暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
ぎりぎりと弓を引き絞り。
向かってくるグリフォンのネームド、疾風のかぎ爪へ矢を撃ち放つ。
ハンデとして丁度良い。
そう言われて、弓を使うようになったわたしフィリス=ミストルートは。こうして今では、弓矢をメインウェポンとして使っていた。
勿論錬金術で色々仕掛けはしているから。
矢を放つと、大火力の物理攻撃に加えて。
冷気、雷撃、真空波、熱、魔術による爆裂、様々な副次攻撃を同時に巻き起こし、敵に飽和攻撃を叩き込む。
勿論たかがネームド如きが耐え抜ける攻撃では無い。
一瞬にして展開される、驟雨の如き攻撃と。
何より、超火力の矢の一撃を前に。
思考停止した疾風のかぎ爪は。
シールドを展開しようとして、間に合わず。
瞬時に爆裂四散した。
護衛の騎士団は、周囲の獣を散らすだけで良かったが。それさえも、お姉ちゃんが黙々淡々と片付けていく。
たまにツヴァイちゃんが神々の贈り物で支援もするが。
改良に改良を重ねた結果、以前より更に火力が増している。
黒焦げになったネームドの残骸に歩み寄ると。
深核をとりだし。
まだ残っている肉や羽根などをむしっていく。
後の黒焦げになった残りは、溶解液を掛けて焼却。
それで全て終わりだ。
騎士団は仕事を見届けるだけ。
もう、周囲にいるめぼしい獣も、駆除は終わった。
予定より四刻も早いが。
早く終わるのは良い事だ。
「はい、街に引き上げます。 みなさん、準備をしてください」
「はっ! 皆、急げ! 獣の解体、処置、他の獣が姿を見せる前に終わらせろ!」
魔族の騎士が声を張り上げ。
作業を始める従騎士達。
ひそひそと、声が聞こえてくる。
「あのイルメリアと双璧だって噂は本当らしいな。 完全にバケモノだぜ。 あんなの俺たちに向けられたら、秒で全滅だな」
「あれでも力を抑えているらしいぞ」
「マジかよ。 伝説に出てくるネージュの再来か」
「それ以上かもな……一体どうなっているんだか」
ひそひそ話をしているつもりらしいが。
全部丸聞こえだ。
イルちゃんはしっかりやれているだろうか。
わたしが双子の支援に回るのは、もう少し先になるけれど。
いずれにしても、「小石拾い」はせっせとやっておかなければならないだろう。
双子が思わぬ強敵に遭遇して死んでしまっては意味がないのだ。
だからこうやって。
対処不可能な相手は、先回りして駆除しておく。
どうせ次の試験は討伐任務だ。
それも相手はグリフォン。
そして双子がネームドを相手するのはまだまだ早すぎる。
ソフィー先生は限界までストレスを掛けろと指示してきているけれど。
無理すぎるストレスを掛けると壊れてしまう。
何度もそうして壊れてしまう双子を見たわたしとしては。
どうしても、その言葉を、全て丸ごと聞くわけにはいかなかった。
宿場町まで引き上げ。
仕留めた獣の肉と、酒を入れて騒ぎ始める従騎士達。彼らを率いて来た魔族の騎士は、礼をした。
「ありがとうございます。 おかげで死者を一人も出さずに済みました」
「あの人、少し動きが悪かったですね。 もう少し鍛錬をしっかりさせた方が良いと思います」
「彼奴はどうにもやる気が……」
「何かきっかけがあれば化けるかもしれません。 目を配ってあげてください」
自分についてはどうでもいい。
今後の事を考えると。
世界には一人でも有能な人材が必要だ。
わたしは、もうそういう枠組みから外れてしまった。
アドバイスはできるが。
それだけだ。
お姉ちゃんは壁に背中を預けて腕組みし、わたしに余計なちょっかいを出そうとする者がいないか、鷹のような鋭い目で騒ぐ従騎士達を見ているが。
いずれにしても、あの戦闘を見た後だ。
わたしに声を掛けようなんて。
とてもではないけれど、恐くてできないだろう。
袖を引かれる。
ツヴァイちゃんだった。
「お姉ちゃん、神々の贈り物が少し調子が悪いようなのです。 メンテナンスをお願いするのです」
「分かった。 ちょっとまってね」
宿を出ると、自分のアトリエに。
ソフィー先生がくれたこのアトリエの中には。今では深淵のもの本部につながるものや、イルちゃんのアトリエにつながるもの。更には、既に「鉱山の街」ではなくなった故郷エルトナにつながるものなど。空間を飛び越えてつながった扉が幾つもある。
いちいち空間転移を使うのも面倒くさいので。
アトリエの中に配置して、いつでも移動出来るようにしているのだ。
だからむしろ騎士団などと歩調を合わせて移動する時は、ゆっくりできる数少ない機会だったりする。
奥の作業場で。
神々の贈り物をチェック。
何度も改良を加えて、敵を確殺する兵器として完成させたこれも。
今ではすっかりツヴァイちゃんの相棒だ。
計算に強いホムの特性を最大限に生かし。
一撃必殺の攻撃を叩き込む必殺兵器。
今回も、さっき魔族の騎士につげた、動きが悪い人を救っていた。ツヴァイちゃんの援護射撃がなければ、今頃首と胴体が泣き別れだっただろう。
