暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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バカでも扱える分かりやすいデザインというのはとても大事です。

誰でも使える道具というのは、訓練を受けた人しか使えない道具に比べて利便性が非常に高いからです。

UI等が分かりやすいでしょう。

滅茶苦茶凝った意識が高いUIよりも、誰でも簡単に操作できるUIの方が、明らかに優れているのです。


2、事業における錬金術

最初、発破を納品したとき。そのデザインとマニュアルを見て、ぷっと噴き出した役人。まあ当然だろうなとリディーは思ったけれど。スールは当然反発した。

 

誰でも使い方が分かり。

 

誰でも安全に使える。

 

その上効果はお墨付きだ。

 

そういって、イル師匠のサインも見せる。

 

勿論役人は受け取ってはくれた。イル師匠のサインがなくても多分受け取ってはくれただろう。

 

もしも問題があったなら。

 

後で返品かつ作り直しと、以前貰ったスクロールに書かれていたので。

 

だからそれはもう気にしない。

 

イル師匠に言われた通りに作ったのだ。

 

もう問題は無い。

 

気にしないで休む事にする。

 

「イル師匠、ああはいっていたけれど、本当に良いのかなあ」

 

「何だかすっごく馬鹿にされた気がする!」

 

「スーちゃん、気持ちは分かるけど」

 

「おや?」

 

いきなりスールが足を止める。

 

手をかざして見ている方で、女子達がキャーキャー騒いでいるのが見えた。その中心にいるのは、嫌みな程の美形の青年。周囲にキラキラ光が舞いそうな程の整った顔立ちである。

 

どうやら錬金術師らしい。

 

「わ、すっごい美形。 アトリエランク制度の参加者かな」

 

「ふーん」

 

「スーちゃんって、美形に興味ないんだっけ」

 

「色恋には興味はあるんだけれど、見てくれには何というかぴんと来ないんだよね。 だって美人なんか三日で飽きるって言うでしょ」

 

リディーはそれなりに美男子には興味があるのだけれど、スールは非常にこの辺りがドライだ。

 

ああ、勿論美男子といっても。

 

マティアスさんのような人はお断りだが。

 

双子でも、結構この辺りは違う。

 

特にスールの場合、何だか男子にも勿論女子にも興味が無さそうなのである。

 

恋愛沙汰にまったく興味が無いというのは、ちょっと不思議な感覚だ。

 

とにかく、アトリエに戻る。だいたいの場合、翌日には結果が届けられるはず。品質に問題が無いことを確認できたら、次からはそれもこなくなるだろう。発破を作って良いと言う許可ができたのは大きい。

 

勿論油断したら一瞬で手指が吹っ飛ぶ危険な調合だけれども。

 

少しだけ、一人前に近付いたと判断して良いのだろうから。

 

それと、スールが爆弾の調合を必死にやっている横で。

 

リディーはレシピについて考え続けていた。

 

靴を作り替えるのは、アリなのだろうか。

 

靴は頑強なら良いと言うものではない。

 

足にフィットする事が大事だ。

 

しかし、足技を主体に戦うのであれば、靴は相応に頑強でなければならない。つまり二律背反が生じてくる。

 

足の裏に鉄板の類を仕込むのは、多分アウトだ。

 

体にダメージが大きくなる。遠征になると、ちょっとずつのダメージが、目に見えて無視出来なくなってくる。

 

リディーだって、体の方を強化したい。

 

今までの戦闘で、獣の腕輪は充分な効果を見せてくれている。しかしながら、それでも戦闘はどんどん厳しくなっている。

 

防御力の向上。

 

リディーがこれには最優先課題だ。

 

シールドの魔術は展開までに時間が掛かる。マティアスさんがいつもガードしてくれるとも限らない。

 

そうなると、身体能力に倍率を掛けるべきか。

 

その場合、靴を強化する事にこだわることはないのではあるまいか。

 

布について確認。

 

魔法陣などを縫い込んだ錬金術の服については、本に記載があるが。それこそ目玉が飛び出すような値段がついている。

 

鍛冶屋では確か服も作ってくれる。靴も作れるくらいだから、まあその辺りはできるのだろう。

 

