暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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実用的に動き出す計画

問題はありながらもそれをクリアしていく超越者

ついに

絶対的な世界の詰みの打破に、王手が掛かろうとしています。


2、突破

拍手の中、アダレット王クラシュラス(獣人族としては三人目の王)と、ラスティン代表の錬金術師筆頭パイモンさん(リディーとスールと何度も一緒に強敵と戦った本人である。 時々ラスティンの長を引き受けてくれている)が握手をかわしている。

 

有志の楽団が勇壮な音楽を空に響かせ。

 

錬金術師達が、自動で演奏が行われる楽器を用いて、己の技術力を誇示。

 

そして、其所にあるのは。

 

「鉄道」と呼ばれる、自動輸送システムだった。

 

深淵の者で使っている、空間転移の扉を、まだまだ世界に公開するつもりはない。

 

この鉄道は、アダレットとラスティンの間を結ぶ安全な交通手段として、40年がかりで建築が進められ。

 

フィリスさんやイル師匠が改良した錬金術炉を動力とし。

 

森によって守られた複線の線路を用いて、最初は八車両が往復しながら活動する事を目指している。

 

リディーとスール、それにルーシャが人間を止めてから、実時間で三百五十年が経過。

 

既に世界の人口は二千万を超え。

 

アダレットとラスティンは、魔術と科学技術をそれぞれ錬金術と共に発展させつつ。

 

ついにここまで来ていた。

 

後二百年ほどで、宇宙への進出が可能になる。

 

だが、まだまだだ。

 

人口は敢えて緩やかに増やさせている。

 

「寄り添う者」とガーディアンの負荷を慎重に判断しながら、社会を拡大しているからである。

 

アダレットは能力主義による王の選定システムを安定させ。魔族やホムが王になる事も出てきている。今回に至っては、頭脳労働に向かない獣人族がついに王になった。とはいってもクラシュラスは獣人族最強を誇るケンタウルス族の出身者で、例外ではあったが。

 

ラスティンは超越錬金術師達の時代が終わった後も、安定して優れた錬金術師を輩出し続けており、その技術は見聞院にどんどん蓄積されている。しかしながら、八賢者の時代のレシピは再現出来るものがおらず。

 

ロストテクノロジー化しているケースも多かった。

 

ある一定以上に優秀な錬金術師は、悉く深淵の者に勧誘してしまっているから、というのも理由としてはある。

 

これはあまりにもブレイクスルーが早すぎると困るからである。

 

また、鉄道そのものは、今までの周回でも作成が為されたことがあったが。

 

此処まで大規模で。二大国の主要都市を通過しつつ、人員、物、それぞれの流動を手伝う程のものは初めてだ。

 

この段階を持って、次の状況に移行する。

 

そうソフィーさんが宣言した事もあって。

 

鉄道が動き出すのを遠隔で見ながら、深淵の者では、本格的に会議を行っていた。

 

「今回作成された炉は、技量が劣る錬金術師でも作成出来、なおかつ量産が可能なようにわたしが改良したものだけれども。 その代わり、案の定既に悪用を考えている連中がいるみたいだね」

 

フィリスさんがによによしながら言う。

 

イル師匠が頷いていた。

 

「確かにこれだけの強力な動力、悪用は幾らでも可能だわ。 四隻まで建造した装甲船も、それぞれ二大国で悪用されかけた事が何度かあったものね」

 

「まあ、バカは駆除するとして。 ルーシャちゃん。 ガーディアンのアップデートは」

 

「問題ありませんわ」

 

駆除という言葉に眉をひそめながらも。

 

ルーシャは、データを展開。

 

円卓についている幹部達に、問題が無いことを提示してみせる。

 

今までの周回で得られたデータの応用。更なるガーディアンの規模拡大だが。

 

今のルーシャであれば、それほど難しくは無いはずだ。

 

更には、現時点で「寄り添う者」は既に必須のものとなっている。

 

人間が、「これが無ければ何もできない」というようなものではない。

 

「寄り添う者」を用いる事で、更に建設的に自己を生かせる。己の強みを引き出す事が出来る。

 

そう認識させる事で。

 

ガーディアンとの連携もあって、現在ではごく特殊な事例を除いて、犯罪は起きなくなっていた。

 

犯罪が割に合わず。

 

努力が報われる社会にしている事も要因の一つである。

 

アダレット王クラシュラスにしても、必死の努力を続けた結果、王に就任した人物であり。

 

その力量は実力主義が導入された以降のアダレット王達とあまり変わりは無い。

 

元々出身世界で暴威の種族だった獣人族の頂点ケンタウルス族らしく、多少性格が荒々しい所はあるが。

 

