暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
気が強いことと恐がりなことは必ずしも別ではありません。
スールは熱くなりやすい性格の一方非常に憶病で、それが故にリディーに主導権を握られたりしているのです。
既にアンパサンドや他の仲間にも、その辺りは見抜かれています。
いよいよ来た。
フラムを作成したその翌日。マティアスさんが、スクロールを持ってアトリエを訪れたのである。
ちょっと緊張したが。
ちょうどナイトサポートを納品した翌日だった。
多分、これで貢献度が想定に達したのだと、リディーは悟った。
「じゃ、俺様これで。 早く帰らないと、アンに殴られるし」
「完全に尻に敷かれてるね」
「否定できないのが悔しいが、それより姉貴が恐いんだよ。 アンも恐いけどな、姉貴は別格だ」
「……」
マティアスさんは、そういうと、さっさと戻っていった。
スールがひょいとスクロールを取ると、蜜蝋を切って中身を確認する。
「Fランク試験への参加を認める。 ええと……ただし試験は二段階とする。 二段階!?」
「ちょっと見せてね」
スールの手からスクロールを取りあげると、中身を確認。
まず、試験の内容だが。
グリフォンの営巣地に対する攻撃が第一段階である。
ぞっとした。
グリフォンと言えば、キメラビーストと並ぶ凶悪な獣。それも営巣地への攻撃となると、当然敵も必死に反撃してくる。
幸い今回指定している場所は、グリフォンの中でも最も小さく大人しい(あくまで比較で)種の営巣地のようだけれども。
攻撃の証拠として、卵を持ち帰るように、と言う事だった。
グリフォンもできればその場にいる個体は仕留めるように。
そういう話である。
しばらく真顔になって停止してしまうが。
とにかく、やるしかない。錬金術師には、それだけの力が求められるのだ。
フラムを作り足すことにする。
試験が行われている間も、納入義務は発生する。一応期限はないようなのだが、それでもできるだけ急いだ方が良いだろう。やるべき事が増えすぎて、手が出せなくなる。かといって、試験に偶然受かっても。次のランクを維持できるとは思えない。
師匠の所に行って、立ち会いでフラムを作る。
カーエン石の水分をまず飛ばす。
此処が大変な作業だ。
脱水剤を使う場合もある。
ぷにぷにの体内にあるぷにぷに玉がそれで。
非常に強い脱水効果があるため、重宝される。
今回は単純に乾燥させておいたものを用いるけれど。
それは火力が上がりすぎないようにするためである。
乾燥させたカーエン石を崩して。
徹底的に不純物を取り除く。
中和剤と混ぜる。
この時使うのは、砂を媒介にした中和剤で。最も良いのは、潰したカーエン石の中和剤らしいのだが。
師匠の指導を受けながら。
強い魔力を持つ中和剤によって。
カーエン石を更に攻撃的に変質させる。
そして出来上がったのが。
起爆の中核となる部分である。
これに珪藻土と呼ばれる土を混ぜる。これそのものは、そもそも近くに海があるアダレット王都だと、簡単に手に入る。その辺を掘っているだけでも出てくる。
これにより安定させ。
更に起爆時の火力を数倍にまで引き上げる。
倍率をどんどん上げていくのだ。
起爆用の信管を作る。
小さいインゴットでいいのだけれども。
板状に叩いて伸ばし。
其処に魔法陣を刻んで、高熱を発生させるようにする。それも瞬間的に。そしてその板を、筒状に加工したカーエン石と珪藻土の混ぜ物に差し込む。
こうして、筒状のフラムが完成する。
一つずつの手間がクラフトとは段違いなだけあり。
完成したときの破壊力も桁外れだ。
なおもっと簡単なフラムもあるらしいのだけれど。
今回は対グリフォンを想定して。
そこそこ良いフラムを最初から教えてくれた、と言う事だった。
外で勿論試してみた。
シールドを全力で張るように。
イル師匠は、実験前にそう言ったが。事実、爆破してみて、その火力を前に唖然とせざるを得なかった。
これは確かに、荒野に住まう凶暴な獣たちにも、有効打になる。使い方次第では、今まで手も足も出なかった相手に対する切り札にもなり得る。
クラフトも見てもらう。
最初に作った時よりも、精度がぐっと上がっている。
二十三十と作ったのだから当然だけれど。
中に毒を仕込んだり。
