暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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自分に対する根拠のない自信。若い頃誰もがもつ万能感と言う奴です。そして、年を取ってもこれから逃れられない人間は一定数います。逃れられないと客観的な分析なんか出来ません。

一方で、自分に対する根拠のない自信を失ったとき、精神の変調をきたす人もいます……。


3、レンプライア

ざわめきの森に入る。

 

ナックルガードがマティアス、フィンブル兄、アンパサンドさんに行き渡ったからか。戦いはとてもスムーズに廻せるようになっていた。ルーシャとオイフェさんがいなくてももう大丈夫だ。

 

ただ、あの下半身がない巨大なレンプライアだけは戦いたくない。

 

超再生力と、広域攻撃力を兼ね備えた危険な相手だ。

 

ぽつぽつと湧いているレンプライアを狩りながら、素材を回収していく。

 

絵の中の世界と言ってもかなり広大で。

 

最初に調査した範囲の外にも、かなり森が拡がっており。

 

沼地もあれば川もある。

 

小川では釣り糸を垂れれば、そこそこ太った美味しそうなお魚が釣れたし。

 

スールは怖くて触れなかったけれど。

 

調合の素材にできそうな珍しい虫も、彼方此方で見かけた。

 

お化け達は相変わらず楽しそうに、森の上空でけらけら笑っている。

 

最後に必ず、墓場に出向いて。

 

お掃除はしていく。

 

これに関しては、教会にあるお母さんのお墓を掃除し慣れているので。

 

リディーもスールも、てきぱきとやる事が出来た

 

その一方で。

 

どれだけ狩っても出てくるレンプライアには、色々と不安要素も多い。

 

ざわめきの森に入ると、かならずお化けが来て、レンプライアが出ているかは教えてくれるので。真っ先に狩りに行く。

 

今後、戦闘の要になるかも知れないレンプライアの欠片を手に入れる、ということもあるのだけれども。

 

何だか、もの凄く嫌な予感がするのだ。

 

そしてスールの勘は当たる。

 

レンプライアは、一匹残らず駆除した方が良い。

 

それは、結論として間違っていないはずだ。

 

そもそも、絵画の中の世界とは言え、森を平気で傷つけるような外道どもである。獣でさえそんな事はしない。

 

まさかとは思うけれど。

 

此奴らが、不思議な絵画から、現実世界に出てきたりしたら。

 

想像するのも恐ろしかった。

 

一通り回収作業を終えて。

 

ざわめきの森を出る。

 

アンパサンドさんも、レンプライアの数が少ないこと、性質を知っている事から、殆ど怪我をしていない。

 

フィンブル兄も、ナックルガードの性能がとても良いと喜んでいて。ハルバードを振るって生き生きと暴れていた。

 

マティアスは。

 

何だか最近口数が減ったか。

 

いつも好き勝手なことをほざいているのに。

 

なにかあったのだろうか。

 

エントランスで解散とするが。

 

スールはマティアスに聞いてみた。

 

「何かあったの、マティアス」

 

「嫌な噂があるんだよ」

 

「嫌な、噂?」

 

「雷神ファルギオルって知っているか?」

 

それは当然。

 

この地方に住んでいて、知らない人などいないだろう。リディーも、思わず此方に視線を向けていた。

 

「俺様はさ、姉貴が開く国の最高幹部会議には参加させて貰えないんだよ。 単に姉貴のスペアだからな。 だけれども、一応王族だから、そういった情報は流れてくる。 雷神ファルギオルの復活が近い、て話だ」

 

「うっそでしょ。 あれって確か、伝説のネージュと先代の騎士団長に倒されたって」

 

「邪神って奴は、倒されても復活するらしいんだ。 しかもネージュによって不思議な絵画に閉じ込められていたファルギオルは、相当に人間を恨んでいるのが確実だとかでな……」

 

「何とかならないの?」

 

マティアスは口を引き結ぶ。

 

何にもできない立場だからだろう。

 

