暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、粗悪品から

廃鉱山に出向く。廃鉱山と言っても、露天掘りで丸ごとほった場所だから、元鉱山というのは、言われないと分からない。

 

今度は自警団が数人人員を出してくれた。

 

ヤギを全滅させた礼だという。

 

実績を積み重ねれば信頼も得られる。

 

そういう事なのだろうか。

 

だけれども、何というか、掌を返されたというか。はっきり言ってあまり良い気分はしなかった。

 

「廃」鉱山である。

 

高品質の鉄鉱石とか、落ちている筈も無い。

 

とにかく、図鑑を見ながら鉱石を拾っていくが。いいものは殆ど無かった。だが、最低限でも良いから、鉱石を集めていく。

 

それが大事なのである。

 

もっと良い鉱石は、いずれ別の機会で手に入れれば良い。

 

ただ、それが何処になるのかは分からない。

 

遠征しなければならないとすると。

 

虫が出るのを覚悟の上で、野宿しなければならないのだろうか。

 

お化けも出るのかも知れない。

 

恐くて悲しいけれど。

 

他に手が無いならば。

 

やるしかない。

 

「スーちゃん、動きが遅くなってるよ」

 

「だってえ、石をひっくり返すと虫がいるんだもん!」

 

「虫さんも石の下に住んでるんだから仕方ないでしょ」

 

「やだあ! 虫触りたくない! 見たくも無い!」

 

泣き言だと自分でも分かっている。

 

そもそも虫を嫌いになったのは、昔やった悪戯が原因だ。お母さんを本気で怒らせて、物置に閉じ込められて。

 

その物置で。

 

周囲中から虫の足音がして。

 

暗闇の中、恐怖と絶望の中。

 

虫が徹底的にダメになった。

 

それまでは、むしろ虫を平気で触って。捕まえていたりしたくらいだったのだけれど。一度恐怖がすり込まれると、どうしようもないのが事実である。

 

スールは憶病なのを自覚している。

 

だから、やはり虫は普通に恐いし、触りたいとも思わない。

 

情けないけれど。

 

それが事実だ。

 

ともかく、一定量の鉱石を集めると、ずっしり重くなった荷車を引いて、そのまま帰路につく。

 

街の人達は、手を振って送ってくれたけれど。

 

もしもヤギの退治に成功しなかったら。

 

ヤギの肉を気前よく譲らなかったら。

 

あんな態度は取らなかったはずだ。

 

ちょっと気分が悪いけれど、できるだけ笑顔を保ったまま、街を出る。街道をまだ行かなければならないから、ちょっと不安も大きい。途中で獣に襲撃される可能性が充分にある。

 

更にクラフトも尽きてしまっているので。

 

戦闘になったら、かなり厳しい勝負になる。

 

だから、急ぐ。

 

夕方近くまで小走りで急いで、森の中に駆け込んだときは、思わずへたり込んでしまった。

 

けろっとしているのはアンパサンドさんだけで。

 

リディーに至っては、目から光が消えている。

 

途中でマティアスが見かねて背負おうかと言ったくらいである。

 

とはいっても、リディーはマティアスが嫌いなようなので。

 

そんな事するくらいなら、荷車に乗ると言い出して。そして結局最後まで走りきったのだった。

 

「アンパサンドさん、し、質問……」

 

「スールさん、何ですか」

 

「そ、その体力、ど、どうやって作ってる、の?」

 

「日々の鍛錬なのです」

 

そうだろうと思った。あまりにも即答だったので、もうぐうの音も出なかった。

 

分かりきっていた。

 

ホムは身体能力が低いが、感情が薄くて不正もしない。或いはもし本気で体力を鍛えることを考え始めたら、こういう風になるケースもあるのかも知れない。ヒト族だったら手抜きするところを、絶対に手抜きしないのだから。

 

足ががくがくするが。

 

ともかく、荷車を引きずって、王都まで。王都に入って、解散した頃には、マティアスもフィンブル兄も無言になっていた。

 

アトリエに戻って。

 

スローな動きで、荷物をコンテナに。ヤギの頭は多分痛むので、明日の朝に早々に納品しないと向こうも迷惑するだろう。

 

その後は、夕食を食べる気にもなれなかったが。

 

リディーがふらふらしながら夕食を適当に作って。

 

吐きそうになるのを我慢しながら必死に食べる。

 

リディーもかくかくと不自然に動きながら食べ。

 

そして必死に吐くのを堪えていた。

 

真っ青なまま、ベッドで転がって、そのまま眠る。

 

翌朝は、寝坊しかけた。

 

リディーは途中から気絶していたと自己申告。

 