小石などを仕込んだりした結果。
師匠の言葉通り、火力が跳ね上がった。
前は14点とか言われたが。今回は26点と言われたので、かなり良くなっているという事だろう。
お薬も作ったし。
これで一応できる準備は整えた。後はグリフォン狩りだが、まともにやりあったら勝てる相手じゃない。
しかも相手は空まで飛ぶ。
それを営巣地と言う事は複数。
今までにない厳しい戦いになる事は分かりきっているが。
それでもやらなければならなかった。
アトリエに戻った後。
スールと話をする。
「さて、問題は此処からだね。 現状の戦力だと、多分何やってもダメだと思う」
「うん。 Fランク、壁が高いよう」
「せめて手数が欲しいね」
「それに思うんだけれど、ひょっとしてグリフォン退治と同レベルの仕事が、毎回求められるんじゃないの?」
スールは鋭い。
リディーもそう思うけれど、いつもずばりと本質を突いてくる。勘の鋭さは一級品だ。これでもう少し本番に強ければ完璧なのに。
実を言うと、昔スールは大人しくて、どちらかというと内気な子供だった。
ある一線を境に急激にいたずらっ子に変わったのだけれど。
それがいつだったのかはよく分からない。
普通、勘は魔術使いの専売特許なのだけれど。
魔術についてはあまり得意じゃないスールが、どうして勘ばかり鋭いのかは。周囲の誰も分からなかった。
「フラムもこれ作るとなると一日がかりだね。 それも師匠がまだ見てないと危なくて作れない」
「これを半日に短縮して、そして数も増やして……後は手伝ってくれそうな人を見繕わないと」
「やっぱ人手増やさないとだめか」
「うん……」
気付くと、お父さんが帰ってきていた。
そのまま地下室に直行。
外で何をしているのか分からなかったけれど。暗い目で此方を見るにはみたが、それだけだ。
食事もしているのか分からない。
リディーはたまりかねて立ち上がると、地下室のドアを叩いてみた。
「お父さん、夕食くらい食べようよ」
それで気付く。
地下室のドア。叩いても、まるでびくともしない。何というか、板を叩いているという感じがしない。
前は鍵だけ特別なのかと思ったけれど。
これは多分違う。
音も向こうには届いていないだろう。
それでいながら、まだ地下室からは妙な音が時々聞こえる。
あの絵が原因だろうけれど。
一体何なのか。
不気味だと思えるのは事実だった。
大きく溜息をつく。
いずれにしても、今はお父さんを此処から出すのは無理だ。師匠に頼めばこのドアをぶち抜いてくれるかも知れないけれど。そんな家庭の恥を、師匠に見せるわけにはいかないし。
やるにしても、自分達でやらなければならないだろう。
「お母さん、今のお父さん見たらどう思うんだろう」
「なんだかんだ熱々の夫婦だったしね。 きっと手をとって立ち上がるように促すと思うよ」
「……そうだろうね」
悔しい。
お母さんならできる事が。私達にはとてもできない。
反発するばかりで。
哀しみを見る事も出来ていなかった気がする。
バカだアホだと今まで散々嫌ってきたけれど。でも、結局の所は、恐らくは。それは自分の無力に対する嫌悪だったのではあるまいか。
頭を振る。
今は、Fランクへの昇格が急務だ。
しかも試験は二段階。
グリフォンどもを退治しても、次がある、という事である。
スールが泣き言を言う。
「ルーシャは最初からそれができて、しかも更に先に行ってるって事だよね」
「もうそれは良いから。 今は自分達にできる事をしよう。 アクセサリの本をちょっと見せて」
「まだ何か増やす?」
「師匠見ていて思わなかった? 多分だけれど、師匠が何気なく身につけているもの、あのおっきなリボンから、靴や手袋、服とかも、全部錬金術の装備だと思うよ」
絶句するスール。
リディーはそのまましばし図鑑を見ていて、今作れそうなものはないか、と嘆息してしまう。
良い糸素材が手に入れば良いのだけれど。
少なくとも、普通の羊毛などでは、ありふれた糸や布しか作れない。
糸や布を中和剤で変質強化して。
そもそも魔法陣を服に縫い込む、という手はある。
そうやって作る服は、非常に強力な防御効果を。それこそ重い鎧なんて問題にもならないほどの防御力を発揮できることは容易に想像がつくけれど。
今はまだ手が届かない。
