暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
その時代は
あまりにも不可思議な技術的特異点が起きすぎたことから
後にこう言われました
「不思議の時代」と。
しかしそれは、「奇蹟」ではなく。
必然の産物であったのです。
ガーディアンシステムが発掘され。
そして、誰もがつける「寄り添う者」が当然になった時代。
ついに、人間四種族は、宇宙への道を手にした。
色々ともめ事もあった。
だが、そもテルミナという圧倒的脅威が側にあり。それに備えなければならないという緊張感が存在し。
資源の枯渇が可視化されている中で。宇宙へ出る事は急務だった。
過激派はどうしても出た。
これは人間のありうる姿では無い。自然な人間のあり方に戻るべきだと説く彼らだったが。
統一共和国は、彼らのために特区を用意。
ガーディアンと「寄り添う者」を外して、実際に生活するように促した。
結果はさんさんたるもので。
あっと言う間に生活が成り立たなくなった。
特に厳しかったのは、既に過去の悪習とされていた、派閥抗争と際限ない同調圧力の膨張、それぞれの種族の悪しき特性の噴出で。
厳しい客観的判断の結果。
ガーディアンシステムと、「寄り添う者」は必要だと判断された。
そして、今。
オペレーションルームにいる錬金術師ルイーズの前で、モニタ越しに、宇宙へ向け飛ぶ方舟が、カウントダウンを待っている。ルイーズは此処にいる錬金術師達の一人で、今回の技術責任者の一人でもある。
モニタに映っているあれこそ希望の船。
資源の枯渇が予測されているこの世界の未来を作る方舟だ。
船長は魔族。補佐役はホム。肉体労働は獣人族。ヒト族は円滑にそれらの全ての隙間をフレキシブルにこなす。
本来は、資源がどうしても先に尽きるという悲観的な意見が、大勢を占めていた。だがある一時期から、人間四種族は爆発的に技術を進歩させ。そして精神性も変わったのだ。
それが「不思議な時代」と呼ばれる時。その時に、それまで存在していた全てが変わった。
アダレットとラスティン、通称「二大国」が100年ほど前まで存在していた事は、ルイーズも知っている程度の事、つまり過去の話になりつつあるが。
「八賢者」と呼ばれる超越錬金術師達が出現し。そして、全てが変わった事は、歴史に詳しくない誰でも知っている。
それまで荒野の脅威にどうすることも出来なかった人間四種族を、八賢者が導き。たちまちにして世界を改革していった。八賢者は人間では無いと言う噂もある。単独で邪神を圧倒し、ドラゴンを素手で殴り殺したというのだから。
噂によると、八賢者は今も生きていて。社会に関わってきているというものもある。
例えば、今までどうしても歴史学者が首を捻っている事がある。「寄り添う者」の普及が、あまりにも爆発的だった、という事実だ。
ガーディアンシステムにしても、膨大なハルモニウムを必要とする神域の道具で。
最近発表されたレシピによって、誰でも手間さえ掛ければハルモニウムを作れるようになり。
ガーディアンシステムを宇宙にまで拡大。
更には、寄り添う者も普通の錬金術師が簡単に生産できるようになったこともある。
だがこれらには、恣意的だという声も上がっているのだ。
実はまだ生きている八賢者が、状況を見て改良レシピを流したのではないか、というのである。
それだけではない。
方舟を一瞥。
ルイーズは比較的優秀とされる錬金術師だが。あの方舟を単独で再現する力なんてない。あの方舟は、「装甲船二番艦」と呼ばれる驚異的な錬金術による船がベースになっている事は、誰もが知っている。これがそもそもあまりにも異常な代物で、八賢者のフィリス=ミストルートとイルメリア=フォン=ラインウェバーが建造に関わっていることは知られているが。当時の錬金術技術とは一線を画しすぎているため、実は二人は未来人だったのでは無いか等という風説までもある程だ。突如出現したオーバーテクノロジーであり、再現まで相当な苦労を伴った。
