暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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強敵との戦闘で少しでも事前に戦力を上げるのは当たり前の話です。

まあ今回は、運良くむっちゃ強い助っ人を呼べた。それだけです。

とはいっても、ソフィー先生が裏から見ているので、あまりにも簡単になりすぎて成長を促さないと判断した場合は、後から色々追加したりしますが……


3、死闘

王都の城門に皆集合。ドロッセルさんをさっそく口説こうとしていたマティアスさんだったけれど。

 

ドロッセルさんが、笑顔のままその辺の石を握りつぶしてみせると。

 

そのまま黙り込み。

 

二度と軽口を聞こうとはしなかった。

 

意味不明なほどでかいバトルアックスを担いでいるから怪力なのは分かりきっていたけれど。

 

まさか石を握りつぶすほどとは。

 

荷車が二連になっているのを見て、アンパサンドさんが目を細める。

 

「荷車を増やしたのですね」

 

「積載量に問題がありすぎると思っていましたので。 でも、アトリエの入り口を通れないと本末転倒なので、二台にしました」

 

「アルファ商会で売っている自走式のにすれば、もっと楽になりますよ」

 

「ええと……お財布と相談します」

 

苦笑いするしかない。

 

ただ戦略物資と言う事は、或いはもっとアトリエランクが上がれば、譲って貰えるかも知れない。

 

最下級のGランクとはいえ。それでも国家公認錬金術師になった途端、これだけ収入が増えたのだ。

 

Eランクくらいになると、騎士団との連携任務にも出るようになるようだし。

 

その頃には、或いは。

 

支出を丁寧に管理すれば、手が届くかも知れない。

 

そのまま、試験の指定があった場所へ急ぐ。

 

此処から街道を行くのだが。

 

案の定、森で守られていない場所だ。途中、かなり獣の気配がする。ドロッセルさんは巨大なバトルアックスを担いだまま、平然と走ってきているが。まるで疲れている様子も無い。

 

この分だと。或いは獣の腕輪の強化分なんて、誤差程度にしか感じていないのかも知れない。

 

戦略級の傭兵だとすると、恐らく錬金術師との合同任務にも参加したことがあるはず。

 

錬金術の装備は、使い慣れているのだろう。

 

最初の宿場町に到着。

 

そのまま急いで、次の宿場町まで行く。

 

王都から離れれば離れるほど、獣が大きくなっていくのが、傍目にも分かる。途中、かなり大きな猪が街道でもあるにも関わらず仕掛けて来たので、仕留める。ドロッセルさんは、いきなり躍りかかると、一撃で猪の首を刎ねた。

 

「ま、私の実力はこんなとこ。 満足していただけたかな?」

 

「充分なのです」

 

「……こええ」

 

マティアスさんの素直な感想が面白い。

 

猪を吊ると、その場ですぐに捌いて。肉などは燻製に。皮は剥ぎ取ってなめすための準備をしておく。

 

作業が終わったら、すぐにまた次の街へ急ぎ。

 

到着したのは、夕方を少し過ぎた頃だった。

 

既に周囲は、危険な殺気に満ちている。

 

「この辺りが王都周辺だと一番危ないんだ」

 

フィンブル兄がいう。

 

話によると、この少し先には、一万の人口を抱える都市があり。そこは最近大規模に手が入ったとかで。周囲の獣も危ないのがあらかた駆除されているという。

 

一方この辺りまでは、その開発の手が入っておらず。

 

この間ネームドの大規模な掃討作戦を凄腕の錬金術師と騎士団が合同で行い。街の近くに住んでいるネームドはあらかた片付けたらしいけれど。

 

それでも集落の周辺は、相変わらず危険。

 

グリフォンの営巣地なんてものがある事からも分かるように。

 

危険な獣が大勢出ると言う。

 

更に言うと、少し離れた所には、匪賊がかなりいるそうだ。

 

匪賊。

 

ぞっとした。

 

人を喰らう、人間の道を最低限まで踏み外した者達。

 

いるのか、この近くに。

 

