暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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とにかくこの世界、手が足りていません。

そういうわけで、半人前の双子も、容赦なく騎士団との合同任務に引っ張り出されます。

状況次第では当然死人も出ます。

そういう場所です。当たり前ですが。


邪悪を見る
序、早速の合同任務


Fランクのアトリエになった。試験を突破した。その代わり、果たさなければならない義務も増えた。

 

リディーは今、スールと騎士団と一緒にアダレット王都の南東に向かっている。騎士団は、騎士二位の魔族の騎士が指揮を執り、騎士三位の分隊長が三名、従騎士が十五名、傭兵二十名という大所帯だ。このうち騎士四名には、錬金術の装備が支給されている。従騎士は一応お揃いの鎧を着ているが、しかしながら傭兵達は装備からして雑多だ。

 

このほかに、錬金術師として以前話したパイモンさんが来ている。流石に公式の討伐任務だ。いきなりFランクに昇格したばかりの錬金術師だけでは不安と国も思ったのだろう。なおスケジュールは予定では三日間。二つの街を廻り、近隣の獣などを駆除する任務である。

 

パイモンさんは今Dランク判定らしく頼りになる。

 

恐らくリディーとスール二人がかりでも勝てないだろう。

 

ただ。やはり本人が申告していたとおり、老人だった時期があるのは間違いないのだと思う。

 

時々しゃべり方などに、老いが出る。

 

それは別にかまわない。

 

いずれにしても、これだけの規模の部隊と連携して戦う、と言う事が重要なのだから。

 

「とまれい!」

 

隊列を組んで移動していた騎士団の先頭にいる魔族の騎士が声を張り上げると。多少不揃いながらも、皆足を止める。

 

廻りに知り合いはいない。

 

今回はアンパサンドさんもマティアスさんもフィンブルさんもいない。

 

それがとても不安だけれど。

 

その一方でパイモンさんがいる。

 

なお騎士四人には、錬金術の装備を追加で渡している。本当は皆に配りたかったくらいなのだけれど。悔しいけれど今のリディーとスールにはそんな力はない。ちなみにそれなりに好評だった。効果がわかり安い、という事である。

 

騎士団がとまったのには当然理由がある。

 

最初の標的である、大型の獣。

 

猪の群れを発見したからである。

 

猪といっても、背丈だけでリディーよりもあるような凶暴な奴で、ボスらしいのは更に二回りも大きい。しかも数はざっと三十はいる。

 

雑食で、極めて獰猛。

 

猪は猪突猛進なんて言葉もあるけれど。

 

実際には機動力に優れていて。

 

走るときもまっすぐでは無く、急激に曲がることもできる。

 

人間が思っているよりもずっと頭が良いし、戦闘力も高い。それが猪という生物なのである。

 

だから誰も油断しない。

 

少なくとも此処にいる戦士達は、猪がどれだけ獰猛か、よく分かっているのである。勿論あれほどの群れとなると、ちょっとやそっとの傭兵団に守られた商人の隊列くらいだと、襲われればひとたまりもないだろう。

 

「ではリディーどの、スールどの、予定通りに」

 

「はい」

 

「わかりました」

 

リディーは騎士に頷くと。

 

せっせとフラムを敷設。

 

急いで敷設するが、まだ距離があるから、猪は気付いていても此方を見ているだけである。

 

攻撃射程に入っていない。

 

そう考えているのだ。

 

勿論、もう少し近付けば、躊躇無く襲いかかってくるだろう。基本的に荒野の獣は、人間を襲い喰らうのだ。

 

「フラムの敷設終わりました!」

 

「よし、総員距離を取って陣形を組め! パイモンどの!」

 

「応」

 

パイモンさんが取りだした石。

 

それが光り出すと。

 

周囲から、一瞬光が消え。

 

そして、爆裂した。

 

猪の群れの中心に、特大の雷撃が着弾したのである。パイモンさんお手製の錬金術装備、雷神の石。

 

文字通り雷神の槌がごとき一撃を、相手に叩き込む必殺武器である。

 

猪の群れの半数が今の一撃で吹っ飛び、或いは感電死。

 

