めて、大量の邪神のデータを掛け合わせ。場合によってはパルミラのアドバイスも受けながら、構築を進めているという。

 

プラフタさんは、未来を司るため、文明が成熟した後の事をシミュレーションしている。宇宙に出た後、更に別種の知的生命体と遭遇したときにやっていくための方法を、丁寧に模索している様子だ。

 

これについては、今まで得られた他の世界のデータを基にし。様々なシミュレーションを繰り返して、成功率を上げているそうである。

 

プラフタさんは、会議で話すようになって分かったが。とても真面目で潔癖だ。美を讃えられる事が多かったらしく、実際星の瞳を持つ凄い美人なのだが。周囲の視線と裏腹に、本人は人間の根源的な欲求からはとても遠い人でもあり。錬金術によって周囲をよくすることしか考えていなかった様子だ。元からこういう人だったのだろう。多分生まれついての、「みんな」とはかけ離れた精神性の持ち主だったのだ。話を聞く限りでもそうだったのだけれども。実際に話してみて、更によく分かった。

 

そしてルアードさん。

 

もうアルトさんという偽名で呼ぶ必要もないだろう。

 

ルアードさんは、現在を司る。つまり、深淵の者をフル活用し、現状の世界情勢を維持。プロジェクトによって効果が見られた新しいものを受け入れ、世界を変革できるようにもする。

 

ある意味一番大変な仕事ではあるが。

 

そもそも現在の深淵の者は、二大国に匹敵する力を普通に持っている。それも、超越錬金術師抜きで、だ。これらは特に難しい事では無いし。しかもルアードさんが超越錬金術師になった今。この最もある意味重要な第三者監査機関が、腐敗する可能性もない。

 

ルアードさんも、内臓疾患などの理由もあって、プラフタさんと同じように「みんな」からは最初からかけ離れていた様子だ。話には聞いていたが、会議で本性を現したルアードさんと話すようになってからは、それがよく分かるようになった。

 

そしてソフィーさんは、あらゆるデータを取得しながら、これら全ての状況を観測しつつ収束させる。

 

文字通り特異点としての総合指揮に当たっている。

 

内容が矛盾したプロジェクトも大歓迎。

 

今まで行われてきたプロジェクトを完璧に把握しているソフィーさんは。現在、人間四種族の故郷の世界に関する分析をシャドウロードと一緒に進めながら、統括した後の世界図を描いている。

 

これが賢者八人体制、か。

 

スールも息を呑むほかない。まだリディーとスール、ルーシャは未熟だが。残りの五人は、ファルギオルなんて問題にもしない使い手ばかりだと今なら分かるからだ。特にソフィーさんは桁外れに凄まじい。

 

会議が終わったので、疲れている様子のルーシャに声を掛ける。

 

今のところ、一番苦労しているのは、間違いなくルーシャだ。

 

「大丈夫?」

 

「平気ですわ。 それよりスー。 其方も上手く行っていないと聞きますわ」

 

「子供は素直に受け入れてくれるんだよ。 勿論ひねくれている子だっているんだけれども、しっかり「正しい」事が「正しい」って理解出来るようになるまで丁寧に……人間じゃむりな丁寧さで接するからね」

 

「正論を好まないのはむしろ大人と」

 

頷く。

 

リディーは先に戻っている。一年が外の世界で経過して、また色々と指摘点がミレイユ女王から上がって来ているからだ。それに、フィリスさんが主になってネームドや邪魔なドラゴンを駆逐しているとはいっても。アダレットから声が掛かる荒事もある。

 

「ね、プロジェクト統合してみる?」

 

「ただでさえ上手く行っていないのに、流石に実世界に持ち出すわけにはいきませんわ」

 

「いや、思うんだけれどさ」

 

スールは会議を重ねていて思ったのだ。

 

全員分のプロジェクトを有機的に結合させれば、ひょっとしたら可能性が見えるのでは無いかと。

 

特にリディーとスールが進めている「寄り添う者」と、ルーシャが進めている「ガーディアン」は相性が良いように思う。

 

そう告げると、ルーシャは考え込む。

 

「分かりました。 それならば、むしろ「寄り添う者」を此方で借り受けますわ」

 

「ガーディアンプロジェクトに取り込んでみるって事?」

 

「そういう事ですわね。 スーももう少し「寄り添う者」のアップデートをお願いいたしますわよ。 今後、互いにアップデートを繰り返せば、或いは……」

 

ガーディアンプロジェクトには、社会的な不正などの排除もシステムとして組み込まれる予定である。

 

だが、それは行きすぎると恐らくガーディアンプロジェクトに依存した人間が誕生してしまう。

 

ガーディアンプロジェクトは、もしも実際に動き出したとしても、存在を感知されてはいけないのだ。

 

深淵の者の活動を自動化するようなものであり。

 

深淵の者の存在が、現在おおっぴらに知られていないのと同じである。

 

そういう意味では、「寄り添う者」も同じだ。

 

ヒト族やホムの世界で猛威を振るったAIと同じように、人間が依存した結果破滅を招いては意味がない。

 

AIよりも更に先に行く者。

 

人間には感知されず。

 

そして人間は頼ることもなく。

 

自然と知られずに人間を支える存在。

 

そうでなければならない。

 

そして人間四種族全てに平等であり。宇宙に出て他の文明と接触した場合、致命的な結果を避けるセーフティにもならなければならないのだ。

 

まだまだ完成度が足りなさすぎる。

 

故に。擬似的に深淵の者の管理を自動化しているルーシャのプロジェクトとは相性がいい。

 

上手く行き始めたのなら、ルアードさんにも監査を頼んで、意見を聞きたい。

 

そしてイル師匠の作り出すテルミナが完成した暁には。

 

何重もの見えないセーフティが、どうしようもない「みんな」という枠組みに捕らわれ、無責任な人間賛歌を謳歌していた人間四種族を支えるようになる。

 

それは決して強制ではなく。

 

しかしながら、人間そのものの否定でもない。

 

むしろ人間が抱えていた大きな矛盾を、人間を越えた人間によって解消する。

 

それぞれの世界を場合によっては滅ぼしてきた事もある人間四種族にとって。

 

これを拒否することは許されない。

 

勿論作る側は傲慢であってはならない。

 

第三者としての視点から、徹底的に公平性を保たなければならないだろう。

 

幾つかルーシャと打ち合わせをした後、一旦家に戻る。

 

お父さんとリディーは夕食を始めていたので、それに参加。遅れたので少し冷めていたけれど。

 

お父さんは今のスールが、もう「実年齢」で自分を上回っていることを察しているのか。

 

それが何を意味するのか悟っているのだろう。

 

何も言うことは無かった。

 

食事を終えると、お父さんの調合を少し手伝う。リディーはその間、軽く家事をする。

 

お父さんには、短く聞かれた。

 

「上手く行っているのか」

 

「難しいね。 今回は無理かも……」

 

「そうか」

 

意味の全てが伝わったかは分からない。

 

だけれども、少なくとも成果は上げなくてはならない。まだ自力で賢者の石を作り出すには遠いからだ。

 

そして、この世界の詰みを打開するための作業は大詰めに入っている。

 

世界の外側に到達したリディーとスールは。

 

その力に相応しい行動を、常に行わなければならないのだ。

 

 

 

(続)







瞬く八つの凶星。

それは人と違う観点から

世界を変えるべく動くのです。

ついに大詰めが来ようとしています。
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