暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
原作でもこいつのダメージ倍率がとんでもなくて、いざという時は頼りっきりだった人も多かったかと思います。
レンプライアを殺すと手に入る欠片を、調べていて、幾つか分かってきたことがある。
一つは、このようなものは、見聞院の本にも記されていない、と言う事。
イル師匠に話を聞いてみたけれども。
イル師匠の図鑑にも、記載は一切されていなかった。
話を聞いても、首を横に振られるだけ。
そうなると、自分で確かめなければならない、と言う事だろうか。
熱してみる。
冷やしてみる。
いずれも、効果は無い。
中和剤に混ぜてみる。
あんまり良い効果が出るわけではない。
だが、である。
フラムに塗りたくって。
それを城壁外で爆発させた時に。
異変が起きた。
イル師匠が立ち会いで来ていたから良かったのだが。そうでなかったら、一体どうなったことか。
文字通りのきのこ雲ができ。
辺りの地面が抉れ。
消し飛んでいた。
冗談だろうと、スールは呟く。リディーも言葉を失って、へたり込んでいた。
今のフラムは、最初の頃作った、出来があまり良くないものだ。これが、こんな火力をたたき出すなんて。
イル師匠がシールドを即時展開してくれなければ、多分二人揃って消し飛んでいたかも知れない。
爆発の後を見聞した後。
イル師匠が教えてくれる。
「これは……フラムの性能を全力以上に引き出しているようね」
「全力以上、ですか」
「錬金術の基礎は?」
不意に言われたので。応える。
ものの意思に沿って、ものを変質させる力だ。
頷くと、イル師匠は、爆発の跡をアリスさんと一緒に埋めながら、話してくれる。
「今の様子からして、フラムの爆発物としての意思を、限界を超えて引きだした、と判断して良いようね」
「そ、そんな事が出来るんですか!?」
「現にできているでしょう」
イル師匠は、あり得ない、というような事は言わなかった。
実際起きている事を、あり得ないといっても、虚しいだけだ。
そして悟る。
今、スールは。
下手すると、非常に危険な発見をしてしまった、という事を。
「傷薬でも試してみなさい」
「は、はいっ!」
アリスさんが、森の中に消えると。
すぐに傷をつけた兎を引きずってくる。
人間大の凶悪そうな兎だけれども、片手で、である。兎は必死に抵抗しているけれど、簡単に引きずられていた。
そのまま地面に投げ出すと、踏みつける。
悲鳴を上げてもがく兎だけれど。
脱出は不可能そうだった。
すぐに、兎の爆ぜ割れたような傷口に。レンプライアの欠片と一緒に傷薬を塗り混む。これもナイトサポートなどとは違って、最初の頃に作った出来が悪い品なのだけれども。
効果は想像以上だった。
兎の傷が瞬時に溶けるように塞がり。
それどころか、一気に膨れあがって、そして爆発したのである。
アリスさんは爆発を上手に回避したが。
モロに大量の血と肉片を浴びてしまったスールは、思わず絶息し。その場で動けなくなってしまった。
アリスさんが、タオルで拭いてくれる。
服の方は、後で洗濯しなければならない。
「これは、下手に使えないわね。 薬の効果が過剰に引き出されて、肉体が暴走して爆発したのよ」
「ど、どうすれば」
「使う量を減らしてみなさい」
また、アリスさんが兎を引きずってくる。
同胞の残骸がある事を感じ取ったのか、兎はピーピー悲鳴を上げたが。
そもそも荒野では、兎だって人を襲う。
容赦をしてやる理由など無い。
ナイフを振るって、あっさり兎に傷をつけるアリスさん。
今度は、投入するレンプライアの欠片をぐっと減らし。
そして薬を塗り込んでみる。
手が震える。
目の前で爆発した兎のことは、どうしても忘れられそうにない。怖い。悲鳴を上げて暴れようとする兎の傷口に薬を塗り込むと。
今度は傷口が見る間に塞がり。
それ以上の反応は起こさなかった。
「ふむ、やはり分量が問題か……」
「……」
「アリス、それは仕留めておいて。 夕食にするわ」
「はい」
即座に兎の首を刎ね飛ばすアリスさん。
情けも容赦もあったものではないが。