それは自分もしっかり理解している様子で。

 

客観的に自分を見る事が出来るようになる「寄り添う者」の強みは、こういう所でも発揮されている。

 

「それで、後二段階、でしたね」

 

リディーが話を振ると。

 

プラフタさんが頷く。

 

未来を司るプラフタさんは、既に蒼図を描いているのだ。この世界の詰みを打開するための、具体的な段階図を。

 

まずこの次の段階は、宇宙へ到達可能な技術の作成だ。これは宇宙へ行くだけではなく、宇宙に定住できる技術、という事である。

 

実はこの世界、宇宙には出られないようになっている。

 

パルミラが封鎖しているのだ。

 

時と空間すらも周囲と隔離された場所であり。他の星間文明からは、ブラックホールと認識されているらしい。

 

だから、技術だけは作らせて。

 

その後は、技術を使った者の精神を誤魔化す事で、技術だけは保全させる。

 

そして、宇宙への進出技術が発生した段階で最終段階へ移行。

 

「寄り添う者」とガーディアンの存在を自覚させる。

 

自覚した上で、自分達でそれを作れるようにする。

 

「枷」と判断するのではない。

 

「寄り添う者」とガーディアンが、そのままでは可能性が無かった自分達に、可能性を与えてくれた「友」である事を認識させるのだ。

 

そうでなければ、自立自尊を維持したまま。

 

人間四種族が共同することは出来ない。

 

現時点では、「寄り添う者」とガーディアンが更にアップデートを重ねている事もあり。人間四種族は今までの周回ではあり得なかった、それぞれが協力しつつ未来を目指す体制を構築できているが。

 

最大の難関は此処だろうと、プラフタさんは断言していた。

 

ルアードさんも意見は同じらしい。

 

「恐らくだが、一部の者は反発するはずだ。 現在でも、無責任な人間賛歌に近いものを声高に叫んでいる者はいる。 原理主義者の中には、寄り添う者からの脱却を、と叫んでいる者もいる」

 

「ええ。 原理主義者だからと安易に排除するわけにはいきません。 彼らにも納得させる必要があるのです」

 

プラフタさんは悲しそうに言うが。

 

そもそも、人間原理主義とでも言うべきこの思想は。人間四種族がそれぞれの元の世界にいた頃からの病弊だ。

 

資料が揃ってきた今なら知っている。

 

リディーもスールも見た。

 

特にヒト族はその傾向が強く。何の根拠もないのに、人間の可能性は無限大だと、無邪気に「悪」に対して語っているケースが目だった。自分達の世界の資源が尽き掛けている状態でも、である。

 

パルミラがかなり改善し。

 

抑止力としてテルミナが、二大国に睨みを利かせるようになった今も。

 

それは変わっていない。

 

パルミラが言う自立自尊を果たすためには、洗脳の類はアウトだ。あくまで寄り添って人間四種族の可能性をゼロから有にしなければならない。

 

幼児を育てるのと同じだが。

 

残念ながら、人間は元々、大半の個体が体は大きくなっても思考回路は幼児と変わらない。

 

悪しき例はいくらでもある。

 

それに対して反論できる例はごくごく少数だ。

 

「テルミナに悪役をやってもらいますか?」

 

リディーが提案。

 

だが、スールが反論した。

 

「テルミナ、これ以上悪役やらせるの可哀想だよ。 結構繊細だし……」

 

現時点でテルミナは、アダレットとラスティンの中間地点に鎮座し。

 

時々両国に生じている腐敗を、空中に映像と音声付きで公開しつつ、悪事の主犯を公開処刑する、というパニッシャーとして動いている。

 

なお、両国の軍隊が何度か討伐に赴いているが。

 

悉く返り討ちである。

 

テルミナはあくまで「わかり安い獄卒」であるため、出向いてた軍を皆殺しにするような真似はせず、追い払っているだけだが。

 

それでも、恐怖とともに存在を認知され。

 

今までの邪神の中で間違いなく最強、暴れ出したら手に負えないと。賢者の再降臨を求める声まで出ている。

 

実の所、名前や姿をロンダリングして、各地で今もリディーやスールは活躍してはいるのだが。

 

テルミナの討伐をするつもりはないし。

 

テルミナ自身から、人間が元々持つ悪意が異次元過ぎてつらいと、時々愚痴を聞かされる。

 

元々邪神をベースにしているとは言え、イル師匠が極めて高度な知性を埋め込んだ存在である。

 

人間が絶対に逆らえない、抑止力。

 

「万物の霊長」とかいう巫山戯た妄想を二度と抱かせないための、絶対的な壁として作り出したテルミナだが。

 