確か、治安が悪い街だと、匪賊が入り込んでいる事があると言う話は聞く。腐りきった役人や商人は、匪賊と取引をして。彼らが「食糧調達」のついでに奪い取った品々を仕入れて、売りさばいたりもするのだとか。

 

文字通り鬼畜の所行だが。

 

いずれにしても、油断は出来ない。

 

この街も灰色だ。

 

街を守るだけで精一杯。

 

身を寄せ合うようにして、小さな家々が並んでいて。

 

ボロボロの城壁には、これまた弱々しい櫓が幾つか建ち並んでいるだけ。

 

人口は二百人といないだろう。

 

この様子だと自警団の規模はせいぜい十人。

 

此処の自警団に手を貸せ、とはとても言えない。

 

街の周囲には畑があるが、手はそれほど入っていない。ゾーバと呼ばれる荒れ地でも育ちやすい穀物を作っているようだが。これは兎に角まずい事で知られている。

 

リディーも時々食べるのだが。

 

人間の食べるものじゃない。

 

どれだけ工夫してもまず美味しくならない。

 

だから此処の人達も、ゾーバを食べて暮らさなければ行けないのだとしたら、大変だろうな。

 

そうとしか、リディーには思えなかった。

 

宿を取り。

 

グリフォン狩りの話をする。

 

今回は、先に地図をアンパサンドさんが持ち込んできていた。

 

「騎士団の任務時は、国が作った地図を使っていたのですけれども。 前回の失敗でこりたのです。 とりあえず、これならばある程度は正確なはずなのです」

 

「グリフォンの営巣地は此処か。 ちょっと見てこようか? 今の時間なら、あいつら寝てるし」

 

「えっ!? だ、大丈夫ですか」

 

「自分も行くのです」

 

頷くと、二人して出かけていく。

 

マティアスさんは、苦虫を噛み潰したような目でその背中を見送った。

 

宿といっても、小さなもので。

 

部屋も五つしかない。

 

下にある共用の食事部屋も、テーブルが二つだけ。なお、借りているのはリディー達だけだった。

 

宿場町なので他にも宿はあるみたいだけれど。今日はリディー達以外に利用者はいないようである。

 

なお、夕食も当然のように出なかったので。

 

さっき仕留めた猪を食べるしかなかった。

 

台所は貸して貰えたので。

 

燻製にしておいた肉を料理し始める。

 

宿の主は胡散臭いものでも見るように此方を見ていたが。

 

もう気にはしていられなかった。

 

適当に食事を開始していると。

 

戻ってくるドロッセルさんとアンパサンドさん。

 

そういえば、偵察というのは、手練れがやるものだと。

 

最近ようやくアリスさんに教えて貰った。

 

今回は最大戦力であるドロッセルさんが出たが、こういうのを大物見というらしい。

 

まあ中核戦力が現地を見てくるのだから。

 

勝率も上がる反面。

 

危険度も跳ね上がる。

 

そういうものだ。

 

「どうでした?」

 

「営巣地という割りには小規模かな。 グリフォンは小さめのが五。 あれなら潰すのは難しくないと思う」

 

「それでも危険は大きいのです。 一匹ずつつって各個撃破するのです」

 

「巣同士は離れているから多分できるとは思うけれど」

 

「あ、質問です」

 

リディーが手を上げると。

 

アンパサンドさんが頷く。

 

「グリフォンが巣を作るという話は聞いていましたけれど、子育ては両親でやらないんですか?」

 

「グリフォンは雄が巣を作って、卵を雌が産むと、後は雄がずっと子育てをする習性を持っているのです」

 

「全部雄任せなんですね」

 

鳥にも色々な性質を持ったものがいると聞いているが。

 

雄が全部面倒を見るというのも、面白い習性かも知れない。

 

ドロッセルさんは、頭を掻きながら言う。

 