どの道捕まった時点で、あの兎の運命は決まっていたのである。
仕方が無い、と言う事だ。
その後、幾つかの実験をするが。
森にダメージを与えるとまずいと判断したからか。イル師匠と一緒に、森の外にまで出る。
ルフトを使った場合。
爆風が、さながら竜巻のように辺りを蹂躙した。
しかも触れただけで消し飛ぶような業風である。
あれに巻き込まれたどうなるか、想像もしたくない。
ピンポイントフレアの発破の場合。
空に閃光が走り。
雲を消し飛ばしていた。
あんな火力が出るのか。
イル師匠は少し考え込んでから、言う。
「これはまだ貴方たちの手には余るわね」
「戦闘での切り札には……」
「駄目よ。 まだ貴方たちの技量では、この火力を使いこなす事は出来ないわ。 もう少し戦闘慣れしたら許可を出すわ」
「わかりました……」
スールは肩を落とす。
兎が爆発したときはショックだったけれど。
このアイデアを出したのはスールだったのだ。
ひょっとして、認めて貰えるかと思ったのに。今の技量では駄目と、けんもほろろの対応を受けてしまった。
アトリエに戻る。
血だらけになった服を着替えて、洗濯。
錬金術師の正装は、幾つかあるのだけれども。
いずれもお母さんが作ってくれたものだ。
どれ一つだって、邪険には扱えない。
いずれ一人前の錬金術師になった時。
これを着て、見せて欲しい。
お母さんはそう言っていた。
だから血だらけの臓物塗れになったとしても。洗ってまた使う事を考えなければならないのだ。
着替え終わると。
スールはぼやく。
「せっかく良い考えだと思ったのに……」
「仕方が無いよ。 だってあんなの、使いこなせないもん」
「だけどさ、スーちゃんがやっと思いついた事だったのに。 スーちゃん、自分がバカだって事くらいはもう分かってる。 思いつくことも、全部バカが考えた事だから、役に立たないのかな」
リディーは口をつぐむと、俯いた。
或いは気付いていたのか。
スールが、最近気を病んでいたことに。
「スーちゃんも金属加工やってみたい」
「イル師匠に頼んでみる?」
「うん……」
その日は、もう休む。
そして翌日。
イル師匠の所に出向くけれど。イル師匠は、難しい顔をした。
「錬金術師と一言に言っても、得意分野があるのよ。 貴方には金属加工のような細かい作業は向いていないわよ」
「じゃあ、何が向いているんですかっ!」
不意に、感情が溢れる。
せっかく思いついた事だったのに。
それなのに、どうしようもない。
スール自身がどうしようも無いことは分かっているけれど。散々反復練習はこなしてきているのだ。
それなのに、リディーの方が、難しい事を教わって。
スールはずっと反復練習の繰り返し。
勿論、今のはイル師匠に責任は無い。
だから。拳を固めて、謝った。
「ご、ごめんなさい……」
「はあ。 スール、貴方は同年代の平均的な錬金術師に比べれば十分できる方よ。 ただ貴方はね、性格が雑で勘に頼る所が多いの。 レンプライアの欠片を用いた火力強化はとても面白いアイデアだったわ。 でもね、今の貴方では経験が不足しすぎていて、その勘を使いこなせないの」
厳しい言葉だ。
だがイル師匠は、頭ごなしに叱責するような事はしなかった。
そして、驚くべき事を言い出す。
「私もね、どちらかといえば天才ではないわ」
「えっ……」
「私の知っているだけでも、私より才覚がある錬金術師は二人いるわよ。 必死に努力して追いついていったけれど。 それでも努力を欠かすとあっと言う間に引き離されていくわ。 今のリディーとスール、貴方たちと同じような関係ね」
スールの考えを。
即座に見抜かれる。
悔しい。だけれども、その通りだ。だから、何も言い返せなかった。
「幸いスール、貴方には錬金術師として必要な才能がある。 才能の上限についてはまだ分からないけれど、努力の結果才能が開花するケースはいくらでもあるわ。 例えば、ものの声が聞こえるというケースがあるのを知っているかしら?」
「ものの声が聞こえる!?」
「そんな事があるんですかっ!」
「あるのよ。 あらゆるものの声が聞こえる奴もいるし、鉱物限定で声が聞こえる奴もいる。 鉱物限定で聞こえていた奴は、錬磨を続けてあらゆるものの声が聞こえるようになったわ」
