暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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パイモンさん、暗黒!フィリスのアトリエに続いて登場です。

この人も色々あって世界のあり方に色々思うところもあって。

それで双子の教育に協力したりしています。

なお、加齢についてはとっくに克服済です。


3、許されざる者

またパイモンさんがいるのを見て、少し安心する。この人ほどの錬金術師がいれば、並大抵の獣に遅れは取らないだろうと思ったからだ。

 

しかしリディーに、パイモンさんは苦笑いする。

 

「わしは以前若き俊英錬金術師二人と旅をした事があると言った事があったかな」

 

「はい。 聞いています」

 

「その二人と一緒でさえ、危ないと思った事が何度もあった。 ネームドや、ドラゴンがいきなり襲撃を仕掛けてくる事もある。 そうなったら、わしでは守りきれない可能性もある。 荒野に出るというのはそういう事だ。 気を付けてくれ」

 

「は、はいっ……」

 

思わず声が上擦る。

 

騎士達も、寡黙になっているが。もっと寡黙なのは傭兵達だ。

 

損耗率の高さ。

 

錬金術師が加わっても。獣との戦いは命がけ。

 

ましてや今回は、ベテランはいるが。ルーキーもいる。

 

過酷な仕事について、嫌と言うほど分かっているからなのだろう。特に傭兵達の中には、冷や汗を掻いているものも多かった。

 

こう言うとき、もうすぐ結婚するんだとか、子供が可愛くて、とかいう話は絶対にするなと言われているらしい。

 

何でも死神が迎えに来るとか言う伝承があるらしく。

 

また、べらべら喋っていると、緊張が解けて失敗の規模が酷くなるらしい。

 

スクロールに一泊二日と書かれていたが。

 

行く場所を聞いて愕然とする。

 

騎士の隊長らしい、魔族の騎士が、集合している従騎士や傭兵達に声を掛ける。

 

「今回の遠征は既に皆も聞いていると思う。 大物狩りが二件ある。 用水路近くに強力な獣が住み着いている。 それを撃破するための駆除作業が最初だ。 用水路近くには、獣よけの仕組みがあるが、老朽化しており、近々錬金術師が手入れをしてくれる予定だが、それまでに強力な獣に侵入されると面倒な事になる。 知っての通り、水中の獣は巨大で強大だ。 皆くれぐれも油断せぬように」

 

「おいおい、マジかよ……」

 

絶句する獣人族の傭兵。

 

従騎士の何人かも、真っ青になっている。

 

外では絶対に川には近付くな。

 

何度も言われることだ。

 

水中に住んでいる獣は、陸上に住んでいる奴よりも大きくなる傾向が強い。動きが鈍くなるかというとそうでもない。

 

つまり強いと言うことだ。

 

そんなのが、何十匹も現れたりしたら。

 

洒落にならない。

 

ともかく、一団は門を出て、用水路に沿って歩く。

 

強力なシールドが張られているのが分かる。これなら獣も近づけない。しかも森の中だから。獣は暴れない。

 

問題は、森を抜けた辺り。

 

大きな設備があって。

 

その近くで、部隊は散開した。

 

「パイモンどの、雷撃を川に叩き込んでいただけるか」

 

「……シールドは耐えられるだろうか、騎士どの」

 

「恐らくは……」

 

「しばし待たれよ」

 

雷神の石を掲げると、パイモンさんが強烈な雷撃を川の中に叩き込む。しかしながら、それはかなり手加減したものであったようで、魚くらいしか浮いてこない。

 

街の中にある水路に住んでいる魚よりもかなり大きく。

 

見るからに獰猛そうな奴ばかりだった。

 

しかも、浮いてきた魚が、見るまにばくばくと巨大な獣に食い荒らされていく。凄まじい光景だ。見る間に真っ赤に川が染まる。

 

落ちたら。

 

助かるわけがない。

 

「駄目だな、騎士どの。 今かなり威力を絞ったが、シールドがもたぬよ」

 

「む、ならば……」

 

「少し荒っぽくなるが、手を変える。 川の中に獣が嫌がる音を流し、一斉に引っ張り出す」

 

「おいおい、嘘だろ……」

 

傭兵達があからさまに浮き足立つのを、魔族の騎士が掣肘する。

 

パイモンさんが取りだしたのは、四角いキューブだ。使い捨ての爆弾のような道具だとみた。

 

