暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、まだまだ半人前

アトリエに帰還すると、ぐったりしてしまって。殆ど何もできなかった。身体能力が自慢の筈のスールも、ベッドに突っ伏して口一つ開かない。リディーも、ある程度まとまったお金は受け取ったけれど。それで美味しいものを買ってくることくらいしかできなかった。

 

つまり、料理をする余力も残っていなかった。

 

本来なら喜ぶべきである。キメラビーストの毛皮など、貴重なものを分けて貰ったのだから。そんな余裕さえ無かった、と言う事だ。

 

スールと一緒に、食事をすると。

 

そのままベッドで惰眠を貪る。

 

流石に今日はもう動けない。

 

遠征の疲れがどっと出て、全身をぎりぎりと縛り上げているかのようだった。

 

翌日もダメージがある程度残っていたけれど。

 

イル師匠の所に出向く。

 

風の爆弾、ルフトの作り方を教わる約束になっていたから、である。

 

シルヴァリアについても、教わらなければならない。

 

少しずつ、できる事を増やしていかないと。

 

先に何て、とても進めないのだ。

 

荷車を引いて、イル師匠のアトリエに。

 

Fランクになったといっても。

 

この間の騎士団との共同任務で痛感した。

 

実力が足りなさすぎる。

 

どんどん色々覚えていって。

 

自分を鍛えなければならない。

 

Gランクを突破するのに、大体一月掛かった。

 

Fランクはどれくらいかかるだろう。

 

一月で越えられるだろうか。

 

とてもではないけれど、そんな楽観的予想はできない。それが偽りのない本音だった。

 

「この間の騎士団との共同任務のレポートから始めましょうか」

 

「ええ……」

 

「数日以内には出せと言われているはずよ。 この間の不思議な絵と同じ形式で良いから、すぐに始めなさい」

 

イル師匠に、いきなり厳しい現実を突きつけられ。

 

そして言われるままに、レポートを書く。

 

一度書いたとは言え、相応に時間が掛かる。そして、二度、駄目出しを貰った。

 

ゼッテルは自分で作って見て分かったが、それほど簡単に作れるものでもないし。紙屑なんて言葉のように処理をして良いものでもない。

 

駄目にしてしまうゼッテルを見ると。

 

本当に申し訳ない気分になる。

 

ましてやイル師匠の作ったゼッテルは、リディーとスールが作るものとは段違いの品質だ。

 

泣く泣くレポートを仕上げると。まずそれを、城に提出しなければならなかった。

 

これについては。パイモンさんもやっているらしい。

 

可能な限り複数の視点からレポートを確保することにより、情報の正確性を確固たるものとする。

 

そういう意図があるらしい。

 

ともかく、昼過ぎまで掛かってレポートを仕上げた後。

 

やっとシルヴァリアについて教わる。

 

ツィンクとは何から何まで違う事を、最初に聞かされた。

 

まず焼き入れの作業がない。

 

その代わり、非常に錆びやすいシルヴァリアを、どうやって安定させるかが課題となる。

 

魔術と親和性が強いため。

 

シルヴァリアを中和剤で強化し。

 

更にさび止めの魔術を刻み込むことによって対応する。

 

武器などに加工するインゴットは、油紙などで包むことによって、さび止めをするか。或いはさび止めの魔術を書き込んだゼッテルで包んで対応する事になる。

 

メモを取る。

 

作り方だが。

 

ツィンクに比べると、むしろ簡単だ。

 

作業そのものだけについては。

 

鉱石を徹底的に砕き。

 

中和剤につけて変質させる。

 

此処までは同じ。

 

続けて、炉で溶かし。

 

炉から出した後冷やす。やはり鉱石の性質事に分離するので、ハンマーで砕いて分ける。溶けた金属でも平気な特殊な皿を使って、何度も炉で熱しては冷やし、その度にハンマーで砕いて分ける。

 

わずかに分けられた部分が黄金に輝いている。

 

これがゴルトアイゼンかと思ったが、イル師匠は違うと言う。

 

「これは単にきらきら輝いているだけの別の鉱石よ。 殆ど価値は無いわ」

 