メンテナンスを終えて、ツヴァイちゃんに引き渡す。
事情は話してある。
だから、わたしのために幾らでも働くと、ツヴァイちゃんは言ってくれている。
そしていつも、世界の終焉までつきあってくれる。
それが嬉しいと同時に。
わたしには悲しくて仕方が無かった。
ツヴァイちゃんがアトリエをぱたぱた出ていくと。
代わりに。
世界が停止した。
「ソフィー先生、普通に出てきては?」
「ああ、ごめんごめん。 今はもう、時間を止めて動くのが基本になっていてね」
「……」
振り返ると。もう至近にソフィー先生がいる。
手にぶら下げているのは、誰かの生首だ。血は出ていないが、もうその辺りは加工済み、と言う事か。
眉をひそめるわたしに。
説明してくれるソフィー先生。
「仕事のついでによったのだけれど、ちょっといいかな」
「はい、なんですか」
「今回、双子の育成がいつもより上手く行っていてね。 少し早めにイルメリアちゃんの支援に回ってくれるかな」
「はい、わかりました」
YES以外の言葉は無い。
もし断れば、お姉ちゃんやツヴァイちゃんに危害が及ぶ。
今のソフィー先生は完全に怪物だ。
分かっている。
怪物にでもならなければ、この世界の詰みを打開することはできないと。
自分だって怪物になりつつあるのだ。
ソフィー先生を悪く言う資格は無い。
今のわたしでは何をやってもソフィー先生には絶対に勝てない。理想的な状況で、イルちゃんと協力したとしても無理。
不意打ちそのものがそもそも成立しない。
それは、もうどうしようもない事実なのだ。
具体的な話を幾つかされた後。
聞いてみる。
その首は、と。
最近、ダーティーワークは、もはや世界最強の暗殺者に育ったティアナちゃんに丸投げしているソフィー先生だ。
直接人の首をもぎ取ってくるのは珍しい。
ソフィー先生は、いつもの笑顔を崩さないままいう。
「アダレットで麻薬の流通網を作ろうとしていた人物でね。 今回ちょっと此方の動きが速かったからか、バタフライ効果で少し動きを活発化させていたの。 それで、組織もろとも狩ってきた、それだけだよ」
「ティアナちゃんにやらせれば良かったのに」
「それがこれ、普段は一般人に紛れて生活していてね。 記憶操作も必要になったから、あたしが出たの。 まあ何の問題も無く処理は終わったから、記憶も全て回収してこの件は完了。 関係者も皆殺しにしてきたから、もうフィリスちゃんは何もしなくてもいいよ」
「……」
ひらひらと手を振ると。
ソフィー先生はもういない。
同じ時を止める力でも。
次元が違いすぎる。
ため息をつくと、アトリエを出て。
そして、雨が降っているのに気付いた。
億年以上、この世界を打開しようとしてきて。
まだ成果は上がらない。
わたしの目はすっかり濁りきった。そんな事は分かっているし、はっきりいってどうでもいい。
仮にこれから上手く行ったとしても。
双子を育てきれば。
双子もこの永遠の地獄に巻き込むことになる。
ソフィー先生が言う通り、最低でも後二人、超越級の錬金術師が世界に必要なのは事実だけれども。
でも、一回で上手く行くとは思わない。
双子は「まだ顔を合わせてはいない」けれど。
ソフィー先生の指示では、少し今回は早めに接触する必要がある。
まあEランクくらいまで上がったら、だろうか。
いずれにしても、イルちゃんと連携して動かなければならない。
雨の降る中歩き。
宿場町の周囲を見回る。
時々獣を見かけるので。
無造作に仕留めて、死体はアトリエに回収。吊して捌く。
空いた時間は、今ではこうやって、少しでも安全を確保できるように動いているけれども。
この世界の仕組みそのものが。
安全なんてものを許してはくれない。
創造神には色々腹が立つけれど。
もっと腹が立つのは。
こんな状態にでもならなければ。
互いに協力しようという気さえ起こせない人間そのものだ。
エルトナの人達の醜い本性を見てしまった今は。
人間に対して、夢も希望も抱く事はできない。
今できることは。
どうやって現実的に。
この世界の詰みを打開するか。
それだけだ。
宿に戻り、後は大丈夫なので休むようにお姉ちゃんとツヴァイちゃんに告げる。
わたし自身は、アトリエに戻ると、膨大な情報を一瞬で自分の中に取り込める超高度錬金術の装置に入り。
今後のスケジュールをくみ上げる。
イルちゃんも同じ事をしているので。
ある程度データの同期も取れる。
確かに双子は今までに無く良く育っている様子だ。
やはり指導役をつけたのは正解だった。
後は、可能な限りの負荷を掛けつつ。
壊れないように調整を続ける。
わたしには、それしかできない。
もはやこの世界は、何もしなければ確実に終わる。
それはもう確定してしまっている。
ならば。どうにかしてあがかなければならない。
それが如何に非人道的な方法であっても。
わたしには。
もう涙など、残っていなかった。
(続)
最初の内は非人道的行為に胸を痛めていたフィリスですが。
もうすっかりあっち側です。
それだけ、あまりにも苛烈な世界での気が狂うような繰り返しは、人を変えるのです。