「これが結構厄介でね。 グリフォンは卵をすぐに作って産む事が出来る習性を持っているんだわ。 鶏と同じようにね。 要するに、雌は色々な雄と交配して卵を産んで廻り、雄が卵や雛の面倒を見る方が効率的なの。 営巣地を作るのも、雄が巣を開けても雛を襲われづらくするためだよ」

 

「それは、厄介ですね」

 

「だからちゃっちゃと片付けよう。 幸い、グリフォンの卵が無事に孵る確率はそれほど高くないらしいからね。 ……もっとも、どうせグリフォンを殺し尽くしても、どこからか湧いてくるんだけどさ」

 

そういえば、聞いた。

 

あり得ない場所から、獣が湧いてくる事がしょっちゅうあると言う。

 

この世界では、荒野から獣が際限なく湧いてくる。

 

きっとグリフォンも、なのだろう。

 

それはそれとして、交配して増えもすると言うのだから。

 

厄介極まりない話だ。

 

食事はしっかりしておいて。

 

その後、明日の作戦について話す。

 

地図を見る限り、他のグリフォンを監視しながら、一匹ずつ釣って片付けるのが一番現実的だ。

 

複数に襲われた場合も、ドロッセルさんがいるから、ある程度安心感はある。

 

ただ。最悪の事態に備えて、常に手は打っておかないと危ないだろう。

 

手持ちのカードは全てドロッセルさんとアンパサンドさんに開示。

 

しばし考え込んだ後。

 

ドロッセルさんは言う。

 

「最悪の事態は、五体同時にグリフォンが仕掛けて来た場合だけれども、その時は私が殿軍する」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫なわけはないけれど、まあ何とかするよ。 そうならないように、釣りは上手にね」

 

「分かっているのです」

 

地図上で、アンパサンドさんが指を動かす。

 

営巣地から少し離れた地点。

 

盆地になっている場所がある。

 

そこに敵を釣り出し。

 

一匹ずつ潰す。

 

それで良いだろう。リディーも、それで異存はなかった。

 

後は、明日に備えてしっかり眠る。

 

戦いが苛烈になる事は分かりきっているし。

 

明日を生きて越えられるかも、また分からなかった。

 

 

 

早朝。

 

陽が出る少し前に動きを開始する。アンパサンドさんが釣ってくると言うので、予定地点の盆地に潜む。盆地にいた小物の獣は、すぐに処置した。

 

グリフォンの恐ろしさは、兎に角大きい事だ。

 

リディーも本物は殆ど見た事がないが。

 

騎士団が、凱旋して死体を運んでいるのを、街中で見た事がある。

 

とにかくとんでも無く大きい。

 

あれと、今から戦うと思うと震えが来る。

 

それに、ドロッセルさんに頼りっきりというわけにもいかないだろう。ドロッセルさんも、今回だけの手伝いと言っているし。できるだけ自分達だけで倒す事を考えなければいけない。

 

ほどなく。

 

手をかざして、岩の上に身軽に上がっていたドロッセルさんが、ハンドサインをだしてくる。

 

予定通りの地点に、全員移動。

 

凄まじい勢いで、中空から躍りかかってくるグリフォンと。

 

それをいなしながら、此方に戻ってくるアンパサンドさん。

 

グリフォンは一匹。

 

まずはさい先良し、だ。

 

準備通り、此方もハンドサインを送る。

 

アンパサンドさんはグリフォンを引きつけながら、盆地に入り込み。

 

そして、完璧なタイミングで。

 

スールがフラムを投擲。

 

全員が爆圧の届かない所に避難し。

 

そして、炸裂するのを確認した。

 

文字通り。

 

その場に太陽ができたかと、思うほどの火力だった。

 

試行はしていたから、威力については知っていたのだが。

 

爆音だけで、鼓膜がやられそうである。

 

強烈な破壊の熱と風にやられて、それでもグリフォンは生きている。凄まじい雄叫びを上げると、傷だらけのまま、アンパサンドさんに襲いかかる。その巨大さは、傷だらけになっても変わらない。威圧感は今まで見たどんな獣より凄まじい。鳥の頭と翼、獅子の体を持つ最強のバケモノが、雄叫びを上げながら躍りかかってくる。それだけでも、全身が震えあがる。

