暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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ついに詰みを打開する具体的なプランが動き始めました。

ただこれは、今までの膨大な研究の蓄積あっての事だと言う事は忘れてはなりません。

膨大なデータに、八つの異なる思想と視点があって、初めてこのプランは実用的なものへと変わったのです。


1、古き人間賛歌の終わり

アダレットとラスティンで、それぞれ別れて動く。

 

既に試験的に稼働が開始されていた「寄り添う者」は、改良に改良を究極まで重ね、ミレイユ女王も認めてくれるものとなっている。指導者としては間違いなく最高レベルの人間が認めてくれているのだ。まず問題はないだろう。

 

アンパサンドさんやフィンブルさんにも、勿論マティアスさんにも使い心地は聞いているが。

 

非常に以前に比べて良いと言う。

 

戦闘時は、危険がよく分かる。対応仕切れない場合には、どうすればいいかの具体的なアドバイスが飛んでくる。

 

かといって、きちんと戦えているときには何も言ってこない。

 

どうしようもない場合のみ、守護の力が発動する。

 

これらもあって、騎士団は練度をぐんぐん上げ。

 

獣の駆除も著しく効率が上がり。ネームド戦でも、被害がほぼ出る事は無くなったという。

 

文官の仕事についてもこれは同じ。

 

ホム達には、ヒト族の行っている権力闘争が可視化して見えるようになって来たし。ヒト族や獣人族には、権力闘争で具体的にどれだけの損害が出るかがはっきり見えるようになっても来ている。

 

小うるさいと文句を言う役人もいたが。

 

しかしながら、作業のミスなどを全て完璧に指摘してくれる事もある。やりたいことについて、無言で後押しもしてくれる。

 

出世したいという願望自体は止めはしないのだ。

 

競争を止めさせるわけでもないのである。

 

無意味なリソースの消費が生じそうになった時、総合的観点から止めに来る。それを理解したときに。

 

誰もが口惜しいながらも、「寄り添う者」と。

 

誰にも気付かれていないが、既に稼働しているガーディアンの有用性を理解し始めていた。

 

子供はもっと単純だ。

 

自分の良いところを伸ばす。どうすればもっと良い生活が出来るのか分かる。しかも、失敗しそうになったときに、其所から補助してくれる。これがどれだけ有意義なことか、生まれついて身につけている場合は、嫌でも分かる。

 

自主自尊を失わないまま。

 

種としての連結を果たす。

 

それも強制的な連結ではなく。

 

それぞれが、例え嫌々ながらである場合もありながらも。

 

確実に連結を果たしていく。

 

それが可能となったのである。

 

なおガーディアンは世界そのものを覆う程の大規模システム。具体的な構築は、破壊的な力を持つフィリスさんと、創造に特化したイル師匠が、全力でルーシャをサポートしながら行った。イル師匠はテルミナの安定に向けての仕事もあったが、それでも手伝ってくれた。

 

ガーディアンシステムそのものは、ハルモニウム製の大型処理装置を、世界の十二箇所に配置。

 

これを位相をずらすことで世界から見えないようにした上で。

 

今までの世界の記録と連結。守護を行う、という大規模なものだ。

 

現状では八賢者にしか作れないが。やがてこのガーディアンシステムを、普通の人間が宇宙に出た後作れるようにする。

 

勿論悪用は絶対にさせない。幾つかのシステムはブラックボックス化する。

 

人間を信用していないからこそ作り出せたシステムだ。

 

人間を信用していたから世界の詰みは打開できなかったのだ。それくらいのセーフティは当然掛ける。

 

人間を遙か超越した八賢者が、気の遠くなる年月を掛けて作り上げたこのシステム。ついに完全稼働を開始すると。

 

年単位で、世界は劇的に変わっていった。

 

パルミラには、試験的にドラゴンと邪神の活動を抑えるように、ソフィーさんから交渉が行われている。

 

人間が増え始めているからである。

 

