暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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ついに打破された絶対の壁

人間四種族は種としてのあり方を根本的に変え

宇宙へと進出を果たします

其処には人間が抱き続けた万物の霊長という妄想は最早なく

融和と未来がありました。


エピローグ、星の海の錬金術師

フィリスさんがイル師匠と一緒に様子を見に行った文明と、真逆の方向。

 

巨大な何も無い宇宙構造「ヴォイド」を挟んで、60億光年ほど先の銀河系。圧倒的な宇宙艦隊を従えて、暴虐の限りを尽くす気満々の文明が発達し始めていた。

 

話には聞いているが、資源を悉く武のために用い。

 

周囲の星系から資源をかき集め。

 

湯水のように使い捨てながら、他の種族を襲い、奴隷化する気満々である。どうしてこのような文明が宇宙に出てこられたのか。

 

それは理由としては幾つもあるだろうが。

 

最大の理由は「無干渉」と「偶然」。

 

突発的に出現した、無分別に強力な種族が。

 

その星に、前に栄えていた文明の技術力と。たまたま漂着した他文明の技術を吸収したことが要因である。

 

なお文明を構成している種族は、ヒト族の美的基準からするとむしろ「とても美しい」部類に入る。

 

見かけだけで相手を判断する時代のヒト族だったら。

 

むしろ神として崇拝し始めたかも知れない。

 

反吐が出る。

 

此奴らは、むしろ昔ヒト族の社会の中にいた、邪悪を凝縮したような文明だ。そして昔のヒト族は、このような輩を「格好良い」と称しもしただろう。

 

リディーはスールとともに、状態を確認すると。

 

慎重に自浄能力の有無を判断。

 

無しと解析完了する。

 

そして、スールと一緒に。

 

星系ごと、時間を停止した。

 

パルミラに連絡。

 

現在のリディーとスールなら、もう賢者の石を使わずとも、パルミラにアクセスする事が出来る。

 

現在むっつの星間文明を同時に「調整」しているパルミラが、すぐに応答してきた。

 

「久しぶりだね、リディーとスール。 其方の文明は、予想通りに駄目?」

 

「データを送るよ」

 

スールが少し機嫌が悪そうに、収集したデータをパルミラに。

 

昔のヒト族、それも世界を滅ぼす前「万物の霊長」を自称していた頃なら「ヒューマノイド」とでも分類していただろう星間文明の主達。

 

その蛮行の数々を見たパルミラは、むしろ悲しそうにため息をついていた。

 

「己の星の生物を皆殺しにして全て資源化、挙げ句の果てにそれを宇宙全体に拡げるつもり満々、と。 これは仕方が無い。 星間文明が、惑星系の外に出る前で良かった」

 

「やはり、調整をするつもりですか?」

 

「これは仕方が無い。 このすぐ近くには、比較的穏当に発達した成熟期の星間文明があるからね」

 

勿論其所も理想郷などではない。

 

腐敗もあるし完璧な文明などではないが。

 

しかしながら、それでも此処まで排他的ではないし。他の文明との共存を図ろうとする程度の分別は持ち合わせている。

 

もし接触が起きたら。

 

多分凄まじい殺し合いに発展するはず。それも、恐らくは一方的な殺戮が開始されるだろう。

 

此処まで好戦的かつ残忍な思想の文明は其所まで多く無い。

 

ヒト族の基準がおかしいのだ。

 

「じゃ、後は対応しておくから」

 

「お願いします、パルミラ」

 

「うん」

 

すっと、空間の凍結が溶け。

 

そして、星系に充満していた艦隊が、全て消滅。惑星や、衛星に展開されていた軍事基地も、悉く無くなっていた。

 

全て時間を巻き戻され。

 

一つの世界に閉じ込められたのだ。

 

この文明は、これより調整を受ける。パルミラによって、他の文明とやっていけるように、である。

 

独善と言えるのだろうか。

 

リディーは今でも、このパルミラのやり方に、反発を内心覚えている。

 

だけれども、それでも。

 

確かに、一方的な暴力を是とする理論が。宇宙中に吹き荒れるよりはマシだとも思う。

 

パルミラが調整を開始した星間文明六つの中の二つは、利己的に銀河を消し飛ばす事までしていた。

 

其処に住んでいた様々な生物や可能性を、勿論巻き込んで皆殺しにすることをまるで厭わずに。

 

中には、他の次元まで侵食したり。

 