捨て扶持で騎士団に配置されている、単に有事の際のミレイユ王女のスペア。余計なちょっかいを出す奴が出てこないように、監視までつけられている状況。アンパサンドさんが、いざという時は殺しても良いと言われているように。マティアスは、非常に危うい立場にある。

 

汚職官吏の中には、今のミレイユ王女の治世が好ましくないと思う輩もいる筈で。

 

マティアスに甘い言葉を吹き込んで、好き勝手に操ろうとする奴も出てくる筈。

 

マティアスは、或いは。

 

既にそういう奴に、接しているのかも知れない。

 

「いずれにしても、三傑って凄い錬金術師達が来てくれているらしくて、彼女らに賭けるしかないって話は聞いたな」

 

「三傑……」

 

「その内の一人はお前らの師匠のイルメリアだそうだ」

 

やはりそうか。

 

確かにイル師匠なら、それくらいの実力はあるかも知れないと思っていたが。マティアスが今嘘をつく理由が無いし。これで確定と言う訳だ。

 

だけれども、それでも。

 

伝説に残る大邪神だ。

 

本当に大丈夫なのだろうか。

 

とにかく、バトルミックスについて、早めに研究を進めておかなければならない。もしも邪神ファルギオルが現れたら、もう総力戦になるのは確定だ。勿論リディーとスールも出なければならないだろう。

 

スロープを、荷車を押して上がり。

 

そしてアトリエまで戻る。

 

筋力が上がっているからか。

 

非常にスロープで荷車を押すのは楽だった。

 

問題はその後である。

 

レンプライアの欠片を回収したは良いが、正直あまり量が多いとは言えない。

 

しかしながら、レンプライアが湧くというのは、不思議な絵画にとって良い状態とはとても思えない。

 

それならば、我慢するしかないのか。

 

いや、あのエントランスには、まだ不思議な絵画があった。

 

多分だけれども、次の試験を突破すれば、新しい絵画に入れるかも知れない。

 

そうなれば、或いは。

 

また、レンプライアの欠片を、見つけられるかも知れなかった。

 

それにしても、レンプライアとは何なのだろう。

 

欠片が錬金術の効果を爆発的に増幅させ。

 

不思議な絵画の中に勝手に湧く。

 

不思議な絵画の中に住まうとは言え、森を守るという最低限のルールすら守らない。

 

尋常な存在だとは思えない。

 

そして、更に問題なのは。

 

非常に強力だ、と言う事だ。

 

見聞院に行って、時々資料を探しはするんだけれども。レンプライアについては、名前しか分からない。

 

一度だけ、名前が記載されている本を見つけたのだが。

 

不思議な絵画の中に登場する正体不明の存在、とだけ書かれていて。

 

思わず脱力した。

 

そんな事は言われなくても分かっている。

 

そもそも不思議な絵画そのものが極めて貴重な品らしく。

 

アダレットが国策で集めなければ。

 

あれほどの数を揃えることはとてもできなかった、という状況らしい。

 

不思議な絵画そのものが見聞院の本にも殆ど出てこないのだから、どうしようもないというのが現状だった。

 

ルーシャの所に行く。

 

ルーシャはレンプライアという存在について知っていた。

 

何か分かるかも知れない。

 

或いは、知っている事があるかも知れない。

 

アトリエ=ヴォルテールの主力は、ルーシャのお父さんだが。

 

今日はルーシャは普通にいて。

 

調合をしているところだった。

 

「あら、どうしたのスー。 リディーは連れていないの?」

 

「うん……」

 

謝るなら今だろう。

 

そう思うのだけれど。

 

どうしても、ごめんなさいという言葉が出てこない。

 

この辺り自分の弱さが情けない。

 

今まで散々馬鹿にして、暴言も吐いてきた相手だ。それでもルーシャは気にする様子もなく、平然としていた。

 

錬金術師としても人としても。

 

ルーシャの方が明らかに上である。

 

だから、本当は謝らなければならないのに。

 

どうしてか、ごめんなさいという言葉は口から出てこなかった。

 

「レンプライアって、何なのか知りたいの。 名前以外は、全然分からなくって」

 