リディーが頷くと、スールを促して、先に爆弾を仕込んでいく。騎士が指揮を執って、皆をその爆弾の向こう側に布陣させる。

 

頃合いを見計らって。

 

パイモンさんが、起爆した。

 

人の耳には聞こえないのか。

 

殆ど誰も反応しなかったが。

 

獣への効果は激烈だった。

 

おぞましい程大きな獣が、何匹も川から跳び上がってくる。触手がたくさん生えた奴、とんでもなく大きなぷにぷに、それにおっきなトカゲみたいな奴。いずれもが、今の音を立てた相手(リディー達だ)を見ると、殺気を込めて突撃してくる。

 

起爆。

 

適切なタイミングで、置き石の爆弾を全て炸裂させ。

 

その半数以上を爆破に巻き込むが、平然と突貫してくる。

 

デカイというだけではなく、頑強なのは当たり前、と言う事だ。

 

騎士達がシールドを張るその至近。パイモンさんが取りだしたのは、六連に連なっている雷神の石。

 

見るのは二度目だが。二度目だから何となく分かる。あれは、魔術を連結させることによって増幅させているのか。

 

しかも、今回は前より明らかに収束していく魔力が大きい。

 

前は、あれでも手加減していたと言う事だ。

 

「耳を塞げっ!」

 

パイモンさんの荒々しい声と同時に。

 

世界から、一瞬光が消え。

 

続けて炸裂した。

 

多分王都まで聞こえたはずだ。

 

雷撃が、辺りを蹂躙し、敵の先頭集団を文字通り消滅させる。絶句。ベテランが作る道具は、こんなに凄まじいのか。

 

リディーは立ち直ると、ハンドサイン。

 

流石に怯んだ敵集団に、スールがフラムとルフトを叩き込み、起爆する。

 

爆裂した爆弾が、今ので生き残った獣にも、容赦のない破壊と殺戮を叩き付け。そしてそれでも生き残った獣を、ようやく我に返った従騎士と傭兵達が、よってたかって仕留めていく。

 

その間もパイモンさんは、新しい道具を取り出す。

 

矢のような道具である。

 

放り投げると、しばらくクルクル回っていたが。

 

いきなり獣に凄まじい速度で突き刺さり、頭を貫通し。そして戻ってくる。

 

その獣は、今まさに、太い尻尾を従騎士の一人に叩き付けようとしているところだった。

 

負けていられない。

 

ハンドサインを出して、スールにも前線に出て貰う。

 

ナックルガードの増幅分で、かなり動きが良くなっているスールは、しばし前線で暴れてきた。

 

防御が強くなっているからより強気に出られるし。

 

回復が常時掛かっているから、動きも鈍らない。

 

思った以上に良い道具だ。

 

初陣としては上出来過ぎるほどだろう。

 

しばしして、獣の死体の山ができる。街まで近いと言う事もあって、一度街に戻り、死体を納入し始める騎士団。一匹ずつの大きさが凄まじいので、それも苦労していたが。いずれにしても、引き渡した死体は、街中を引きずり回した後。解体して使える部分は使うのだ。なお皮などの一部は分けて貰った。

 

そのまま、続けて次の任務に出る。今の戦闘で消耗したり負傷した騎士は任務からは外れて貰い。控えていた騎士や傭兵が代わりに入った。

 

今回も合計して四十人ほどが動いているが。

 

控えがすんなり入ったところをみると。

 

こういった討伐任務では、救援などを考えて、常に同規模の人員が後方で控えているのだとみるべきだろう。

 

単純に戦う人だけを考えれば良いのではない。

 

お金も掛かるわけだと、リディーは思った。

 

まず、水路側の装置を、パイモンさんが点検する。これには、リディーとスールも加わった。

 

丁寧にパイモンさんが教えてくれて、メモは取るけれど。

 

いつもイル師匠が教えてくれるよりも、ずっと難しい内容で。半分も理解出来なかったのは悔しい。

 

イル師匠が、如何に此方のレベルを把握していて。

 

そしてそれにあわせてくれているのか、よく分かる。

 

「ふむ、まだ少し難しい話だったか」

 

「ごめんなさい、力不足で」

 

「何、かまわぬさ。 わしが君達くらいの年の頃には、比べものにならないほど非力だったからな。 君達は既に半人前。 充分すぎる位だ」

 