 

その突進をマティアスさんが防ぐ。

 

そして、同時に腹にフィンブルさんがハルバードを叩き込み。

 

スールが逆側から銃弾を雨霰と浴びせる。

 

竿立ちになった所に、アンパサンドさんが躍りかかり、グリフォンの目にナイフを突っ込む。

 

アンパサンドさんを刎ね飛ばそうとする傷だらけのグリフォン。

 

暴れ回るだけで、周囲が抉られる。

 

岩が吹っ飛ぶ。

 

凄まじいパワーだ。

 

これでも一番弱いグリフォンだというのだから、本当に困る。ともかく、どうにかするしかない。

 

詠唱を終え。

 

強化魔術発動。

 

力を更に倍増しにしたマティアスさんが、一気にグリフォンを斬り伏せる。

 

しばし痙攣していたグリフォンだが。

 

やがて動かなくなった。

 

呼吸を整える。

 

まずは、一匹。

 

これで、一匹。

 

空中でフラムの爆圧をモロに喰らったのに、それでも平然と動いていた。死体を引きずって、盆地から出す。そして、捌いてしまう。完璧に作戦通りにいったのに、それでもこれだけ苦戦した。冗談じゃあないとしか言えない。今後は、もっと強いのを、もっと悪い条件で仕留めていかなければならないのだ。錬金術師が過酷な仕事である事を、嫌でも思い知らされる。半人前が、こんなのと戦っているのだ。

 

ドロッセルさんは、肉の切り分けがとても手際いい。多分殺した事があるのだろう。

 

肉はあまり美味しくないらしいけれど。

 

贅沢は言っていられない。

 

それと皮が非常に強固で、色々と使い路がありそうだ。また羽毛も大きく、非常に巨大で。なおかつさわり心地がいい。

 

これで大人しければ。

 

モフモフだったのかもしれないけれど。

 

無いものをねだるわけにも行かない。

 

グリフォンは容赦なく人を襲い、蹂躙していくのだ。

 

殺すしかない。

 

一匹目の処理が終わったので、次に取りかかる。準備を整え、小さな傷も残さず、薬できちんと治しておく。

 

再び、アンパサンドさんが釣りに出る。

 

手をかざして見ていたドロッセルさんが、ちっと舌打ちした。

 

「まずいね。 二匹来る」

 

「アンどじった!?」

 

「いや、そうじゃあないかな。 多分一匹目が釣られて、またアンパサンドちゃんが来たのを見て、グリフォン側も同類が死んだ事に気付いたんだろう。 もう二匹は、巣がかなり離れているから、我関せずと言う所だね」

 

立ち上がるドロッセルさん。

 

一匹は引き受けてくれるという。

 

頷くと、迎撃の態勢に入る。

 

ただ、今回ドロッセルさんには、あくまで顧問という形で来て貰っているのだ。あまり頼るのは好ましくない。

 

どうにかして、五匹を。

 

リディーとスールと。普段一緒に戦っている者だけで撃破したい。

 

この後、何かトラブルがあるかも知れない。だから、あまり贅沢は言っていられないのだけれども。

 

まずは敵を退けることからだ。

 

二匹が時間差をつけてくる。

 

アンパサンドさんが、可能な限り時間差をつけるように、上手に立ち回ってくれている、と言う事だ。

 

一匹が此方に気付いて、雄叫びを上げる。その翼に、ドロッセルさんが投擲した斧が突き刺さった。

 

地面に激突するグリフォンに、躍りかかっていくドロッセルさん。その剽悍さは凄まじい。

 

一方もう一匹は、空高く舞い上がると。此方に向けて飛んでくる。

 

ハンドサインを出して、スールが頷く。

 

だが、途中でグリフォンはいきなり高度を上げる。アンパサンドさんがハンドサインを出してくる。

 

防げ。

 