「そんなのわたくしにも分かりませんわ」

 

「……そう、だよね。 見聞院にも資料がロクになかったし」

 

「敢えて言うならば、感じ取ることができるのは悪意ですわね」

 

悪意。

 

すっと腑に落ちる。

 

絵の中に存在する悪意。

 

それが、レンプライアなのだろうか。

 

「不思議な絵画といっても、その存在は人間が作ったもの。 そして絵画というのは、魂を込めないとただの落書きですわ。 魂を込めれば、其処には善意も悪意も宿る……そういうものですのよ」

 

「ざわめきの森にいたレンプライア達は、絵の中の悪意が具現化したもの、ということ?」

 

「恐らくは」

 

「あのさ。 レンプライアの欠片を使うと、その場でものを爆発的に変質させることができる事が分かったんだ」

 

頷くルーシャ。

 

或いは知っていたのかも知れない。

 

「それって、悪意の塊が、ものを爆発的に変質させるって事?」

 

「……何とも言えませんわね」

 

「うん、ごめん。 そうだよね。 ただ、これを今実戦投入しようって考えていて。 それで一人でも多く、意見を聞きたかったから」

 

「……もう少ししたら、Eランクの試験が始まりますわよ。 そうなると、恐らくは別の絵にも入る事になりますわ。 ざわめきの森にいた奴とは、桁外れのレンプライアも見た事がありますわよ」

 

そうか。

 

多分そうなのだろう。

 

礼を言うと、アトリエを後にする。

 

ルーシャのアトリエは相変わらず繁盛していて。

 

お客は絶えないようだった。

 

そのまま、ふらりと別のアトリエを探して歩く。パイモンさんのアトリエに行って見るのはどうだろうと思ったけれど。

 

あの人のアトリエが何処にあるか知らない。

 

イル師匠は以前聞いた時はぐらかされた。

 

そうなると教えて貰えるのは。

 

一度引き上げようとすると。

 

途中で、弓を背負った女の人とすれ違った。

 

何となく錬金術師だろうとは思ったけれど、それ以上の事は分からない。知っている人でもないので、声は掛けない。

 

いきなり聞かれても、困るだろうし。

 

雨が降り出したのは直後のこと。

 

アトリエに逃げ帰るようにして戻る。

 

結局、悪意と言う事しか分からなかった。

 

そしてどうして悪意がものの力を増幅させるのかも。

 

良くは分からなかった。

 

格上の錬金術師であるルーシャが言う事だ。

 

あながち嘘とも言い切れまい。

 

それに、ルーシャが嘘をつくとは思えない。スールに対しても、リディーに対しても、である。

 

ものの意思に沿って、ものを変質させる技術。

 

それが錬金術だ。

 

悪意によってそれが爆発的に増幅されるというのは、一体どういうことなのだろう。

 

或いは、意思の善悪は関係無く。

 

悪意だろうが善意だろうが、強い意思が影響してくるのだろうか。

 

もしそうだとすると。

 

イル師匠が、はぐらかしたのも分かる気がする。

 

もしも悪意によって得られる力があったとしたら。

 

中途半端な力しか持たない今のスールには危険すぎる。

 

正体を明かさないまま、まずは使い方を覚えさせるのは、イル師匠らしい、合理的なやり方だとも言えた。

 

だけれども。

 

それでは、スールは一体。

 

何のために錬金術をしているのだろう。

 

殆ど理屈も理解出来ておらず。

 

切り札になり得る力の根拠もよく分かっていない。

 

リディーはその辺り聞かされているのだろうか。

 

声は、かけられなかった。

 

雨は夕方から本降りになった事もあり。

 

外に出ることは出来なくなった。

 

コンテナの整理をし。

 

基本的な調合を繰り返して、基礎的な技術を上げる。

 

声がせめて聞こえれば。

 

ものの声が聞こえるという、レアな才能があれば。

 

或いはもっと、スールも凄い錬金術が使えるのかも知れない。幸い、リディーにもそれは聞こえていないようだから。それだけは救いではあったが。

 

夕食前に調合を切りあげ。

 