宇宙へ行く方舟は、ルイーズ達錬金術師が総力を挙げて作り上げたのだが。
それも、並大抵の労力では無かった。
今後技術革新により、錬金術だけでは無く科学技術と魔術が発展し、更に簡単に宇宙に行けるようになるだろうとは予測されてはいるが。
確かにルイーズにも、不思議な時代に出現した八賢者には、舌を巻くほかない。
八賢者が何者だったのかは今でも謎に包まれている。
ただ、一つだけはっきりしている。
ルイーズの先祖である錬金術師エスカは、八賢者の一人フィリス=ミストルートの弟子だったと言う事。
エスカは残念ながら師匠を超えることは出来なかった。
だが、それでも、エスカは多くを語り継いでいる。
フィリス=ミストルートの凄まじさを。
破壊神と呼ばれていた彼女だが。ラスティンにおける高度な教育システムの普及に関わったという史実があり。何よりラスティンでもアダレットでもインフラを数百年分発展させた立役者であり。八賢者という称号を除いても、教科書で偉人として名前が出てくる存在である。
それが、ルイーズには誇らしくもあった。
カウントダウンが終わり。方舟が浮き上がる。
わっと声がわき上がり。宙に向けて方舟が飛んで行く。
データを取りながら、安定飛行に移った方舟を見送るルイーズ。これで一安心だが。まだまだやる事はいくらでもある。
宇宙空間にガーディアンを設置。
ガーディアンと「寄り添う者」は、硬度に相互連携していて。それぞれどちらが欠けても動きがちぐはぐになる。
宇宙に出た人間四種族が、また無意味な殺し合いをするようでは意味がない。
ようやく人間四種族は、一段階上に上がる事が出来たのだ。
ここからだ。
此処から、ようやく先に進む事が出来る。
ふと、何かが切り替わった気がして、周囲を見回す。何も起きた様子は無い。側で計算を続けていたホムがルイーズを見るが、大丈夫と言って自分も作業に戻る。ほどなく、宇宙に到達した方舟から通信が来る。世界は青い。その言葉を船長が発したのを聞いて、管制センターは喚声に包まれた。
世界を数周した後、方舟は世界に戻ってくる予定だ。
所長が来たので、立ち上がって敬礼。
「上手く行ったみたいで何より。 これで人類はまた先に進めるね」
今の所長はヒト族の二卵性双子だ。まだかなり若いが、何処かで博士号を取った俊英だと聞いている。姉がリディー、妹がスール。姉が所長で、妹が副所長。どちらも伝説の賢者と同じ名前だが、偉人と同じ名前をつける親はヒト族には珍しく無い。かくいうルイーズも、実はソフィーと名付けられる可能性があったと聞いている。生まれてから、髪の毛が金だったので、変えたらしいのだが。
穏やかで優しい姉と、活動的で活発な妹。
この辺りも伝説の賢者と一致している。
「はい。 完璧に完璧を重ねたので。 有人宇宙飛行が上手く行きましたし、これで後は資源を宇宙からキャプチャ出来る体勢が整えば」
「技術に関してだけは想定通り。 後は人間四種族が仲良くやっていけるか」
「スーちゃん」
「ああ、ごめん」
何だか変なことを言う副所長。ガーディアンシステムと「寄り添う者」がある今、大丈夫なのは分かりきっているのに。
というか、いつの間にいたのか。
たしなめるように言う所長に、副所長は苦笑してみせるが。
そういえばルイーズは、この二人が微笑していることはあっても、いつも影を湛えているなと思っていた。
年はルイーズと大して変わらない筈なのに。何だか底知れないものを感じるのである。
「オペレーション良好!」
