暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

31 / 200
本作では、原作とちょっと双子と周囲の人間関係が違っています。

ルーシャは原作よりももう少し関係が分かりやすいです。まあこれは双子により強烈なストレスが掛かっていることと、ソフィー先生が粉を掛けたのが要因ですが。

ロジェさんは原作に比べて精神が不安定です。

これは双子が非常に危険な状態に置かれている事を、地力で察知したことも要因の一つですが。

原作よりこの人が真面目というのも理由の一つですね。


何故語り継がれる
序、久々の会話


二つ目の試験の開催通知をマティアスが持ってきて。スールはそれを受け取ると、内容を見て小首をかしげ。

 

それからようやく異常に気づいて驚いた。

 

「二つ目の試験は、お城の地下エントランスで行う!?」

 

「それなんだけれどな、俺様とアンも出るように言われてる。 フィンブルにも声を掛けておいた方が良いと思うぞ」

 

「ちょっとまって、それって戦闘が想定されるって事ですか!?」

 

「そういう事になるな」

 

リディーの言葉を聞いて、スールは考え込む。

 

城の地下で。

 

わざわざ錬金術師を招き入れて、しかも戦闘を想定する。

 

城の地下に獣の巣窟がある筈が無い。獣は荒野の何処にでも湧くが、街の中に湧くという話は聞いたことも無い。何より万が一を考えて、一番最初に駆除を行って、綺麗にしている筈である。

 

そもそもイル師匠とか凄い錬金術師が来ているのだから。

 

城の内部のようなクリティカルな拠点には、真っ先に凄腕が当たるはず。へっぽこ錬金術師のスールやリディーが配置される筈が無い。それも一秒でも早く、ではなく。試験などと悠長な形で、である。

 

ともかく、リディーが咳払い。

 

「分かりました。 準備はしておきます。 明後日、で良いですか?」

 

「ああ、それでいい。 じゃあ明後日って事で此方も手続きしておくわ」

 

「お願いします」

 

ぺこりと頭を下げるリディーに。

 

片手を上げ挨拶すると帰って行くマティアス。

 

はーあと、思わずスールは声を上げていた。

 

「わけがわかんない。 城の地下で、リディーとスーちゃんだけならともかく、どうして護衛まで?」

 

「いずれにしても戦闘の準備した方が良さそうだね」

 

「それは同意だけれど」

 

「フィンブルさんに声かけてきてくれる? 私は道具類の整理とかしておくから」

 

そう決まれば、手分けして動く。

 

まずフィンブル兄に声を掛けて来ると。

 

そのまま、コルネリア商会と、ラブリーフィリスを見に行く。

 

まだフィリスという人は見ていないけれど。

 

既に凄い名前の店があると周囲では噂になっているらしいので。

 

此処に姿を見せたら、きっと色々驚くだろう。恥ずかしくて外に出られなくなるかもしれない。

 

どちらの店にも、新しい本などは入っていなかった。

 

ただ。みずみずしい薬草や、新鮮なお魚が少し入っていたので。

 

買って帰ることにする。

 

薬草は使い路が幾らでもある。スールには魔力はあんまり良く見えないけれど、リディーなら見えるはずだし。何よりアルファ商会から商売を任されているお店で、インチキな素材を掴まされるとは思えない。

 

アトリエに戻り、リディーがスケジュールを立てているのを確認すると。

 

薬草とお魚を見てもらう。

 

お魚については、かなり新鮮な良い品だったので、リディーが料理してくれるという。ただ薬草については、小首をかしげられた。

 

「これ、なんだろう」

 

「あれ、リディー分からない?」

 

「図鑑でも見た覚えないよ。 後でイル師匠に聞いてみよう」

 

「うーん、何だか釈然としないね」

 

とにかく、一束をコンテナに入れると。

 

後はお魚の料理を食べて、明後日に備えて休む。

 

明日はクラフトを作り足し、お薬を作っておいて。そして試験に備えて早めに休む必要がある。

 

まだイル師匠から、金属加工を一人でやっても良い、という許可は出ていない。

 

スールはまだまだ基礎を反復練習。

 

リディーは戦略と戦術のお勉強。

 

それを一日みっちりやる。

 

疲れ切って帰ってきたリディーが、薬草については分かったと教えてくれた。

 

「これ、まだかなり手にするには早い代物だったみたい。 かなり高度な調合に使うものだって」

 

「それだとコンテナからは出せないね」

 

「うん、こればっかりは仕方が無いね」

 

「はあ」

 

肩を落とす。そして、まずは明日に備える。

 

グリフォン戦は相当に厳しかった。あれで街の人達は少しは安全に暮らせると信じたいけれど。

 

それでもドロッセルさんが言っていたように。

 

獣がいくらでも湧いてくるのが、この世界の理なのだ。

 

それならば、対処療法にしかならない事も分かっている。

 

かといって、危険な獣がみんないなくなったら、その時にはどうなるのだろう。多分世界の理が全てひっくり返るのではあるまいか。

 

