暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
双子が手がけた装飾品はまだまだの性能しかありませんが。
まずはできる事しかやっていくしかないのです。
序、実績を重ねよ
獣の腕輪を早速実戦投入、と行きたい所だったが。筋力が上がると、体の制御が普段とは違って来る事は、自分で試してみてすぐに分かった。センスがある人は大丈夫なのかも知れないけれど。リディーのレベルでは無理だ。
歩くだけで最初は難儀して。
思いっきり壁にぶつかったりもした。
スールは比較的上手く使いこなしていたけれど。
貧弱体質の自分がこんな時に腹立たしい。
とにかく、防御魔術も掛かっているので、怪我はしないことだけが嬉しい。いずれにしても、こういった装備を量産して、皆に渡せば。戦闘が一気に楽になることは確実だろう。とはいっても、今は一つ作るのに一日丸々掛かってしまうが。
ともかく人数分作り。
作る度に改善点を見いだして、その度にレシピを更新する。ある程度書き込みをしたところで、レシピを綺麗にまとめ直す。
額を拭った。
本当に、レシピを作ると言うのは大変だ。それを思い知らされた事になる。
多分この腕輪、錬金術師が作るものとしては初歩の初歩だろう。イル師匠も、これくらいのものを五六個はつけないと、ネームドとは勝負もできないと言っていた。勿論、まだまだネームドとは交戦する事すら考えてはいけない段階だと言う事はリディーも分かっている。致命傷を与える手段がないのだ。
人数分の獣の腕輪を作った後。
掲示板に、仕事を見に行くことに決める。
昨日、リディーが聞きに行ったのだが。
まだFランクの試験を受けるには、実績が足りていない、と言う事だった。そもそもの問題として。アトリエランク制度の目的は国益だ。そしてリディーはこの間スールと一緒に見た。
王都から一日で。
あんな灰色の集落があるのだ。
この国は王都の外に出てしまうと、本当に危ないのかも知れない。いや、世界中全部が多分そうだ。ラスティンだって同じの筈。そうでなかったら、もっと人々は世界に満ちているし。
どうしようもない相手であるドラゴンや邪神をのさばらせてはいないはずだ。
この間のヤギ30。
アードラ6。
それに肉食植物。
この程度は、錬金術師なら狩って当たり前、と言う事であって。
もっともっと、お薬や爆弾を納品したり。
獣を狩って人々の危険を減らさなければならない。そういう事なのだろう。そしてFランクになると、今とは比べものにならない重い責任がのしかかる、と言うわけだ。
仕事の話をすると。スールは身を乗り出す。
「次は何を狩ってくる?」
「掲示板を見に行こうよリディー。 とりあえずそれで判断しよう」
「そうだね……」
楽天的なスールだが。
考え無しに獣を狩りに行く訳にもいかない。
前回のように、有用な素材が手に入る仕事もできれば率先して選んでいきたい。
戦力強化をしなければ。
Gランクでさえ、まだ貢献不足と見なされている現状。
Fランクに行っても、息切れするだけだ。
とにかく、掲示板を見に行くが。
その途中で。
新しいお店が出ているのを見つけた。
不思議な服装のホムが、部下らしいヒト族の商人と話をしている。
「それでは、予定通りに」
「分かりました、ボス」
「ボスは止めるのです」
「はい、ボス」
頭の弱そうな部下と、無表情で応対をしているホム。コルネリア商会と書かれているけれども。
アルファ商会のマークもある。
支店だろうか。
向こうは此方に気付いていて。声を掛けてくる。
「其処のお二人、錬金術師なのですね?」
「はい。 新しいお店ですか?」
「アルファ商会傘下、コルネリア商会なのです。 アダレットでの仕事を、今後半分ほど担当する事になったのです」
「わ、凄い……」
スールは金に貪欲だ。
だから、それがどれくらい凄い事なのかは理解している筈。
商品を見せてくれるが。
アルファ商会に比べると、安くて代わりに品質が劣るものを用意している様子だ。値段は、高いけれど、アルファ商会ほどでは無い。
なるほど、分かった。
アルファ商会は恐らくだが、お金持ちや国向け。
そしてこのコルネリア商会は、普通の民に手が届く商品を扱う、という形で仕事をしていくつもりなのだろう。
アルファ商会は、本当に全財産を絞りつくすつもりで行く場所だったが。
このコルネリア商会ならば、或いは。
「お得意様になったら、特別なサービスも用意しているのです。 是非買い物を」
「ええと、今はちょっと手持ちが……」
「分かっているのです。 見たところ二人とも半人前。 此処では、素材も多めに扱っているので、いずれ伸びれば嫌でも使う事になるのです」
コルネリアさんというホムは。
何もかも見透かしているように、そう言う。
ぐうの音も出ない。
とりあえず、頭を下げて、店の前から離れる。スールはもう少し見たそうにしていたけれども。