「そうなんですか!?」

 

「ゴルトアイゼンの鉱石はそれね。 見た目はむしろ地味なくらいで、しっかり処置しないと真の価値は引き出せないわ」

 

肩を落とす。

 

まあ、そう上手くは行かないか。

 

それに、価値が無いといっても、使い方次第で幾らでも生かせるという。取っておく意味は充分にある。

 

炉の温度調整や。

 

それによって別たれる金属の分離。

 

徹底的に仕込まれる。

 

そして、冷やして分離させた後。中和剤を必ず毎回加える。こうすることで、元々はさほど強度がないシルヴァリアを変質させ。極限まで強化させていく。

 

ゴルトアイゼンと上手に合金にすれば。

 

更に格上の金属であるプラティーンと同格の強度を得られる。

 

その言葉を思い出すが。

 

シルヴァリアのインゴット一つ仕上げるのにも、これだけの複雑な行程が必要になるのを見ていると。

 

とても出来そうに無い。

 

とにかく、一つインゴットが仕上がったので。

 

次は言われた通りに、同じようにしてやってみる。

 

やはり炉の扱いはきわめて危険なので。

 

イル師匠が、側でじっと見ている中での作業だ。作業工程が終わる度に、丁寧にアドバイスをしてくれる。

 

一つずつをメモしながら。

 

スールと一緒に作業をする。

 

炉の熱の調整や、インゴットそのものの処理はスールにやってもらい。

 

リディーは中和剤の調整や。

 

細かい部分の見極めを行う。

 

程なく完成したが。インゴットの出来は、露骨すぎるほど違っていた。

 

何というか、輝きが出てこない。

 

イル師匠が作ったシルヴァリアは、非常に上品な銀色なのに。

 

何というか輝きがしぶいのである。

 

「13点」

 

「うわ、今までで最低点……」

 

「ごめんなさい、イル師匠」

 

「謝る必要はないし、こればかりは反復練習するしかないわ。 今日はまだ少し時間もあるし、材料もある。 ルフトを作る前に、シルヴァリアのインゴットをもう一つ作って見ましょうか」

 

言われるまま、またシルヴァリアのインゴットを作る。

 

先の反省を生かして、丁寧に作り直していくが。

 

しかしながら、簡単に上達するわけがない。

 

気を遣って作業を続けるけれど。何かイル師匠には、リディーには見えていないものが見えているとしか思えない。

 

やがてできた品も。

 

15点と、厳しい評価を貰う事になった。

 

それでも出来は良くなっているのだ。

 

マシだと思うしかない。

 

続いて、ルフトの作成に入る。

 

ウイングプラントは、できるだけみずみずしい方が良いのかなと思ったけれど、違った。いきなり酸につけて溶かして、構造体だけ取りだすという。

 

「ウイングプラントは、その強固な構造体を利用して、魔術を自身に刻み込んでいるような構造をした植物なの。 逆に言うと、身の部分は爆弾を作る際には一切必要がないし、むしろ腐るから不要よ」

 

「へ、へええ……」

 

「こうやって、酸につけて身を落とした後、丁寧に水で洗う。 この時使う水は最初は井戸水でかまわないけれど、最終的には高純度の蒸留水を使った方が良いわね。 そして酸の影響を排除してから中和剤につける」

 

なるほど。

 

これについては危険度が小さいからか、イル師匠は最初からやらせてくれた。

 

言われた通りに手を動かして、少しずつウイングプラントを加工していく。

 

程なく、中和剤にて変質し。

 

何倍にも風圧を発生させられるようにした、素体ができる。

 

その素体の底に、魔法陣を仕込む。

 

極めて簡単な魔法陣だった。

 

「ウイングプラントは、条件が整うと、種を上空高く飛ばして、葉を翼代わりにして別の地方へと飛ばす植物よ。 とはいっても殆どは荒野に根付けはしないのだけれどね。 だから魔術も極めて簡単。 風を発生させる、それだけよ」

 

その風を発生させる基点となる簡単な魔法陣を、小さなインゴットに刻み込み。

 

酸で構造体だけにしたウイングプラントを固定。

 

