暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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錬金術師としてもそうですが、一定の戦力とみなされた以上、双子は騎士団とともに仕事に出る事になります。

それくらいこの世界。人の手が足りていないのです。


2、自分だけの技は遠く

マティアスがアトリエに来る。急いで来て欲しいという事だったので、すぐに準備を整えて、後についていく。

 

フィンブル兄に声を掛ける余裕は無い。

 

アンパサンドさんも、城門前にいて。

 

騎士が数人。

 

従騎士二十人ほど。

 

更に傭兵も四十人以上はいた。

 

その上騎士の中に、隊長らしいヨロイを着ている人がいる。

 

これは大所帯だ。何があったのだろう。錬金術師も何人か見かける。ルーシャとパイモンさんが揃っているのには驚いた。

 

尋常な状況では無いことは明らかだった。

 

「これは何があったんですか!?」

 

「近場でドラゴンが倒されて、その結果獣の縄張りが大幅に動いた。 街からかなり離れた場所にいた大物……いわゆるネームドがその結果街にかなり近付いているという報告があった。 これからネームド狩りだ」

 

「!」

 

いよいよ来たか。

 

パイモンさんとルーシャは、どっちも今のリディーとスールより数段格上の錬金術師だけれども。

 

四人も錬金術師を動員し。

 

これだけの規模の騎士団を出しても。

 

マティアスは青ざめている。

 

「マティアス、ネームドと戦ったことはあるの?」

 

「ああ。 とにかくヤバイ。 今まで見てきた獣なんて、子供に見えるくらい強い」

 

「ひえっ……」

 

「とにかく気を付けろ。 今回も損耗率三割を覚悟しているって話だ。 運悪く超一流の錬金術師は、みんな出払っている所でな。 お前達にも声が掛かったって状態なんだよ」

 

そうか、それは確かにとんでも無い状況だ。

 

この騎士達は、或いは出られる面子を全員繰り出しているのかもしれない。魔族の騎士が二人もいる。

 

それだけの大事な作戦という事なのだろう。

 

城門から、騎士達と一緒に出る。

 

騎士団の損耗率の高さは聞いてはいるが、今回の作戦は本当にやばそうだ。傭兵達に至っては、錬金術の装備も支給されていない。

 

駆け足。

 

声が掛かって、皆急ぎ始める。

 

リディーも体力がつき始めたから、最近はこうやって走るのも特に問題はなくなっている。だが、次の街まで一気に街道を駆け抜けた後は、流石に疲れていた。栄養剤を渡して、飲んで貰う。

 

まずいのは仕方が無い。

 

咳き込むリディー。

 

スールは、ナックルガードの常時体力回復の事もあって、これくらいは全然平気だった。アンパサンドさんも余裕の様子である。この指ぬきナックルガード、それぞれの手にあわせて調整出来るようになっている。

 

マティアスは少し息を切らしていたが。

 

それは多分、重い鎧を着ているから、かと思う。

 

騎士団を指揮しているのは、怖そうなヨロイを着た人で、外からでは性別も分からない。

 

この人が、噂の副騎士団長だろうか。

 

性別も良く分からないと言う話だが。

 

とにかく圧倒的に強いと言う。

 

だが、そんな人が出てくる程の状況だと言う事でもある。

 

「リディー、荷車に乗る?」

 

「ううん、大丈夫」

 

「伝令っ!」

 

走り込んできた従騎士。かなり手傷を受けている。

 

あの様子だと、交戦したと言う事だろうか。

 

「敵の侵攻、想像以上に早いです! 一刻以内に、この街を射程圏内に入れるものと思われます!」

 

「……総員防御陣を敷く。 錬金術師を何が何でも守り抜け」

 

「了解!」

 

騎士達が敬礼する。

 

やはり相当に偉い人なのだろう。

 

でも今の声で分かった。

 

中身はまだ若い女性だ。

 

魔術で隠していたが、何というか、女性らしい響きが声に出ていた。ただ、あからさまに様子がおかしかったが。

 

街から出て、小物の獣を駆除しながら、陣を張る。

 

偵察の部隊がネームドに遭遇。

 

進撃してきているのを確認していると言う事は、此処で激戦になると言う事だ。流れ弾が街に飛んだら、家の二つや三つ、簡単に消し飛んでしまうだろう。

 

見えてきた。

 

とんでもなく巨大な猪だ。

 

しかも、全身から多数の触手を生やしていて。

 

それに凄まじい魔力を宿している。

 