夕食を作った記憶がないという。

 

何だか色々恐いが。

 

まあとにかく、一応大丈夫だろう。多分。

 

ともあれ、朝練はきちんとする。アンパサンドさんがけろっとしていた様子からも、日々の鍛錬が如何に大事かはよくよく分かった。

 

更に言うと、教わったあのよく分からない動き。

 

あれで、普段使っていない筋肉を使って。

 

今回のヤギに対する時間稼ぎが、かなりスムーズにやれたと思う。つまり、言われた事は、全て正しかったと言う事だ。

 

黙々と、裏庭でうねうね動く。

 

本当に何だか分からないのだが。

 

ふと気付いた。

 

これ、何処かで見た事があるような無いような。

 

全ての動きを終えた後。

 

あっと気付く。

 

確か、この動きの一部。

 

シスターグレースが何かやっていたような気がする。

 

だとすると、ひょっとしてアンパサンドさんは、シスターグレースの所にいたことがあるのかも知れない。

 

しかし、教会にいた頃の頃は、あまり思い出したくない。

 

ずっと泣いていたこと。

 

リディーが先に立ち直って。根気よくスールにはシスターグレースが接してくれたこと。色々な戦い方について教えてくれた頃の事は記憶に強く残っているが。多分この妙な動きは、涙の向こうで見た光景だった気がする。つまり、自分の中では思い出したくない記憶だ。

 

頭を振って、気持ちを切り替えた後。

 

リディーと一緒にヤギの頭を納品しに行く。途中、荷車には布を掛けて隠した。流石にこれを見せびらかすつもりにはならなかったからだ。

 

破損しているものも含めて三十。

 

役人は流石に目を丸くした。

 

「八頭の依頼でこんなに!」

 

「群れごと駆除してきました」

 

「ご褒美は!? ご褒美は!!?」

 

「こら、スーちゃん、行儀悪いよ」

 

役人は慌てた様子で、上役に耳打ち。ホムの役人が来て、何やら難しい計算を始める。周囲でも騒ぎになっていた。

 

あれ、例のポンコツ双子だろ。

 

何だよあの数のヤギ。しかも滅茶苦茶になってるぞ。どんな殺し方したんだ。

 

よっぽどいい傭兵でもやとったのか。

 

そんな声が聞こえてくる。

 

まあ、ポンコツと言われるのは仕方が無い事は自覚している。だから、黙って周囲の雑言には耐える。それに、報酬は、驚くほど出して貰った。

 

「危険だったでしょう。 その分の手当も含みます」

 

「ありがとうございます」

 

「こういった依頼を受けていくことが、国への貢献と見なされますので、今後も積極的にお願いします。 騎士団の手が足りていないことは周知かと思いますが、とにかく新しい錬金術師が育つ事を我々は歓迎します」

 

投資をしてくれるのは嬉しい。

 

久々にいいものでも買って食べようかと思ったが。

 

ぐっと堪える。

 

まずは、鉱石を師匠に見てもらって。

 

いいものが作れるか確認しなければならないだろう。

 

お世話になった鍛冶屋の親父さんにもいわれた。

 

錬金術はお金が掛かる学問だ。

 

お金がちょっとでもたまったのなら。

 

計画的に使う事を考えなければならないのである。

 

今回も本当にギリギリの戦いだったし。

 

今後は更に危ない相手と戦わなければならなくなってくる。アトリエランクが上がったら、ネームドの駆除も依頼されるかも知れない。

 

それを考えると。

 

散財なんてありえなかった。

 

イル師匠のアトリエに出向くと。

 

誰かが先に来ていたらしく。

 

アリスさんが、お茶の後片付けをしていた。

 

イル師匠はまたよく分からない調合をしていて。

 

言われるまま、ソファに並んで座って待つ。また、美味しいお菓子とお茶を出してくれるので、とても嬉しい。

 

「それで今日は?」

 

「はい、鉱石を集めてきたので、それで……」

 

「ごめんなさい、イル師匠。 図鑑見ても、よく分からなくって」

 

「そう。 ちょっと待ちなさい」

 

何だろう。

 

少し寂しそうな声だが。

 

何か鉱石に思い入れでもあるのだろうか。よく分からないけれど、まずは話を聞いてみる所からだ。

 

ぱっぱと調合を終わらせるイル師匠。

 

勿論手抜きをしている様子など無い。

 

根本的な実力の次元がリディーとスールとは違う。

 

それだけだ。

 

「見せてみなさい」

 

「はい、此方です」

 

「妙に血なまぐさいわね」

 

「討伐依頼で、ヤギの群れを狩ってきて、首を納品した帰りで……」

 