「予定通りの有人宇宙飛行を終えた後、大気圏内へ帰還します!」
「外装等にダメージは」
「ダメージ皆無! 流石はハルモニウム装甲です!」
ふと気付くと、所長と副所長はその場にいなくなっていた。いつの間にいなくなったのか。
そういえばあの二人、この研究所を守っている精鋭の魔族でも一ひねりにする実力だと何処かで聞いた事がある。
身体能力強化の装備を身につけているルイーズなのだけれど。
まるで気付くことが出来なかったのは、色々な戦闘技能を高いレベルで極めているから、だろうか。
ともかく、情報の精査に戻る。
今回は様子見。ガーディアンの配置は次回の有人宇宙航行からだ。データを充分に取って、それで。
推力については問題ない事も判明した。
後は危険な大気圏突入だが、それもきっとこの状況なら上手く行く。
ほどなく、何周か世界を回って、方舟は世界に戻ってくる。
やはりハルモニウム装甲。何ら欠損も無く、乗組員も無事だった。
さあ、ここからが新しい世界だ。
次の有人宇宙飛行に向けて準備をすぐに始めなければならない。資源の枯渇は間近に迫っている。
勿論すぐに来る訳では無い。だが、もしも資源の枯渇が来てしまうと、人間四種族の文明は破綻するという計算も出ている。その前に、宇宙への進出を成功させなければならない。
そして宇宙へ進出するだけでは駄目だ。
過去、ガーディアンシステムと「寄り添う者」が無かったとき。同調圧力に流される者ばかりで。人間四種族がそれぞれ致命的な欠点を抱えていて。困難をともに解決できず。利益を分かち合えなかった時代に戻ってはいけないのだ。
喚声を挙げて、英雄達を迎える皆をモニター越しに見ながら。
ルイーズは未来に思いを馳せる。
リディーは時間を止めると、深淵の者本部魔界に戻る。スールも一緒に戻った。
魔界は随分と寂しくなった。
現在では、深淵の者の古参幹部しかほぼここを訪れることは無い。ガーディアンが完成し、「寄り添う者」との結合試験が成功。更にテルミナの運用開始、文明のコントロールが完成してからは。
影に隠れる必要はなくなったのだ。
第三者監査は、ガーディアンが自動で行う。
そして其所に人が手を入れる余地はない。人間がこのファイアーウォールを突破することは不可能。
今までも、これからもだ。
伊達に億年単位の時間を費やして構築したシステムではない。成熟した星間文明の量子コンピュータですら、ガーディアンの処理速度からすれば蝸牛の歩みも同じだ。
だから、ヒラの構成員はどんどん社会に溶け込んでいき。長い年月を掛けて、ゆっくり「深淵の者」は解散していった。
今魔界に残っているのは、人間を止めた者達だけになっている。全員が神に等しい力を持つ、究極の観測者だが。今では殆ど人間社会に干渉する必要もなくなっていた。アルファ商会も、コルネリア商会も、現在は向こうでのみほぼ動いている。たまにアルファさんとコルネリアさんや少数の幹部が、こう言うときに魔界に来る位だ。
ルーシャが、オイフェさんと一緒に来る。
お疲れ様と声を掛けられたので、有難うと応えた。
全ての結合試験を仕上げたソフィーさんの力量も凄まじいが。八賢者全ての力が無ければ、この状況は作り上げられなかった。
たまに、皆それぞれ経歴をロンダリングして文明の要人として潜り込んではいるが。
正直、干渉する必要はなくなっている。
人間四種族は、自分達の独力では、自立自尊を保ったままの共存をする事は出来なかった。
だが、結果として。人間から生じた超人のアイデアが、神を超えたのだ。
もっとも、これは神パルミラが、人間を信じるという最大のミスを犯したのが原因ではあるのだが。
八賢者と、深淵の者幹部達。魔界に残った全員が、奥の会議室に集まっている。
これから、星間文明を安定させるまではまだ油断は出来ない。