悠々と歩いて来るそれは。

 

文字通り、天上天下唯我独尊と言わんばかりに。此方の防御陣を気にする事もなく、進んできている。

 

怖い。

 

話には聞いていたが。名前持ちになると、獣はこんなに桁外れのバケモノになるのか。しかも、近付いてくると見える。

 

全身に無数の目までついている。

 

「攻撃準備。 シールド準備」

 

「はっ! 総員戦闘準備!」

 

騎士達が緊張した声で唱和する中。

 

猪は凄まじい雄叫びを上げる。

 

それだけで、人間が勝てる相手では無いと分かってしまう。スールは足が一瞬でふらふらになるのを感じ。リディーも、真っ青になっている。

 

パイモンさんは平然としているが。

 

しかし、ルーシャも青ざめている。

 

突撃開始する猪。

 

なんと、触手を振るって、更に加速しながら突貫してくる。しかもあの巨大さ、普通の猪の十倍はある。

 

騎士達が、マティアスも含めてシールドを展開するが。

 

猪は、真正面からそれをぶち破った。

 

しかし、直後。

 

鎧の人が、剣を一閃。

 

猪の鼻が、真っ二つに切り裂かれ、竿立ちになる。

 

一斉に、攻撃を開始する騎士団。

 

だが、一旦転んだ猪は、触手を振るって不自然な体勢から立ち直り、そればかりかバックステップして距離を取ると。

 

全身にある眼で同時詠唱を開始。

 

シールドを張りつつ、攻撃魔術の詠唱もしている様子だ。

 

パイモンさんが六連の雷神の石を叩き込むが。

 

しかし、猪はそれになんと耐え抜いた。

 

騎士達が一斉にしかけるが、触手を振るう度に、傭兵も従騎士も、はじき飛ばされていく。

 

まずい。

 

このままだと、大勢死者が出る。

 

スールは飛び出す。ピンポイントフレアつきの発破を、目に叩き込んでやれば、或いは。

 

あの怖い鎧の人がしかけるが、猪は二度目の剣撃をシールドで防ぎ抜く。

 

だが、その隙に脇に潜り込んだアンパサンドさんが。

 

目を一つ、抉っていた。潰れたかは分からないが、わずかに狙いが逸れる。

 

猪が、全方位に魔術をぶっ放したのは、直後。

 

だが、それが逆に煙幕になる。

 

アンパサンドさんが煙からバックステップして飛び出してくると同時に。

 

スールは逆に、煙幕に飛び込んでいた。

 

アンパサンドさんが傷つけた目の一つに、ピンポイントフレアつきの発破をねじ込むと。

 

起爆。

 

凄まじい雄叫びが上がるが、死んだとは思えない。

 

一瞬後。

 

触手が、スールを薙ぎ払っていた。

 

煙幕を、触手で乱暴に払う巨大猪。

 

魔族の騎士が躍りかかり、今スールがつけた傷に更に矛をねじ込んでいるが、それでも平然と動いている。

 

スールは動けそうにない。

 

ルーシャが、傘から光弾を放つが、文字通り猪のシールドはそれをはじき返し。

 

そして直後。

 

パイモンさんの六連雷神の石が。

 

猪を頭上から、雷撃で蹂躙していた。

 

悲鳴を上げながら竿立ちする猪の触手が幾つも爆ぜ割れ。

 

目も吹き飛ぶ。

 

呼吸を整えながら、必死に立ち上がる。

 

もう一発。

 

もう一発、ピンポイントフレアつきの発破を、傷口にねじ込んでやれば。マティアスが躍り出る。鋭い剣撃を叩き込むが、猪は余裕を持って、まだまだ残っている触手で受け止めて見せる。

 

だが、反対側に一瞬で回り込んだアンパサンドさんが、また一つ目を抉り。

 

殺気を込めた唸りを上げた猪が。

 

アンパサンドさんを複数の触手で薙ぎ払う。

 

しかし、その全てを匠にかわしきるアンパサンドさん。

 

凄い。

 

一発でも食らったら終わりなのは一目で分かる。

 

そんな状況なのに。

 

これだけ勇敢にやれるのか。

 

不意に、スールの体に力が湧いてくる。

 

リディーの支援魔術だ。それも、恐らく今までよりずっと火力が大きい。これならば、行けるかも知れない。

 

立ち上がると、突貫。

 

猪が振り向く。

 

思いっきり目が合った。

 

その眼球の中には、瞳が四つもあって。とても尋常な生物とは思えなかった。恐らく強力な魔術を使うために、体を変化させたのだろう。

 