布を作るのがまず課題だ。

 

簡単な布なら、現時点でもできるけれど。

 

上級の錬金術の布となると。イル師匠に聞かないと分からない。まだまだ、力も知識も足りない。

 

インゴットを出して確認する。

 

シルヴァリア。錆びやすいという欠点があるが、その代わり魔術に対する親和性の凄まじさにおいて、ツィンクの比では無い。魔術に対する親和性だけなら、上位にいるゴルトアイゼンさえ凌ぐという。

 

ゴルトアイゼンとシルヴァリアを合金にして、欠点を解消するというやり方をするらしいけれど。

 

そもそもゴルトアイゼンも作れないようでは話にならない。

 

黒板に何度もレシピを書くけれど。

 

その度に消して書き直す。

 

どうしても、良いのが思い浮かばない。

 

指輪の類はまだハードルが高い。

 

ベルトはどうだろう。腕輪よりも更に安定性が高い上に、色々とできそうだが。調べて見ると、宝石などを仕込むと更に魔術の親和性を上げられるとある。少し考え込む。戦闘で被弾する可能性が一番高いのは言う間でも無く胴だ。

 

スナイプしてくる獣も、足や胴を狙って来ると聞いている。

 

そうなってくると、もう少ししっかりと固められるものは。

 

手袋は。

 

指先が出る革手袋。

 

これに魔術などを仕込むとしたら、まあ手の甲側になる。皮と布を組み合わせて加工する。

 

グリフォンの羽毛を引っ張り出して、調べて見る。

 

これは素材として大きすぎるか。

 

キメラビーストの毛皮は、頑丈かも知れないけれど、多分手触りなんかが良くない。蝙蝠の羽根は。

 

暖かくて力が出る。

 

これは少しばかり使えるかも知れない。

 

薄い膜の部分を利用して。此処に魔法陣を描き込み。更に手袋状に加工する。

 

その上からキメラビーストの毛皮を手袋にしてかぶせ、此処にも魔法陣を描き込む。

 

更にその間に。

 

要所、関節などの邪魔にならない場所に、シルヴァリアの小板を仕込む。シルヴァリアには魔法陣を描き込む。さび止めを表側に。裏側には筋力強化、シールド魔術自動発生、更には自動回復。自動回復の魔術はかなりハードルが高いので、今度教会に行って、以前魔術を教わった獣人族のシスターであるバステトさんに聞いてくる必要があるだろう。

 

後は手袋を実際に作って見て、小板を仕込んだときの「不快感」が問題になってくる。

 

革手袋を取りだしてきて、嵌めてみるが。

 

やはりなんというか、革手袋は手を圧迫する感じがして、若干ストレスを感じる。長時間つけていると、あまり良い事にはならないと思う。

 

「よーし、発破用のフラムできたよ! スーちゃん会心の出来! リディー、見て見て!」

 

「うん、良く出来てると思うよ」

 

「えへへー」

 

スールが無邪気な笑みを浮かべているが。

 

その間、何とかレシピを完成させたい。

 

手袋を二重に嵌めて、小さな木片を挟んで試してみるが、やはり違和感が結構ある。それなりに分厚い手袋にする必要があるか、それともいっそガントレットにしてしまうか。

 

シルヴァリアを見る。ガントレットくらい、五セットは作れる筈だ。しかしそうなると錆が問題になるが。部品ごとにさび止めの魔法陣を組み込まなければならなくなる。

 

やはりガントレットは無理か。

 

違和感を一番感じにくい場所は。試してみると、指の第二関節だ。手の甲や第一関節はかなり動くけれど。第二関節が一番違和感がない。第三関節は長めだけれども、人によってかなり長さが違う。いっそ指先。いや、それだと戦闘時の苛烈な打撃に耐えられない筈である。

 

掌は論外。

 

いや、まて。

 

発想の転換が必要だ。手袋を嵌めて、手首につけるようにしたら。留め金に一体化させたら。

 

それだ。少し大きめに手袋を作り、そして留め金の部分で、ベルトの中に分けて二つ仕込む事が出来る。

 