呵々大笑するパイモンさん。

 

おじさんに見えても、実際にはおじいさんなのだとよく分かる。

 

ただ、応急処置をするとき、パイモンさんは別人のように怖い顔だった。まだ手伝えないと判断したのか、騎士団と連携しての見張りに当たるように指示されて。それに従うしかなかった。

 

程なく応急処置が終わる。

 

その後は、街道を急いで進み。

 

見かけた獣を全て処理しながら、小さな宿場町に。またキャンプを張って。其処で騎士の隊長に言われる。

 

「この近くで、匪賊のアジトが見つかった。 これより殲滅に取りかかる」

 

むしろほっとしたような顔の従騎士や傭兵が目立つ。

 

それに対して、此方は真っ青だ。

 

ついに来てしまった。

 

だが、やらなければならない。

 

この任務はついで、である。だが、荒野において戦闘力が圧倒的な獣と、匪賊は危険度で大差ない。

 

人間の弱みを知り尽くしているからだ。獣以上に。

 

獣より弱いかも知れないが。

 

より弱い者を効率よく殺戮していく救いがたい畜生。

 

それが匪賊なのである。

 

「日の出前に行動を開始。 夜明けと同時にしかける。 三交代で休め。 匪賊のアジトを討伐した後、近くに出たというコカトライスも討伐する。 この個体ははぐれたものだと思われるが、油断はするな。 このコカトライス処理が、大物狩りの二件目だ」

 

コカトライス。

 

グリフォンの上位種である。

 

この人数にパイモンさんまでいるから、多分大丈夫だとは思うが。それでも、下位のグリフォンでもあの強さだった。少し怖い。

 

それより最悪なのは匪賊だ。これから、とうとう人を殺さなければならない。そう思うと、やっぱり足が竦んだ。隣でスールも真っ青になっている。まあそれは、当たり前と言えば当たり前だろう。

 

案の定殆ど眠れず。

 

そして、翌朝。

 

起きだした騎士団と共に行動を開始したときに、パイモンさんに一声掛けられた。

 

「相手は匪賊とはいえ、どんな反撃をしてくるか分からぬ。 あと、恐らく衝撃的なものをみるだろう。 油断は絶対にするなよ」

 

「はい」

 

「分かってます……」

 

「しゃっきりせい、などとは言わぬ。 ……とにかく、後には引きずらぬように気を付けるのだぞ」

 

パイモンさんも厳しい表情だ。

 

荒野を行軍。

 

移動中も、見かけた眠っている獣は容赦なく処分していく。

 

そして、岩山の影。

 

洞窟があって。其処に、数人の歩哨がいた。装備も雑多。明らかに街の人間とは思えない。

 

「首領は絶対に生かしたまま捕まえよ。 頭の中を覗かなければならぬ」

 

「はっ」

 

頭の中を覗く。

 

そんな事が出来るのか。

 

従騎士達が、素早く展開すると。傭兵達が、そのバックアップに回るようにして、動く。

 

そして、陽が顔を見せた瞬間。

 

日光から顔を庇った歩哨を、音もなく近寄った騎士達が、仕留めていた。

 

流石は騎士だ。

 

洞窟に従騎士達が突入する。罠があるかもしれないが、パイモンさんが何か展開していて。それで大まかな位置は分かっている様子だ。先に何か指示を出していたが、それが罠避けだったのだろう。

 

程なく、戦闘の音が終わる。

 

血だらけのヒト族の大男が引っ張り出されてくる。片腕を切りおとされていて、息も絶え絶えだった。

 

騎士は冷徹な目でそれを見ていた。

 

他にも二人生きていたが。

 

残りは首を刎ねられたり、胴を真っ二つにされていた。

 

そして、そしてである。

 

内部から、運び出されてくる無数の骨。なんのものか考えたくも無い肉。従騎士が、騎士隊長にしている報告が聞こえてしまった。

 

「残念ながら生存者は……」

 

「そうか。 やむを得ぬ……。 パイモンどの、頼む」

 

「うむ」

 

何か道具を手につけると、縛り上げられて、もがいている匪賊の頭目の頭を掴むパイモンさん。

 

映像が色々出てくるが。

 

思わず口を押さえ。

 

スールは、リディーにしがみついていた。

 

人をさらい。

 

生きたまま解体し。

 

焼いて。

 

喰らっている。

 