更に周囲を、ゼッテルで覆い。

 

ヒモで固定する。

 

このゼッテルには、逆に風を封じ込める魔法陣を仕込む。

 

そうすることにより、内部で爆発的に発生した風が。魔法陣をぶち抜くときに、更に致命的に荒れ狂うから、だそうである。

 

「縛り方はこうよ。 耐えきれなくなったルフトが、自壊したときに、風が意図しない方向に指向すると……」

 

「あ、ごめんなさいイル師匠、分かりません」

 

「こほん、要するに自分達に、刃物より切れ味が鋭い風が吹き付けてこないように、周囲全体を薙ぎ払うようにするのよ」

 

「……」

 

スールが絶句して、こくこく頷いた。

 

そういえば、スールは用語の類にとても弱い。

 

その一方で、本質について見極める能力は非常に高いので、多分錬金術師としては、今後それを武器にしていくのだろう。

 

何度も作り直しをして。

 

そして出来上がる。

 

ゼッテルで包んだ、長細い爆弾。

 

これがルフトだ。

 

早速外で試してみる。

 

魔力を含んだ、殺意に満ちた風が、爆破地点に荒れ狂い。地面を抉るほどの破壊力を見せつけて、収まった。

 

なるほど、これは凄い。

 

フラムにまるで劣っていない。

 

あの風の中に入りでもしたら、全身ズタズタだろう。

 

獣相手にも、充分な殺傷力がある筈だ。

 

「19点」

 

「おー。 師匠、良い感じですか今の!」

 

「19点で満足していては駄目よ」

 

調子に乗ったスールが、イル師匠に呆れられるが。

 

ともかく、これは思ったよりも多分ずっと良い結果だろう。それならば、そのまま結果を伸ばしていけば良い。

 

一度アトリエに戻った後。

 

騎士団に納入しなければならない土木作業用の発破について、考える。

 

とにかく土木工事用なので。

 

投げる必要はない。

 

大型でかまわないから、威力だけを追求する。

 

威力も大きすぎると危ないから。

 

大型で、二段階セキュリティは当然導入するとして。何かもう一工夫欲しい。

 

二人でああでもないこうでもないと夕食を作りながら話をする。

 

ほどなく、結論が出た。

 

「埋めて使うんだよね、要は」

 

「うん、そうなるね」

 

「スーちゃんが思うに、フラムってそういえば爆発が漠然と廻り全部に拡がっているよね」

 

「……!」

 

そういえば。そうだ。

 

例えば大きな岩などを砕くとき。

 

さっきイル師匠が言っていた様な、指向性が必要になってくるのではあるまいか。

 

夕食の前に、近くにある見聞院にひとっ走りして、本を借りてくる。

 

爆弾関連の本は幾つかあったので、参考になるかと思ったのだ。

 

夕食が冷える前に、見つけて家に戻る。

 

そして、夕食を食べた後、二人で読んで見た。

 

「これじゃない?」

 

「うん。 ピンポイントフレアって読んでいるらしいね」

 

さっきルフトでやっていた事を、敢えて逆にして。

 

特定の方向に爆破を集中させる

 

これならば、岩も簡単に砕けるはずだ。

 

勿論イル師匠に見せてから作るが。それにしても、多分これをレシピを発想する、というのだろう。

 

イル師匠によると。イル師匠の知る凄い錬金術師は、一晩に二つも三つもレシピを思いついていたらしいのだけれど。

 

リディーにもスールにもそんな芸当は無理だ。

 

だから一つずつ、丁寧にやっていくしかない。

 

夕食を食べ終えた後。

 

寝る前に見聞院に行って、本を返してくる。

 

その後は、ゆっくり眠って。

 

次に備える事にした。

 

 

 

ピンポイントフレアの発想は良い。

 

そういって、イル師匠は多少の手直しをした上で、レシピを許可してくれた。ただし、マニュアルもつけるように、と。

 

マニュアルを書かなければならない、と言う事か。

 

「マニュアルは簡単なほどいいわ。 理想で言えば、絵がついていると完璧よ」

 

