暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
ついに大詰めにはいる世界の詰みとの対決。
双子も既に人とは言い難い存在になっています。
それくらいしないと、9兆回のリトライをはねのけた壁は、どうにもならないのです。
序、詰みは其所に
リディーは上がって来たデータを見て、やはりそうだったかと確信した。
現在行われてきた全てのプロジェクトの統合。
人間に気付かれず、人間を影から変えるシステムの総決算。
それ以外に、人間を変える方法は無い。
パルミラは全能に近かったが、人間を信頼するという最大のミスを犯した。故に、何度繰り返しても人間を自立させることが出来なかったのだ。
リディーとスールも、既に六万回、世界の終わりを見た。
その過程で、多数の実験をこなした。何度も何度も精神がすり切れそうになった。ミレイユ女王の死も、世界の終わりの数だけ立ち会ったし。お父さんもどの世界でも、結局アンチエイジングは受け入れず。世界の終わりまで、天海の花園でお母さんと一緒に過ごすことを選んだ。
必死にその間、研鑽を積んだ。
膨大な資料を集め、徹底的に検証した。
シャドウロードが解析した、他の世界のデータも完璧に把握した。
勿論この間、ソフィーさんはじめ他の超越錬金術師も試行錯誤を続けていたわけで。可能性があるプロジェクトはどんどん洗練され、統合化が進んでいった。
そして、今である。
最大規模の不思議な絵画で、かねてからルーシャが進めていたガーディアンシステムの運用が成功した。
「寄り添う者」完成型を用いる事により、人間は「みんな」から自然に脱却できるシステムが完成したのである。
完成まで、実にスールと一緒に、実体感時間で二億年を有したが。
それでもこの完成には、その時間を用いるだけの価値が充分にあったと結論出来る。
ようやくだ。
人間に可能性がない。
それは分かりきっていた。実際に世界の終わりを最初に見たときは、涙が止まらなかった。
フィリスさんが残酷になっていったのもよく分かった。
あんなものを万回も見れば壊れると、よくよく理解出来た。
幸い、ある程度の成果を上げたことで、ソフィーさんが賢者の石による事象固定をしてくれたおかげで。ルーシャは毎度地獄を見なくても良くなったが。
それでも、世界の終わりという、人間の可能性が無いと言う現実を直接見せつけられるのは辛かった。
だが、データは持ち帰る事が出来たのだ。
そのデータを元に試行錯誤を繰り返し。
そしてついに、可能性を見いだしたのである。
だが、こう言うときが一番危ないことを、リディーは知っている。スールと一緒に徹底的に検証を行う。
人間を強制的にねじ曲げないか。
よりよき方向に支える事が出来るか。
他種族との協調を可能に出来るか。
いざという時は脅威に立ち向かえるか。
何よりも、自立自尊という最大の。怠けたがり楽をしたがる「みんな」にとっては最高の壁を。
ぶち破ることが可能であるのか。
二億年がかりで改良した「寄り添う者」だ。今後はこれを人間が自分で生産し、そして身につけられるようにする仕組みも必要になる。初動分は深淵の者で作る。ノウハウは確立している。このプロジェクトはかなり上手く行っていることもあり、イル師匠だけではなく、興味を持ったソフィーさんやフィリスさんも、積極的にアドバイスをくれたのである。
みな、この世界の詰みを打開する事に関しては真剣であり。
それに嘘は無い。
どれだけ心が壊れていても同じ事だ。
同時に、イル師匠が作り上げた人間に対する自動懲罰装置であるテルミナも、既にロールアップが完成している。
違法に対する刑罰を、人間そのものが執行するからおかしくなる。
人間が干渉できない世界のルールそのものが刑罰を執行すれば、其所にはもはや不正は入る余地がない。
全ての歯車が噛み合って動き始めている。
まとめ上げるのは特異点ソフィーさんだが。
其所までの歯車を作るのは、他の七賢者だ。
時間が止まった部屋にて、2000時間ほどを費やして、検証を徹底的に行い。そして完成を判断。
会議の開催を打診。
今回の周回で。
世界の詰みを打開する。
九兆に達するパルミラの繰り返しは、これにて終了する。パルミラが無能だったのではない。人間に可能性が無かったのだ。パルミラは環境を変えることで人間の可能性を引き出そうとした。それが間違いだった。
可能性を作り出さなければならなかったのだ。人間を過大評価していたのが、パルミラの間違いだったのだろう。