匪賊とはそういうものだと分かっている。だけれど、泣き叫ぶ子供を笑いながら切り刻んで殺して喰らっている様子を見て、悟る。此奴らは、確かに獣より先に駆除しなければならない存在なのだと。ごちそうだな。そういう声まで聞こえてしまい。吐き気がこみ上げてくる。

 

記憶に出てくる部下の顔が全てピックアップされ。

 

そして、死体と照合される。

 

一人足りない。

 

そして、騎士隊長が、何の前触れもなく、魔術を岩陰に叩き込む。

 

バラバラに吹っ飛んだ獣人族の青年が一人。

 

襤褸を着たそいつが、残り一人に間違いなかった。

 

「近くの街との癒着は」

 

「……記憶を探っている限りはありませんな」

 

「そうか、それだけは幸いだな」

 

聞いている。腐りきった役人や商人、錬金術師の中には、匪賊と取引をする者がいると。そういう連中は、勿論匪賊と同罪だ。何しろそういう者達が横流しする物資は。

 

近くの街に生きている匪賊を連行。そして、処刑が行われた。

 

穴を掘って、そのまえに生き延びた匪賊達を縛り上げて座らせ。そして引っ張り出した記憶の映像を、集まって来た民に見せる。おおと、嘆きの声が聞こえる。それはすぐに処刑を求める怒りの声に変わった。

 

どの国でも、匪賊は即処刑と決まっている。

 

この荒野の世界。

 

人間にとっての最大の危険の一つだからだ。

 

人間を食った時点で、もう人間と一緒に生きていく事は出来ない。

 

匪賊達は目も塞がれ、口に猿ぐつわも噛まされている。

 

処刑刀が降り下ろされ。匪賊達の首が叩き落とされる。

 

鮮血が噴き出し、限界に達したらしいスールが、その場でリディーにもたれかかり、動かなくなる。

 

吐きはしなかったが。立ったまま気絶したのは分かった。リディーもかなり限界が近いけれども。見届けなければならない。そう思ったから、必死に我慢した。

 

死体を穴に蹴落とし、焼いて処分する。先に殺した匪賊も同じようにした。炭クズは、パイモンさんが持ってきた特殊な薬で溶かしてしまう。わずかに残った残骸だけを、無縁墓地に放り込んで終わりだ。

 

逆に被害者の遺体は丁寧に埋葬する。遺品については公開し、名乗り出るものがいたら質問と記憶の調査の末、引き渡していた。

 

皆、恐ろしい程手際が良かった。匪賊に対する情けは無用。匪賊は見敵必殺。知ってはいたが、凄まじい光景だった。

 

スールの頬を何回か叩いて起こす。そして、終わったよと告げる。

 

真っ青になっていたスールだが、結局吐くことはなかった。

 

じっと堪えていたが。

 

ようやく悟ったのだろう。

 

リディーも分かった。

 

如何に自分達が世間知らずだったのかを、また一つ。

 

 

 

処刑と後始末を手際よく終えた後、発見されたコカトライスの駆除に向かう。

 

相手は凄まじい巨大なグリフォンで、しかも見た物を石に変えるという強力な能力の持ち主。しかも爪にも毒がある。

 

故に、近付く前に仕留める必要がある。

 

先に発見する必要もあるが。

 

それについては、相手が巨体である事もあって、さほど苦労しなかった。

 

街からそう遠くない場所にコカトライスはいた。丁度何か仕留めた様子で、それを貪り喰っている。

 

大きさからして、多分ヤギだろう。

 

それも、リディーとスールが苦労しながら仕留めた奴よりも、三倍は大きい。それを苦も無く仕留めている相手だ。

 

パイモンさんが頷くと。

 

騎士団がシールドを張る。

 

雷神の石の六連に連なった奴をパイモンさんが取りだすと。その瞬間、コカトライスが顔を上げていた。

 

皆シールドを展開したまま、さっと頭を伏せる。

 

目を合わせなければ石化しない。

 

リディーとスールもそれにならったが。

 

殆ど間を置かずに、凄まじい業風が襲いかかってきた。

 

うわっと声がして、シールドを展開していた面々が悲鳴を上げる。一瞬でシールドの負荷が跳ね上がったのだ。風を起こす力があるのか。それはそうだろう。あの巨体で空を飛ぶのに、魔術の力を使っているのだ。

 

