暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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例え相手が人間を殺して喰らっているような連中である事は分かっていても。救貧院で周囲に匪賊に家族を食われた人がいて、そのおぞましさをしっていても。

人間を殺す作戦に参加したスールは、既に心に軋みを抱え始めていました。

人間として完全に壊れ始める予兆と言えます……


錬金術師に必要なこと
序、岐路


スールは思う。

 

匪賊を殺す作戦に参加し。彼らが人間を獲物としか見ていないことを知ってしまったからだろうか。

 

いずれにしても、自分が見ていた世界はまだまだとても狭かったと。

 

この世界には、許してはいけない悪が実在するし。

 

それは駆除しなければ際限なく湧く。

 

アダレットの王都は、ラスティンの首都と並んで世界最大の都市だと聞いているけれども。

 

それも放置しておけば。

 

絶対に匪賊の同類が幾らでも湧く。

 

思えば、教会にいた孤児の中には。匪賊に家族を殺された子供も珍しくはなかったのではあるまいか。

 

人間の最大の敵は恐らく。

 

獣ではなく、人間なのではあるまいか。

 

勿論獣の恐ろしさはよく分かっている。更に言えば、レンプライアはもっと恐ろしいとも思う。

 

獣以上にドラゴンは恐ろしいのも確定だし。

 

その上を行く邪神となると、想像するのも嫌だ。

 

だが、それでもだ。

 

何か人間の方に、もっと大きな欠陥があるのではないのだろうか。

 

そうスールは思ってしまう。

 

匪賊の思考回路は見た。

 

最初は小さな悪事から。

 

やがて犯罪の結果街にはいられなくなり、飛び出す。

 

獣に食われずに生き残ると。

 

一番弱い獣を襲って食うようになる。

 

それは人間だ。

 

勿論人間を殺すのにはどんな匪賊でも最初は抵抗はある様子だ。映像でも、最初は躊躇していた。

 

だが一度一線を越えてしまうと。

 

後はバケモノに成り下がる。

 

お化けなんて、アレに比べれば可愛い。

 

人間の味を覚え。

 

人間を喰らうようになった、最低最悪の獣。

 

それが匪賊だ。

 

駆除しなければならない筈である。更正の手段なんてない。あれはもはや、人間とは呼べない。

 

逆に言うと。

 

人間は簡単に、人間ではなくなるのではあるまいか。

 

きっかけさえあれば、人間では無くなる事はとても簡単。それが現実ではないのだろうか。

 

お父さんの事を思う。

 

今、お父さんはお母さんを亡くして、完全に壊れてしまっているけれど。それはむしろ、幸せな壊れ方、ではないのか。

 

本当に酷い壊れ方をすると、すぐに人間は匪賊のようになってしまう。それが現実なのではあるまいか。

 

下手をすると、そんなのが街にも潜んでいるかも知れない。

 

そう思うと。

 

ぞくりときた。

 

実際、駄目な街などでは、匪賊が入り込んでくる事があるらしい。王都では流石にここしばらくそんな話もないようだけれど。

 

先代の王様の時は政治が混乱して。

 

一時期は、かなり危ない所までいったと聞いている。

 

幽閉された王様に同情する人は誰もいない。

 

ミレイユ王女が先代を幽閉した事は、誰もが諸手で歓迎した。

 

それは匪賊が街に入り込む事が、どれだけ危険な事態を呼び起こすか。誰もが知っているからではあるまいか。

 

はあと、大きなため息をつく。

 

スールはバカだ。

 

自分でもそれは自覚している。

 

他人に自慢できるのは身体能力と勘だけ。錬金術だって、分かっている。リディーに明確に劣っている。どれだけ練習してもついていくのがやっと。錬金術は才能の学問だから仕方が無いのかもしれないけれど。それでも、どうして同じ双子なのに。こんなに違うのだろうと、神様を恨んだりもした。

 

だけれども、バカだけれど勘には自信がある。

 

やっぱり、この世界は何か根本的な欠陥を抱えている。

 

そしてその欠陥は。

 

人間そのものが原因なのではあるまいか。

 

外で深呼吸をして。

 

それから調合に戻る。

 

爆弾はどれだけあっても足りない。

 

また明日、アンパサンドさんとマティアス、フィンブル兄と一緒に、ざわめきの森に入って、素材を回収してくる予定だ。

 

数日前にも一度入ったのだけれど。

 

抉られてしまった木などは、綺麗に治っていた。

 

お化け達の話によると、凄い錬金術師が治してくれたという事で、それは嬉しかったのだけれども。

 

それはそれとして、レンプライアはまた湧いていた。

 

前ほどの数では無かったし。以前手間取った上半身だけの奴はいなかったのだけは幸い。

 

それでも、やはり強い。しかもルーシャとオイフェさんがいない分厳しい。

 

しばし、爆弾を作る。

 

置き石戦法で、ピンポイントフレアが極めて有効な事も分かってきているので。

 

戦闘用の発破も作っている。

 

事実、直撃させればレンプライアも即死だったし。木も傷つけない。良い事づくめだ。とはいっても、もっと強いレンプライアが相手になった場合は、どうなるかはまったく分からないが。