ふうんと、イル師匠は特に眉をひそめることもない。この人くらいになると、荒野の獣を蹂躙するように狩っていくのだろう。

 

だから、平気という訳か。

 

「ろくなものが無いわね。 ツィンクの質の悪いものを少し作れる……これはシルヴァリアが少しあるけれど純度が低い。 ゴルトアイゼンがあればましなものが作れるのだけれども」

 

「ええと、図鑑で見た事しか分かりません」

 

「まあ流石に渡した資料以上の予習は無理ね今の段階だと。 ツィンクは簡単に説明すると鋼鉄よ。 今もっとも流通している金属だと考えて頂戴。 傭兵が持っている武器は基本的にこれね。 機械技術で使われるのもそうよ」

 

幾つかの鉱石をイル師匠が並べて。

 

頷いてメモを取るリディー。スールは特徴の見分け方を聞いて、図鑑と見比べる。そうすると、覚えられるからだ。

 

「正確に言うと、この鉱石から取り出せるのはただの「鉄」。 鋼鉄にするには、何段階かを経なければならないわ。 それでもどうしようもない問題があって、錆びるのよ」

 

「そういえば、フィンブル兄も、手入れが大変だって」

 

「そう。 その上強度も、錬金術金属に比べると劣る。 故に普及はしているけれども、大物相手には力不足になる」

 

「なるほど……」

 

続けて、イル師匠が、さっきよりずっと少ない鉱石を並べた。

 

「含有率は低いけれど、シルヴァリアがこれに少し入っているわ。 シルヴァリアは錆びやすい代わりに、鋼鉄よりも遙かに強度が勝るわ。 更に強みとして、魔術に対する親和性がとても強い」

 

「ええと、それはつまり」

 

「安物の錬金術の装備は、大体シルヴァリア製よ」

 

「あうう」

 

そうか。リディーが呻いたが、つまり今のリディーとスールには、安物を作るのが精一杯、と言う事だ。

 

更にと、今度はイル師匠が奥から別の鉱石を取りだしてくる。

 

それは、見るからに雰囲気が違っていた。触らせて貰うが、ずっしりと明らかに重さからして違う。

 

「これはゴルトアイゼン。 絶対に錆びないという特徴を持っている金属よ。 錬金術の手を入れないと強度は上がらないけれども、錆びないという特徴は非常に有利。 シルヴァリアとの合金で、この上に位置するプラティーンに匹敵する強度のものを作り出す事が出来るわ」

 

「ゴルトアイゼン……と」

 

「重いですね」

 

「それも欠点の一つね。 錆びないという事には、相応の代償があるという事を覚えておきなさい」

 

はいと、声を揃えて応える。

 

そしてイル師匠が持ってきたのは。

 

更にレアそうな金属鉱石だった。

 

「そしてこれは滅多に採れない貴重な金属よ。 プラティーン。 強度においても今まで見せたものとは別格で、更に言うと絶対に錆びないわ。 その上ゴルトアイゼンよりも軽いし、魔術への親和性も高い」

 

「す、凄い金属……」

 

「でも超がつくほどの貴重品よ。 この小さな鉱石で家が建つわ。 インゴットに仕上げると、豪商の屋敷くらいにはなるわね」

 

「……」

 

もうついて行けない世界だ。

 

そしてそれを平然と持っているイル師匠にも、である。

 

更に更に。

 

究極を師匠が出してきた。

 

インゴットである。

 

布で包まれていたそれは。布を開くと、あからさまに他とは別格という輝きを見せつけてきた。青紫というか何というか。紫は失敗すると下品になってしまうのだけれど、驚くほど上品な色だ。

 

これが。話に聞く。

 

伝説の金属、ハルモニウムか。

 

名前だけは聞いている。ドラゴンの鱗から抽出するという最高の金属。

 

アリスさんが、イル師匠が頷いたので。ハンマーをインゴットに降り下ろすが。まるでびくともしない。

 

がいんと、凄い音を立てて弾かれていた。

 

「こ、これが伝説のハルモニウム!?」

 

「そうよ。 教えたわよね。 復唱して見て」

 

「はい。 ドラゴンの鱗から作り出す事が出来る、今錬金術で最高の金属、です」

 

「ですっ」

 

思わず背が伸びる気分だ。

 

これは話によると、国宝クラスの品。ハルモニウム製の武具となってくると、それこそアダレットでもラスティンでも。そう、錬金術師がたくさんいるというラスティンでさえも国宝になるという。

 

それを今、イル師匠は見せてくれている。

 

この人が如何に凄まじい錬金術師なのか、それだけでもよく分かるというものである。

 