それを外に向ければどうなるか。

 

リディーもシールドの展開に加わる。怖くて顔は上げられなかったが。

 

だから、耳を塞ぐことができなくて。

 

ふつりと、一瞬意識が途切れた。

 

六連雷神の石からぶっ放された雷撃が、炸裂した音だと気付いたときには、悲鳴を上げながらコカトライスがのたうち回っていた。

 

あれの直撃に耐えたのか。

 

騎士のハンドサインを受けて、スールがフラムをまとめて投擲する。

 

炸裂。

 

フラムそのものも研究を進めて威力が上がっているのに。

 

それでも耐え抜く。

 

おぞましい雄叫び。

 

顔を上げてしまう。

 

そして、見た。

 

両目を潰されてなお、まっすぐ此方に突貫してくるコカトライスを。翼も焼かれている。というか、体が半分くらいしか残っていないのに。それでも戦意を捨てていない。バケモノ。そんな声が漏れそうになるが、現実を見ないと。

 

雷神の石は流石に連発はできないはずで、どうにかするしかない。

 

スールにハンドサインで指示を出して。

 

更にありったけのフラムを置き石に投げつける。

 

まとめて爆発するフラムで全身ズタズタになりながらも、コカトライスが突貫してくる。

 

騎士達がシールドを張り直し。

 

直後、激突。

 

ぐわんと、大地が揺れるほどの激突で。

 

至近で、前に戦ったグリフォンが子供に思える程の巨体が、爪を降り下ろそうとしているのが見えた。その腕も半分以上消し飛んでいて、骨が露出し肉がえぐれてしまっているのに。

 

ひゅうと音がして。

 

パイモンさんの方から、鎖が伸びる。それも複数。

 

意思があるように、グリフォンを縛り上げる。巨体だというのに、それで動きを止めたグリフォンが、暴れ狂うが。好機とみたらしい騎士が、総攻撃を指示。

 

自身も魔族用に誂えられたらしい巨大な矛を振るって、攻撃に加わる。

 

擦っただけで吹っ飛ばされる巨大な獣に。

 

それでも果敢に騎士達が挑む。

 

鎖が抑えていなかったら、死者がこの瀕死の状態でも大勢出ていただろう。

 

リディーとスールも加わる。

 

リディーは必死に魔術を展開して、筋力強化を騎士に。

 

スールは上がっている身体能力を武器に、駆け回りながらありったけの銃弾を叩き込み、傷口を更に抉る。

 

数の暴力が、漸く功を奏して。

 

それから四半刻も暴れ回ったコカトライスは、やっと動かなくなった。

 

騎士団にも傭兵にも死者はいないが。

 

重傷者は多数である。

 

荷車から薬を取りだして、すぐに手当を始める。

 

今度は自分から願い出て、応急処置をするとパイモンさんに言う。

 

少しだけ考えてから、パイモンさんも了承してくれた。

 

まずは消毒を行い。

 

それからだが。

 

いずれにしても、いたいいたいと悲鳴を上げて暴れるけが人を抑え。毒消しをねじ込んでから、ナイトサポートで傷を塞ぐ。千切れた腕さえつながる薬だ。ちょっとやそっとの傷なんて何ともない。

 

消毒には、専用に作ったお酒を使う。

 

飲めたものではないけれど、コレが強烈に効く。

 

何度か外に出る内に、アンパサンドさんに実践込みで習った事が生きてきている。スールも、匪賊の時と違って、青ざめながらもてきぱき動いていた。

 

「負傷者の応急手当完了です!」

 

「手際が良くて素晴らしい。 パイモンどの! 其方は」

 

「……あまりよくはないな。 血の臭いと戦闘の音を聞きつけて、おこぼれに預かろうと小物が集まってきておる」

 

「蹴散らすだけよ」

 

言葉は勇ましいが、怪我したばかりの者は戦わせられない。

 

更に言うと、縦横無尽の活躍を見せているパイモンさんも、多少疲労の色が見えてきている。

 

錬金術師にも得意分野があるという話は聞いている。

 

パイモンさんは雷撃には絶対の自信があるようだけれど。

 

あの鎖はそうでもなかったのかも知れない。

 

使う前と後で、露骨に疲労の色が見えていたからだ。

 

「防御円陣! 馬車とけが人を守れ。 けが人は自分を守る事に専念せよ!」

 