パルミラも了承。

 

ガーディアンシステムについては、よく考えたものだと、感心していた。

 

深淵の者主導で、世界をどんどん統合へ向けて動かしていく。

 

犯罪率は激減。貧富の差も一気に解消していく。

 

競争は失われないが。それによって社会のリソースが失われることは無くなった。

 

深淵の者から提供され普及した技術により、負傷者や老人のサポートも行われるようになり。八年を経ず世界からホームレスは消えた。皆、定職を得て、生活が出来るようになったのだ。

 

今までは人間が見ていたから、どうしても生じていたミスが。ガーディアンの総合監視によって見過ごされなくなった結果。

 

社会の活動は円滑化。

 

限られた資源を活用する事を人間は自然に行えるようになり。なお社会でも「みんな」という概念は存在しなくなった。

 

違うのが当たり前。

 

違う事は間違っていない。

 

弱い部分は助け合うのが当然。

 

強者は弱者のために当たり前のように力を使う。弱者は己の長所を伸ばして社会そのものを動かす。

 

それぞれが自立自尊のもと、出来るようになって行った。

 

勿論素の人間には絶対に不可能だ。

 

ガーディアンと連結した「寄り添う者」によって、人間四種族を変えたのである。前向きな方向に。

 

人間四種族そのものに可能性がないのなら造れば良い。そのもくろみは、こうして成功した。

 

一世代が経過すると、更にその動きは加速していった。

 

まず最初にヒト族は、己の野心を押さえ込めるようになって行った。「寄り添う者」がガーディアンと連携した結果。無意味な権力闘争を事前に抑え。その分野において有能な人間が自然に適切な位置につけるようになったからである。勿論卑しい欲望が全て消え失せた訳では無いが。それらは、人間が自身で押さえ込めるようになった。

 

続けてホムに変化が生じる。

 

今までは淡々黙々と自分の仕事をするだけだったホムが、自己主張を強くするようになって行った。この自己主張は傲慢から来るものではなく、奴隷では無く他種族と対等だという自尊から来るものである。

 

当たり前の話で、前々から役人や商人としてのホムの有利さは誰もが知っていたのである。

 

野心を持たないから不正はしない。

 

数字に強いから書類にも強い。

 

だが、野心がないから、権力闘争がものを言う役人には向かない。

 

その矛盾が、寄り添う者とガーディアンによって、解消されていった。

 

獣人族は、強すぎる闘争本能を誇りに変えた。

 

我等こそが、荒野の脅威より皆を守る者である。そういう強い意識が獣人族の中に目覚め始め。元々悪い意味で戦闘に真面目すぎた性格が。良い意味での誇りへと昇華した。それは決して排他的な誇りではなく。必要に応じて、自分達に足りない部分をヒト族やホムに頼り。

 

決戦戦力として魔族に頼る事も考えられる、前向きな誇りとなった。

 

そして魔族にも変化が生じる。

 

魔族は内向きな種族だ。

 

内に秘めた信仰を強く保ち。そして、ホムとは違う意味での奉仕を行う。

 

ホムは元々人間に奉仕する種族だった。これに対して、魔族は世界に対して奉仕する種族だったのである。そう魔族を作った「神」に設定されたからだ。

 

だが、魔族はもっとその能力を生かし、主体的に動くべきだったのだ。人だと言うのであれば。

 

内に秘めた信仰で、強く己を持つのは大事な事だ。

 

だが、助けられる者がいるのであれば。或いは自分が動く事で全てを良く出来るのであれば。

 

そうしなければならない。

 

強い目的意識が魔族達に生じた。

 

ガーディアンと連携した「寄り添う者」は、人間四種族を変えていく。

 

勿論全員がいきなり変わる訳は無い。世代が変わるにつれて、徐々に少しずつ変わっていく。

 

お父さんがこの世界でも亡くなり、天海の花園に残留思念として入った頃。

 

二世代が経過して。

 

