暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
ミレイユ王女の前には、アダレットの主要な政治家や軍人が集まっている。円卓である。会議が行われるのは、初代「武王」の時代から、円卓でと決まっていた。武王の時代は、時に天幕の中でさえ行われたという。
武王は勇敢な戦士だった。
どんな獣にも、犠牲を惜しまず戦い。多くの街を傘下に入れた。
だが、アダレットが拡大したのは、武王の時代ではなく。後500年を掛けてゆっくりと、である。
それも、結局の所、駐屯部隊を置いて緩やかに管理する、くらいのことしかできておらず。
結局の所王国と言っても、都市国家の集合体に過ぎない。
だから此処の幹部にも。
アダレットに後首都の他に四つある、万を超える人口を抱える都市の管理者。つまり事実上独立国の首長達も含まれていた。
そしてこの幹部達の中には。
深淵の者の公認スパイが何人もいる。
以前は宰相である通称毒薔薇がそもそも深淵の者の所属だったのだが。現在でも、最高幹部はほぼ深淵の者の配下か、もしくは影響下にある。
基本的に深淵の者は、余程の汚職が行われない限りは手を出さない。
ただ、匪賊と関係して利益を貪ったり。
国力を低下させるような行動に出た場合は、情けも容赦もしない。
王でも容赦なく殺す。
そういう連中だ。
幸い深淵の者は国益に貪欲で。腐敗に対して徹底的に厳しい。
汚職官吏も、やり過ぎないように気を付けないと消されると知っているので。それで秩序は保たれてはいる。
それでも時々消される奴はいる。
深淵の者が関与していなければ。
アダレットは500年も続いていなかったかも知れない。
「此方が件のデータとなります。 やはり間違いありません」
「そう。 どうやら前から告知していた通り、間違いなく近いうちに雷神ファルギオルが復活します」
提出されたレポートには、雷神。
以前、この地方で大暴れし。
先代騎士団長と錬金術師ネージュに討伐された伝説の大邪神が復活する証拠となる兆候が、幾つも記されていた。
問題は具体的な時期がいつになるか、だが。
それについては、まだ分からない。
ただ即時と言う事は無い様子だ。
現騎士団長ジュリオがまず挙手。
ジュリオはヒト族だが、戦闘力は先代にも劣らないと言われる凄腕である。そして何より、あの特異点と直接的に強力なコネを持っている。本人は殆ど欲がないストイックな性格で、ヒト族より獣人族に近いとまで言われるが。最近では髭などを生やして、風格を持ち始めていた。
なお結婚話は悉く断っているらしい。
現時点では、そんな余裕は無いから、というのが理由だそうだ。
ちなみにあまり知られてはいないが、ミレイユの夫候補に先代王である父が考えていた形跡がある。
良い男でもあしらっておけば言うことを聞くようになるだろうという浅はかな考えからだ。
ジュリオもミレイユも、深淵の者経由で知っていて。
鼻で笑っていた浅知恵だが。
「現在騎士団の錬磨と、錬金術師による迎撃態勢を固めています。 ラスティンから来てくれた、通称「三傑」……。 現在を代表し、邪神や上級ドラゴンを何体も倒している三人の錬金術師も、協力を約束してくれています」
「それで、邪神ファルギオルが最初に狙う街は分かりますかな」
額の汗を拭うのは、主要都市の一つの首長。
いかにも性格が悪そうな中年男性のヒト族だが。見た目と裏腹に、少なくとも統治の手腕は優れている。
政治闘争の手腕と、政治手腕はまるで別物だ。
前者が優先されるようになると国は傾く。
あまり好かれていない男だが。有能な政治家(政治屋ではない)なので、ミレイユは重宝していた。
「間違いなく王都を直撃してくるでしょう。 出現位置はブライズウェスト平原。 これはほぼ確定です」
「もし錬金術師による迎撃が失敗したら……」
「この国は焦土と化すでしょう。 しかしながら、三傑の実力は凄まじく、いにしえのネージュにも劣りません。 三傑の一人と卑職は旅をした事がありますが、確かに歴史の特異点と呼ばれるに相応しい実力者です」
「実績多く、武名名高い騎士団長どのの太鼓判は実に心強い」
それが嫌みなのは分かっているが。
ジュリオは嫌な顔一つしなかった。
挙手するのは、財務を担当しているホムの大臣である。
今回、アルファ商会に密かに話をして、相当な予算を回して貰っている。借金についても、低利で貸し付けて貰った。
アルファ商会としても、アダレットが滅びたら元も子もない、というのが表向きの理由だが。
ミレイユには、もっと恐ろしい何か裏があるのでは無いかと思えてならない。
「アトリエランク制度により、先ほどの三傑含め優秀な錬金術師が集まってくれたおかげで、かなり騎士団の予算を圧縮することに成功しています。 このまま進めば、騎士団の規模を現状の四百人から五百人に増やす事が出来るでしょう。 騎士隊長が現在八人いますが、十人まで増やす事が出来ます」
「質が落ちては元も子も……」
「それについては問題なく。 現在傭兵の中から志願者を集い、実戦訓練も進めています」
「……」
不安そうに互いを見回す幹部達。
ミレイユは咳払いすると。
立ち上がる。
「今はまさに危急の時。 ファルギオルを倒した後に、更なる発展を考えなければならない時が来ています。 先王の愚劣な施策を再現するわけにはいきません。 皆、連携し、国家百年の計を念頭に動きましょう」
「アダレットのために!」
「万民のために!」
唱和すると、会議を終える。
さて、此処からだ。
ミレイユは大量の書類を決裁しながら、見極めなければならない。
三傑と言われているバケモノ達が、実際には何を目論んでいるのか。
特にあのソフィー=ノイエンミュラーは次元違いの存在だ。ネージュに匹敵なんてとんでもない。
実際にはファルギオルなんて単独で簡単に捻り殺せるとみている。
それがどうして、このような国策に協力し。
あの深淵の者が全面バックアップに出ている。
深淵の者はあくまで安定した世界のために動いているという印象があるが。
それにしてはあまりにも強大すぎる。歴代の王の中で、愚劣な者は何人も実際に暗殺されてきた。
深淵の者と連絡を取るべくジュリオを遣いに出したのはミレイユだ。
ジュリオは成果を上げてくれたが。
ジュリオ自身が何を見たのかは、全ては語らなかった。人生観が変わるほど凄まじいものを見た事だけは語ってくれたが。
いずれにしても、ミイラ取りがミイラになってしまうの言葉通り。
今ではジュリオはむしろ深淵の者側。
強固なパイプが構築できたと言えばそうとも言えるが。
ため息をつくと、手際よく書類を処理し。
そして準備を進めさせる。
まだすぐに現れる訳では無いだろうが。
ファルギオルは、確実に。
恐らく年内には姿を見せるのだから。
(続)
奴の影が見え始めます。
原作でも負けイベントかこれって言う程強い彼奴です。
本作では最初にしゅんころされていますが。ソフィー先生はあいつでも相手が悪すぎるだけです。
現状の双子からみればそれこそアリと恐竜以上の戦闘力差があります。