 

獣でさえ、戦術を駆使してくるのである。

 

人間に近い形をしているレンプライアが、同じ事をしてこないとは言えない。

 

調合をしていると、リディーが帰ってくる。

 

またかなり絞られたらしい。

 

あれから戦略と戦術を座学で学んだ後、立ち会いでナックルガードを作っているそうである。

 

既にあるのはスールの分とリディーの分。更に、アンパサンドさん、マティアス、フィンブル兄の分もできている。

 

今度は、左手用の奴を作っているそうで。

 

金属加工の練習を、徹底的に重ねているそうだ。そうか、凄いなと思う。まだスールには、手が届かない所をやっているわけだ。

 

時々悔しくて、言葉を失いそうになる。

 

同じ双子でも、持っているものが違う。

 

どれだけ練習してもついていくのがやっとのスール。

 

体は弱いかも知れないけれど、錬金術の才覚はあからさまに高いリディー。

 

ずっと基礎の反復ばかりしていて。

 

次の段階にいけないスール。

 

このまま次には永遠に行けないのでは無いか。

 

そんな恐怖さえ時々感じる。

 

やがてスールは役立たずとされて、アトリエを追い出され。

 

リディーが国賓として待遇される中。

 

街の隅で、膝を抱えて餓死をただ待つ。

 

そんな未来が、あるかも知れない。

 

今は、リディーはスールと一緒にいることを望んでいる。スールだってそれはそうだ。

 

だが、何か取り返しがつかない出来事が未来に起きたら。

 

そうなってしまうかも知れない。

 

多分そうなれば、お父さんも多分何処かでのたれ死んでいる筈で。

 

リディーだけがもてはやされ。

 

或いは結婚もして。

 

スールはいなかったことにされるのではないだろうか。

 

ネガティブな妄想だとは自分でも分かっている。

 

だが、リディーにできる事が出来ない。

 

それが悔しいのは事実だ。

 

用語だって覚えられない。

 

この間だって、匪賊の処刑を見たら、ひっくり返ってしまった。

 

弱いのだ。スールは。

 

身体能力は高いかも知れないけれど、それにしても他に幾らでも凄い人はいる。

 

精神が脆すぎるのである。

 

無能なのである。

 

そう、自覚している。無能である事は。

 

だからこそ、経験を積まなければならないのだけれど。

 

本当に、それが意味を成すのだろうか。

 

錬金術は才能の学問だという話である。

 

もうスールは。

 

才能が頭打ちなのではあるまいか。

 

頭を振って、思考を切り替える。

 

料理を始めたリディーに背中を向けたまま、声を掛ける。

 

「リディー。 ナックルガード、人数分できそう?」

 

「うん、なんとか。 手がおかしくなりそうだけれど」

 

「そっか」

 

「もうすぐ試作品をスーちゃんにあげるね。 筋力強化と防御力強化が掛かるから、更に前線で戦いやすくなる筈だよ」

 

そうか。

 

足手まといではなくなるのか。

 

釜をかき混ぜ。

 

ほどなく仕上がった中間生成液を取りだす。

 

釜を洗っている内に。

 

夕食は出来上がっていた。

 

戦闘用の発破を相応に作っておいたのだけれども。

 

ピンポイントフレアを機能に盛り込むと、途端に難易度が跳ね上がる。

 

量産は難しいかも知れない。

 

その代わり、現時点で遭遇する可能性が高いレンプライアは多分確殺できるし。

 

木々を傷めずにも済む筈だ。

 

夕食を口にしながら、話をする。

 

城の地下エントランスには、まだたくさんの絵があった。

 

今後は、あれらの調査もするのだろうか。

 

可能性は決して低くは無いだろう。

 

お化けだらけの森、というようなものは流石に幾つもないと思いたいが。

 

見るからに寒そうな世界とか。

 

灼熱地獄の火山の中とか。

 

そんな絵も見かけた。

 

下手をすると、即座に撤退しないと、死ぬ場面も増えてくるかも知れない。レンプライアも、ざわめきの森の奴よりも、ずっと強いかも知れない。

 

「次の試験って、何だろうね」

 

「分からないけれど、兎に角ナイトサポートと発破を納入して様子を見ないとね」

 

「発破はどうだったんだろう。 役人笑ってたけど」

 

「あの後マティアスさんに聞いたけれど、評判はとても良いみたいだよ。 誰が見てもわかり安いし、簡単に扱えるし」

 

夕食の質も上がってきている。

 

流石に錬金術の資金には手をつけられないけれど。

 

それでも支援金が国から出ているので。

 

それで良い生活ができるのだ。

 

アダレットとしても、錬金術師を飢えさせるわけにはいかないのだろう。まあ、有事の最大戦力なのだから、当たり前とも言えるが。

 

「後はお父さんだね」

 

「うん。 何処で何をしているやら……」

 

「……」

 

ろくでもない駄目親父と罵ったこともあるけれど。

 

お母さんを失ったときのお父さんのつらさは。

 

錬金術師をやるようになってからは、よく分かるようになった。

 