凄まじい破壊力である。

 

更に、ボスが吠え猛り。

 

群れが突貫してきたところで。

 

フラムを起爆。

 

一斉に消し飛ばした。

 

それでも生き残りが数匹、煙を突き破って突進してきたが。其処に待っていたのは、一糸乱れぬ従騎士達の防御陣。

 

しかも騎士達がシールドまで展開していた。

 

めちゃめちゃに突き殺され、斬り殺される残党の猪。逃げようとするものもわずかにいたが。放たれた矢が容赦なく彼らを貫き。とどめにパイモンさんが放った雷神の石の第二射で、わずかな生き残りも黒焦げになった。

 

「よし、死体を回収、解体せよ」

 

騎士を率いている魔族は流石に堂々としていて、戦いがあったのに興奮している様子さえもない。

 

巨大な体格から見ても、その風格は圧倒的で。

 

各地の街などで、少数しかいない魔族が仕事に困らないというのも納得出来る。

 

そして風格だけではなく、リディーには見えていた。身に纏っている、強力な魔力が。人間四種族の中で、最も数が少なく、最も強い種族。それが悪魔族とも呼ばれる魔族達である。

 

これだけの一目で分かる強さがあるのだから。

 

街の守りの中核として、頼りにされるのは当然だろう。

 

猪の死体を集めて、黒焦げになっていないものを回収している間も、油断なくパイモンさんは周囲に目を光らせている。

 

また、リディーも、スールともども、討伐任務に出る時には、回収には加わらなくても良いと言われていた。

 

こう言うときが。

 

一番危ないからである。

 

最大戦力である錬金術師がいつでも動けるようにしておくこと。

 

それがアダレット騎士団との合同討伐任務における基本の基本なのだそうだ。

 

周囲の戦力が知り合いで、しかも頼りになる場合は良い。人手が少ない場合は、自分で動かなければならない。だが今回は、知らない相手との連携任務だ。こう言うときは、役割分担をする必要がある。

 

イル師匠にも同じ事は言われている。

 

逆に言うと、もうFランクの時点で、討伐任務における最大戦力と認識されるという事である。

 

錬金術師がどれだけ稀少で。

 

どれだけ必要とされるか。これだけでもよく分かるというものだ。

 

死体の回収が終わり、荷車に燻製にした肉や皮などを放り込んでいく。荷車といっても、四頭立ての馬車。

 

この人数が食べて移動するのに充分な食糧も積まれている。

 

そして後片付けも全て終わると。

 

移動を開始した。

 

今日中に、もう二つ。

 

小さめの獣の群れを駆除しなければならない。

 

錬金術師が大事にされる前は。

 

この程度の相手でも、騎士団は相当な消耗を覚悟しなければならなかったと聞いている。ミレイユ王女が血染めの薔薇竜と怖れられながらも。一方で、その治世を歓迎する風潮が強いのも。

 

リディーには納得出来る。

 

丘を回り込むようにして移動し。

 

とぐろを巻いている巨大な蛇を確認。

 

まだネームドにはなっていないが。

 

それでも相当な戦闘力を持つに至った獣だ。

 

今のうちに倒しておかなければならない。

 

事実あれは、この間この近くの街道を通った商人と護衛の傭兵達を襲撃。既に死者が出ている。

 

食われてしまった人達は無念だっただろう。

 

他にも被害が出ている可能性はある。

 

今回、もっとも優先度が高い撃破対象だ。

 

「全員、シールド全開!」

 

突然パイモンさんが叫び、少し遅れて騎士達がシールドを展開する。リディーも詠唱が間に合って、シールドを張った。

 

寝ているフリをしていた蛇が。

 

空から、凄まじい巨大なつららを、数十本も降らせてきたのは直後だった。

 

シールドにひびが入る。

 

一撃ごとに強烈な衝撃が来て、地面が揺れる。

 

シールド解除。

 

蛇が、もう至近に。

 

時間差攻撃を一体でこなす。

 

本当に知能がないのか。

 

辺りの地面には霜が降りていて、今の冷撃が如何に強烈だったかは、言われなくても分かるほどだった。

 