「とにかく、手伝ってくれそうな人を探そう。 スーちゃん、心当たりない?」
「今回の仕事限定で、傭兵を回して貰おうか。 でもそうなると、獣の腕輪を増やさないといけないね」
「それはもうノウハウがあるからできるけれど……傭兵か。 グリフォン退治って聞いて尻込みしないと良いけど」
「とにかく、スーちゃんはそっちから攻めてみる」
頷くと。
リディーは少し考えてから、騎士団の詰め所に出向く。
アンパサンドさんがいると幸運だと思ったのだが。彼女は今出払っていると言う事だった。
代わりにマティアスさんが出てくる。
「よう。 どうしたリディー」
「マティアスさん、次の試験がかなり戦力的に厳しいんですけれど、騎士団からは人員を廻せないですか」
「無理」
「即答!?」
マティアスさんが肩をすくめる。
騎士団の事情は知っているはずだ、と。
「俺様も今から別のチームと仕事に行くくらいでな、暇な騎士なんていないんだよ。 ましてや数日外出するんだろ。 俺様とアン、二人以上の騎士は貸し出せない。 少なくともGランクアトリエの錬金術師にはな」
「うう……分かりました」
「俺様だって心苦しいが、とにかく人手はそっちで確保してくれ。 ドラゴン狩りだったら傭兵はみんな逃げると思うが、グリフォン狩りだったら或いは……だからな」
「はい……」
とにかく、忙しいからと、詰め所から追い出される。事実、すぐにマティアスさんは、数人の騎士と一緒に出向いていった。
騎士達を率いているのは、ものすごく恐い鎧を着た小柄な人で、何となく女性だと思ったが。
噂に聞く、声も聞かせてくれない副団長だろうか。
最近名物騎士団長だった巨人族の騎士団長が引退して。ヒト族の優秀な騎士が騎士団長になったという話は聞いている。
その時に昇格した副団長が、騎士団でも正体を知るものが殆どいない、謎の人物だという噂も聞いている。
あの人がそうだとすると。
多分今のマティアスさんだと及びもつかない相手だろう。
そして騎士団と一緒に、ルーシャと、そのメイドさんも出かけていくのが見えた。ルーシャは此方に気付かなかったが。或いはグリフォンより更に強い獣の討伐任務だろうか。今のルーシャはもうEランクらしいし、あり得る話だ。
教会に出向く。
シスターグレースは、相変わらずとても若々しく、五十代のヒト族女性とはとても思えない。
昔、リディーが立ち直るのにも、スールが立ち上がるのにも、親身になって接してくれた。
二人目のお母さんはこの人だ。
教会は救貧院も兼ねていて、生活出来ないほど貧しい人や、孤児を育ててくれているけれども。
此処の悪い評判は一切聞かない。
孤児には生きるためのスキルを叩き込んでくれるし。
ゲームなども大好きで、あらゆる方法で、子供の心を掴む技を知り尽くしている。家庭的な事はほぼ全て出来るし。その一方、子供の事もちゃんと理解出来ている凄い偉人だ。
なお元々超凄腕の傭兵らしく。
戦闘技術を叩き込んでくれるという話も聞いている。
フィンブル兄も、ある意味シスターグレースの弟子の一人、というわけだ。
シスターグレースの他に、珍しい人が来ていた。
昔、たまに見かけた女性で。
確かパメラ、だったか。
長身のヒト族女性で。ふわりとした豪華なドレスを着ているのだが。とにかくつかみ所がなく。
いつの間にかいて。
いつもつかみ所のない笑みを浮かべている。
スールはどうしてかこの人が凄く苦手な様子で。
パメラさんはいつも苦笑いしていた。
二人に挨拶。
パメラさんはシスターグレースも一目置くほどの人物らしく、時々かなり真剣な話をしているのを聞いている。
マイペースな様子のパメラだが。
それでも、そんな話に時は、丁寧に応対しているようだった。
「まあ、リディーちゃん。 随分大きくなったわね」
「はい、ありがとうございます、パメラさん」
「それでどうしましたか?」
「はい、実は……」
人手が足りない。
素直にシスターグレースに相談する。
此処の人脈は相当に巨大で。
或いは適切な人材が見つかるかも知れない。そう思ったのである。
傭兵のたまり場である酒場に突っ込むのはスールに任せるとして。リディーは、最初は騎士団。次は教会と。
人脈を辿るように動いてみる。
そういう事だ。
「此処にわざわざ人捜しと言う事は、余程大変な仕事のようですね」
「はい。 グリフォン狩りに同行してくれそうな人、思い当たりませんか」