既に、「寄り添う者」に対する拒否反応を示す者は、殆どいなくなっていた。

 

だが、自立自尊の精神が失われては意味がない。

 

宇宙に出た後、他の種族に食い物にされてしまうかも知れない。勿論その場合八賢者が黙っていない。テルミナもまもなくこのために投入される。だが、テルミナが暴威を振るう事態は出来れば来ない方が良い。

 

そのような不幸は、この世界を出る前に、既に克服しておくべきなのである。

 

ルアードさんは、殆ど人前に姿を見せなくなった。ガーディアンのログの精査をしているからだ。

 

プラフタさんも、それに協力している様子である。

 

不思議な二人だ。多分どんな夫婦よりも絆は強いだろうけれど。リディーから見ても、どんな夫婦とも違っている。

 

そして、「違っている」からこそ。

 

特異点を作り出すための、きっかけとなったのだろう。

 

やはり「違う」事はおかしい事でもなんでもない。

 

「みんな」である事が尊い等と言うことは絶対にあり得ない。

 

世界が大胆にアップデートされていくのをみながら、リディーはそれを再確認していた。

 

 

 

リディーにとっても、六万回も終わりを経験した世界だ。

 

その六万回全ての終わりで、何もかもが違う事をリディーは見続けてきた。終わりの時は悲しかった。何度繰り返しても同じだった。

 

既に、ガーディアンが動き始めてから、百五十年が経過。

 

アンチエイジングをしていない知り合いは、みんなあの世に去った。

 

だが、世界の不幸は確実に減っている。魔族とホムを除くと、「寄り添う者」を知らない者は出てこなくなり。魔族とホムでも、拒否反応を示す者は皆無になった。

 

世界が良くなった。

 

それを肌で感じているからだろう。

 

アダレットの辺境。

 

今、洪水が起きていて。深淵の者と一緒にリディーは動いている。強力な魔術で鉄砲水を抑え。

 

その間に屈強な戦士達が、土嚢を積み上げていく。

 

獣の動向を見張っていたスールが来て、ハンドサイン。頷くと、此方もハンドサインで返した。

 

いちいち言語で会話するのが面倒くさいからだ。

 

すぐにスールが何人か手練れを連れて、溢れかけている川から、人間を狙っている獣を排除に向かう。

 

獣は、そのままパルミラに交渉し、性質を変えていない。

 

これは人間の堕落を防ぐため。

 

ガーディアンは「寄り添う者」と連携して人間の堕落を防ぐが。それでも、やはり人間では敵しえない脅威が存在しないと、堕落は起きる。今までの世界における、膨大なログがその事実を証明していた。

 

川から飛び出してきた、巨大なトカゲのような獣が、シールドにぶち当たる。

 

ネームドでは無いが、それに近い実力者だ。リディーは無言で押し返して、川に放り投げた。

 

おおと声が上がるが。

 

急いでと、作業の続きを促す。

 

ほどなく、猛烈な暴風雨は収まるが。彼方此方の河川が氾濫していて。インフラの復旧が必要になった。

 

ガーディアンが、各地の情報を集積。

 

即座に此方に回してくる。

 

現在、アダレットとラスティンは、それぞれ有能な統治者によって指導されている。まだこの社会システムは必要だろう。アダレットは既に二回、養子による王族が就任していて。血統主義は終わりを告げたが。もっと社会が大型化高度化して行くには時間が掛かる。テクノロジーも、いきなり進歩させるわけにはいかない。

 

ただ、理想的な環境が整った結果。

 

現状のまま上手く行けば、宇宙に出る技術を、人間が資源を食い尽くすまでには作る事が出来る。

 

そういう結論も出ていた。

 

リディーとスールは、パルミラに許可を貰って、既に宇宙に出ている。

 

宇宙は静かで冷たくて、生命に何の興味も示さず。しかしマクロで見ると雄大で。そして分かってはいたが、他にも知的生命体は存在している場所だった。

 