とっさにマティアスが剣をかざして術を発動するが、間に合わない。凄まじい勢いで、羽毛が辺りに突き刺さる。初撃はマティアスを狙ったようだったから、他の皆には当たらなかった。マティアスも良い鎧を着ているからか、死ななかったが。それでも、直撃した幾つかの羽毛には、下手なダンスを踊らされていた。

 

ぞっとする。

 

羽毛が、地面に食い込んでいる。それも半ばまで。下手な魔術が掛かった斧よりも突破力がある。

 

こんなの他の人が喰らったら即死確定だ。

 

更に二撃目。

 

マティアスさんの剣がシールドの魔術を展開して防ぐ。更に鎧についている小さな盾も駆使して、どうにかマティアスさんが爆撃を止めるが。次の瞬間には、グリフォンそのものが、マティアスさんに突撃を仕掛けて来ていた。

 

単独での時間差攻撃。

 

獣に知能がないというのは本当なのか。

 

何しろ巨体。それに高高度からの全速力突撃。

 

その破壊力は、想像を絶する。当たり前の話だ。

 

爆圧で吹っ飛ばされて、リディーは悲鳴を上げて投げ出される。接近戦に持ち込まれた時点で、もうフラムで吹き飛ばすどころじゃない。どうにかして倒すか、距離を取るしかない。

 

追いついたアンパサンドさんが、グリフォンの背中に飛び乗ると、切り裂きながら走るが、まるで効いていない。だが、背中に乗られたこと自体が頭に来るのか、グリフォンが叫びながら暴れ狂う。フィンブルさんもスールも近づけたものじゃない。リディーは詠唱をしながら、必死に好機を窺うが、マティアスさんの魔術シールドが赤熱してきているのが分かった。

 

負荷が、かなり危険な状況と言う事だ。マティアスさんも真っ青になって、必死になっているが。

 

あれがぶち抜かれたら、多分一瞬でミンチだ。

 

呼吸を整えながら、一旦距離を取るようにハンドサイン。チャンスを窺うしかない。必死に飛び退くマティアスさんを支援するように、アンパサンドさんがふわりと布をグリフォンの前に落とす。

 

視界を一瞬防ぐというだけで、充分に嫌がらせになる。

 

何でも使えるものは使うと言うことだ。

 

必死に盆地から這い出た瞬間、暴れ狂うグリフォンが吹き飛ばした岩を、フィンブルさんが即答してハルバードで防ぐ。流石に下ろし立てだが、あまり良い音じゃなかった。フィンブルさんも顔をしかめている。今の負荷はかなり大きかったのだろう。それに今の岩、放置していたらスールの顔面を直撃していた。多分痛いどころか、スールの顔面を地面に落とした果実のように砕いていただろう。

 

アンパサンドさんが、グリフォンを徹底的に怒らせて、時間を稼いでくれているが。

 

何しろちょっと腕を振るうだけで地面が抉れ。岩が吹っ飛び。

 

咆哮だけで風圧が生じるような巨体だ。

 

そんなに長くは保たない。

 

マティアスさんがようやく盆地から這いだしてきて、それでやっと体勢を整え直せる。ハンドサインを飛ばす。

 

頷いたアンパサンドさんが、ナイフで相手の足の裏を抉り。

 

そのまま残像を抉らせる。

 

即座にアンパサンドさんに羽毛を飛ばすグリフォンだが。

 

その頭上には、スールの投げたフラム。

 

爆裂。

 

悲鳴を上げるグリフォンは、全身から血を噴き出しながらも、まだ生きている。至近距離で直撃したのに。

 

だが、攻勢に出るタイミングだ。

 

クラフトを投擲。

 

爆裂。

 

煙をぶち抜いて、全身を膨らませるようにして威嚇するグリフォン。つまりまだ生きている。

 

だが、リディーの魔術が完成して。やっと攻勢に出られたマティアスさんが、躍りかかる。しかし、即応したグリフォンが、はたき飛ばす。小さな盾で防ぐが、思いっきり吹っ飛ばされた。地面でえぐい転がり方をして、えぐい音を立てたが。多分生きている筈だ。

 