だが、ブレイクスルーは超えた。
顕現しているパルミラを見て、ルーシャがうっと呻く。それはそうだろう。あんな酷い目にあえば当然だ。
しかし流石にもう慣れるべきだろう。スールが、ルーシャを肘で小突いた。
「ルーシャ」
「わ、分かっていますわ」
皆で席に着く。
咳払いすると、リディーはレポートを提出。向こうで作ったものだ。所長と副所長がいなくても、別に宴くらいは回る。
ルアードさんが、珍しく静かな笑みを浮かべていた。
「これが見たかった。 ずっと見たかったんだ。 僕の時代には現在さえなかった。 だが、ついに現在どころか未来が生じた」
「ルアード、まだ資源を安定して宇宙から得られる体勢が整ったわけではありませんよ」
「分かっているさプラフタ。 だがね、もうそれまでは後一歩だ」
さっき、時空間に振動が起きたが。多分ソフィーさんによる事象の固定だろう。パルミラが出現しているのがその良い証拠である。
イル師匠が咳払い。
「途中、深淵の者抜きで、敢えて人体実験までさせた意味があったわね……」
「イルちゃんあれ最後まで反対していたもんね。 それに注意深くずっと監視していた」
「当たり前でしょう。 非人道的な行為を平然と見過ごすわけにはいかないわ」
「ふふ、人道は結局人を救わなかったね。 まあイルちゃん、あの実験で犠牲者が出ないように尽力して、その子孫が色々社会に貢献もしたけれど」
フィリスさんの言葉は冷酷だが。しかし事実でもある。
ガーディアンシステムと「寄り添う者」、更に明確なパニッシャーであるテルミナの出現。
これが人間四種族を変えた。変えたことを、人間四種族に認識させなければならなかった。だから、ガーディアンと「寄り添う者」から敢えて外してどう差異が出るか。ガーディアンと「寄り添う者」に守られる事が当たり前になった人間四種族に、再認識させる必要があった。
懲罰者として具現化したテルミナには、それこそ反物質兵器でもブラックホール兵器でも通用しない。あれはパルミラの負の側面のような神。ただし、ある意味人間を見守る神でもある。
複数のセーフティシステムが、人間というどうしようもない生物を変えた。
本来、変わる事が出来る人間などごく限られる。
そして古来から、どうしてか「いつか変わる事が出来る」と無責任に信じる声がずっと人間四種族に共通して備わっていた。
その固定観念を打ち破った時に。ようやく未来が生じたのである。
ヒト族に顕著だが、どうしてもシステムの隙を突いての悪さを目論む者は絶えない。絶対に今後もそれは同じだろう。
だがガーディアンと「寄り添う者」、更に人を遙かに超えた存在である懲罰者が目に見える形で存在し。
人間が「万物の霊長」等では無いとはっきり示したときに。
固定観念が、やっと打ち破られたのは。ある意味おかしな話ではあったが。しかし幸運でもあった。
「フィリスちゃん、せっかくだしお肉でも焼きましょうか」
「わ、リア姉本当? じゃあドラゴン仕留めてくるよ」
「お姉ちゃん、数がもう少ない上に、固定数がいる訳では無いのだから……」
「分かってる、ツヴァイちゃん。 一匹だけね」
フィリスさんが目を輝かせて席を立ちかけるので、ソフィーさんが咳払い。口を尖らせるフィリスさん。くすくすと笑うリアーネさん。心配そうなツヴァイさん。
暖かい空気と言うべきなのだろうか。
ハルモニウムの素材については、パルミラが世界のパラメーターを弄った。今では鉱物から採取できる。
既に監視システムであった邪神は全てをテルミナに統合。ドラゴンは凄まじい力を持つものの、獣の一種として世界の一部になっている。獣が相変わらず強く、植物が自生しない世界であるのは相変わらず。これは、人間は常に脅威を知るべきだと判断したから。それはそれで、リディーはかまわないと思う。