まだ接敵していないから、騎士はそう言った。

 

すぐに言葉通り動く従騎士達。

 

相当仕込まれている。

 

リディーは、スールの腕を取ると、ぴくりともしない馬達を一瞥。戦闘用に訓練された戦馬だ。普通の馬は非常に憶病で、嗅いだことがない臭いを嗅ぐと大暴れして逃げ惑うと聞くが。この馬たちはそんな事もない。

 

少し高い所から、どこから獣が来るのかを見たい。

 

気配探知の魔術があるらしいのだけれど。

 

まだ学んでいないのだ。

 

堂々と立ち尽くしている魔族の騎士に聞かれる。

 

「どうした、リディーどの、スールどの」

 

「獣の位置を確認したくって」

 

「そうか、ならば拙者が手助けしよう」

 

短い詠唱を終えると。

 

リディーとスールが浮かび上がる。

 

浮遊の魔術か。

 

原理は多分、大型の鳥や蝙蝠と同じだろう。魔族は例外なく魔術が使えると聞いているが。ヒト族の倍も背丈がある巨体で飛ぶのには無理がある。慣れた人は、それこそ息をするように飛行や浮遊の魔術を使える、と言う事だ。

 

見えた。包囲は敷かれていない。

 

狼や猪などが、十数匹ほど、此方を伺っている。

 

襲撃を掛ければ倒せるか、判断をしていると言うことだろう。

 

フラムの在庫は。

 

まだ少しある。

 

降ろして貰うと、リディーはパイモンさんに声を掛けた。

 

「先制攻撃して、追い散らすべきだと思います」

 

「スーちゃんも賛成!」

 

「いや、此処は敵を一網打尽にした方が良い。 まだそれほど大きくはなっていないが、いずれ害を為す。 むしろ集まってくれたことを良しとして、さっさと片付けるのが正解だろう」

 

「そういうもの、なんですね……」

 

パイモンさんは未熟者め、などといった言葉を口にはしない。

 

素直に納得出来る言葉を、ゆっくりと話してくれる。

 

ただ、皆の消耗も決して小さくは無い。

 

戦闘は、できるだけ消耗を小さく、最高効率でやるべきだ。そう思った。

 

必死に頭を動かす。

 

この辺りの地図は、頭に入れている。

 

任務に出るときに、そうしたのだ。

 

そして思い当たる。

 

「陣を動かしましょう」

 

「ふむ、理由は」

 

「此処だと、獣が此方のことが分かりません。 それで遠巻きに見ているんだと思います」

 

「それで」

 

順番に説明していく。

 

まず要点は、敵を一箇所に集める。

 

発破と雷神の石で一気に撃滅する。

 

そのためには、まず敵が集まらなければならない。

 

味方をおとりにするのはリスクが高い。

 

其処で、少し移動して、近くにある窪地に行く。敵は追跡を掛けて来るので、窪地に引っ込めば、覗きに来るはずだ。

 

さっき得たコカトライスの血をわざとばらまきながら、敵を誘導し。

 

そして窪地に引っ込んだ此方を伺っているところをドカン。

 

一網打尽。

 

ふむと、魔族の騎士が唸った。

 

「まあいい。 試してみよう」

 

「それでは……」

 

「七名ほど双子の錬金術師どのの護衛につけ。 コカトライスの血を撒きながら、東にゆっくりと移動せよ。 パイモンどのは本隊の護衛を」

 

「心得た」

 

魔族の騎士の判断は適切で、なおかつ素早かった。即時で移動を開始。そして、敵はすぐに追ってきた。血の跡、更には轍を見て、撤退していると判断したのだろう。距離を取りながら、追ってくる。

 

そして、窪地に引っ込むと。

 

距離を詰めてきた。獣どうしでも威嚇しているが、それでもかなり密度が上がってきている。

 

突入を開始するなら。

 

他の獣に餌を横取りされたくない。

 

そういう判断をしているのだろう。

 

頷くと。

 

発破を一気に起爆。

 

集まっていた獣たちを根こそぎに吹き飛ばした。

 

今度は、騎士団が残党狩りをする必要もなかった。

 

 

 

馬車にコカトライスの死骸と、残った獣の残骸を積んで、凱旋する。コカトライスの羽根や、皮の一部などは分けて貰った。それと、発破の代金も、後で提供してくれるという。まあこの辺りは契約上既に約束はされているのだけれども。きちんと口にすることで、誠意を示してくれている、と言う事なのだろう。