もし大事な人を、技量不足で救えなかったら。

 

その時は、絶望してもおかしくは無い。

 

今、お父さんは。

 

何を思って、闇の中を歩いているのだろう。

 

食事を終え。

 

スケジュールを確認すると眠る。

 

騎士団から貴重な人員を割いて貰っているのだ。

 

ざわめきの森では。

 

貴重な素材を、必要なだけ手に入れてこなければならないだろう。

 

お化け達は比較的友好的に接してくるけれど。

 

それでも、遊び半分に襲ってくる者もいる。

 

倒しても何も残さず消えてしまうので。

 

死なない、というのは本当なのだろう。

 

まだお化け話はスールにとっては怖いけれど。

 

今はもう、ざわめきの森のお化け達とは、ある程度震えながらも、喋る事は出来るようになっていた。

 

灯りを消して。

 

そして疲れ果てているリディーが先に寝入ったのを見て。

 

ふと思う。

 

今、この細い首をねじ折ってしまったら。

 

才覚の差で、苦しむ事はなくなるのではないのだろうか。

 

今のスールならできる。

 

戦闘用の装備類は身につけていないけれど。

 

身体能力は鍛えられてどんどん上がっている。

 

リディーは相変わらずの貧弱体質。

 

その気になれば、相手が起きる前に、首をへし折る事だって。

 

震える手を伸ばす。

 

そして、我に返って、首を横に振った。

 

駄目だ。

 

リディーに対する劣等感から、リディーを殺したりしたら。それこそ永遠に取り返しがつかなくなる。

 

深呼吸して、それから布団に潜り込む。

 

これ以上邪悪が心の中で首をもたげる前に。

 

眠ってしまわなければならなかった。

 

 

 

翌朝。

 

お城に行くと、既に三人は待っていた。

 

ざわめきの森に入って、レンプライアを駆除ししつつ、素材を集める。木の上などにある実も、少しずつ回収して、内容を調べる。

 

出てくるレンプライアは、小さなものが主体だったけれど。

 

それでも魔術を使ってくるのは当たり前。

 

変な初見殺し能力を持っている事も珍しく無く。

 

お化けに話を聞いて。いる場所に最初に出向いて、駆除をしなければならなかった。

 

多分他の錬金術師も駆除はしてくれているのだと思うけれど。

 

それでもこう湧いてくると言う事は。

 

何か理由があるのかも知れない。

 

更に殺すと確実に残す何か破片のようなもの。

 

強い魔力を持っていて。

 

何かに利用できないかと、どうしても考えてしまうのだった。

 

最深部の墓場にまで行くと。

 

井戸から綺麗な水を汲んで、お墓を掃除していく。

 

お化け達は、掃除について礼を言って、毎回何かくれる。

 

流石に深核ほどの貴重品はくれないけれど。

 

それでもそこそこにいいものを毎回くれるので。

 

ここに来る意味は充分過ぎる程にあった。

 

ざわめきの森を出ると。

 

軽くミーティングをする。

 

「騎士団との討伐任務、上手く行っているようなのです」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「連携があからさまに上手になっているのです。 既に二回、騎士団との合同討伐任務に出たと聞いているのです。 理由はそれ以外には考えられないのです」

 

「あー、ははは」

 

スールは苦笑い。

 

リディーは、あまり笑わなかった。

 

咳払いすると、フィンブルさんは言う。

 

「新しい発破の威力は凄いが、あれしかけるのに失敗したりすると大惨事になりそうだな」

 

「はい。 気を付けて敷設はしています」

 

「ならいいんだが、あんなの浴びたらひとたまりもない。 気を付けてくれよ」

 

マティアスは何も言わない。

 

多分だけれども。

 

自分が何か言う必要はない、と考えているのだろう。

 

それはそれで問題のような気がするが。

 

或いは、皆が必要な事を言ったから。

 

敢えて蛇足は不要と考えたのだとしたら。

 

マティアスも、考えるようになっている、と言う事なのかも知れない。

 

「それでは解散なのです」

 

アンパサンドさんが声を掛けて、皆城のエントランスを出る。

 

入れ替わりに、ルーシャが降りてきた。騎士数人と、オイフェさんと一緒である。階段で話すのもあれなので、そのまま帰る。

 

ルーシャが真剣な表情で。

 

多分これから危ない所に入るんだろうな、というのが分かったというのも、理由の一つだった。

 

Fランクになったばかりで。

 

まだ次のランクになる事は、考える事も厳しい状況だ。

 

発破の性能を上げ。

 

ナックルガードによって戦う力も倍率を掛け。

 

それでもまだまだ荒野の獣には、到底及ばない。

 

ネームドと戦うのは、多分まだ先だ。

 

いずれにしても、はっきりしているのは。

 

このままだと、スールは近いうちに戦力外になりかねないと言う事だ。

 

焦りがわき上がってくる。

 

アンパサンドさんは、足手まといと言う事はなくなった。戦闘でも活躍しているから、だろう。

 

だが、それは。

 

錬金術師にしか出来ない事か。

 

何か、自分にしか出来ない事はないのか。

 

少しでも良い。

 

考えなければならなかった。

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