口を開けた蛇は。

 

その口だけで、馬車を丸ごとくわえる事が出来そうだが。

 

その口を貫くようにして、パイモンさんの雷撃の石が稲妻を放ち、撃ち抜く。

 

それでも体を振るって抵抗する蛇に、スールがフラムを投げつけ、爆破。

 

蛇がシールドを展開して防ぎ切ってはいたが、全身から煙を上げている。

 

勇敢に、一斉に襲いかかる従騎士と傭兵達。

 

更に魔族の騎士が、お返しとばかりに、火炎の魔術を展開。一気に巨大な蛇の体が松明と化すが。

 

そう簡単には死なず。

 

うねり暴れ狂う。

 

従騎士達がその巨体にはじき飛ばされ。傭兵達が悲鳴を上げて下がる中。

 

また、周囲が冷え込み始める。

 

これだけ攻撃を浴びていても、詠唱しているのか。まさか、あのうねるのが詠唱なのか。いや、違う。多分舌を少し動かすだけで詠唱している。

 

まずい。この至近であの強烈な冷撃を喰らったら、シールドをぶち抜かれる。

 

パイモンさんが、おもむろに懐から、巨大な雷神の石……それも六連続につながっているものを出してきたのにはぎょっとしたが。

 

天から降り注いだ稲妻が。

 

一瞬で蛇の前半身を焼き尽くしていたときには。

 

更に呆然としていた。

 

普通だったら、雷が伝って、皆感電していたかも知れないが。

 

死んだのは蛇だけだった。

 

まだ少し動いてはいたが。

 

もう流石に無害である。

 

ほっとした。

 

リディーとスールだけでは、とても倒せなかっただろう。この間戦ったグリフォンなら、多分群れまとめて相手にするほどの獣だったはずだ。

 

騎士団の殉職率が高いという話は聞いていた。

 

これならば、当然としかいえない。

 

しかも此奴は、まだネームド……名前をつけて呼ばれる特殊な個体ですらない。つまりこんなのが荒野にはウヨウヨいるのだ。

 

呼吸を整え。

 

死体を捌く作業に加わる。

 

巨大な蛇の黒焦げになった頭はそのまま切りおとし、馬車に積み込み。

 

無事だった皮は剥がし。

 

肉も切り分け。

 

骨もきちんと割って、内臓を取りだす。

 

解体している間。巨大な寄生虫が蛇の中から出てきたが。騎士達が無造作に武器を振るって仕留めてしまう。

 

スールは、前ほど怖がってはいないが。

 

それでも青い顔でそれを見ていた。

 

少しずつ克服していようとしているのだ。

 

それはとても尊い事だと思う。

 

だから茶化すようなことは絶対に言わない。リディーだって、負けてはいられないのだから。

 

その後、近くの街により。

 

騎士達は、街の長老達に話をし。

 

野営の準備を開始する。

 

小さな宿場町だ。この人数はとまりきれない。リディーも特別扱いはされたくなかったので。リディーは挙手して、敢えて野営することにした。

 

馬車に器用にしまわれている天幕を取りだし。

 

従騎士達が張る。

 

何人かで雑魚寝をするのが五つほど。拡げると驚くほど大きくなる。

 

その中の一つを、女性従騎士や傭兵と一緒に使う。

 

見張りを交代でやるらしいのだが。

 

流石にそれはまだやらなくて良いと、パイモンさんに言われた。ただ敵襲時には起きて欲しいそうである。まあ、それはそうだろう。なおパイモンさんは、勿論見張りに参加する。

 

悔しいけれど、まだ見張りの間気を張っていられる自信が無い。

 

スールは集中力がもたないだろうし。リディーは体力がもたない。

 

今は休ませて貰う。

 

一応パイモンさんが防御の結界を錬金術の道具で張っていたけれど。もしも強い獣に襲われたら、それほど長い時間はもたないだろう。

 

街の側だからといって、一切油断など出来るわけも無い。

 

当たり前の話だった。

 

流石に地べたに寝るわけではないし。

 