彼処に混じるためには。

 

ガーディアンと「寄り添う者」の守護を受けていても。まだ人間四種族は未熟だ。

 

見回す。

 

皆、的確に動いている。

 

洪水のダメージは最小限に抑えられた。まずは胸をなで下ろす所だろう。街の方には被害が少し出ていたが、スールが既に対処にあたっている。

 

連絡が魔術で来る。

 

ルーシャからだった。

 

「王都にて、太陽塔が倒壊しましたわ。 幸い犠牲者は出なかったものの、倒壊時に城壁にダメージが入りましたわよ」

 

「すぐに行くね」

 

「お願いしますわね」

 

通信を切ると、その場の指揮を深淵の者に任せて、スールの所に。軽く話すと、すぐに王都に出る。

 

太陽塔は、王都のシンボルとして十年前に作られたもので。単なるシンボルではなく、使用されるのが多くなってきた飛行キットに対する「灯台」として機能してきたものだ。これの建造については、深淵の者は関わっていない。人間が、自分達でテクノロジーを高める必要があるからである。

 

だが、度を超した暴風雨が徒になった。

 

現場に出向く。リディーとスールの家辺りからも、惨状が見える。昔スラムだった辺りに佇立していた塔が、見事に城壁の一部を粉砕しながら、崩れていた。なお、ルーシャがとっさに反応し、皆が逃げ出すまでシールドで支え続けたらしい。ルーシャ自身が、埃まみれの泥まみれだったが、それを笑うつもりはない。

 

名誉の負傷だ。それも、多くの人を守っての。昔と同じように。

 

「埋まっている生命反応は無し。 死者は出ていませんわ」

 

「流石だねルーシャ。 警備は任せてっ」

 

「こっちは城壁の補修をするよ。 後、外の森にダメージが出ていないか確認しないと」

 

「ならば、わたくしはこの塔の撤去をしますわ」

 

すぐにそれぞれで別々に動く。

 

ルーシャが手を叩くと、すぐに人夫が集まる。貧富の格差が解消された事もあり。皆、相応にしっかりした格好をしている。騎士団員ではなくても、錬金術装備を身につけている者も見られるようになって来ていた。

 

スールに外は任せて、リディーは城壁のダメージを確認。

 

駆けつけてきた深淵の者構成員に、クレーンを要請。すぐにコルネリア商会と連絡をとって、回してくれる。

 

更に、どれだけの手が必要かを即座に計算すると。

 

その場でレポートを書きつつ。周囲を回って、危険地帯にロープを張って、立ち入り禁止の幟を立てた。ルーシャは自分の部下達を周囲に展開して、人手を集めてくれている。

 

今のは、王都にくさびを打ち込んだに等しく。

 

彼方此方の地盤が緩んでいる。

 

更に大きな塔だったので。二次崩落の危険もある。

 

ルーシャがいてくれて本当に助かった。

 

塔の設計責任者が来て、青ざめていたが。叱るようなことはしない。失敗は、次に生かせばいい。

 

まだまだ資源はあるし。今回倒壊した塔の資材は、また再利用も出来る。

 

人命が失われなかったのだ。まあ降格人事くらいは必要かも知れないが。それはリディーがいう事では無い。

 

城壁付近の瓦礫の撤去を開始。街の方はルーシャに任せる。

 

フィリスさんがいれば簡単だっただろうが、今フィリスさんはラスティンの方で大忙しだ。

 

手は借りられない。

 

フィリスさんほど鉱物に対するギフテッドは鋭くないが。それでも崩れる場所は分かる。ひょいひょいと城壁の上に上がると、つるはしを振るって、駄目になっている部分の崩落を先に引き起こす。

 

城壁の上に、灯台の頂上部分が突き刺さっていた。これも蹴落としてしまう。

 

灯台の光の元になっていた魔術具は残念ながら壊れてしまったが、部品をそれぞれ分解し、鋳つぶせば良い。再利用は出来るだろう。

 