本人の負担は、決して小さくないのが実情だ。

 

「可哀想なのは確かだけれども、存在する意味が其所にあるんだから、多少は仕方が無いんじゃないのかな」

 

「フィリスさん、でもそうなると、此方がテルミナに頼ることになりませんか」

 

「ふーん、では他に対策は?」

 

そう言われると、リディーも厳しい。

 

ソフィーさんが挙手。

 

皆が黙る中、特異点は発言する。

 

「現時点でテルミナは良くやってくれているし、ガーディアンに匹敵する世界の「負の補佐役」としては充分。 それならば、丁寧にアップデートを重ねながら、次の段階を目指していけば良い」

 

「わかり、ました」

 

「それでは解散」

 

円卓から、それぞれ皆が離れる。

 

話しかけてきたのはシャドウロードだ。アンチエイジングを駆使して色々体を弄っていたが。結局十代半ばで固定した。これが一番動きやすく、能力的にも快適だから、らしい。昔は老婆だったとは信じられない容姿である。

 

とはいっても、決して絶世の美少女ではなく。

 

何というか、非常に厳しい印象を受けるが。

 

目つきが鋭すぎるからだろう。

 

「リディー、スール、いいかい」

 

「はい、何ですか」

 

「シャドウロードさんが話しかけてくるって事は、悪い予感が……」

 

「ちょっと気になったんだがね。 「寄り添う者」からガーディアンに流れている情報ログを見る限り、かなり人間の精神負荷が高くなっている。 15年前に比べて8%の上昇で、これは予想より早い」

 

これを言いに来たと言うことは。

 

プラフタさんが言う、「最後のブレイクスルーが一番大変」という話の前に。リディーとスールに大仕事が出来た、と言う事だ。

 

「後でルーシャにも言うつもりだが、ひょっとするとまだ「寄り添う者」の性能が足りないのかも知れない。 現時点でガーディアンは上手く機能している。 問題は個人個人の欠点を補うこっちの方だろう」

 

「分かりました。 善処します」

 

「急ぎな。 この辺りから、人間達が何を始めるかは、何度も何度も見ているだろう?」

 

「……」

 

頷く。

 

今までも、このくらいまでは上手く行ったことがあった。正確には、そう見えていただけだったのだが。

 

人間が今回は増えるのが早い。その分資源も猛烈に消費するという事だ。

 

普段は5000年、もたせれば10000年は頑張れる状態でも。今の強烈な人口増加と技術革新を考えると。今回の周回では、残り猶予時間は。1000年、いや500年というところだろう。

 

それならば、シャドウロードがいう事も確かに一理どころか何理もある。

 

しばらくは缶詰だな。

 

リディーはスールと頷きあうと、時の止まった部屋に籠もって、ログの再確認を始める。確かにシャドウロードの言う通りだ。膨大なログを見る限り、だいたい8パーセントくらい、急激にストレスの負荷が上がっている。

 

これは、無策でいたら、恐らくはプラフタさんがいう最後のブレイクスルーの時に、大事故が起きる。

 

原理主義が爆発でもしたら。

 

それこそ、取り返しがつかない事になる。

 

この辺りから、歴史は一気に動く。文明の進展速度は、ブレーキを慎重に掛けないと加速し。人口は爆発する。

 

放置しておいた場合、あっと言う間に資源が無くなり、仁義無き殺し合いが開始されてしまう。

 

そうなる前に。

 

此方で相応の手を打たなければならないのだ。

 

今までは、いつもその手が足りていなかった。

 

今回は、寄り添う者の今までにない本格導入。更にガーディアンの本格稼働によって。そのストレスが可視化された。

 

色々と何というか、とにかく手が掛かって仕方が無いが。

 

パルミラは、こんな状態を見ながらも、それでも文句は言わなかったのだろう。

 

リディーは元人間で。

 

そして元々「みんな」と同じだった。

 

悪しき概念である「みんな」。強いていうならば同調圧力に流される安易な生き方が、やっと人間四種族の中から消えてきた今こそ。

 

それを過去に永遠に葬るべきなのに。

 

まだ、牙を剥こうというのか。

 

最後のブレイクスルーさえ超えれば、人間は恐らく、次の段階へと行く事が出来る。神に支えられることも無く。超人に助けられることも無く。

 

自分達の足によって。

 

皆で宇宙の、先達として先に宇宙で文明を築いている知的生命体とも。共存していく体制を作れる。

 

ログの解析はリディーが担当。

 

スールには、イル師匠に協力を頼んで貰う。

 