ソフィーさんが、皆を見回しながら言う。
「星間文明が安定するまで推定で100年。 「世界」の資源が尽きるまで、宇宙に出られるようになったことで延長が掛かり推定で330年。 ただもう少しセーフティがほしいかな。 パルミラ、もう少し「世界」を拡げてくれる? その後、もう一回事象を固定で」
「おっけ。 これだけの成果を見せてくれれば、此方も協力せざるを得ないね」
「……最初から、もっと協力してほしかったですわ」
「ルーシャ」
スールが、悲しそうにルーシャの袖を引く。
分かっている。リディーだって、それにルーシャだって本当は。
人間には、可能性が無かった。パルミラは最善を尽くしてくれた。パルミラの足を引っ張っていたのは人間の方。むしろパルミラは、人間をずっと信じ続けてくれたのだ。それを裏切り続けたのは人間四種族の方。だから、パルミラを恨むのは筋違いだ。
さて、此処からだ。
後100年分、人間の文明を、此処にいる人間を止めた者達で見守る。もう駄目だと言う事は無いだろう。此処までこれた事は、今まで一度もないとソフィーさんもパルミラも言っている。二人が此処で嘘をつく意味も理由もない。
「それで、これからの事なんだけれども」
パルミラが不意に言う。
いつもは用事を済ませると、すぐに帰ってしまうのに。
リディーは、スールと視線を合わせる。
場合によっては、厄介な事をしなければならないかも知れないからだ。
今此処にいる者達全員がかりでも、パルミラには勝てる……どころか、傷一つつけられないだろう。
それでも、更なる無茶を振られたら、対応をしなければならない。
「これから、宇宙を見守るつもりでいるんだよね。 今回の件はとても参考になったし、以降は手伝いをしてほしい」
「手伝いとは、具体的には何だ」
不愉快そうにイフリータさんが言う。
イフリータさんが、未だにパルミラを良く想っていないことをリディーは知っている。
何でもまだ普通の魔族だった時代、世界の端末として存在しているパルミラ(昼寝中)を見て激高したのが深淵の者に所属した直接原因らしく。それもあって、未だに心の底から好きにはなれないし。警戒もしているようだ。
「星間文明の中には、間違えて宇宙に出てしまったものもある。 限りある資源を無意味に浪費し、他の星間文明を無節操に傷つけ、排他的思想で周囲を破壊し続け、そして貪り喰らう。 宇宙にこそ出なかったけれど、昔のヒト族の文明が近いかな。 極めて他の知的生命体に有害な文明だね」
「で、そういうのを抹殺すればいいの?」
「んーん。 今回の反省を生かして、これからは私が一人で処理するよ。 幾つか目をつけた星間文明は、一旦時間を巻き戻して惑星規模文明からやり直してもらうつもり。 それでこの世界と同じように、外に出られるようになるまで私が面倒を見る。 ただ、それだとリソースがかなり掛かる。 宇宙の監視そのものを、その代わり幾分か任せたいと思っていてね。 私がこの宇宙そのものであっても、処理能力には限界があるから」
フィリスさんの問いに、パルミラは笑顔のまま応える。
今のフィリスさんの実力なら、小規模銀河を中心部にあるブラックホールごと消し飛ばすくらいは難しく無いので、生半可な星間文明では手も足も出ない。その気になれば、排他性の強い攻撃的な星間文明を根こそぎ消し去る事は可能だが。パルミラはそれ以上の恐ろしい返答をした。
パルミラは。やはり宇宙全てに、今回の試験結果を持ち込むつもりなのか。
あまり、良い気分はしない。それがリディーの素直な意見だ。
だが、同時に。排他的で攻撃的な星間文明が、周囲を無茶苦茶に貪り尽くすのを、見過ごすのは出来ないというのも事実だ。
匪賊を思い出す。今の世界には、もはや存在しなくなった、過去の邪悪を。