また、飛行キットをつけた荷車などで移動してくる人には、しばらくは上空で常時灯りの魔術を展開する役割の役人が必要になるだろう。アードラなどに襲われる可能性も考慮して、護衛の騎士も必要になる。それもレポートにして提出する必要がある。

 

一通り崩落しそうな瓦礫を排除し終えると。

 

丁度現在のアダレット王である、アルネマキア二世が城壁の上に来た。赤毛の口ひげが立派な男性で、ミレイユ女王と血縁はない。二世と言うが、先代の養子である。ただ昔、同名の王が存在したので、二世と名乗っているだけだ。

 

王族だが、リディーの事は、変革の賢者と呼んで敬意を払ってくれる。騎士団も、王族の出動と同時に、展開を開始してくれていた。

 

血統主義が終わり、王族には有能な人間がつくようになっている。

 

多分、人間だけではこの仕組みは維持できなかった。

 

「寄り添う者」も必要だが、ガーディアンによる補佐が現在の状況を作り上げている。ガーディアンの存在に気付かせるわけにはいかないが。ともかく、人間は自立自尊を保ちながら、しっかり社会を進歩させている。それが、とにかく大きい。

 

「変革の賢者よ。 このような惨禍から、民を守ってくれたことを感謝する」

 

「いえ、民を一人残らず救ったのは、今下にいる守護の賢者です。 それと、この失敗は次に生かせるよう、責任者への寛大な処置をお願いいたします。 後、外で森の状態を選別の賢者が見ていますので、其方にも応援を」

 

「そうか、そなたは相変わらず慈悲の心を持つのだな。 それでは、第一部隊は変革の賢者を。 第四部隊は選別の賢者を。 残りの部隊は守護の賢者を、それぞれ支援せよ」

 

「ははっ!」

 

敬礼すると、即座に騎士団が散って行く。

 

そのまま王族を護衛していくのは、名前を変えたがアンパサンドさんだ。一礼すると、もう珍しく無くなったホムの騎士団長(とはいってもアンパサンドさんが何度も名前と経歴をロンダリングして就任しているからだが)は、全体の指揮を執りに城壁を降りる。

 

応急処置が終わるまで半日。後の復興作業は、もうアダレット王国に任せる。

 

潰れてしまった家や、インフラもかなりある。それに、太陽塔の再建にも、相応に苦労するだろう。この失敗は必要な失敗だ。ガーディアンが動かなかったと言う事は、技術的に進歩するために、犠牲が出ない失敗はさせるべきだと判断したのだろう。ログを後で確認するが、まあそういう事だと判断して良い筈だ。

 

スールとルーシャと合流。

 

ルーシャの方は、どんどん瓦礫を運び出していた。全自動荷車を、人夫が連れて列を成し。魔族や逞しい獣人族の男性が、荷車に瓦礫を乗せている動きにはまるで無駄がない。やはり社会そのものがとても進歩している。ホムは素早く計算しながら、荷車の管理をしている様子だ。

 

「此方はもう大丈夫ですわ。 スーは」

 

「こっちも平気。 獣がそれなりの数様子を窺っていたけれど、面倒そうなのは蹴散らしてきたし」

 

「スーちゃんももうすっかり達人の域だね」

 

「……ティアナさんにはかなわないけどね」

 

記憶を引き継ぎながら、ソフィーさんの剣となっているティアナさんは、今でも八賢者に匹敵する実力である。多分ソフィーさんとフィリスさん、イル師匠の次に強いだろう。もう完全に人外の実力者だが、本人はいたってのんきで、必要な時に首狩りが出来れば何の不満も無い様子だ。ソフィーさんの事がそれだけ大好きで、首狩りも大好きだからなのだろう。

 

ティアナさんは危険なシリアルキラーだが、制御出来るシリアルキラーだし。無意味な殺しもしない。多分。ソフィーさんへの狂信という危険要素はあるが、それを避ければ普通に会話も出来る。