ちょっとまだ、今の財力では手が届かないものばかりだった。
素材についてはそうでもなかったが。
それでも高かった。
「伸びれば使う事になる、か。 ホムらしい直球の言葉だったね」
「それもそうだけれど、あの人多分相当錬金術師と関わりが深いと思うよ。 何というか、そんな気配がした」
「いつもの勘?」
「うん」
スールの勘は当たる。リディーはふうんと頷くと、掲示板に急ぐべく、妹を促す。
掲示板の前には相変わらず人だかりができていて。
その中にはルーシャがいた。
珍しく悩んでいる様子だが。
やがて、一枚取っていった。
此方には気付いていない。
何だったんだろう。そう思ったが、かなり真剣な表情だったので、声は掛けられなかった。おつきのメイドであるオイフェさんは気付いていたようで、黙礼だけしていったが。
リディーも掲示板を確認。
獣狩りの依頼がないか確認をしてみるが。
あるにはあるが、錬金術師でなくても狩れるような小物か、逆に名前付きの獣……強大に成長したネームドの討伐依頼か。両極端だった。
とりあえず、近場で狩れそうなのを数件見繕う。
素材も補充しておきたいし。
なによりちまちまでも良いから、実績は積んでおきたいのだ。ただ、一度の狩りで全て片付けてしまいたい。遠出する必要があるようなものは選ばなかった。
スールが口を尖らせる。
「丁度良いのないね」
「騎士団への装備納入はちょっとまだハードルが高いしね。 後でイル師匠に聞いたんだけれど、最低でもゴルトアイゼンくらい作れないとダメだって」
「うえ、それは厳しいよう」
「まだシルヴァリアにも手を出してはいけないって言われてるもんね」
あと、お薬の依頼があった。
騎士団に納入しているお薬と同じものを、というものだったが。
これは或いは、ランクを上げたい錬金術師への救済措置なのかも知れない。
いずれにしても、騎士団としても、コストを圧縮したいと考えている筈で。この依頼を受けることは損にはならないだろうが。
そもそもGランクのアトリエを維持するだけでも精一杯なのだ。
それぞれのアトリエが、毎月こなさなければならない依頼の品については、多めに在庫を確保しておいた方が良いだろう。
他には何か無いか。
レアな鉱石。
無理。遠出しないといけないし、そも何処にあるかも分からない。
高価な薬草。
これも厳しい。
錬金術製の布。
確か、糸素材を錬金術で変質させて強化させ、場合によっては魔法陣を縫い込んだりして、強度を上げるというものだが。
これもちょっとまだ手が届かない。
力がないと、この間スールが嘆いていたが。
リディーもそれは同感だ。これらの仕事は、力がついてくれば、あらかたできるようになるだろうに。
今は、選択肢としてさえ存在しない。
そういう事である。
仕方が無いので、小物の討伐依頼を幾つか受けて、それで引き上げる。此処からは手分けして動く。
スールにはフィンブルさんと騎士団に声を掛けてきて貰うし。
リディーはスケジュールを練る。
まあ明後日でかまわないだろうし、それについてはスールにも告げてあるので。一応ツーカーで動ける。
アトリエに戻ってスケジュールを練る。
やはり、あまり安全な街道ではない場所で、獣を狩る方が効率が良いだろう。出現位置については依頼に記載されていたので、全てが被る場所で粘るしかない。最初にアードラ狩りをした時には二回に分けたが、今回は一度で片付けたい。
ある程度の危険はやむを得ない。
この間のヤギ狩りで痛感したが、兎に角戦闘経験が足りていない。スールは毎回死にかけているし。リディーだってまだまだ判断に無駄が多い。
戦闘慣れするしかないのだ。
スールが戻ってきた。
「騎士団とフィンブル兄に話つけてきたよ」
「うん、それじゃあ別々に動こう」
「あ、今回はちょっとイル師匠の所で、獣の腕輪試したい」
「そうだね。 実戦前に試しておこうか」
ただ、錬金術の練習も疎かにはできない。
二人揃ってイル師匠の家に行くと。
丁度新しいぬいぐるみを、イル師匠が作っているところだった。部屋中にぬいぐるみがわんさか置いてあるのだが。この辺りはお金持ちの趣味だ。そもそも貧しい子供は、木で作ったような不衛生な人形にボロ切れ着せて大事にしたりしている。こんな布で作って綿を詰めたぬいぐるみなんて贅沢品、手に取る事なんて出来ない。
少女趣味だとか、イル師匠が子供っぽく見えるとかは感じない。
何というか、イル師匠のこのぬいぐるみ好き。
何処か闇を感じるのである。
「ああ、来たわね。 どうしたの」
「この間作った獣の腕輪、試してみたくって」
「そういう事。 アリス」
「はい」
すっと、後ろにアリスさんが現れる。足音どころか、まったく存在に気づけなかった。勘が鋭いスールでさえもである。
吃驚するより先に、二人まとめて壁に叩き付けられる。殆ど時間差なく、拳での一撃で吹き飛ばされたのだ。
壁からずり落ちるが。
外に音が漏れている様子も。
勿論壁に傷がついている様子も無かった。