本命は次。

 

強化魔術を掛けたのは、フィンブルさんである。

 

首筋の傷に、寸分違わずハルバードを叩き込むフィンブルさん。

 

ハルバードは、貫通した。

 

それでも、なおしばらく暴れていたグリフォンだが。

 

更にとどめのドロップキックをスールが叩き込むと。

 

首がねじれたまま地面に倒れ、動かなくなった。

 

マティアスさんが、よろよろと立ち上がる。

 

「お、おいい! リディー! 俺様に強化魔術掛けるんじゃないの、あの場合!?」

 

「いえ、さっきのシールドと防御力で、グリフォンは思いっきりマティアスさんを警戒していましたので」

 

「ああ、そういう……でも滅茶苦茶恐かったから、もうやめて?」

 

「そういうわけには」

 

今のはいわゆる二の矢だ。アリスさんに叩き込まれた戦術の基礎である。マティアスさんがスールみたいな泣き言を口にしているけれど、それは聞くわけにはいかない。実の妹の泣き言だって聞くな。そうアリスさんには言われているのだ。戦闘では殺す殺さないの駆け引きが行われる。

 

そして此処で殺し損ねたら。

 

増えたグリフォンが、抵抗できない弱い人を殺すのである。

 

ドロッセルさんはというと、もうとっくにグリフォンの首を叩き落としたらしい。悠々と、無傷のまま歩いて来る。返り血も浴びていなかった。本当に危なくなるまで介入しないつもりだったのだろう。この辺り、徹底している。確かに契約の時そうしたけれども。何というか、人形大好きなお姉さんと。戦鬼としてのドロッセルさんは。完全に「切り替えて」いるのだろう。

 

アンパサンドさんも来るが。彼方此方擦り傷を作っていた。風圧だけでできた傷だろう。小さなホムには、あの暴力の塊と真っ正面からやりあうだけで、これだけ危険だという事である。

 

死体を引きずって来て。

 

解体。

 

残るは二体。そう言い聞かせて、まずはけが人の手当をする。

 

マティアスさんは、殆ど怪我をしていなかった。本当に優秀な鎧と剣なんだなあと感心してしまう。

 

ただ顔とか露出部分には怪我をしていたので。

 

それは薬を使う。

 

もう散々反復練習をして作り慣れた薬だ。傷は溶けるように消える。まだイル師匠の奴のように、体力や、体内の傷までは回復出来ないが。

 

後は、ドロッセルさんが見張りに立つという事で。

 

その間に皆で、グリフォンの肉を焼いて食べる。話通り、鶏肉と羊肉か何かのまずいところを足したような味で。しかも肉が固い。しっかり下ごしらえをしても、これでは食べるのに相当苦労しそうだが。いずれにしても今はそんな時間もない。まだ二匹グリフォンは残っているのだ。

 

肉にもしっかり火を通しておかないと。

 

後でおなかに虫が湧くことにもなる。

 

おいしくもない食事を無理矢理おなかに詰め込むと、少し寝て休むように言われた。此処で。聞き返すスール。此処で。応えるドロッセルさん。

 

容赦ない。

 

半泣きになるスールに、荷車の中で眠れば良いとアドバイス。

 

リディーは、岩陰に隠れて少しだけ眠る。時間はあまりない。ドロッセルさんは今回だけ、条件付きで格安で来てくれているのだ。

 

一刻ほど休んだ後。

 

起きだして、皆で体調の申告。

 

全員問題なしという事で。

 

そのまま、残る二匹を処理に掛かった。

 

 

 

最後の一匹を仕留めたときには、もう夕刻をだいぶ回っていた。急いで宿場町へ移動する。

 

荷車には、グリフォンの卵もある。

 

まだ雛になっている奴はいなかったけれど。もしいたら、その場で皆殺しにしなければならなかった。

 

流石にそれはかなり心が痛むけれど。

 

殺さなければ、いずれ成長し。

 

しかも人間に恨みを持って、襲いかかってくるのである。

 