「頭が悪そうですね!」

 

「いい、スー。 現場でその発破を使う人間は、頭が良いとは限らないの。 どんなお馬鹿でも使えて、どんな状況でも効果を発揮できる。 それが理想的な発破よ」

 

流石にわかり易いイル師匠の説明だ。

 

言われたまま、まずはフラムを作る。

 

フラムは敢えて箱形にし。矢印を書き込んで、染料で塗る。此方に爆風が行くよと、わかり安く文字でも書く。

 

投げて使うものではないのだ。

 

これでかまわない。

 

話によると、ピンポイントフレアの特性を持ったフラムを的確に投げつけて、更に敵を貫く達人もいるらしいけれど。

 

それはとても真似できない。

 

こういった公共事業用の錬金術の道具は。

 

誰でも使えて。

 

誰でも同じ結果を出せなければならない。

 

だから、バカが見て即座に分かるくらいで丁度良い。

 

そういう風にも言われた。

 

「仕組みについては、使う人間が知る必要はないの。 この世界のただでさえ足りない人達の中には、頭が良くない人もいる。 だから、そういった人達でも、安全に使えるようにするのが私達の仕事よ」

 

「はいっ」

 

「分かりました」

 

「よろしい。 スー、マニュアルは貴方が書きなさい。 むしろその方が良いわ」

 

頷くと、まずはフラムを作って見る。

 

フラムはもうかなりの数をイル師匠の所で作ってきたし、問題はない。

 

一つ目は二人で作り。

 

外で実験。

 

爆発が一点に集中するように作った爆弾の火力は凄まじく、文字通り岩を粉々に吹き飛ばした。

 

置き石戦法で、戦闘にも使えるかも知れない。

 

此奴を至近距離から直撃させたら、満遍なく爆発するフラムとは、桁外れの火力をたたき出すはずだ。

 

ただし当てるのが難しい。

 

何かしらの工夫が必要になってくるだろう。

 

後は、スールがマニュアルをイル師匠に教わりながら書く。本当に絵で良いのかと聞き返していたが。イル師匠は、良いと頷く。それでやっと納得したのか。スールはマニュアルを、誰でも分かるように、簡略に書き始めた。

 

その間リディーは、アリスさんと座学。

 

戦略と戦術について教わり。

 

魔術の練習もする。

 

獣の腕輪だけではなくて、そろそろもっと強い道具もいるかなと思ったけれども。

 

残念ながら、まだまだ手が届かない。

 

或いは、あのアクセサリの本にヒントがあるかも知れないけれど。

 

まだ生かすのは先の話になりそうだ。

 

できた、とスールが叫んでいるのが聞こえた。

 

苦笑いしながら、勉強を進める。組み手も。

 

貧弱体質を、少しで良いから改善したい。

 

そう思っているのは。

 

リディーも同じなのだ。

 

夕方までみっちりしごかれて。

 

それでうきうきのスールと一緒に帰る。

 

なんと、フラムの作成についてはもう自宅でやっていいとお墨付きを貰った。まだ金属加工は駄目だ、と言う事だけれども。それでも、シルヴァリアのインゴットを幾つも確保する事にも成功している。

 

インゴットはそれぞれが相応の高級品だ。

 

ちょっと頭を絞れば、アクセサリの類を作れるかも知れない。勿論身につけて、能力をパンプアップするためのものだ。

 

帰路を歩きながら話す。

 

「ねえスーちゃん、思ったんだけれど」

 

「なに?」

 

「スーちゃんの靴さ、もっと脚力強化出来たら面白そうじゃない」

 

「足の力だけピンポイントで上げるの?」

 

頷く。

 

現時点で、スールの拳銃の弾の火力を上げるのは無理だ。スールにできるのは、恵まれた身体能力を生かした蹴り技と、爆弾の正確な投擲。

 

いきなり強くなるのは無理。

 

だったら、少しずつでも、苦手な部分を改良していくしかない。

 

まず一番得意な部分を伸ばす。

 

銃弾の威力を上げることに関しては、今後イル師匠に相談していけば良い。

 

そう話すと。

 

スールは考え込んだ。

 