あれらと同じ輩が、宇宙規模で好き勝手をするのを、許すわけにはいかない。
そういう本音もまたある。
摂理ではない。それは無法だ。無法を肯定したらそれは文明では無い。そして無法は自由とも違う。
自由の美名の下に、どれだけの無法が働かれてきたか。リディーはそれを良く知っているから、パルミラに文句を言えなかった。
「皆にはそんな感じで動いてほしいの。 ソフィーだけは少しばかり力が強すぎるから、法則が違う他の宇宙へ出向いて、情報を取得してきてほしいかな。 あらゆる未来に備えて」
「んー、そうだね。 面白そうだしいいよ。 知識は幾らでもほしいし」
「……」
ルーシャが唇を引き結んでいる。見ると、シャドウロードやイル師匠も、の様子だ。
ティアナさんが珍しく自主的に手を上げる。
「ソフィー様と一緒に行けるのなら賛成」
「ふふ、それなら歓迎しようかな。 ソフィーも「目」が多い方が良いでしょ」
「その通り」
ティアナさんは、ソフィーさんに何処までもついて行くつもりか。ソフィーさんに敵対した文明が、鏖殺される様子が目に浮かぶようで。やはり気は進まなかった。
だが、それが一番良いのだろう。
もはや人間では無くなったリディー。スールもルーシャも同じ。人間四種族にこれ以上関わる事は必須ではないし。むしろ余計な干渉は害になる。
勿論、この世界が上手く行った後の話にはなるが。
人間四種族が決定的な間違いを犯したときにだけ、干渉すれば良い。
溜息が零れる。反対は、出来なかった。
「では、決まりで。 推定で百年ほど後、また会おう」
パルミラが消える。
これで、良かったのだ。それは分かっている。
リディーは、今までの全てを思った。今後、宇宙で無法を犯している文明が、幾つも同じ目に会う。だが、それは当然の話。何かの間違いで宇宙に出てしまったような文明は、確かに周囲に害しかもたらさないだろう。
そして此処はパルミラの世界。パルミラそのもの。
パルミラのルールで動く世界だ。
もしも力こそ宇宙の摂理というのなら、それこそ最強の力を持つパルミラに何をされても誰も文句はいえない。
だがパルミラはそうしていない。
パルミラは、総合的全体の総合的幸福のために動いてくれてもいる。そのために、あらゆる努力も惜しまなかった。
その結果地獄が顕現したが。新しい地獄が幾つも顕現するだろう事は分かっていても。現在進行形で地獄に叩き込まれている知的生命体が幾つもあるだろう事を考えると、リディーに反対の意思を表明することは出来なかった。スールも隣で黙り込んでいる。
知っているからだ。
「みんな」の愚かしさを。
自分がそうだったから。
会議を解散して、スールと一緒に部屋を出る。後少し、世界を見守る。今回は上手く行くことはほぼ確実だが、最後まで気を抜けない。
自室に行く。スールは、そろそろ外に戻るそうだ。
頷くと、しばらく一人にして貰った。そして、何も無い空を仰ぐ。
これまでに、随分と時が流れた。だが、それは無駄にはならなかった。そう信じたい。信じたいだけだ。違う事は分かっている。それでも、今は信じたい。
気分を切り替えると、外に戻る。
宇宙開発所長。最後の公的な肩書き。外で、経歴をロンダリングしながら人間四種族に関わる最後の仕事と決めている。最後まで勿論やり遂げるつもりだ。
ふと、エスカの子孫である錬金術師と。彼女の同僚達の様子も見る。
笑顔と活力に満ちている。そう、リディーは思った。
人間四種族が、共同して、宇宙に行く事を成功させたのだ。同調圧力などはもはや存在せず、憎み抜いた「みんな」はもうどこにもいない。個性が尊重され、減点法では無く加点法で評価される世界が来ている。
これでいいんだ。リディーは、そう自身に言い聞かせていた。