「見ての通り、ハルモニウムは最強の金属よ。 錆びない、最強の硬度、軽い、その上魔術への親和性の高さも超絶。 その代わり、加工からして生半可な腕前ではそもそも門前払いよ」

 

「ひえ……」

 

「とりあえず、今回はシルヴァリアが少しだけ採れたようだから、それで良しとしましょうか。 まずはツィンクをインゴットに加工しましょう。 ……鉱石については、遠くに行かないと穴場がないから、少し考えないといけないわね」

 

それと、と更にイル師匠は付け加える。

 

幾つかの石を取りだして、それを別に並べた。

 

「これはカーエン石。 表面がしけってしまっているけれど、内部はまだ使えるはずよ」

 

「こっちはどういう金属になるんですか?」

 

「爆弾の材料よ」

 

さっと引く。

 

谷で、ヤギの群れが消し飛んだ光景を思い出してしまう。

 

気が弱い者だったら、多分吐いていただろう。

 

それくらい、凄まじかった。

 

確かクラフトは基本中の基本と聞いている。

 

そうなるとこれは、基本より少し上の爆弾の材料、と言う事で。

 

当然火力もクラフトより上、という事になるだろう。それはすぐに分かる。

 

そんな恐ろしいものが目の前にあると思うと。

 

震えが来るのを自覚してしまう。

 

「……疲れているようだし、火薬爆弾の作り方は別の機会にしましょう。 まずはツィンクを作るから、準備をしなさい」

 

「はい」

 

「わかりましたっ」

 

頷くと、イル師匠は。

 

基礎から、丁寧に教えてくれた。

 

まず鉱石を徹底的に砕く。砕きながら、不純物を取り除いていく。分からない内はどれが不純物なのかさえ分からない。

 

だから、いっそ最初は。

 

細かく砕くだけで良いと言われた。

 

兎に角、言われた通りに細かく砕いていく。

 

これが相当な重労働で。

 

ハンマーを振るわなければならないので、少なくともリディーには無理だ。スールが担当する事になるだろう。

 

鍛冶屋の親父さんが、いつも凄く大きなハンマーを振るっていたけれども。

 

アレは何というか。

 

序の口だったのだろう。

 

錬金術師は、更に別の方向から、加工をするわけだ。

 

そして細かくなったものを中和剤につけ、変質させる。この時つかう中和剤は、当たり前だが品質が高い方が良い。

 

そして次。

 

炉に入れる。

 

この辺りまでの流れは、前にインゴットを作った時と同じだ。あの時は漠然と作ったが、此処からは明確な「金属」を意識して作っていく事になる。

 

炉に入れた後、取りだすと。

 

明確にマーブル模様で別れていた。

 

「これは、金属は溶ける温度が種類によって違うから起きる現象よ。 まず砕いて、分けておいて」

 

「はい」

 

明らかに黒ずんでいる方を捨てて。

 

少し光沢が出ている方を残すのかと思ったが。

 

それぞれをまた、別に炉に入れるという。

 

そしてまたしばらく炉で熱し。

 

砕いて分けるのを繰り返す。

 

無言でその様子を見ているイル師匠。

 

その内、どんどん純化されていったのか。砕いて分ける大きさが、明らかに違い始めてきた。

 

光沢も目に見えて違っている。

 

これが、金属の。本物のインゴットという奴か。

 

「此処から一工夫するわよ」

 

イル師匠が大きな金ばさみを持ってくると、蜜と中和剤を入れた水に、まだ熱いインゴットをつける。

 

ジュッと凄い音がして、思わず顔を手で守った。

 

「これを焼き入れと言って、ツィンクの場合はこれで「鉄」から「鋼鉄」になるの。 錬金術では中和剤を水に混ぜることで更に硬度を上げるけれども、鍛冶師には鋼鉄を作り出すので限界ね」

 

「あ、暑くないんですか!?」

 

「この服は見た目通りの絹服じゃないのよ」

 

実際、イル師匠は汗一つ掻いていないし。何より重いインゴットを平然と扱っている。筋力も上がっているのだろうか。

 

そしてまた熱する。

 

また水に入れる。

 

それを何度か繰り返すと。

 

鈍色の輝きを持つ、良く知る鋼鉄が仕上がっていた。

 

「危険だから最初に手本を見せたけれど、次は貴方たちがやってみなさい」

 

「はい!」

 

すぐにリディーがメモを読み上げて、スールが動く。

 

粉々に砕いて、熱して。

 

分離して、熱して。

 

それを繰り返して純度を上げていき。

 

そして蜜を入れた水につける。何度か注意が入ったけれども、それでもイル師匠は怒っている様子も無く、兎に角丁寧だった。ただ焼き入れをする時だけは本当に危ないという事で。