こうやって仕込めば、恐らくは魔法陣も二つ、いや表裏で四つは刻み込めるはず。

 

うんと頷くと、レシピに仕上げる。

 

リディー式ナックルガード。

 

ガントレットみたいに、ツィンクでまるごと手袋を作るより、この方が多分遙かに強固な防御力を得られる。

 

魔法陣は四つ仕込めるが、その内二つはさび止め。これは仕方が無い。残り二つは、防御力強化と常時回復で良いだろう。両手につける事は今は考えなくて良い。作る時の負担が倍になるからだ。

 

指先が出る仕組みだから、物を掴むのにもいいし。

 

更に常時回復が掛かれば、かなり戦闘も移動も楽になる筈。

 

早速イル師匠に見せに行く。

 

幾つかの問題点を指摘されたが、それでも、許可は下りた。

 

後は加工か。

 

まず、教会に出向いて、バステトさんに会う。シスターの中では、シスターグレースが一番偉くて。その下に何人かシスターがいる。パメラさんはその中では顧問のような立ち位置らしく、相当に偉いらしいけれど、常にシスターグレースを立てているそうだ。この辺りは政治的なあれこれなのか、それとも。

 

単にシスターグレースが有能だからなのか。

 

いずれにしても、今日はシスターグレースに挨拶だけして、バステトさんに話を聞く。常時回復の魔術について聞くと、少し考え込んだ後、魔法陣を描いてくれたが。もの凄く難しい。

 

手首に巻くベルトに書き込めるかこれ、と思うほど複雑だった。

 

しかしながら、この人の支援系魔術は本物で。

 

この人が描いた魔法陣を、魔術への親和性が高いシルヴァリアに刻み込めば相当な効果を見込める。

 

頭を下げて礼を言うと。

 

一度戻る。

 

シルヴァリアは少し柔らかめとは言っても鉱物。魔法陣をインクで書いたとしたら、剥がれてしまう可能性も高い。かといって毛皮に書き込むのでは性能も知れている。

 

イル師匠に相談に行こうかと思ったけれど。

 

それは止めた。

 

これは、自力でやるしかない。

 

幸い、さび止めの魔法陣はそれほど難しくも無い。これに関しては、自力でどうにでもできる。防御強化も似たようなレベルなので、問題は無い。

 

少し考えてから、鍛冶屋の親父さんの所に、インゴットを持ち込む。一つはシルヴァリア。もう一つはツィンクだ。

 

これで小片を作って欲しい事を告げて。

 

それから、幾つかの指定を頼む。なおツィンクは、金具用に使う。

 

お金はきちんと払う。

 

騎士団の任務に同行したとき、かなりの額を貰ったのだ。金銭で言うと、少なくとも錬金術につぎ込む資金に関しては、余裕が少しずつ出始めている。

 

親父さんはシルヴァリアのインゴットを見ると、まあまあとだけ呟いてから、上手に小さな欠片を打ち込んでくれた。

 

「此処からの加工がかなり難しいぞ。 お師匠さんがいるなら、立ち会いでやった方が良いだろうな」

 

「いえ、自分でやってみたくって……」

 

「金をドブに捨てる事になると思うがな。 インゴットも無限にある訳でもあるまい」

 

「……そう、ですね」

 

やっぱり、まだ最初は立ち会いが必要か。

 

アトリエに戻ると、スールも誘って、イル師匠の所に行く。

 

そして、金属加工について、座学を受けた。

 

「金属に魔法陣を刻み込む場合、相当な才能がある場合を除くと厳しいわよ。 かなりの技量が必要になってくるわ」

 

「やっぱり才能とかあるんですか?」

 

「あるわよ勿論。 私の知っている奴なんて、金属をそれこそ……」

 

咳払い。

 

何かまずい事を言おうとする所だったのだろうか。

 

ともかく、イル師匠が幾つか教えてくれる。

 

まずこのままでは、シルヴァリアの小片は役に立たない。魔法陣を刻み込んだ後、中和剤につけて更に変質させる必要がある。

 

幾つかの加工を経ると更に強力になるらしいが。

 

まだリディーとスールには荷が重いらしい。

 

まあそうだろう。

 