次元が違う話だ。
スールは思考が定まらない。
そんな異次元の錬金術師が、実在するのか。
まさか、リディーにもあるのか。
スールにそんなのが、備わるとはとても思えない。
ただ、後から才覚が覚醒する実例を、イル師匠は見ている、と言う事か。それならば、信じられる。
ただ、あまりにも異次元過ぎる話で。
やはりまだ頭がついていかない。
スールは唇を噛むしかなかった。
「とにかく、焦るとどうにもならないわよ。 私が見たところ、リディーは無難にわかり安い才覚があるけれど、スール、貴方の才覚は眠っている状態ね。 眠っている才覚を引き出すためには、努力を続けるしかない。 才能ってのは、どうしても上限があるものだけれど。 何かしらのきっかけで、一気に開花することがあるの。 貴方には光るものが確かにある。 だけれど、それは磨き抜いた先に、ようやく現れる輝きよ」
言葉も無い。
ごめんなさいともう一度言うと、イル師匠のアトリエを後にする。
それから、アトリエにどう帰ったかは、よく覚えていない。
途中、フィンブル兄に声を掛けられた気がするけれど、生返事を返していたような。それくらいしか分からない。
「練習、しなきゃ……」
あの破裂した兎。
過剰すぎる火力。
それが全てだ。
自分でも分かっていた。まだとても使いこなせる力では無いという事くらいは、だからこそ、練習しなければならなかった。イル師匠は見かけはあんなだけれども、その実力は超一級。既にAランクのアトリエになっているとも聞いている。ちょっとだけ小耳に挟んだのだけれど、今ラスティンには「三傑」と呼ばれる凄い錬金術師達がいるらしいのだけれども。
イル師匠は間違いなくその一人だろう。
そんなイル師匠が太鼓判を押してくれたのだ。
言われるまま、練習をするしかない。
蒸留水。
中和剤。
発破。
お薬。
必要なものを順番に作っていく。
それらはいずれもが必要で。戦いの度に大量に消耗する。そして消耗する分は、常に備えておかなければならない。
向いていないのなら。
努力を向いている方に向けるしかない。
そして才能が開花する可能性があるのなら。
それに掛けるしかない。
イル師匠は言った。
リディーには、わかり安く才覚が備わっていると。スールの才覚は眠っていると。それは、本職中の本職の言葉だ。信用せざるを得ないだろう。だからこそ、言われた通りに練習を重ねる。
リディーが帰ってきた。
今日もかなり絞られたようだが。
笑顔で渡される。
ナックルガードの、もう片手だ。
両方につけて見るが。
なるほど、力がわき上がってくる。獣の腕輪に加えて、これは更に能力を倍にできると見て良い。
それに、体がとても温かい。
これならば、前線での戦いに、更に注力することができる。
もっと早く動ければ。
敵の至近に発破を落として、爆破とか。
或いは、錬金術の道具で、ゼロ距離射撃とか。
戦い方に工夫が出てくる。
壁役はマティアスとアンパサンドさんがやってくれるのだ。自分には、できる範囲で動けるようにしたい。
でも、それはそれとして。
やはり、悔しいとは思う。
「才能が目覚めたら、スーちゃんにもこれ、作れるようになるのかな……」
「大丈夫、きっと作れるようになるよ」
「……そうだよね。 イル師匠が、嘘つくわけ無いよね」
「イル師匠のおかげで、Fランクまで上がれたでしょ。 今後も、同じようにやっていかないとね」
そうだ。
イル師匠を今は信じるしかない。
戦闘では、今まで以上の活躍が出来る。修羅場もくぐってきて、それなりに経験も積んで来ている。
それならば。
少しずつ、やれる範囲内で。
やっていくしかない。
「次は誰の分を作るの?」
「順番としてはマティアスさん、アンパサンドさん、フィンブルさん、私かな」
「最後で良いの?」
「戦闘では支援役以外役に立てないからね。 後方でシールドを張ったり強化魔術を使うなら、別に身体能力は上がらなくても良いから」
まあ、それもそうか。
リディーも、自分を特別扱いはしていない。
それならば、スールだって。
自分を特別扱いする訳にはいかなかった。