毒虫よけの薬草が焚かれているとは言え。

 

その薬草の臭いが強めで。

 

アトリエのベッドで寝るのとは、比べものにならないほどきつかった。

 

スールはそれでも何とか眠ったが。

 

うんうん唸っていた。

 

リディーはどうにか眠れはしたけれど。

 

眠りがとても浅くて、非常に辛い。

 

伝説的な錬金術師は、旅をしながら世界中を回っていると聞いているから。こういった環境には慣れなければならないのだろうけれども。

 

それでも、今はきつくてならなかった。

 

そういえば、こう言うときに恋人同士で外で逢瀬、なんて事をする物語もあるが。

 

大嘘だとよく分かった。

 

とてもではないが、そんな余裕なんてない。

 

結界を出たりしたら、夜の闇に紛れて人間を狙っている獣に、またたくまにエジキにされてしまう。

 

大体あれだけの苛烈な戦いをこなした後で。

 

今もいつ襲われるか分からないのだ。

 

そんな余裕は無い。

 

朝が来るのが嫌に速く感じた。

 

起きだすと、スールは辛そうにしていたが。ともかく、いつもしている妙な動きをふらふらとやりだす。

 

リディーは歯を磨いて顔を洗うと。

 

料理を手伝う。

 

昨日倒した猪や蛇の肉に、野草を加えた豪快な野戦料理だが。

 

手伝うくらいはできる。

 

ぽんぽんと、ちょっと可愛い音が鳴る。

 

騎士団で採用している、食事の合図に使う小さなドラらしい。従騎士の一人がそれを鳴らすと。

 

わっと腹ぺこ達が集まり。

 

食事を開始した。

 

三交代で食事を取るらしいが。

 

それは当然、襲撃を警戒しての事である。

 

何しろ結界を張っているといっても調理の臭いは周囲に漏れている訳で。獣を呼び寄せるのだ。

 

街のそばだろうが関係無い。

 

だからこうやって、慎重すぎるくらいに動かないといけないし。

 

更に言うと、音もあまり響くものは使えない。

 

リディーもスールを誘って食事にするが。

 

スールは露骨に嫌そうな顔をしていた。

 

「なんての。 大味?」

 

「仕方ないよ。 昨日の猪と蛇だし」

 

「!?」

 

「戻したら許さないからね」

 

人を食べた獣。

 

そう思ったのだろうが。

 

しかし、そんな事をいったら、荒野の獣は人間を例外なく襲うのだ。この間のグリフォンにしても、人を喰らっていなかった保証は無い。

 

此処は食べるしかない。

 

真っ青になったまま、何とか完食するスール。

 

この間の絵の中で、お化け嫌いをかなり克服できたと思ったのだけれど。まだ線が細いと思う。

 

リディーだってあんまり良い気分はしないけれど。

 

それでも、スールを守ってと言うお母さんの言葉は忘れていない。

 

だから頑張れる。

 

いや。頑張らなければならないのだ。

 

キャンプを片付けると。すぐに次の獣の討伐に向かう。余った肉などは、街に提供してしまう。毛皮にしても肉にしても。暖を取るのにも、服を作るのにも役に立つ。なお金は取らないそうだ。税金で既に受け取っているから、らしい。

 

騎士団と街の人間の信頼関係を、そうやって構築しているのである。

 

勿論タチが悪い騎士には、悪さをする奴もいるかも知れないけれど。

 

そういう騎士は、いつの間にか事故死するという。

 

アンパサンドさんに以前聞かされた噂だ。

 

しばし歩いて。

 

次の獣の群れを見つける。これを片付けたら、今回は王都に帰還する。相手はキメラビーストが数体。グリフォンと双璧を為す危険な獣で。食肉目の体と、蛇の尻尾を持つ合成獣だ。しかも蛇の尻尾には頭もついていて、魔術を使う事も普通にこなす。ネームドになるのもかなり早いという。

 

つまり見つけ次第早々に仕留めないと危険、という事である。

 

三体のキメラビーストは、唸りながら体勢を低くし、詠唱を開始する。

 

戦闘は、即座に開始された。

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