そして、その可能性は、人間には作り出せないものだった。
残念ながら、他の知的生命体も、概ね同じなのではないのだろうかと、リディーは思う。余程特殊な条件で宇宙規模の文明にまで発展しない限り、である。
本当に、特異点ソフィーさんが出現しなければ、この世界は永遠に詰んだままだったと思う。
あの人のことは好きにはなれない。今でも非人道的な行動の数々や、ルーシャにした仕打ちは許せない。お父さんだって、口にはしていないけれど、ソフィーさんに散々な目にあわされている可能性が高い。
だけれども、あの人がいなければ。そもそも可能性そのものが生じる事すらなかったのも事実。
好き嫌いで判断するようでは「みんな」と同じ。
少なくともソフィーさんの事は、可能性の創出者として。最大限の敬意を払わなければならないことは、リディーも理解していた。スールも今は理解している筈だ。
会議の申請が通った。会議が行われるのは実時間で三日後。
賢者八人の体勢が安定してからも、世界は終わり続けた。
パルミラは終わるその度に、笑顔で努力を評価し。データを褒め。そして事象の固定点まで戻してくれた。
パルミラは邪神では無い。深淵の深奥にいるが。ごく人間に友好的な神だ。
だからこそ、この世界は地獄になった。人間が人間である故に。
それも、これで終わらせる。人間という生物を、根本的に、人間が気付かないうちに変えることで。
プレゼンの資料を、時の止まった部屋で作る。
リディーとスールは、もう他のどんなコンビよりも、完璧に連携して動く事が出来る。
もうレポートもプレゼン資料も、どれだけ作った事か。
正確な数はデータを調べれば分かるが。
多分億の領域に達している筈だ。
黙々と、プレゼン資料を揃えると、交代してチェックをする。その後は、穴が無いかを、徹底検証した。
全てのチェックが終わった後。
リディーはため息をつく。
これで終わるのか。それが少しだけ不安になったからである。スールだって、それは同じだろう。
立ち向かっても立ち向かっても壁は厚かった。「みんな」が如何に愚かなのかを思い知らされるばかりだった。
これが。このプレゼン資料が、永遠に続く地獄を終わらせる。現実的な方法で、可能性を作り出す。
そう信じて、送り出す。
互いに資料は揃ったと確認、後は外に出て、先に資料などを提出しておいた。
なお、現在の「実時間」は。リディーとスールが賢者の石を作ってから四年後。ミレイユ女王は結婚して、もう子供がいる。子供の能力を慎重に量っている様子だが、聡明かというとかなり厳しい。マティアスさんはアンパサンドさんが厳しい監視下に置いているが。基本的に結婚しないと決めたことは守れているらしい。それだけ、ミレイユ女王が怖いのだろう。
お化けなんか怖くない。姉貴の方が百倍怖い。
そんな事を、あのお化け達の森で、言っていたことがあったっけな。何もかも、今のリディーには懐かしい。既に億年の時を体感しているのだ。そして、時間の感覚も異なっている。
此処からどうなっていくのかも、大体覚えている。
鍛冶屋の親父さんが亡くなるのが「現在」から15年後。「現在」の翌年くらいに、趣味である「ライブ」をパメラさんと一緒に行って、ミレイユ王女に大目玉を食らう。騒音公害だから仕方が無いが。あの人は、本当に音痴なのだ。それでいて歌が好きだという困った人なのである。鍛冶屋としては世界最高レベルの一人であり、厳格な職人でもあるのだが。そんな困った面も持っている。
色々お世話になったリディーとスールは、苦笑いしか出来ない。
お父さんが亡くなるのが、「現在」から三十年後。
どの世界でもアンチエイジングをこばみ。
後はお母さんと一緒に、天海の花園で残留思念となって静かに過ごす。延命も拒否するのも変わらない。
ミレイユ王女の子育ては上手く行くかがかなり可変的で、上手く行く場合が二割半くらい。
駄目な場合は、事前の告知通り、育てていた跡継ぎを養子にして、アダレットを任せている。
その時には、普通だったら一悶着起きるが。
深淵の者が介入して、静かに終わらせてしまう。
アダレットの歴史は、周回ごとに変わってくるが。これは、個人個人に過剰な介入を避ける為で。
どんな風に歴史が動いても安定するようにマニュアルがあるので、いちいち気にしていられないというのもある。
なおマティアスさんだけれども、どんな風に歴史が動いても、ちゃんと結婚せず子供も作らない。