ルーシャは、多分独自でガーディアンの解析と改良を進めるはずだ。これは、万年単位での缶詰がいるかな。そう思っていた矢先に、イル師匠がすぐ来てくれた。多分先ほどの会議で、シャドウロードに話しかけられているリディーとスールを見て、手助けがいると判断したのだろう。

 

八賢者はそれぞれの担当分野を、それぞれが把握し合っている。

 

勿論、互いの担当分野を必ずしも快く思っている訳では無い。だがイル師匠は、少なくとも公平に作業を行ってくれる。

 

説明を軽くすると、即座にイル師匠は内容を把握。

 

考え込んだ後、アドバイスをくれる。

 

「社会の性質が変わってきているとみるべきね。 もっとも規模が大きかったヒト族の故郷世界のデータは」

 

「既にガーディアンに反映し、相互で「寄り添う者」に状態を更新させるようにはしていますが」

 

「それだけでは駄目ね。 なぜなら、ヒト族の故郷世界では、社会が上手く行っているとは言い難かった」

 

イル師匠は即答。

 

なるほど、其所が原因か。

 

しかし、そうなってくると逆に資料が足りない。どうするべきか。

 

イル師匠は、顎をしゃくる。分かるはずだ、と言うのである。スールは、ふっと顔を上げて。それで、リディーも分かった。

 

不思議な絵画か。

 

「不思議な絵画での、試験運用……ですね」

 

「ええ。 此方でも協力するから、少し試してから、改良をしなさい。 多分根本的に手を入れる必要があるわね」

 

「……今回の世界も、駄目なんでしょうか」

 

「だとしても諦めない」

 

イル師匠の言葉には迷いがない。確かにその通り。この程度で諦めてはいられない。ましてや、今回はもう少し、なのだ。

 

手が掛かるなどと考えてはいけない。

 

リディーとスールだって、手が掛かっていたのだ。それも、尋常では無く。だったら、今度は。賢者となって人間を超越したのであれば。どれだけ手が掛かろうと。元人間という視点を。元愚かな「みんな」だったという視点を生かして。どれだけ手が掛かろうと、詰んだ未来を打開するだけだ。

 

即座に不思議な絵画の準備に取りかかる。

 

エスカちゃん。フィリスさんの弟子だったエスカちゃんは、アンチエイジングによる不死への道は選ばなかったが。しかし、幾つも有用な不思議な絵画を残してくれた。概ね幸せな人生を送った。

 

彼女が遺した不思議な絵画の一つ。

 

「光ある未来」。

 

何度も今まで使って来た、特大規模の内部世界を持つ不思議な絵画だ。しかもこれは、深淵の者の実験を想定して、内部を自由にいじれるようにカスタマイズしてくれている。

 

エスカちゃんは深淵の者の苦闘を知っていた。

 

フィリスさんに対して、時々哀しみと同情の目を向けているのも知っていた。

 

変わり果てたフィリスさんを見て、悟っていたのかも知れない。

 

どれだけ世界の詰みを打開するというのが、大変だという事か。

 

だから、己の全てを挙げて。可変性に特化し、内部に特大空間を作れるこの不思議な絵画を残してくれたのだ。

 

今までも、散々使って来た。

 

そして、今回も使わせて貰う。

 

内部に二人で入ると、外と時間を隔離。この絵の内部だけで時間が進むように設定し、百年ほど掛けて現状の世界を再現。それができる程の可変性を持つ不思議な絵画なのだ。問題はそれに相応しい強力なレンプライアが湧くことだが、今のリディーとスールなら相手にならない。

 

ガーディアンと「寄り添う者」を擬似的に構築。擬似的構築と言っても、本物となんら変わる事はない。

 

楽園としての不思議な絵画を作らせればお父さんが一番だったが。

 

可変性の高い実験場を作らせれば、エスカちゃんが多分史上最高だと思う。

 

すぐに試験を始める。

 

この状況で、何がストレスになっているのか。

 

此処から更に人口爆発が起きる事を想定して、どうやってストレスを減らしていき。そして、如何に「寄り添う者」が不可欠なのか、どうして人間四種族に知らしめれば良いのか。

 

原理主義者などと言うものが湧くのも、不満があるからだ。

 

勿論一部、どうしようもないのはいる。

 

だが、それすら押さえ込んでこその「守護」。それすら受け入れて周囲に害を為させない存在であるからこその「寄り添う者」。

 

無制限に甘やかすのでは無い。

 

長所を伸ばし、その強みで周囲全てを助ける。減点法では無く、加点法で世界をよりよくしていく。

 

どうしようも無い場合の駆除もガーディアンと連携して行う。

 

その仕組みを、更に完成度を上げていく。それだけだ。

 