師匠が持ってきたのは、ハンマーと釘、金床、それにインクだ。後はペンチ。

 

「ペンチで挟むときは、布か毛皮を介して。 素で挟むと、シルヴァリアだと、ペンチの跡が残りかねないわ」

 

「はいっ! スーちゃん、お願い」

 

「がってん」

 

まず、掘る魔法陣をインクで小片に書く。

 

これはあくまでインクなので、書いた後も効果は出るが、本番は魔法陣を掘った後だ。インクで書くのも、相当苦労したが。その次が問題だった。

 

「いい、ちょっとずつ、少しずつ力を込めなさい。 一瞬で駄目になるわよ」

 

ハンマーで叩くと、恐らく特別製の釘だからだろう。見る間に小片に食い込む。うっと思った。これは下手をすると小片を突き抜ける。この釘、ひょっとして凄い金属なのではあるまいか。それとも、なにか加工されているのか。先端部分には絶対触るなと言われたので、ひやりとした。

 

冷や汗を拭いながら、少しずつ魔法陣を掘り進めていく。

 

スールががっちり抑えてくれているので、動く心配はないが、それでも怖い。

 

途中、何度かイル師匠が手を止めさせ、そして栄養剤を持ってきてくれた。もの凄くまずい。蜂蜜と何かを混ぜているようなのだけれど、吐きそうだ。だが、これが強烈に頭をクリアにする。

 

一通り魔法陣を刻むまで、たっぷり一刻半。

 

へたり込みそうになるリディーに、イル師匠がルーペを渡す。

 

「まだ全然駄目。 掘れていない場所があるから、これだと魔法陣が機能しないわ」

 

「ええー」

 

「見てみなさい」

 

確かにルーペで見ると、きちんと掘れていない場所がある。これ、想像以上に難しい作業ではないのか。

 

「万力を使う手もあるけれど。 一人はルーペ、もう一人は掘り担当で」

 

「ええと、このままもう少しやってみます」

 

「……」

 

イル師匠の表情は厳しい。それが、素材を無駄にしようとしている弟子に対する怒りなのか。そうではないのか、リディーにはよく分からなかった。

 

やっとの事で、一つ魔法陣を掘り終えたのが一刻後。

 

もう一つやろうと思った所で。ふつりと意識が途切れた。

 

 

 

集中して頭を使いすぎて倒れたのだと、後で聞かされる。

 

ともかく目が覚めるとイル師匠のぬいぐるみだらけのベッドで寝かされていて。

 

アリスさんに手当てされていた。

 

起きた後は翌日、と言う事で決まったけれど。スールも相当に疲れた様子だった。

 

「持ってるだけであんなに辛いとは思わなかったよう」

 

「金属加工、難しいね」

 

「それがさ。 聞いたんだけれど、上手い人はあれを簡単にこなすんだって」

 

「うっそ……」

 

絶句。

 

イル師匠も当然その上手い人に入るのだろうし。

 

何しろFランク成り立ての錬金術師にやらせているのだ。本当に上手い人は、異次元の腕前なのだろう。

 

思わずほぞをかみたくなるが、ぐっと我慢してアトリエに帰る。

 

今日はもう何もしないで寝ろと言われているので、帰りに出来合いを買って、家で二人で食べる。

 

お父さんが帰る頻度は、更に減ってきていて。

 

もう殆ど見かける事もなくなっていた。

 

騎士団に通報しようかと時々不安に思うのだけれども。

 

城門を出られないだろう。

 

イル師匠のような規格外だったら兎も角。

 

お父さんは流石に其処までの実力者ではないはずだ。

 

騎士が錬金術師の道具と一緒にガチガチに固めている全ての城門。

 

獣が入り込まないようにするためだから当たり前だが。

 

それを強行突破出来るとはとても思えない。

 

アンパサンドさんがこの間調べてくれたけれど、城門を通った記録はないらしいので。外にはでていないのだろう。

 

そして当たり前のように、時々ふらりと帰ってくる。

 

意味が分からないけれども。

 

それでも我慢するしかない。

 

お父さんを嫌いになってしまっている今でも。死んでしまえとは、口には流石にできない。

 