この辺り、とても意思が強い人なのだと分かる。
フィンブルさんは深淵の者に協力はしてくれるが、アンチエイジングにはあまり興味が無いようで。基本的に大往生するし。
アンパサンドさんは、引退するとアンチエイジング処置を受けて、世界の最後まで協力してくれる。
これは恐らくだけれど、アンパサンドさんがこの世界に強い不満を抱いているから、なのだろう。
ソフィーさんによると、アンパサンドさんはかなり特殊なホムであり。その遺伝子データは非常に興味深いらしい。
アンパサンドさんの遺伝子データをベースに作ったホムンクルスは、二万回目くらいの周回からはかなりの活躍をしていて。
今回もそれは変わりないだろう。
アンパサンドさんも同意しているので、それについては特に思うところもない。元々アンパサンドさんくらいの身体能力と、それに世界に対する強い憎悪があれば。野心がないホムも、もっと自尊に頓着するようになる筈なのだから。
その他の人達も、時間が経てば、死んで行くか。或いは深淵の者に協力して、世界の最後まで一緒にいるかを選ぶ。
なおソフィーさんがどの周回でも一度だけ席を外して葬式に出るのだが。
これは親友であり。ソフィーさんと対等に話が出来る三人組の一人。絶対にアンチエイジングを受けないモニカさんという人のお葬式に出るためらしい。これはソフィーさんのプライベートだと思うので、自分達は足を運ばない。ソフィーさんも、親友の葬式は、自分で処置したいようだった。
六万回、繰り返し見て来た身近な人達の死。
それも、今回で。見るのは最後だ。
プレゼン資料を提出し。
様々な作業をしている内に、会議の日時がやってくる。
会議には、錚々たる面子が揃っている。深淵の者でも評価されているアンパサンドさんも、参加するようになっている。ガチンコで戦闘できるホムという珍しい人材だという事もあって。何人かいるホムの中でも、珍しい人員として他の幹部からは見られている様子だった。
そして今回のような大きな会議には、騎士団長も来ている。
元々ソフィーさんと一緒に戦った仲だと聞いている。
かなりの年配になっているが。
この人も、アンチエイジングを選ばない一人だ。
一方で、副騎士団長二人はアンチエイジングを絶対に選ぶので。アダレットの騎士団は、名前と経歴をロンダリングしながらこの二人が以降の歴史では回していくことになる。それもまた、不思議な話ではあるが。
八賢者と呼ばれるようになった超越錬金術師が上座を独占し。
その下に、幹部達がつく。
これに対して、不満を口にする者はいない。
それだけの実績を上げてきているのだから、それも当然だろう。
プレゼンの資料が行き渡ると。
リディーは咳払いして、会議を始める。今回、会議の音頭を取るのは、リディーだ。まとめはソフィーさんがしてくれる。
「それでは、世界の詰みの打開……星の海プロジェクトについて、説明いたします」
皆が注目する。
スールがこくりと頷いた。
頑張って。そう無言で言っているのだ。
フィリスさんやソフィーさんは、今でも怖い。何をされるか分からない恐怖がある。
体を持ち直したルーシャだって、それは同じ筈だ。
だが、ルーシャがいなければ。そもそもこの最終計画には持っていくことが出来なかったのである。
ソフィーさんも完全無欠の超人では無い。
ミスはするし、見落としもする。
そもそも、自分が完全無欠では無い事を知っていたから、リディーやスールのようなへっぽこを此処まで育て上げたのであって。
それはソフィーさんも分かっている筈だ。
「パルミラがどれだけ繰り返しても、結局人間四種族は「協力して生きる」以上の事をする事ができませんでした。 互いに理解をしあうことも、言語をあわせることも。 何よりも根本では自分が正しいと、皆身勝手に思い込んで動いていました。 他の世界の知的生命体を見ても分かるのですが、恐らくは知的生命体にまで至った生物は、多かれ少なかれこの傾向があるのかとも思われます」
資料で捕捉する。
今までにこの世界で行われてきた、膨大な実験がそれを裏付けている。膨大。それはそうだ。億年単位で繰り返された実験すらもある。その全てが、素の人間には可能性が無い事を告げている。
「今まで進めてきたガーディアンプロジェクトについてはご存じかと思います。 全ての人間、社会、尊厳、全てを包括的に守る仕組みです。 このガーディアンを主軸に、プロジェクトを連結。 稼働します」
まずはリディーとスールの「寄り添う者」プロジェクト。
