暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
不思議な絵画はそれほど世界に多く存在していない。そもそも錬金術の奥義に近い場所にあるものであり。
最低でも一流と呼ばれる錬金術師にしか、作れないものだからだ。
何しろ、中に別の世界を作るのである。
あのパルミラの力の一部を行使しているのが錬金術の真実だとしても。
それを極めて高レベルに行わなければならない。
文字通り神の御技という奴で。
今、人間とは言い難い状態になっているわたし、フィリス=ミストルートでも。描けと言われたら、それなりに準備がいる。
丁度今。
威力を絞った矢を放って、レンプライアをまとめて串刺しにし、処理した後。
リア姉とツヴァイちゃんが警戒する中。
連れてきた騎士達が残敵を掃討するのを見届ける。
こうやって定期的に処理しないと、レンプライアが絵を汚染する。
そして最終的に絵は、今いるここのように、真っ黒になってしまう。
真っ黒になった絵は元に戻ることは無いが。
皮肉な事に、そんな絵でも高品質の素材は手に入るので、全くの無駄ではない。むしろ貴重な素材を手に入れられる良い場所であったりもするほどだ。
満ちあふれている悪意に耐えられれば、だが。
騎士達には、わたしが作った特別製のマスクをつけて貰っている。
此処に出るレンプライアの実力は他の絵の比では無く。
わたしが介入しないと、一戦ごとに死者が出るだろう。
ともかく、小物の処理を騎士団が終えたので。
荷車に素材を詰め込んでいく。
本来だったら、秘境に足を運ばなければ手に入らないような素材が幾らでも手に入るこの場所は。
確かに、廃棄してしまうには惜しい。
ソフィー先生の苛烈な発想には時々閉口するが。
此処を廃棄するべきでは無いと言う言葉に関してだけは、賛成だった。
「次に行きます。 負傷者はいますか」
「此方A班、全員問題なし」
「此方B班、同じく」
「はい、それでは此方に行きます」
絵の奥にはコアと呼ばれる強力なレンプライアがいるが。
これについては、雷神を倒せたら、双子のエサにする予定だ。もっとも、まだ雷神戦を一度も双子は乗り越えられていない。
万を超える回数繰り返して、である。
そろそろこの方法ではダメかも知れないとわたしは思い始めているけれど。
イルちゃんの話によると、今回は極めて成長が良いとかで、上手く行くかも知れないと言う。
その言葉を信じるのでは無く。
信じたかった。
またレンプライアが姿を見せる。
他の絵に出るのよりもずっと大きくて、威圧感も強烈だが。今のわたし達の相手じゃあない。
強いと言ってもネームドほどじゃないし。
ドラゴンとは比べるまでもない。
ドラゴンが出る絵もあるのだが。
それも本来のものよりかなり弱体化している。
それでいながら、竜核や竜の素材は凶悪な外のドラゴン同様採れるのだから。
不思議な絵が如何に便利な品物かは、よく分かるというものだ。
蹴散らした後、採取をし。
その後は、巡回がてらに、増えすぎているレンプライアを駆除。
コアが際限なく産み出すといっても。
所詮は下等。
今までの周回で、苦労する相手に出会ったことは無い。もしコアと同等以上のが出てきたとしても、別にどうとでもなる。
そして騎士団の演習相手に丁度良い。
ネームドほど凶悪ではなく。
その辺にいる小型の獣ほど弱くもない。
騎士団を鍛えるにはもってこいの相手というわけで。
利害は一致している。
ミレイユ王女も、この探索によって、被害なく騎士団の練度を上げられるという事実については、満足しているようだった。
適当な所で切り上げる。
今回も死者は無し。
騎士団の団員達は疲弊しきっていたが。それでも、充分な演習代わりになった筈だ。木剣やらを何も抵抗しない相手に振るうよりも。この方が遙かに良い。
エントランスに出ると。
イルちゃんが待っていた。
騎士団には先に引き上げて貰い。
リア姉とツヴァイちゃんにも、荷車を任せる。二人きりになった後、時間を止め。盗聴を避けてから、話を聞く。
「それでどうしたの?」
「想像以上に成長が早いわ。 これは今回が仮にダメでも、次以降に生かせるかも知れない」
「そろそろわたしが支援する頃かな」
「ううん、まだダメ。 次はほら、例の奴だから」
そうか。
確かにそうなると、余計にわたしが出るのは駄目か。
頷くと、幾つか打ち合わせをした後、時間停止を解除。今度は代わりにイルちゃんが、一人で絵画に入る。
レンプライアの掃除と。
恐らくは、双子とレンプライアの戦いで痛んだ森の回復のためだろう。レポートはわたしも読んだが、レンプライアは森を傷つける事を躊躇しない。まあそれもそうか。なぜなら、奴らの正体は。
首を振って雑念を追い払うと。
わたしはアトリエに戻るとする。
リア姉もツヴァイちゃんも、もう物資をコンテナに格納して、夕食を作ってくれている筈だ。
今は無心に。
家族との時間を楽しみたかった。
或いはそれは、わたしがまだほんのちょっとは人間であるから、なのかも知れない。
(続)
人間性を損ねながらも、フィリスはまだ苦悩しています。
人間なんか止めた方が楽になれる。
そう思いながらも。