「ふむ、グリフォン狩り……私が出向いてもよいのですが、その間此処をパメラが預かってくれますか?」
「ダメよお。 此処はグレースちゃんの教会じゃない」
グレースちゃん。
パメラさんは二十代くらいに見えるが。
そういえば、一度何かが原因で、スールが大泣きしたことがあって。パメラさんが原因らしいのだ。
あれ。
スールは昔からお化け嫌いだったけれど。
確か決定打になったのは、その時以来だったような気がしてきた。
なんでだろう。
いずれにしても、ちゃんづけで呼ばれて怒りもしないシスターグレースを見ていると、何かあると言う事だけは確実だが。この人を怒らせると、尋常では無く恐いのだから。
「では仕方が無いですね。 紹介状を書くので、今回だけという条件で同行して貰うと良いでしょう」
「はいっ。 どんな人ですか」
「私の娘です。 私同様、戦略級の傭兵です。 本来なら雇用費がかなり厳しいのですが、一度だけという条件で、貴方たちにも払える金額での雇用を受けて貰いましょう」
アトリエに戻り。
収穫がなかったらしいスールと一緒に、貰った紹介状を元に街を歩く。何しろ広い街である。
行ったことがない場所もたくさんある。
そんな中の一つが。
指定された地区だった。
ちょっと治安が良くない様子なので、少し不安だ。見るからに柄が悪そうなのも屯している。
これは、誰か護衛がいた方が良かったかなと想ったら。
丁度通りすがったフィンブルさんが、声を掛けてきた。
「何だお前達、こんな所に」
「あ、フィンブル兄!」
「ちょっとその……人を探していて」
「しゃあねえなあ。 今日はもうゆっくりしようと思ってたんだが。 ちょっとだけ護衛してやるよ」
フィンブルさんは傭兵だし、流石に武装していなくても、戦闘技能持ちというのは一目で周囲に分かるのだろう。
それで、露骨に周囲から感じる「圧」が減った。
助かる。
荒くれ達の住む街の一角に。最近まで空き屋だった、という家があるが。今、中から不気味な笑い声が聞こえてきていた。
スールが見る間に真っ青になって、回れ右しようとするが。
リディーはその手を掴んで逃げられないようにすると、住所が此処で間違いない事を確認。
フィンブルさんは呆れた様子でそれを見ていた。
スールを引き戻し。戸をノックする。
「あのー、すみません……」
「はい?」
中から出てきたのは、黒髪をボブに切りそろえた長身の女性だ。確かに、グレースさんの面影がある。
奥は。
ぞっとした。
無数の人形が林立していて。へんなおじさんが高笑いを上げながら、人形をなにやら弄っている。
スールがそれをみて、立ったまま失神した。
「あ、あのあの……シスターグレースから紹介されて来ました」
「お母さんから? どれ」
「……」
ドロッセルさんというらしい人は。
手紙を見ると、ふうんと頷く。確かに家の奥に、身の丈大の凶悪なバトルアックスが置いてある。
「なるほど、傭兵業か。 いいよ。 ただし条件あり」
「何でしょう」
「まず同行は一度だけ。 この手紙通りの値段ではね。 それ以降は、もし私を雇いたいなら、きちんとした料金を払って頂戴」
「分かりました!」
それについては最初からそのつもりだ。
咳払いすると、ドロッセルさんはもう一つの条件を告げる。
「錬金術の装備は作れるね?」
「はい、まだ一つだけ、ですけれど」
「じゃあそれを譲り受けるわ。 それを条件に、一度だけ同行してあげる」
かなり厳しい条件だ。
だがこの人、見るからに無茶苦茶強い。まだ二十代のようだが、今まで見てきた傭兵とは格が違う使い手だと一目で分かる。
これなら、むしろ安く雇えたと思って、喜ぶべきだろう。
お願いしますと頭を下げると、契約書にサイン。その後、気絶したままのスールを引きずって、人形の館を後にする。
フィンブルさんが、一応地区の出口まで送ってくれたが。
スールが正気に戻ったのは、アトリエについてからだった。
わんわん泣き出す。
「やだあ! 凄く恐かった! 何あの家!」
「こら、手伝って貰えるんだから、そんな事言わないの」
「恐いものは恐いもん!」
「はあ」
スールはどうしてこう、肝心なところでダメなのか。
兎に角スケジュールを組む。
出立は三日後。
それまでに。
やるべき事は。全て済ませなければならない。