「そうだね。 なんというか、流石にアンパサンドさんみたいに、細かく動きを制御して、結果速くなるってスーちゃんに向いていない気がする」

 

「こら、そうやって投げ出したら駄目だよ」

 

「ごめん、そういう意味じゃなくて。 ええと、筋力なら上って言われているんだし、それを特化で伸ばせれば、確かに戦闘でもっと役に立てるかも」

 

「うん。 それで靴にさ」

 

もうアトリエについたので。

 

前にラブリーフィリスで買ってきた、アクセサリ関連の本を見る。

 

ざっと見た感触だと。

 

なるほど。

 

靴につける装飾品というのは、かなり限られている。場合によっては、靴をそのまま作った方が早いかも知れない。

 

しかしながら、足だけピンポイントで強化するとなると。

 

獣の腕輪と同じように考える。

 

今はグリフォンの皮膚や、この間の騎士団との連携任務で分けて貰った蛇皮など、強い皮素材がある。

 

靴は木素材よりも皮素材の方が柔軟で、なおかつ足を痛めない。

 

幾つかの皮を出してくるが。

 

猪のと、蛇のを組み合わせるのが良さそうだ。

 

蛇皮を見ると、スールは露骨に嫌そうな顔をしたが。これを使う事は、むしろこの蛇に殺された人達への供養になるし。蛇に対する復讐にもなると説明して、どうにか納得させた。

 

とりあえず翌日、鍛冶屋の親父さんの所に出向く。

 

靴の作り方について話を聞くと、実はかなり複雑な設計図と、加工が必要だと言う事が分かった。

 

そういえばスールが履いているブーツも。

 

考えてみれば、そんな立派なものだ。

 

あれ。

 

これ、お父さんが作ったんだっけ。親父さんに作ってもらったんだっけ。どうにも思い出せない。

 

「戦闘を想定したものだと、更にタフさが必要になるな。 今履いている靴は……ちょっと見せてみろ」

 

「此処で脱ぐの?」

 

「いかがわしい言い方するな。 ほら」

 

スールが靴を脱いで、親父さんに見せる。

 

本職らしい厳しい目で見ていたが。

 

この様子だと、親父さんが作ったものではないか。

 

「これと同じものを作るには、相応に金が掛かるぞ。 ただ、同じものを作って更に脚力を上げるというなら……確かに獣の首くらい容易に蹴り折れるかも知れないな」

 

「魔術の強化無しで、ですか!?」

 

「すごい!」

 

「……ともかく、素材としては、それらの皮だとちょっと力不足だな。 もう少し強い獣の皮が好ましい。 見てくれにこだわらないなら、キメラビーストのはないか」

 

そういえば。少し貰っていたか。

 

あれはそんなに良い皮だったのか。

 

すぐにアトリエから、この少しだけ間分けて貰ったものを持ってくると。親父さんは頷く。

 

「良い皮だ。 これなら充分だな。 ただ、今のその靴も充分まだまだ履けるって事を忘れるなよ。 加工するならいいな。 値段は……」

 

うっと思わず呻く。

 

かなりお高い。

 

そして、疑問に思う。

 

この靴、この大きさ。

 

子供の頃から履いていた筈が無い。いつ、誰にもらったっけ。それが、どうにも思い出せない。

 

もうこの靴を履くようになった頃には、お父さんは壊れてしまっていた。

 

ならば誰が。

 

分からないけれども、ともかく。この靴と同じデザインで、力を強化出来るなら、言う事はない。

 

アトリエに戻ると、どうやって強化をするかを考え始める。

 

とにかく、まだまだできる事は少ないのだ。

 

一つでも多く、できる事を順番に、確実に、片付けていかなければならない。

 

そしてまず第一に、真っ先にやらなければならない事もある。

 

「リディー、発破作ろうよ。 早めに納入分は作った方が良いよ」

 

「うん、スーちゃん、待ってて」

 

本を閉じると、リディーは深呼吸した。

 

まだ、自分は半人前なのだ。

 

まずは土台をしっかり固めて。

 

そして、色々と出来るようになって行かなければならないのだ。

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