無差別に資源回収のための自動殺戮ロボットをばらまいていた文明も存在していた。

 

惑星文明からやり直してきなさい。

 

そうパルミラが諭し。

 

そしてやり直せるように取りはからうことは。神である以上責務でもあると思うし。他の宇宙文明にとっても助けでもある。反発は感じるが。今は、リディーとスールも、いにしえの時代では神と呼ばれるだけの力を有していて。力がある以上、適切に振るう責任もあった。

 

魔界へと戻る。

 

もはやそのまま、生身で空間転移が可能だ。

 

イル師匠とフィリスさんが戻っていた。フィリスさんがうきうきで触っている黒い球体は、どうやら触れるように加工したブラックホールらしい。イル師匠が呆れていた。

 

「声がとても複雑で面白いってフィリスがね」

 

「ふふ、ギフテッドの正体が分かっても、それでも面白いものは面白いもん」

 

「相変わらずですね、フィリスさん」

 

「わたしは変わらないよ」

 

フィリスさんは無邪気なままだ。この人はリディーやスールよりやり方が乱暴で、他星間文明に攻撃しようとしていた一千万隻規模の宇宙艦隊をまとめて消滅させ、文明を力尽くで出現惑星内に押し込んだ上で、パルミラに押しつけたりしていた。どうせ時を巻き戻すのなら、殺すのも同じ。そういう理屈のようだ。

 

とてもではないが、真似しようとは思わない。

 

だが、その圧倒的破壊により。一方的な殺戮を受けようとしていた穏やかな文明が救われたのも事実なのである。

 

ギフテッドの正体は、今はリディーもスールも知っている。

 

それについては、どうも思わない。

 

フィリスさんは、今でも楽しそうだなと、苦笑いも浮かばない。

 

むしろ、本当に壊れてしまっているから、楽しそうなのだなと、思うばかりである。

 

「はい、お昼ご飯よ。 皆も食べていって」

 

「わ、ありがとうございます!」

 

大きな肉塊を、リアーネさんが焼いてきてくれた。スールがフィリスさんと殆ど同時に手を出して、無邪気にかぶりつく。

 

ツヴァイちゃんも、配膳を手伝ってくれる。

 

何の肉かと聞いてみた所、冷凍していたドラゴンのもも肉だそうである。有り難くいただくことにする。

 

ドラゴンは文明調節用の存在として優れているとパルミラが判断したらしく。今も宇宙の彼方此方で運用しているそうだ。

 

時々、強くなりすぎた個体を、フィリスさんが処理してくる。

 

そうして、肉をこうやって皆で食べる。

 

リアーネさんは笑顔だけれども。

 

笑顔の何処かには諦観が見える。

 

そして、フィリスさんを孤独にしないように、側についているのだと分かった。

 

この人は、昔は度が過ぎた過保護姉に見えていたが。

 

実の所、危険すぎる道に進んでしまった妹を。一人にしないため、ずっと側にいる道をえらんだのだろう。

 

ツヴァイちゃんもそれは同じである。

 

「おひさしぶりだね、みんな」

 

ソフィーさんが姿を見せた。ティアナさんも側にいる。

 

さぞやたくさん斬ってきたのだろう。

 

ティアナさんは掛け値無しの、うきうきの笑顔だった。あからさまに目が笑っていないソフィーさんと違って。

 

「ソフィー先生も食べます? ドラゴン焼き肉」

 

「あたしはもう食事は必要ないかな」

 

「えー、もったいない」

 

「ふふ。 それよりも、情報還元」

 

すっと、ソフィーさんが指先を空中に走らせると。リディーの中に、膨大な情報が流れ込んでくる。他の皆にも、同じ現象が起きているだろう。

 

一つの宇宙を席巻し、此方の宇宙に攻撃を仕掛けようとしていた排他的文明を潰してきた、という記憶だ。

 

パルミラに任せるわけでは無い。

 

ただし、6億光年四方程度の小さな宇宙とは言え。その全てを排他的侵略衝動で蹂躙し尽くし。幾万もの文明を滅ぼし尽くし。更にそれを他の宇宙にまで拡げようとしていた文明を見過ごすわけにはいかない。

 

データを取った後、宇宙そのものの時間を操作し。

 

惑星規模文明にまで戻してやり直しさせる。

 

なお、今のソフィーさんの実力ならパルミラの真似事も可能だが。今後どうするかは、その宇宙に意思を与えて決めるつもりらしい。

 