 

だからどうこういうつもりはない。

 

ああいう人も必要なのだ。事実世界に溢れていた匪賊が根こそぎいなくなったのも、ティアナさんの功績。

 

匪賊によって無惨な姿になったり食われてしまった人達をたくさん見ているリディーとしては、匪賊に同情するつもりはこれっぽっちもない。匪賊が死んだ事を悲しいとも思わない。

 

法がない場所で、非道をした。

 

だから当然の末路を迎えた。

 

そう思うだけである。

 

話し合いが終わった後は、深淵の者も引き上げさせる。できる限り、深淵の者は大規模災害や、戦略的に世界を動かす時にだけ介入する。ガーディアンが動き始め、「寄り添う者」が連動している現状。

 

深淵の者による過干渉は、人間四種族が自立自尊を保ち、相互協力しつつ宇宙に行くためには無駄になる。

 

後は必要な時だけに手を貸し。

 

そして彼らに「いざとなったら賢者が助けてくれる」と認識させてはいけないのだ。

 

深淵の者の本拠、魔界に戻り。レポートを出すべく八賢者の共同研究スペースになっている特に厳重な管理を受けている区画に入ると。

 

ソフィーさんが待っていた。

 

今回の災害の被害情報と、回復のデータを、ガーディアンに直結しながら見ているようだ。精神を直結させることで、直接ログを取得しているのである。それでありながら普通に会話も出来る。

 

この人も大概バケモノだが。

 

今は、それをどうこういう意味もない。

 

すっと手を此方に向けてくるソフィーさん。

 

全ての情報を、それだけで取得したようだった。

 

今でも、ルーシャはソフィーさんを見ると青ざめる。きっと、それだけ酷い扱いを受けてきたのだろう。

 

リディーとスールの目が届く範囲内ではなかったけれど。今ですらこうなのだ。昔、何があったかのかは聞きたくない。

 

「なるほど、情報取得。 後でレポートも出しておいてね」

 

「はい」

 

「それで、今は何を」

 

「テルミナを出すタイミングを計り中」

 

ドラゴンと邪神が減ってから、荒野の獣だけが人間四種族に明確な害を為す存在となった。

 

この結果、各地の繁栄もある。人間四種族の数は、60万程度で安定していたものが、500万に達しようとしている。

 

昔十万都市だったアダレット王都とライゼンベルグは、既にそれぞれが三十万を突破。街もかなり拡大しているし。その過程で、街を守る森についても、様々な手入れを行って来た。今後は100万まで増えることを想定して、更に森に手を入れる予定である。

 

また各地に存在していた、人口一万都市。

 

世界に10しか存在しなかったのだが。

 

これも、現在では40を超えようとしている。

 

今までも、試験的に人間の数を増やし、最大六億まで増やした事はあった。

 

だがそれらの周回では、爆発的に増えた人間に対して、社会のアップデートが追いつかなかった。

 

今回は増やす方向で進めながら、本格的に導入したガーディアンと「寄り添う者」の様子を見つつ。

 

今までにない脅威。

 

善神パルミラの対になる(という設定の)魔神テルミナを出現させることによって。

 

社会の引き締めを行う。

 

騎士団や錬金術師の弱体化は起こってはいないが。

 

昔のように、理不尽に現れて大都市だろうが一瞬で焼き尽くしていくドラゴンや邪神の恐怖が薄れている事もある。

 

君臨するだけで恐怖となり。

 

邪悪を人間以上の立場からわかり安く裁く「裁きの神格」が出現する事は、意味がある。

 

勿論テルミナは既にイル師匠が完成させており。

 

毎回の周回で、どのタイミングで出すかを常に試行錯誤していたのだが。

 

今回はソフィーさんが、そろそろだと見極めている、と言う事だろう。

 