 

錬金術の道具で。

 

スールに防護の魔術を掛けてくれた。

 

「まだ貴方たちの力量だと、本格的な金属加工は厳しいわね。 やるときは私を呼びなさい。 立ち会うから。 ミスをすると冗談抜きに手足を失うわよ」

 

イル師匠はそうはっきり言うが。

 

だが、それでも最終的には、何とかツィンクが仕上がった。

 

シルヴァリアはまだダメと言われたので、今回はこれで我慢するしかない。もっと難しい金属なのだろう。

 

手が届かないのなら。

 

今の時点では、諦めるしかない。手足を失うというのは、脅しでも何でも無く、本当のことなのだろう。

 

まずはツィンクを安定して作れるようになって。

 

全てはそれからだ。

 

「イル師匠、錆を止める方法って無いんですか?」

 

「例えばさび止めの魔術を刻み込むというのがあるけれど、ツィンクでそれをやると、武具の硬度が落ちるわね。 切れ味を上げたり硬度を上げたりと色々魔術を刻み込んでいくと、その内簡単にぽっきり折れるようになるわよ。 本末転倒ね」

 

「ああ……なるほど……」

 

「でも、体につける装備品なら、それでも良いのではないかしらね」

 

理解出来た。

 

いずれにしても、今作ったツィンクは、フィンブル兄のハルバード用だ。

 

それについても話すと。

 

少しイル師匠は腕組みして、考え込んだ。

 

「……まあ良いでしょう。 その代わり、一刻も早く身体能力を上げられるような錬金術の装備品を作れるように考えなさい。 レシピができたら見せに来て。 戦力の底上げには、武器を強くするのも良いけれど、まずは身体能力の倍率を上げる事よ」

 

イル師匠によると。

 

リディーが使うような補助魔術なんて、錬金術の装備品だと、複数で同時に常時展開する事が出来るという。

 

身体能力も何倍にもできるとかで。

 

場合によっては何十倍、もっと倍率を上げられるとか。

 

凄まじい話だが。

 

イル師匠やアリスさんの動きを見ていると、あながち嘘だとも思えない。全て、心に刻むことにする。

 

とにかく、一度アトリエに戻ると。

 

リディーと手分けして動く。

 

フィンブル兄はスールが呼びに行き。

 

リディーは鍛冶屋の親父さんの所に行って、ハルバードを直す準備について話をしてくる。

 

フィンブル兄を連れて来て、鍛冶屋の親父さんにハルバードを見てもらう。

 

そしてツィンクのインゴットを渡すと。

 

親父さんは少し難しい顔をした。

 

「フィンブル、お前まだハルバードでやるつもりか」

 

「ああ。 俺の師匠の形見でもあるから」

 

「前にも言ったが、何でもできる武器は何にもできない。 欲張れば欲張るほど、武器は弱くなる。 格好いい武器よりも、シンプルな武器の方が強いんだよ。 よっぽどの達人にならないと、色々ギミックがついている武器はむしろ足を引っ張る。 良いんだな」

 

「かまわない」

 

その強い拘り。

 

分かる。

 

頷くと、鍛冶屋の親父さんは、ハルバードを直してくれると明言した。お金についても、此方で出す。

 

依頼任務での武器破損だ。

 

補填義務は雇い主である此方にあるのだから。

 

二つあるインゴットを見て。親父さんは即座に見抜く。

 

「ちったあマシになったな。 だがまだまだだ。 こっちのツィンクは、お前さん達が作ったものじゃないだろ」

 

「はい、それはイル師匠が」

 

「あー、そうだろうな。 酷い鉱石だったろうに、相当な業物に仕上がってやがる。 これはとっておけ。 多分、その内良いものを作る時に必要になる」

 

返された、イル師匠製のインゴット。

 

後はやっておくと言われたので、鍛冶屋を後にする。

 

アトリエに戻ると。スールは思わず叫んでいた。

 

「あー! あーあーあーあーもう! 無力だ! 無力! 無知! 足りない! 何もかもー!」

 

「ちょっとスーちゃん、落ち着いて」

 

「今叫んで落ち着いた。 もうこうなったら、手当たり次第に獣を狩って、鉱石集めてくるしかないね。 Gからランクの降格は避けられると思うけれど、まずはFランクになる事を考えないと」

 

「それと、カーエン石からもっと強い爆弾を作れるようにならないと……」

 

その通りだ。

 

あの谷での戦いでも、クラフトがなければ、一気にヤギどもに全滅させられていた可能性が高い。

 

まずは力だ。

 

スールには、それが足りない。

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