鎧の人が、猪の背中に飛び乗ると。

 

雷神の石が直撃した傷口に、更に剣を叩き込む。

 

触手も露骨に減ってきている中。

 

アンパサンドさんが、猪の口の中に、小石を蹴り込んでいた。

 

度重なる嫌がらせに、猪は流石に怒り心頭。

 

全力で触手を撓ませると。

 

マティアスをはじき飛ばし。

 

跳躍する。

 

そして、アンパサンドさんに向けて、魔術を全力でぶっ放した。雷撃、火炎、氷撃、そしてかまいたち。

 

全てをかわしきったかは分からないが。

 

着地した猪の至近に。

 

既にスールはいた。

 

さっき発破をねじ込んだ傷口に。

 

もう一発、発破をねじ込んでやる。

 

流石に慌てた猪が、触手を振ろうとするが、傷だらけのマティアスがそれを防ぎ切った。

 

跳び離れ、起爆。

 

今度こそ、生きた松明になった巨大猪は。

 

横倒しになり。

 

そして、目から光が消えていった。

 

 

 

スールが今回は大金星を挙げたと言う事で、騎士達は感謝の言葉を述べてくれていたけれども。

 

スール自身は、あまり喜べなかった。

 

損耗率三割を想定していたらしい騎士団の見込みは正しかった。

 

死者は何とか出さなかった。錬金術師が四人も来ていたのだから、ある意味当然だろう。

 

しかしながら、手足を失った従騎士や傭兵が何人もいて。

 

辺りは文字通り地獄絵図。

 

ナイトサポートで無理矢理つなげる間は。

 

激甚な苦痛に苦しみ続けていた。

 

イタイイタイと、悲惨な声が聞こえる中。

 

無理をして動き回っていたスールは、何もできず。

 

リディーが治療をして回るのを、見ている事しか出来なかった。

 

またルーシャは、積極的に攻撃を受ける騎士達にガードの魔術を掛けていたらしく。

 

それが死者を出さなくて済んだ大きな理由となったらしい。

 

廻りをきちんと見ていて。

 

損害を抑える事に特化して動いていたルーシャと違って自分はどうだ。

 

結局他の人に助けて貰って。

 

そして傷口にねじ込んだ発破だって。

 

イル師匠にまだ駄目だと言われていたけれど。

 

レンプライアの破片を混ぜれば、一撃で猪を仕留められていたかも知れない。

 

そう考えると、本当に情けない。

 

本当に悲しい。

 

アンパサンドさんが来る。

 

ナックルガードを渡した結果、更に動きの切れが良くなっている。

 

騎士団としても、錬金術師の専属護衛騎士をつけるのには。

 

こういうエース級の人の育成が念頭にあるのではと、スールには思えていた。

 

「さっきの戦いは勇敢でした。 どうみても接近したら死ぬ相手に、勇気を振り絞れたのは立派なのです」

 

「ありがとうございます。 アンパサンドさんは、ネームドと戦ったことは」

 

「今までに四回。 いずれも多くの死者を出したので、今回は充分な成果なのです。 ただ、何人かは戦士として引退なのです」

 

特に軽武装の傭兵は。

 

手足をつなげたとしても、体へのダメージが大きく、もう戦士としてはやっていけそうにない、と言う事だった。

 

そうか。

 

もっと自分がしっかりしていたら。

 

傭兵だって、厳しい仕事である事は分かっている。

 

戦いの中で、ゴミのように死んで行くことも事実だ。

 

だが、それでもそもそも死なせない事も出来たはず。

 

力が、足りない。

 

それを実感してしまう。

 

ルーシャもパイモンさんも、少なくともスールよりは活躍していた。最後に大きな一撃を叩き込んだのがスールだというだけ。

 

ズタズタの猪を、騎士達が解体している。

 

深核が出てきたというので、四つに割って、パイモンさんとルーシャ、それにリディーとスールにくれる。

 

本当に貴重な素材らしく。

 

中和剤に入れれば最高のものができるし。

 

なんと緑化を行うための栄養剤としても必須だという。

 

後は。負傷者を庇いながら、王都に凱旋。

 

猪の残骸は、戦果として見せるために、荷車に乗せて引きずっていく。

 

騎士団は仕事をしている。

 

それも命がけで。

 

それをきちんと示して行かないと。

 

騎士団に対する不満が上がる。

 