テルミナは、光があまりにも強すぎるパルミラ本体とはかなり違い。黒を基調とし、四枚の翼を持ち。手には審判を司る槌と。常時浮いている足下には真っ赤な聖杯がある。顔はパルミラがひねくれたような感触だが。こういった要素は、色々な研究をした結果、わかり安く怖れられるために設定したものだ。

 

ヒト族の元の世界でも。

 

悪が落ちる地獄の管理者。獄卒や、地獄の支配者は、恐ろしい神で書かれる事が多かったようだ。

 

これはホムの世界でもそうで。

 

更には魔族の世界では、その獄卒の役割を魔族達がしていた。

 

素の状態、つまりパルミラが「ある程度の相互理解」を植え付けるまでは、ヒト族は魔族を恐ろしい姿のバケモノ呼ばわりしていたらしい。

 

獣人族の場合は少し特殊で、地獄には臆病者が落ちるという事だけが伝えられ。其所には無だけがあり、戦いは出来ないとされていたという。

 

まあそれは特殊例として。

 

わかり安い信仰としては、やはり見て恐ろしく。

 

そして、ガーディアンや「寄り添う者」でもフォローしきれない悪を。誰にもわかり安く断罪する存在として、降臨するべきなのだろう。

 

これについては依存は無い。

 

「んー、後12……11年10ヶ月って所かな」

 

ソフィーさんが呟いている。

 

その頃には、恐らく世界の人口は550万を超えているだろう。ルーシャを連れて、ソフィーさんから離れる。

 

八賢者だけが利用するこの研究スペース。

 

かなりの広さがあり、別にソフィーさんの側で研究を進めなくても良い。

 

データを展開すると、三人でああだこうだ言いながらレポートを仕上げていく。

 

もう少しだ。

 

心中で呟いたその言葉は、自分に言い聞かせたものだろうか。

 

いずれにしても。

 

今回の世界は、今までになく、上手く行っている。

 

体感時間は、リディーやスールで恐らく二十億年を超えている。イル師匠やフィリスさんはその三倍以上。ソフィーさんに至ってはこの間聞いたところに寄ると千億年を超えたそうである。

 

時を止めて行動をすることが増えた結果、こうもあらゆる意味での人間との乖離が進んだが。

 

それでも、報われるときはもうすぐ来る。

 

レポートを仕上げると、深淵の者上層部と八賢者がアクセス出来るデータベースに、レポートを格納。

 

ガーディアンが直に見ているデータと。

 

これをそれぞれ確認することによって。

 

多角的に情報を整理する事が出来るのだ。

 

作業が終わったところで、後は何をするべきか。世界の情報そのものに触れ、手が足りていない場所がないか、災害の類が起きていないかを確認。重大な問題が起きた場合は連絡が来るが。連絡が来るレベルの問題が起きていなくても、場合によっては自主的に出向かなくてはならない。

 

イル師匠とフィリスさんの方は、手助けは必要なさそうだ。

 

プラフタさんとルアードさんは、今アダレットへの資金援助で動いている様子だが、それもまた別に手助けはいらないだろう。

 

ならば、少し休んでから研究を進める。現時点で可能な限り完璧に仕上げているガーディアンをルーシャが。「寄り添う者」をリディーとスールが、それぞれ更に完成度を上げる。

 

流れてきているデータを全て活用しながらだから、アップデートも大変だが。

 

ティアナさんが殺しに行くようなイレギュラーは、減る方がいいに決まっているのだ。

 

今は、アリスさんも、オイフェさんも、同族達も。優秀な遺伝子を組み合わせてソフィーさんが作ったホムンクルスだと知っている。

 

だが、ずっと一緒に戦った来た仲だ。戦闘でも随分助けて貰った。今更差別するつもりはない。

 

オイフェさんが淹れてくれたお茶を美味しいという情報だけ楽しみながら。

 

黙々と、リディーはスールと精査しあいながら。「寄り添う者」の更なる性能向上を進めていった。

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