他の世界では人工知能と呼ばれて来たものの、更に数段上を行く代物だ。
パルミラが蓄えてきた膨大なデータをベースに、人間一人ずつに装着する事で、「死に到る失敗」を回避する。
決して自尊を奪ってはいけない。
個人の失敗そのものも否定はしない。
だが、人間という種族そのものは、今後失敗の末に滅び去る。それを回避するためには、これが絶対に不可欠だ。
気が遠くなる試行の果てに、ついにこれは完成している。
文字通り宇宙の記憶。アカシックレコードと呼んでいる世界もあったか。これとアクセスしながら、最悪の選択肢を選ぼうとした場合は警告。場合によっては直接止める事になる。
これにガーディアンが連結することにより、「個の致命的失敗」と「社会の致命的失敗」を同時に防ぐ。
続けて連結するのは、柔軟性を維持するための、プラフタさんが進めてきた「未来プロジェクト」だ。
これは人間四種族が、宇宙に出る事が可能になった後。別の知的生命体と接触する既知の未来において、接触を穏当に、なおかつ相手とも更に協調を拡げるために作り出されたものであり。
これは現在も利用できる。
社会に多数存在しうる「例外」。これを柔軟に受け入れていくためのシステムである。
ガーディアンの外部監査機能と言っても良く。ガーディアンの完成度を疑う訳ではないのだが。これに常時アップデートを加え。「新しいもの」「平均的では無いもの」を、柔軟にガーディアンが受け入れる。勿論度が外れて危険なものが入ってきた場合は、妥協点を丁寧に探す。妥協できない場合は、壁を作って隔離する。
これが極めて難しい。
人間の能力で処理出来るシステムではないので、当然運用は自動で行う事になる。
途中からこの「未来」については、リディーとスール、特にスールが主体的に協力をした。
自分が「みんな」であった事を特に悔やんでいたスールは。「みんな」ではない者が受け入れられる社会であるべきだと、何度も訴えていた。だからこそ、この「未来」については、とても強い関心を持ち。そして膨大な実験の末に、完成させたのだ。
そして既存の人間の思考を柔軟にするための「破壊プロジェクト」。これはフィリスさんの発案したものだ。
人間四種族の思考を、更に柔軟かつ他の種族を受け入れやすいように変える。
それでいながら、自主自尊も守る。
このバランスが極めて難しいが。それでもフィリスさんは、途中からリディーと協力し。このシステムを「寄り添う者」に組み込み始めた。
リディーとしても、フィリスさんの全面協力を得られるのであれば嬉しかったし。
今でも色々思うところはあるが。この人の有能さを疑う訳では無い。
フィリスさんは、リアーネさんとツヴァイちゃん(随分かけて、やっとちゃんづけで呼ぶ事を許してくれた)と一緒に、淡々とこのプロジェクトを進めていたが。これには、鉱山に閉じ込められた街の出身者であるフィリスさんが。自分の住んでいた閉ざされた環境を悉く壊し尽くし。その過程で、人間の醜さを嫌と言うほど見たと言う経験があるから、らしい。
リアーネさんに何度か話は聞いたのだが。
故郷の人達は。従順で便利な何でも屋になってくれると思ったフィリスさんが、知恵を付けて凱旋してきた途端に。掌をくるりと返したという。暗殺まで謀ったのだとか。
それは、フィリスさんもあんな風になる。
そうリディーは納得した。
そして、フィリスさんの協力で、「寄り添う者」は大変に進歩した。「寄り添う」だけではなく。本能から来る愚かしい行動を幼い頃から破壊し、真の自立自尊へと持って行けるようにと改良をしてくれた。
洗脳になってはいけないから、注意深い調整が必要だったが。フィリスさんの大胆極まりない案にはいつも舌を巻かされた。
イル師匠は、途中からプロジェクトを徹底化。自分主導の場合、「創造」に全てを置くようになった。
この「創造」には、技術検証が多く含まれており。
リディーとスールが一緒に経験するようになった世界の周回六万回の中で、新しく出現してきた技術を積極的に検証し。その完成形を次々に作り出していった。これをガーディアンに組み込むことで、人間が行う試行錯誤をよりダイナミックにアシストし。良き方向に「創造」していく事が可能となった。
イル師匠は主にルーシャと共同して、ガーディアンのシステムを改良していったのだけれども。
ガーディアンはこの「創造」により、更に更に進歩を遂げたと言える。