宇宙の全てが、それぞれ意思を持っている訳では無いが。

 

基本的に宇宙そのものが意思を持って神になると、その宇宙の平穏と安定を願う事になるようだ。

 

パルミラが最初に意思を持ったとき、話しかけてきたのも。

 

そんな宇宙の一つであったのでは無いかと、ソフィーさんは仮説を立てていた。

 

いずれにしても、今のソフィーさんは、億年四方単位の宇宙に対して、それほど苦労せず時空間干渉を掛けられるレベルの力を手にしている。

 

宇宙規模の災害に対応する実力だ。宇宙の外から、別の宇宙へと干渉する事も出来る様子だ。

 

ともかく、データは全て取得。

 

今後のために生かす。

 

パルミラの宇宙だって、この後どうなるか分からない。熱的死を迎えるのか、それとも収縮して再度ビッグバンを起こすのか。観測を続けていかなければならないし。ビッグバンを再度迎えた場合は、今度の宇宙に意思が宿るのかも分からない。そして次の宇宙でどう振る舞うべきか。

 

それは、リディー達の意思に掛かっている。

 

ルーシャが戻って来た。

 

疲れきった様子だが、ソフィーさんとフィリスさんを見て、更にげんなりする。咳払い。露骨過ぎるよと、それとなく注意。ルーシャも席に着くと、どこからともなく現れたオイフェさんに、お茶とお菓子を注文した。

 

「何かあったの?」

 

「比較的穏当にやれている星間文明のデータ集めですわ。 内部は案の定真っ黒。 いつ他の文明に対する排他的殺戮を開始するか分からないから、今の時点で要監視案件に追加ですわね」

 

「仕方が無いね、それは」

 

「どうしてこう、宇宙にまで出られても、文明というのは……」

 

人の可能性。

 

無責任な言葉だ。

 

リディーは今それを知っている。だが、同時に、自力で優れた星間文明を作り上げる事が出来た知的生命体も存在するし。自力で他の星間文明との共存を成し遂げることが出来た文明もまたしかり。

 

タチの悪い人間が使っていた「弱肉強食」という言葉は悪徳だ。

 

だが「適者生存」なら分かるし。

 

星間文明であるならば、その適者を「自分」と錯覚しない「場合もある」。

 

その可能性に、今もリディーは賭けてみたい。

 

ルアードさんとプラフタさんが戻ってくる。

 

現在の宇宙のデータ図の作成と。未来予想のためのデータ集め。

 

この二人は相変わらずぶれない。

 

八賢者とその身内が、久々に集まったが。だが、それもすぐに終わった。

 

「さて、そろそろまた出ようかな」

 

ソフィーさんが腰を上げる。

 

頷くと、他の皆も散って行く。

 

此処にいるのは、無から有を作り出した者達。

 

深淵に触れ、人を捨てながらも。人の可能性に到達した外なる者達。

 

今も、その心は何処か人であり。

 

同時に人では無い。

 

だが、リディーもスールも、お父さんもお母さんもルーシャも。今も存在している人間四種族の文明もいとおしい。

 

深淵の者が解散した後も、同志として活動してくれている皆もまたいとおしい。

 

この愛が、パルミラのものほど強すぎるものになり。全てを焼き尽くしてしまわないように。

 

今は気を付けなければならない。

 

魔界を出る前に、もう一度不思議な時代を経て宇宙に出た人間四種族の文明を見る。

 

今は二百を超える星間文明と共存を果たし、四つの銀河に進出。モデルケースのような文明を構築していた。

 

頷く。

 

スールに促された。

 

「行こう、リディー。 宇宙は……」

 

「分かっているよ」

 

分かっている。

 

決して、宇宙はまだまだ。

 

安定しているとも、成熟しているとも言い難いのだから。

 

 

 

(リディー&スールのアトリエ二次創作、暗黒!リディー&スールのアトリエ・完)






はい、これにて三部作完結です。

如何だったでしょうか。

人類は未来に旅立ち、未来なき破綻は打破されました。主観的にはハッピーエンドと言えますね。主観的にはですが。

この三部作のラスボスは統計で殴ってくるラスボスという存在を最初に考えて、その結果としてこういうデザインになりました。ぐうの音も出ない圧倒的な統計の結果によるデータという現実を前に、如何に対処するのか。まあ統計で対処し返すしかないわけですが。楽しんでいただけたでしょうか。

それでは最後までおつきあいいただきありがとうございました。

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