いや、知能がないから、結局人間に襲いかかってくるだけか。しかし、戦闘していて疑問に思うのだ。

 

獣は当たり前のように戦術を使いこなし。

 

個体によっては魔術も使いこなしている。

 

本当に知能がないのか。

 

宿に戻る。

 

また誰もいない。

 

疲れ切っている。だから、アンパサンドさんが見張りについてくれるという話を聞くと、本当に申し訳ないと思いながら、頼むしかなかった。

 

そしてアンパサンドさんに礼を言いながら。

 

ベッドが汚いとだだをこねるスールに言い聞かせて、さっさと休むのだった。

 

文字通り貪るように眠って。

 

翌日の早朝には目を覚ます。

 

あれだけぶーぶー言っていたスールも。

 

朝起きると、アンパサンドさんに教わった変な運動をしっかりこなしている。なんだかんだで、こういう所ではきちんとできる子だ。

 

朝起きるのも辛いだろうに。

 

リディーは宿の主人と話をして台所を借りると。

 

少し思案した後。

 

外で売っていたあまり美味しくない野菜を買い取ってきて。グリフォンの肉とで野菜炒めを作った。

 

ほぼ寝ずの番だっただろうアンパサンドさんに先に声を掛けに行き。

 

そしてマティアスさんとフィンブルさんにも。

 

ドロッセルさんはというと。実はアンパサンドさんと交代で荷車の見張りをしてくれたらしく。

 

外で朝方、アンパサンドさんと話していた。

 

一緒に食事にするが。

 

やっぱり美味しくないものは美味しくない。

 

みんなで食べれば美味しいという言葉もあるが。

 

それは嘘だ。

 

一人で食べるのが好きな人だっているし。

 

みんなで食べるのが好きな人もいる。

 

何より、あくまで美味しいものをみんなで食べればもっと美味しい、というのが実情であって。

 

どんなに工夫しても、まずいものはまずいのだ。

 

燻製にしているから、一晩寝かせても余り関係は無い。

 

やっぱりまずいグリフォン肉と野草の炒め物をおなかに無理矢理突っ込むと。

 

早々に切り上げる事にする。

 

多分無いとは思うけれど、グリフォンの卵が孵ったりしたらそれこそ目も当てられないからである。

 

なお巣については。

 

もう使えないように、みんな撤去してきた。

 

これで仕事はきちんと果たしたはずだ。

 

小さいとは言え営巣地は潰したのだから。

 

自分に言い聞かせながら、そのまま王都へ急ぐ。途中でも何度か襲われたが、運良く小物ばかりだったので、処理は難しくなかった。

 

王都につくと、城門で解散。

 

ドロッセルさんだけ残ってくれる。

 

「コンテナに荷物入れるんでしょ? そこまではやるよ」

 

「お願いします」

 

「助かりますっ!」

 

心底嬉しそうなスールだが。

 

リディーが思うに、フリだと思う。

 

スールはリディーでも知っているほど勘が鋭い。

 

多分ドロッセルさんは、今回グリフォン二匹に対応出来なかったことを、かなり内心で減点している筈だ。

 

この人はまだ若いのに戦略級傭兵。それだけ修羅場をくぐっていると言う事で、コンテナ云々の話をしだした事から言っても、ほぼ間違いなく凄腕の錬金術師と一緒に旅をした経験がある。

 

その上で呆れられていると見て良い。

 

良い事の筈が無かった。

 

「獣の骨もしっかり使い路があるからね。 グリフォンのような大型獣の頑強な骨だとなおさらだよ」

 

「はい。 ありがとうございます」

 

「素直でよろしい。 じゃ、手伝いはもういいかな?」

 

「助かりました。 大丈夫です」

 

二人で頭を下げると。

 

やっぱり異常なほど手際よくコンテナへの納入を済ませてくれたドロッセルさんは、悠々と帰って行った。

 

ドロッセルさんがいなくなると。

 

はあと露骨にスールが嘆息した。

 

「恐かった……」

 

「やっぱり猫被ってた」

 