出来合いを無理矢理おなかに詰め込んで休む。

 

スールは熱心に爆弾の調合をしているが。

 

釜ごと手指を吹っ飛ばさないか心配だ。

 

今のところ事故は起こしていないが。釜に向かっているスールの顔はとても真剣で、リディーが滅多に見ないほどである。

 

地下室から、また何か聞こえるが。

 

それはもういい。

 

あの絵から、何か聞こえてきているのだろうから。

 

不思議な絵の怖さは充分に思い知っている。

 

今更地下室に入ろうとは思わない。

 

疲れ果ててしまったので、そのまま寝落ち。朝起きると、寝間着にも替えずに、スールがそのまま横に寝ていた。

 

起きだしたスールに、顔を洗うように促すと。

 

自身も軽く調合の練習をしてから、今日も二人でイル師匠の所に行く。

 

昨日の続きをやるが。

 

その前に、イル師匠が、シルヴァリアの手入れについて教えてくれた。

 

主に錆取りのやり方を、である。

 

鉄以上に錆びやすいと言う事なので、さび止めの魔法陣を彫り込んでいない今は、手入れが必須なのだという。

 

細かい所まで作業を行ってから。

 

昨日の続きに入る。

 

やっと、師匠が最初の魔法陣に納得してくれたのが夕方。次のを掘り終えたのは、次の日の昼だった。

 

もう一つの小片に手を入れて。

 

更に手袋の形にまとめる。

 

手触りも良いし。

 

何よりも全身がわき上がるように温かい。これが、常時体力回復の魔術を、魔術と親和性が極めて高いシルヴァリアで増幅した結果か。

 

革製とは言えナックルガードとしては、充分な防御力も発揮するはず。

 

流石にコストが掛かりすぎるから、右手分しか作れない。

 

もっと上手になって来たら、両手分作って。其方は筋力強化と、後は自分の魔力でも増幅する効果をつけたい所だ。

 

スールにも渡して、付け方の説明をする。

 

所々に大きさを調整出来る機構をつけているので、手が小さくても対応出来る。

 

これも魔術で自動対応出来ればいいのだけれど。

 

そう思っていることを見透かされたのか、咳払いされた。

 

「最初の内は、とにかく何でもかんでも機能を盛り込もうとしない事よ。 そういう道具を作れるようになるのは、最低でも一人前になってから」

 

「はい、師匠」

 

「分かっています!」

 

「よろしい。 その手袋は、今の時点では充分なできよ。 ただ、さび止めの魔法陣を彫り込んでも、それでもたまには錆の手入れをしなさい。 ゴルトアイゼンを作れるようになったら、その時はまた話が別になるのだけれどね」

 

頷くと、アトリエに戻る。

 

アトリエに戻ると。

 

見計らったようにマティアスさんが来て、スクロールを渡してくる。

 

一泊二日での討伐任務だ。前の討伐任務から時間が経っていないが、こればかりは仕方が無いだろう。

 

いつ危険な任務があって。

 

そしてそれがリディーやスールを同行させても大丈夫かどうかは分からないのだから。

 

「今回のは来月の任務の前借りになるらしいから、多分しばらくは討伐任務はないと思うぜ」

 

「どこから聞いたのそんな話」

 

「え? ああまあな」

 

適当に誤魔化すマティアスさんだが。

 

まあこの人も、リディーとスールを監視する役割を担っているのだろう。その辺りを追求するのは野暮だ。

 

スールに手袋を渡す。

 

「これ、使って」

 

「えっ!? いいの」

 

「勿論私の分もこれから作るよ。 最初に使うのは、やっぱり前線に出る可能性が高いし、いつも怪我するスーちゃんからがいいかなって」

 

「……分かった」

 

何度か、指ぬきの手袋をして、にぎにぎするスール。

 

これを五人分。

 

余裕ができてきたら更にもう片手の分。

 

いずれにしても、相当な手間だ。

 

或いは、もっと腕が上がれば、それこそ片手間にできるようになるかも知れないけれども。

 

それは近い未来の話では無い。

 

任務は翌日。

 

そして、その任務は。

 

忘れられない内容になった。

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