 

アトリエに戻ったのが真夜中。

 

当然お父さんはいなかった。

 

スールはずっと青い顔をしていて。夕食はいらないといった。

 

動きも若干精彩に欠けたが。

 

これは仕方が無い。

 

リディーだってそうだ。

 

人が死ぬのは、今までにも見た事がある。

 

一番大事な人が、病気で目の前で死んだのだから。

 

だが、人が殺されるのと。

 

人が悪意で殺されて、「加工された」のは、初めて見た。

 

スールは一人で外を走り回っていた時期があるようだけれど。それでも見た事はなかったのだろう。

 

荒野においてもっとも優先的に駆除しなければならない人類の敵、匪賊。

 

その脅威と、許されざる悪鬼の所行は。

 

心を傷つけるのに、充分過ぎる程だった。

 

それでも吐かなかったのは立派だ。

 

「人間、最低まで落ちるとああなるんだね……」

 

ベッドに転がると。

 

最初に口にしたのは、それだった。

 

コカトライスが手強かったとか。

 

獣の群れを綺麗に殲滅できたとか。

 

そんな事よりも先に。

 

その言葉が口に出た。

 

スールはしばらく黙っていたのだけれど。やがて、口を開いた。

 

「スーちゃんさ、シスターグレースに聞いた事があったんだ。 匪賊との戦いの後は、とにかく精神を保つように気を付けろって。 その時は理由を教えてくれなかったけれど、やっと分かった。 もう、匪賊は人間じゃないんだね」

 

食肉用に加工された人間の残骸。

 

忘れられそうにない。

 

勿論匪賊は森の中でも襲ってくる。木々を傷つける事さえ平気でやる。

 

レンプライアと同じだ。

 

許されざるこの世の悪である。

 

普通の犯罪者とは次元が違う。

 

犯罪は、勿論軽重によって罰が違ってくるけれど。匪賊に関しては見敵必殺。それも当たり前に思える。

 

そして王都の比較的近くにさえ、匪賊が巣くっている。

 

それが、この世界がどれだけ過酷なのかを、よく示していた。

 

ぼんやりとしている内に。

 

疲れ果てて眠ってしまう。

 

眠りを貪っているうちに。

 

なんだか夢を見た。

 

夢の中で、匪賊の群れが、商隊を襲っている。匪賊にとってホムはごちそうだと聞いている。ホムが商人をやる事が多いのは周知。そうでなくても、商人は裕福。太っている事も珍しくない。

 

傭兵達が応戦しているが、当たり前だ。

 

相手は捕食者。

 

捕まったらまず間違いなく殺され食われてしまうのだから。

 

家族単位で移動するから、商隊には子供も乗っている。

 

お父さん。

 

矢が飛び交う中、必死に抱きつく小さな子供。

 

やがて馬車が乱暴に止められ。匪賊が残忍な笑みを浮かべて、馬車に乗っていた人達を引きずり出し。

 

そして洞窟に引きずって帰ると。

 

その場で生きたまま解体して。食べ始めた。

 

真っ先に子供が殺された。

 

ごちそうだ。

 

そう匪賊が喜んでいる。次に目の前で子供を殺された両親も。傭兵はまずいからと最後に。

 

匪賊達が笑っている。

 

収穫だ。ごちそうだ。美味かったぞ。

 

飛び起きた。

 

呼吸を整える。また、強烈な吐き気が来ていた。

 

この夢、嘘では無い。あの匪賊達の記憶をパイモンさんが引っ張り出しているときに、見た断片だ。

 

見敵必殺も当然だ。リディーだって、絶対にあんな連中、許すことはできない。

 

スールは先に起きだして、顔ももう洗って。裏庭でうねうね動いているようだった。

 

リディーはうなされていただろうなと思いながら、顔を洗うと。

 

朝食を作る。

 

肉を見るだけで、思い出しそうになるが。

 

必死に堪える。

 

これから、何度も何度もああいった光景は見なければならないのだ。錬金術師である以上。

 

国一番の錬金術師になるころには。

 

一体何度、ああいう光景を見る事になるのだろう。

 

裏庭からスールが戻ってくる。

 

大丈夫、と心配されたが。

 

平気、としか返せなかった。




消毒(直球)。
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