ただでさえ、街道の警備さえきちんとできていない状態なのである。肩身が狭い思いをしている騎士もいるだろうし。

 

わかり安く、こうやって戦果を見せつけないといけないのだ。

 

猪の毛皮なども分けて貰い。

 

アトリエに戻ったのは夜中である。

 

緊急の仕事と言う事で、今回は殆ど準備はできなかったが。

 

今後は、緊急の仕事に備えて、発破も薬も充分に備えておく必要があるだろう。リディーと話し合う。

 

「あのさ、リディー」

 

「どうしたの?」

 

「スーちゃんの方でお薬とか発破は作っておくよ。 その間に、ナックルガードとか、力を底支えする道具を増やしてくれないかな」

 

「いいの?」

 

イル師匠に言われた事をどうしても思い出してしまう。

 

わかり安い才能はスールには無い。

 

だが今後は開花する可能性がある。

 

だったら、開花する可能性に掛けて。

 

やってみるしかない。

 

練習をすればするほど、上手にはなる事は分かっている。イル師匠も、同年代の錬金術師としてはできる方と太鼓判も押してくれている。

 

リディーと比べるのがそもそもの間違いなのであって。

 

スールは、やれる範囲で。

 

やれることをやるしかないのだ。

 

「悔しいけれど、今はそれくらいしか役に立てないもん。 銃弾は弱すぎて獣にはほとんど通用しないし」

 

「お母さんはどうやって銃弾で獣と渡り合っていたんだろうね」

 

「うん……」

 

本当に、分からない。

 

荒野の獣に、拳銃の弾なんてのは通用しない。それはもう、嫌と言うほど分かった。魔術で威力を上乗せするか、それとも。弾丸の方を変えるか。

 

それに、イル師匠の言っていたことは本当だった。

 

パイモンさんやルーシャがいてなお、ネームドはあれほどの凄まじい暴れぶりをみせつけていった。

 

確かに錬金術の装備を四つか五つ、身につけないと戦いにならない。

 

今回スールも、ネームドの触手の一撃を浴びただけでほぼ行動不能になったし。

 

少なくとも、大規模討伐部隊を組むなら兎も角。

 

リディーとスール、アンパサンドさんとフィンブル兄、マティアスくらいの編成では、ネームドとやりあうのは無理だというのがはっきり分かった。

 

そして、今後いつ緊急任務が入るか分からない以上。

 

備えは、できる限りの範囲内でしておかなければならない。

 

また、今回の戦闘で痛感したが。

 

ナイトサポートは、自分達用にも確保しておくべきだろう。

 

騎士団が持ってくる分だけだと、足りない可能性がある。

 

あんなバケモノを相手にし。

 

損耗率三割を想定するような戦闘では。

 

それこそお薬なんて幾らあっても足りない。

 

少し前に、イル師匠に不満をぶつけたからか。

 

スールは、リディーに対して、色々と案を出そうと思っていた。リディーも、案について受け入れてくれる。

 

結局は双子なのだ。

 

スールが、リディーに殺意を抱いたことは勿論黙っておく。

 

今後やっていくためにも。

 

そんな事は、知らせてはならない。

 

「分かった。 イル師匠の所で、どんどん難しい話聞いてみるね。 スーちゃんも、時々イル師匠の所に来て。 それで多分、技量を見て色々指示はしてくれると思うから」

 

「……うん」

 

「まずはみんなの分、ナックルガード作らないとね」

 

人によってナックルガードの性質は変えるという。

 

常時体力回復と、防御力強化は必須。

 

もう片手のナックルガードには、人によって筋力強化、魔力強化、防御力強化をそれぞれ振り分けるそうだ。

 

例えばアンパサンドさんには筋力強化と防御力強化。

 

これで、一発でも食らったら終わりという状況をかなり緩和できるし。

 

レンプライアの一部の個体が持っている、側に近付くだけで傷つくという厄介な性質も緩和できる。

 

リディーには魔力強化と防御力強化。

 

これで強力な魔術を展開出来るし。

 

更に戦術の幅も拡がる。

 

詠唱も露骨に早くなるそうで。

 

そういえば、猪との戦いで最後に一気に体が軽くなったのも。リディーの魔術が強化されていたから、なのだろう。

 

話し合いを終えると。

 

後は黙々と、基礎の調合に戻る。

 

リディーにはまだまだ追いつけないけれど。

 

それでも今後の事を考えて。

 

少しでも力をつけなければ行けない。

 

スールは錬金術師としてはまだまだ半人前なのだ。

 