ぞっとしない話である。

 

安易に獣を全部駆除、というのができてしまっても。

 

あまり良い結果が想像できない。

 

あくまで勘だが。

 

獣という存在があって。

 

ある程度、人間はやれているのではないか、という気がしてならないのである。これについては、勘以上でも以下でもないのだが。

 

スールの勘は当たるのだ。

 

食生活にも余裕が出てきたので。

 

夕食にも力が出るものを、リディーは準備してくれた。

 

もう肉も卵も珍しくない。雑草やら裏庭に生えていた茸やら食べていたのが嘘のようである。

 

そして、今回試験を突破出来れば。

 

更に生活を改善出来る可能性が上がる。

 

悪夢も見なくなったし。

 

確実に生活は改善している。

 

後もう少し頑張れば。

 

もっと良い生活が出来るようになるし。錬金術師としても、そろそろ半人前は卒業できる筈だ。

 

そう言い聞かせて。

 

翌朝。

 

お城に、万全の体勢で向かう。お城の前でフィンブル兄と合流。荷車を引いて受付を済ませると。マティアスが出てきて、地下エントランスに案内してくれた。そういえばアンパサンドさんはいないけれど。マティアスとだけ一緒に行くのだろうか。

 

階段はそれほど広くはなかったけれど。

 

荷車を降ろすためのスロープはついていた。ただこのスロープ、後から工事でつけたようにも見える。

 

これはひょっとすると。

 

錬金術師が来ることを、想定しているのかも知れない。

 

荷物や素材を運ぶためには、リュックはあらゆる意味で不利だ。

 

どんな錬金術師も、どのような形であれど、荷車は使う。

 

そういうものである以上。

 

この先は、錬金術師のために用意されている何かがある、という事である。

 

リディーもその辺りは分かっているようで。

 

緊張しているのが、スールにもすぐ分かった。

 

問題はこの先に何があるか、だが。いずれにしても、獣の臭いとかは感じ取ることができない。

 

ただ、漠然と。

 

凄く嫌な予感がした。

 

意外に長い間階段を下りていた気がする。

 

アダレットの王城とは言え、こんな巨大な地下施設があったというのは驚きである。

 

いや、何だか途中同じ階段を何周もしたような気がしたけれど。

 

気のせいだろうか。

 

ともかく階段が終わって、スロープから荷車が降りる。

 

がこんという音が計四回鳴って。

 

二連の荷車が降りきると。

 

ちょっとだけ安心した。

 

辺りは錬金術製らしい光を発する道具が置かれていて、昼間のように明るい。地下だろうと関係無い。

 

そして、エントランスの奥の方には。

 

何か、絵がたくさん展示されていた。

 

その手前に、三人の人影が見える。

 

一人はアンパサンドさんだが。

 

二人はあまりにも意外すぎる存在だった。

 

「ルーシャ!?」

 

「何ですの。 此処はお城でしてよ。 あまり大声を出さないでくださいまし」

 

「い、いや、なんで此処に」

 

「……」

 

口をつぐむルーシャ。

 

側にいるオイフェさんは相変わらず置物である。

 

代わりに、説明をしてくれたのはマティアスだった。

 

「お前ら、不思議な絵って知ってるか?」

 

ぞわりと全身が総毛立つ。

 

知っているに決まっている。

 

地下室にあったあの絵。

 

吸い込まれて、死にかけた事は、今でも恐い。

 

リディーが冷静に対応していなければ、多分確実に死んでいただろう恐怖。

 

忘れるわけがない。

 

「此処にあるのが不思議な絵だ。 これらの調査が、試験の第二段階って奴でな。 不思議な絵の中には今踏みしめてるこの世界とは別のルールがあって、内部からは貴重な資源も得られる。 だから自衛力のある錬金術師と、騎士団の精鋭、更に腕利きの傭兵なんかで調査をしているんだよ」

 

「あ、あう、り、リディー、帰って良い?」

 

「?」

 

「分かりました。 調査に、同行します」

 

ぐっと、リディーに手を握られ、引き戻される。

 

スールの様子がおかしいことはマティアスもすぐに察したようだけれども、小首をかしげるだけ。

 

悲鳴を上げそうになるが。

 

リディーは目配せする。

 

「出る方法は分かってるから、むしろチャンスだよ。 良い素材が手に入るかも知れないし」

 

「だ、だって、あんな見た事も無いバケモノが」

 

「殺せる事も分かってるし、何より前と今では全然違うよ」

 

そう言われて。

 

すっと落ち着いた。

 

そうだ、獣の腕輪を手に入れて。

 

強力な爆弾も作れるようになって。

 

手当のためのお薬だって、市販品なんて問題にもならないものを作れるようになったのだ。

 

アルファ商会の品にはまだ劣るが。

 

騎士団で正式採用しているナイトサポートを作っているのである。

 

千切れた腕くらいならくっつけられる秘薬を、である。

 

深呼吸して落ち着く。

 

そして、歩み出した。

 