イル師匠は無感動に言う。
「反応速度は上がっていないと」
「ちょ……」
スールが頭を振りながら立ち上がる。
リディーもそれに習うが。
思ったほど痛くはない。というか、防御も相当に強化されている、と言う事だ。
「とりあえず攻撃をしかけてみてください」
「分かりました!」
「行くよアリスさんっ!」
思ったより痛くなかったことに気をよくしたか。
スールがジグザグに動きながら、間合いを詰めるが。
すとんと首筋に手刀を落とされて。
床に這いつくばる。
リディーは杖で殴りかかったが、布団でも叩いたかのように手応えがなく受け止められ。そのまま天地が一回転した。投げられたのだと気付いたのは、地面でぎゃふんと声を上げてからである。
「スピードは上がっているわね。 パワーも大体同じくらいの倍率か」
「いたい……」
めそめそスールが嘆き出す。
さっきの首筋への一撃で、気絶しなかっただけでも、この腕輪は有用だと言う事だろう。というか、リディーも投げられたときには、多分今までの状態だったら、目を回していた筈である。
幾つかイル師匠にアドバイスを受ける。
「実戦の前に配って、使い心地を確認して貰いなさい。 いきなり全部倍になって動くと、思わぬミスをしたりするものよ」
「はいっ」
「分かりましたっ」
「よろしい。 それじゃあスール、貴方は戻って反復練習しなさい。 足りない素材を作っておくのも良いわ。 ただし金属加工はまだ一人でやったらダメよ」
リディーはその場に残され。
そして、アリスさんと訓練する。
魔術の威力は上がっていて。
今までとは比較にならないほど強力な壁を張る事が出来たが。
それでも、アリスさんの掌底一発で壊される。
壁に叩き付けられて、目を回しながらずり落ちる。アリスさんは、少し小首をかしげてから。
次からは、リディーが悶絶して、その場に蹲るくらいまで威力を加減してくれた。
或いは、アリスさんも、壁の強度を一瞬で判断出来なかったのかも知れない。
その後は座学に移る。
この間のヤギの群れとの戦闘経緯をレポートにしてイル師匠に出したが。イル師匠は、まだ甘いと幾つかの点で駄目出しをしてきた。
まず獣の身体能力を侮りすぎ、と言う事。
実際ボスヤギは一斉爆破に耐え抜いた上、崖の上まで駆け上がってきた。
これについても教えてくれる。
「ヤギは崖に適応した生物で、個体によっては衝立みたいな崖を平然と登ってくるわよ」
「本当ですか……」
「ええ。 今度はそれを想定して作戦を組みなさい。 獣を狩るためには、自分の戦力と、相手の戦力を分析する事よ。 知識は少しでも多い方が好ましいわ」
なるほど。
メモを取って、頷く。
確かにその通りだと思う。
更に座学で、幾つかの戦術を教わった後。軽めの講義を受けて、戻る。スールは錬金釜に向かって、高純度の蒸留水を作る作業に没頭していた。前は集中力が足りなかったが。最近はそれもかなり克服してきている。
無言でリディーが料理を作り始めると。
スールは蒸留水を仕上げたあと、今度は薬草の整理を始めた。
「リディー、お薬作って見るけどいい?」
「うん。 お料理終わったら手伝うよ」
「分かった」
Gランクアトリエの義務である納入物、ナイトサポートの他にも。幾つかのお薬については教わっている。
まだ試していない薬があったので。
それを作って見る。
下ごしらえの段階はスールに任せて。
料理を作り終えてから、リディーも加わる。
細かい作業をリディーが。
釜の火加減などはスールが担当して。
レシピを見ながら、順番に丁寧に作っていく。
この薬は飲むタイプで、体力を一気に回復させることができるが、その代わりに後で反動が来る。
普段はあまり飲むことがお勧めされない薬で。
飲んだ後に反動が来る事を承知の上で、危急時に飲んで使う事を想定する。
薬草を丁寧に処置。
図鑑を見ながら、ルーペで確認して不純物を取り除き。
また蒸留水で丁寧に洗った後。
すり潰して、更により分け。
中和剤と混ぜ。
蜂蜜を加えて。
更に其処へ何種類かの薬草を煮たエキスを入れる。
そうしてできあがりだが。飲んでみると、スールは真っ赤になり。そして、激しく咳き込んでいた。
「ダメ、これ濃すぎる! こんなに効くと、多分動けなくなるし、いきなり力が上がり過ぎておかしくなる!」
「うーん、レシピだとこれで良いんだけれどなあ」
何処かで間違っていたのだろう。出かけるのは明後日。明日イル師匠に見て貰う事にする。
次は、外に出たとき、応急処置に使う塗り薬の方を作る。
これは在庫が幾らでもいるので、幾らでも用意しておかなければならない。
それにクラフト。
明後日の戦闘に備えて、必要な分は用意する必要があるだろう。
一通り作業を行うと、もう夜だった。
少し冷めていた食事を温め直して、二人で食べる。お父さんは帰ってくることが凄く少なくなったが。
どうしてだかは分からないが。
誰か女の人の所に行っているとは思えなかった。