「だってあの人、ずっとスーちゃん達観察してたんだよ。 グリフォンなんかより何倍も強い人が! アンパサンドさんも厳しい目で見てたけど、あの人意図とか意思とか全然読めなかったし!」

 

「それで恐かったんだ」

 

めそめそするスールは、先に休ませる。

 

リディーは連結式の荷車を引いて、王城へ行くと告げたが。そうすると、スールは飛び起きた。

 

自分も行く、というのだ。

 

疲れているなら良いと言うのに。

 

でも一緒に行きたいと言われると、断り切れない。

 

ともかく、行くと言うのであれば、まあ良いだろう。スールに荷車を引いて貰って、一緒に王城へ。

 

なお。グリフォンの首をいつつと、巨大な卵を十数個載せているので。

 

やはり荷車は布でかぶせて、周囲に何を載せているのかは分からないようにした。ただでさえ評判が悪いのだ。

 

ポンコツとまで陰口をたたかれている程なのである。

 

これ以上、評判は下げられなかった。

 

王城に入って、役人に話をする。

 

すぐにモノクロームを掛けたホムの役人が出てきて、依頼の納品を受け付けてくれる。アンパサンドさんによると、騎士団の方でも手続きをしてくれると言う話なので、それとも照会するのだろう。

 

しばし、座ったまま待たされる。

 

前にパイモンと言われていたナイスミドルの錬金術師が来て、別の納品をしていく。無茶苦茶難しそうな道具だ。あの人も多分アトリエランク制度の参加者なのだろう。

 

休憩を始めたので、話を聞いてみると。

 

何というか、違和感があった。

 

「わしをおじさん、くらいに見ているかね」

 

「は、はい。 違うんですか?」

 

「錬金術にはアンチエイジングの技術があってね。 わしは老人から此処まで若返ったんだよ」

 

「……っ!?」

 

パイモンさんという人は苦笑いする。

 

昔、パイモンさんは、ラスティンの辺境の村にいたそうだ。錬金術師であっても機会がなくて、公認錬金術試験も受けられず。

 

奥さんもなくし。村も救えず。困り果てていたという。

 

何とか身辺の整理と、村の守りを確立させたのが既に老境。

 

だが、死ぬわけには行かないと、一念発起して公認錬金術師試験に出て。そしてその過程で、アンチエイジングの技術も習得。

 

「二人の若い錬金術師と一緒に旅をしたんだが、この二人が兎に角もの凄くてね。 ばりばりと刺激をたくさん受けた。 そして負けるものかと自分を奮起させて、技術を磨いたんだよ。 そうしたら、爺でもすっと新しい知識が頭に入ってくるようになってね」

 

「そ、そんなものなんですね」

 

「錬金術は才能の学問だ。 行けるところは決まっている。 だが、わしはまだ行ける所に到達しきっていなかったらしい。 村を守るために、最低でも後数年は生きたいと思っていたが。 アンチエイジングには成功したし、体の病巣も自分で発見して全て取り除いた。 村の方の守りも目処がついたし、大変らしいアダレットに助けに来た、というだけだよ。 まあ爺の余生の余興だな」

 

感心して話を聞いてしまう。

 

ほどなく役人に呼ばれたので、試験の結果を聞きに行くが。

 

やはり、即答はしてくれないようだった。

 

「翌日、結果は知らせるのです。 それと、既に告知してあると思うのですが、この試験は二段階。 充分に準備はしておくのですよ」

 

「はいっ!」

 

「分かっています!」

 

「それでは、手続きは終わりです。 お疲れ様なのです」

 

頭を下げると、王城から出る。パイモンさんが次に呼ばれて、同じような説明を受けていたようだった。

 

老いてもなお現役か。

 

あの人、若い天才と変わらず凄いと思う。

 

スールも、そう思ったようだった。

 

「お父さんも、あんな格好いいおじさんになればいいのに。 ああ、おじいさんか」

 

「……」

 

スールを促して、家に急ぐ。

 

まだもう一つ。

 

試験は残っているのだから。

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