アンパサンドさんが冷めた目で見ている。

 

ルーシャは、ずっと唇を噛みしめたままである。

 

「何よルーシャ。 追いつかれそうで悔しそうなわけ?」

 

「今此方はDランクの試験をもうすぐ受けられそうな状態ですのよ。 追いつくなんて到底無理ですわ」

 

「むっ……バカのくせに」

 

違う事は分かっている。

 

それなのにどうしても憎まれ口が出てしまう。

 

なんでだろう。

 

お母さんがいなくなる前は、ルーシャと凄く仲が良かったような記憶があるのに。どうしてこうなってしまったのか。

 

リディーもスールも分かっている。

 

ルーシャがずっと先を行っている錬金術師で。

 

その実力は確かで。

 

そしてリディーはまだ知らないかも知れないけれど。

 

一人前の錬金術師としての財力を生かして、悲惨なリディーとスールの生活を下支えしてくれていたことだって。

 

本当は、二人でごめんなさいといわなければならないのだろうに。

 

どうして憎まれ口ばかり出てしまうのか。

 

「何だか知りませんが、内部で喧嘩なんてしている余裕は無いのです。 ハンドサインの確認を」

 

「此方はもう覚えましたわ」

 

「いつものと同じだったら大丈夫」

 

「そうですか。 では行くのです」

 

アンパサンドさんに促されて。奥の絵の一つの前に行く。

 

ひいっと、思わず小さな声が漏れた。

 

其処に書かれていたのは、森。

 

ただし普通の森では無い。

 

お化けがたくさん徘徊していて。

 

腐りきった人間の死体や。

 

もっとおぞましいものがたくさん這いずり回り。

 

我が世の楽園を築いている。死者の世界の絵。

 

その迫力は凄まじく。

 

まるで、中にいる死者達が。此方を見ているかのようだった。

 

この中に入るのか。

 

かたかた足が震えているのが分かる。

 

「あら、スー。 まだお化け嫌いが治っていないようですわね」

 

「そういえばお化けが嫌だとか泣き言を言っていたのです」

 

「アンパサンドさんでしたわね。 スールってば、お化けがとても苦手ですのよ」

 

「そうなのですか。 誰にでも苦手なものはあるとはいえ、相性最悪の相手と戦うことに関しては同情はするのです」

 

容赦するとは一言も言わないのが平等なアンパサンドさんらしい。

 

リディーは頷くと、スールの手を引いて、絵の前に出る。

 

いや、と言おうとしたけれど。

 

もう次の瞬間には、荷車ごと、絵の中に吸い込まれていた。

 

 

 

気がつくと、其処は。

 

おぞましい臭気が立ちこめる、闇の森だった。

 

遅れて側にルーシャとオイフェさんが。

 

マティアスとアンパサンドさん、フィンブルさんが入ってくる。

 

びりびり感じる。

 

非常に危険な気配ばかりだ。

 

リディーにくっついて、がくがく震える。涙目になっているスールに、リディーは優しくしてくれない。

 

「ルーシャが指揮を執るの?」

 

「いいえ、今回はわたくしは護衛ですわ。 貴方が指揮を執りなさい」

 

「そう。 ほら、スーちゃん、立って」

 

めそめそしているスールを非情にも立たせると。

 

リディーはハンドサインを出す。周囲警戒、の意味だ。

 

絵の中には別世界が拡がっている。

 

それについては分かっているが。

 

それにしても凄まじい。

 

またあの黒いバケモノどもは出るのだろうか。

 

獣とはまた違う姿をしていて。

 

だが同じように、リディーとスールに情け容赦なく殺気をむき出しにして襲いかかってきた。

 

オイフェさんはガントレットをしているが。

 

まさか拳で相手を殴るのだろうか。

 

ルーシャは傘を差したまま。

 

この様子だと、何か拡張肉体を使って戦うのかも知れない。ずっと格上の錬金術師だし、できてもおかしくない。

 

呼吸を整えながら、ゆっくり周囲を見回す。

 

ダメだ。

 

お化けしかいない。

 

思い出してしまう。

 

パメラさんに教会で見せられた恐怖の宴を。

 

昔はお化けの話はむしろ大好きなくらいだったのに。

 

あれ以来。

 

実在すると。そして得体が知れないと思い知らされてから。

 

恐怖の対象となってしまった。

 

うけけけけと声を上げながら、生首が空を飛んで行く。ひいっと声を上げてしまうが、リディーにすぐ口を塞がれた。

 

試験開始。

 

アンパサンドさんが、視線を送ってくる。

 

此処を調査し。

 

踏破する。

 

それが、Fランクに昇格する条件。

 

逆に言うと、此処の環境くらいで生き残れないなら、話にならないという事なのだろう。

 

リディーはいつになく険しい表情だが。

 

それも当然だろう。

 

周囲の気配が森とは思えない。

 

無関係に、襲ってくる事は確実だ。

 

いつでも外に出られるように。

 

常に備えておかなければならなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。