更にイル師匠には、ガーディアンの更に外側からの監査者。「審判者」とも言えるテルミナの創造も行って貰っている。これについても、ガーディアンと同時に実戦投入を開始し、既に成果を上げている。人間を「万物の霊長」と錯覚させないためにも。テルミナの存在は必要不可欠だ。
ルアードさんが行うのは、「現在」の監視だ。
投入されるシステムの影響と、それによって起きる事態を、いままでの周回で徹底的に監視し検証を続ける。
それがまずい結果に終わった場合は、それを記録し。その記録の数々は、ガーディアンに投入される。勿論寄り添う者にも、である。
現在を何よりも大事にするルアードさんが作り上げた深淵の者は、その手足となって、よりよき「現在」を作り出す。唯一の、システムに関与しない実働部隊だとも言える。そして、これが最も大事だとも言えた。なぜなら、現在を生きているのが人間なのだから、である。
そして、これらシステムの統括を行うのがソフィーさん。「特異点」の仕事である。
全てはソフィーさんが出現する事から始まった。そして、これらの複雑なシステムの結合試験を行えるのはソフィーさん以外にはあり得ない。
勿論パルミラと連携しながら行うのだが。
それでも尋常では無い苦労が必要になるだろう。
プレゼンが終わると、拍手が起きる。最初に拍手してくれたのは、アルファさんだった。続けて、コルネリアさんも拍手してくれる。深淵の者の経済を担当している二人が拍手してくれたのは。すなわち、もっとも計算が得意な種族であるホムは、この超特大プロジェクト「星の海」を歓迎してくれるという事である。
続けて、ほろ苦い表情ながらも、イフリータさんやティオグレンさんが拍手をしてくれる。
最強の魔族と、最強の獣人族。二人とも、人間の中ではスペシャルと言ってもいい。
その二人が認めてくれている、と言う事だ。ただ、やはり人間四種族には可能性がない、と言う事はほろ苦いのだろう。二人とも記憶を引き継いでいるはず。しかもイフリータさんは、この世界をこんな地獄にしているパルミラが許せないという経緯で深淵の者に入ったと聞いている。
駄目だったのは、パルミラでは無く人間の方だった。そう結論が出れば、複雑なのもよく分かる。
シャドウロードも拍手をしてくれる。
データ解析を、専門のチームと一緒に続けてくれたこの人は。どの世界でも、最後の最後まで淡々と己の仕事を全うしてくれた。本物のデータ解析のプロ。これ以上、頼りになるデータ解析屋はいなかった。
アンチエイジングをやり過ぎて、今では十代前半くらいに見えるようになっているが。それでもしゃべり方も威厳も、何よりも引き継いでいる記憶から来る実力も変わらない。魔術師として純粋に見れば、錬金術装備の強化もあって、世界最強の一人なのだ。
他の幹部達も概ね好意的な意見を述べてくれる。
そして、ソフィーさんが手を上げると。ぴたりと、場は静かになった。
「今までの周回でも、大規模プロジェクトは何度か動きました。 しかしながら、今回のこれは次元が違う。 八賢者全員の総力を掛けたプロジェクト。 そして、神の過ち……人間を信じるという事に対する疑念を具体化したものになります」
頷くプラフタさん。ルアードさん。
二人は世界を嘆いた最初の二人。不幸な経緯はあったものの、深淵の者を作り出すきっかけになった、この世界の改変の切っ掛けである始まりの二人。特にプラフタさんがいなければ。ソフィーさんは特異点としての技量を発揮しきれなかったとも聞いている。
「今回でこの無間地獄を終わらせ、そして宇宙に出た人間四種族が新しい時代を作る」
イル師匠が頷く。フィリスさんも。
二人とも、詰んだ世界で苦しみに苦しみ抜いた。フィリスさんは文字通り閉じた鉱山の中で。イル師匠は腐りきった特権意識の中で。
「そのためには、この場にいる全員が全力を出す必要があります」
ルーシャは、実はこのプロジェクトの中核だ。
そもそも、ルーシャは何をやっても、本来は賢者の石を作り出す事が出来る才覚の持ち主では無かった。
それが此処にいる。
「寄り添う者」をどうして思いつくことが出来たのか。
才覚が足りなくても、超越的な存在の究極的なサポートがあれば、不可能を可能に出来ると知ったから。
勿論リディーとスールもその点は同じだが。決定打になったのはルーシャである。
だから、ルーシャは俯いたまま。じっと話を聞いていた。
「始めますよ。 世界の詰みの打開を」
おおっと、声が上がる。
そして、この会議の場は、拍手に包まれたのだった。