しばし、無心のまま調整を続ける。やはりシャドウロードの警告通りだ。人口が増えると、瞬く間にストレスが爆発的に増えていく。シミュレーションはした筈なのに。そのシミュレーションを遙かに超える爆発的増加だ。

 

ストレスが元の350%を超えたところで、ガーディアンと「寄り添う者」に対する不満が爆発。

 

奇しくもそれは、この不思議な世界で、宇宙へ行く技術が確立するタイミング。

 

そう。このままやっていけば。ブレイクスルーは超えられなかった事を意味していた。

 

「レポート書いて出してくる。 スールはログの解析と調整をお願い」

 

「合点!」

 

「……ガーディアンも、これだと改良がいるね」

 

目の前で繰り広げられている狂乱の宴。

 

全てが台無しになって、殺し合いを開始する人間四種族。漸く脱した「みんな」という同調圧力に引き戻され。ただ荒れ狂うカオスと。そう、ヒト族が無責任に絶賛した「弱肉強食」がその場に吹き荒れ。

 

資源が食い尽くされ。

 

後には何も残らなかった。

 

このログを全てレポートにして提出。

 

恐らく、八賢者総出での改良が必要になる。先にこれが分かって良かったと思う。

 

ぐっとリディーは顔を上げた。

 

世界の滅びは六万回以上見て来た。今までに比べれば、一番惜しい所まで来ているのだ。そして今はまだ取り返しがつく。

 

レポートを仕上げると、即座に提出。

 

また即座に会議が招集された。

 

思えば、八賢者だけじゃない。常に最前線で活躍してくれているイフリータさんやティオグレンさん。アンパサンドさんとシャノンさん。社会を影から操作してくれている毒薔薇さんやパメラさん。植物のスペシャリストとして、社会と植物の折り合いをつけているオスカーさん。そして情報のスペシャリストとして、ある意味最高の活躍をしてくれているシャドウロードさん。経済の爆発を抑え、丁寧に社会をコントロールしてくれているアルファさんとコルネリアさん。他にもたくさんたくさん。

 

みんな、深淵の者の幹部達がいなければ。

 

この状況まで持ってくることさえ出来なかった。

 

皆既に超人と呼べる段階にまで来ている。

 

だが、人間原理主義が、可能性を消し去る事実が分かっている以上。

 

ここから先こそが。我等の振るう拳。

 

詰んだ未来をこじ開ける可能性の刃。

 

程なく、スールも戻って来た。そして、全員が揃ったところで会議を開始する。リディーが提示するデータを見て、流石にソフィーさんも考え込む。冷徹合理を地でいくこの人も。たまに考え込む事もある。

 

「……これは総力での強化が必要かな」

 

「奇しくも、次のブレイクスルー予定地点で破滅が起きるのは色々な意味で示唆的です」

 

「そうね。 我々が其所まで人間四種族の面倒を見切れていなかった、と言う事でしょうけれども」

 

「仕方が無い。 少し社会に手を入れるか……」

 

フィリスさんが提案。

 

現状ではまだ殆ど無い社会の矛盾だが。それに対して、細かい手を入れてくれるという。要するに、時間を稼いでくれると言う事だ。

 

これに、ルアードさんも協力してくれる。

 

アルファ商会も、総力を挙げてくれると言う事だ。

 

後は、ガーディアンと「寄り添う者」の改良。これに関しては、残りの賢者全員が総力を挙げる。

 

先ほどのシミュレーションをベースに、何処をどう改良すれば良いのかを、丁寧に見極めなければならない。

 

もう少し。もう少しなのだ。

 

劫火に包まれる世界を嫌と言うほど見てきた。

 

枯れ果てて滅び行く人間四種族を同じ回数見て来た。

 

今度こそ、させない。

 

決意を込めて、リディーは立ち上がる。少なくともこの場にいる全員が、この点だけは同じ気持ちの筈。

 

勿論、途中の思考経路は違うだろう。

 

ソフィーさんは次にどうするべきかを考えているかも知れない。フィリスさんは、駄目ならまた別の方法をと考えているかも知れない。

 

だが、リディーは、もうこれで終わりにしたい。

 

世界の詰みは、此処で壊してしまいたいのだ。

 

人間に可能性がない。それは充分に分かった。だからこそ、である。

 

総力での作業に入る。

 

先ほどの不思議な絵画「光ある未来」での実験を開始。時間を止めた空間で、膨大なデータを取り始める。

 

あと少し、あと少しだ。

 

自分に言い聞かせながら、リディーは側にいるスールと、ルーシャとともに。

 

恐らく最後だろう壁をたたき壊すべく。

 

戦いを始めた。

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