多分、Eランクまで上がれば半人前と一人前の間くらいにはなれる筈。

 

そこまで、どうにか頑張って。

 

少しでも、意地を示したかった。

 

 

 

翌日。

 

リディーと一緒にイル師匠の所に赴く。

 

話によると、ドラゴンを退治して周辺の獣の縄張りを一変させたのは、イル師匠の認める凄腕錬金術師らしく。

 

もう少し待っていれば、その錬金術師が間に合ったかも知れない、と言う事だった。

 

ドラゴンを倒す錬金術師。

 

すごい。

 

確か話によると、世界でもドラゴンを倒せる錬金術師は、二十人もいないときいている。

 

しかも単独で倒したとなると。

 

イル師匠に匹敵するか。

 

それ以上の凄腕なのだろう。

 

「災難だったわね、貴方たち。 ちょっとネームドとやりあうのは早すぎたわ」

 

「いえ、でも深核を得られましたし、貴重な毛皮も」

 

「あの、イル師匠。 ネームドって、みんなあんな強いんですか?」

 

リディーの言葉を遮って、聞いてみる。

 

イル師匠は、頷いた。

 

「貴方たちが戦ったのは「驀進の多眼」というネームドだけれども。 情報を見る限り、ネームドとしては弱い方ね」

 

「あれで弱い方!?」

 

「流石に最弱とまではいかないけれど、死者を出すのを厭わなければ、錬金術師がいなくても対応出来るレベルの相手よ。 最強クラスのネームドになると、そうはいかない相手ばかりでね。 下級のドラゴンより強い場合もあるくらいよ。 特に水棲のネームドは非常に厄介ね。 巨体の上に、とんでも無くタフだわ」

 

「ひえっ」

 

あれだけ必死になって。

 

騎士団でも三割の損耗を覚悟して戦ったのに。

 

それでも最弱クラス。

 

ミレイユ王女が、この国の実権を握るわけだ。

 

騎士団の損耗が凄まじかったと言うのは聞いていたが。

 

あんなの、錬金術師無しで戦える訳がない。

 

戦慄が消えない中。

 

イル師匠は咳払い。

 

座学を始める。

 

金属加工をそろそろ自宅でやらせても良い、という話をしていて(勿論リディーだけだが)。それは少し悔しかったが。

 

スールにはスールで。

 

一つ話をされた。

 

「スー、レンプライアの欠片を使った強化だけれども、貴方しばらくそれの練習をしなさい」

 

「えっ!? いいんですか」

 

「かまわないわ。 貴方はどちらかというと火力を武器にする錬金術師だし、レンプライアの欠片を上手に使えば、或いは格上にも勝てるかも知れない。 勿論私が立ち会うけれどもね」

 

そうか。

 

イル師匠も、或いは。

 

スールの鬱屈について、考えてくれたのかも知れない。

 

レンプライアの欠片を使った発破などの火力強化は、桁外れの破壊力を産み出す。

 

確かに上手に使えれば。

 

あの猪だって、簡単に倒せた可能性もあるし。

 

技術として確立できれば。

 

色々な錬金術師が、レンプライアを狩って。

 

そして戦いを優位に進められる可能性だってある。

 

新しい道具などを発明した場合。

 

錬金術師には、お金が入ると聞いている。

 

レンプライアの欠片を使う場合は、新しい発明と言うよりも。新しい戦術の開発が近いかもしれないが。

 

いずれにしても、その有用性は明らかだ。

 

座学を終えた後。

 

城壁の外に出て、レンプライアの欠片を用いて、発破や薬の強化を何度も練習する。

 

非常に繊細な作業で。

 

名付けるなら、バトルミックス、だろうか。

 

スールの勘は、これ以上入れるとまずいというのを伝えてくれるけれど。

 

それでも、やっぱり失敗してしまう事も目立つ。

 

何度も威力が大きすぎたり、逆に殆ど何も効果が上がらなかったりするけれども。

 

それでも、少しずつ、使いこなせるようになっていた。

 

その間リディーは、アリスさんと戦闘訓練。

 

座学も欠かさない。

 

イル師匠が、これだけ戦闘を意識した訓練を課してくるという事は。今後、リディーもスールも、もっと苛烈な戦いに巻き込まれていくのだろう。

 

或いは、Eランク昇格の試験が。

 

そもそも戦闘を想定したものなのかも知れない。

 

錬金術師としての実績を積むためにも。

 

今後は、更に。

 

戦闘を意識していかなければならないのかも知れなかった。

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