二人で夕食にする。

 

そして、翌日の朝。

 

マティアスが、家に来た。

 

スクロールを持っていると言う事は、何かしらの話がある、と言う事だ。

 

早速二人で、スクロールを開いて中身を確認する。

 

そして、驚いていた。

 

Eランクへの昇格試験についての話だったからである。

 

 

 

Eランクへの昇格試験は、やはり二段階。

 

一段階は、騎士団による大規模討伐任務への参加。この討伐任務においては、一週間ほどの行程を想定しているという。

 

今までで一番厳しい任務になる事は確実だ。

 

今回の試験が早々に来た理由は、この前の対ネームド戦で、スールが功績著しかった、というのが理由であるらしい。

 

とはいっても、他の人達がいなければどうにもならなかったし。

 

あの戦いで、引退に追い込まれた戦士も少なからず出た。

 

素直に喜ぶことは、とてもできないのが事実。

 

更に言えば、スールの実力はまだまだ半人前。

 

本当に試験を受けて良いものなのだろうか。

 

リディーと一緒にスクロールを読んでいてそう思うが。

 

国からの指示だ。

 

断るわけにも行かないだろう。アトリエランキング制度は公認である。つまり、国のための事業だ。

 

試験を受けるに相応しい功績を挙げたと国が判断したわけで。

 

それに逆らう事も出来ない。

 

何より国一のアトリエになるには。

 

いずれにしても、ランク最上級まで上り詰めなければならないのである。国一を目指すからには、だ。

 

二つ目の試験については、特に記載はなかったけれど。

 

それでも、恐らく不思議な絵画関連である事は大体推察できる。

 

どの絵かは分からないが。

 

あのエントランスにあった絵の一つを調査するのでまちがいないのだろう。

 

ともかく、一週間がかりの獣駆除任務。

 

途中で匪賊と戦うかも知れない。

 

いずれにしても気は絶対に抜けない。

 

試験だと言う事もあるが。

 

気を抜けば、人が簡単に死ぬ。

 

荒野で獣や匪賊と戦って。

 

それは嫌と言うほど、思い知らされていた。

 

「というわけで、三日後には出立だから、準備はしておいてくれよな」

 

「あ、マティアスさん。 待ってください」

 

「何だリディー」

 

「今回の任務って、マティアスさんとアンパサンドさん、フィンブルさんも参加するんですか?」

 

頷くマティアス。

 

というか、フィンブル兄については、声を掛けてくれという事だったので、ある程度は自由なのだろう。

 

ただ、他の錬金術師は出ないと言う話を聞いて。

 

流石にスールも青ざめた。

 

荒野の獣の戦闘力は、嫌と言うほどみて知っている。

 

パイモンさんやルーシャがいないとなると。

 

相当厳しい戦いになるのは確実だ。

 

可能な限りの準備を整え。

 

戦いに備えなければならないだろう。

 

そうしなければ、大勢の死者が出る。

 

これは確定事項だ。

 

手分けして、発破とお薬を増やす。

 

討伐のルートや、何を狙うかについては、マティアスも聞かされていなかったらしい。流石にFランクの錬金術師だけでネームドと戦わせるとは思えないけれども。それでも、最悪の事態に備えなければならない。

 

更に、雨の中。

 

イル師匠のアトリエに急ぐ。

 

試験内容と、恐らくレンプライアの欠片を用いた戦闘が必須になる事を告げて。

 

使用許可を貰おうと思ったのだが。

 

しかし、イル師匠の答えはノーだった。

 

「錬金術師の試験のために、多くの命を危険にさらすことはないわ。 貴方たちが対応出来る試験になっている筈よ。 だから背伸びしすぎた道具の使用は認められないわね」

 

「そ、そんな……」

 

「実戦投入の際には私が立ち会うわ。 慌てずに、少しずつやっていくのよ」

 

それは一体いつになるのか。

 

ぼやきたくなるが。

 

しかし、イル師匠に見捨てられたら。

 

今後錬金術師としてやっていくのは不可能だろう。

 

ぐっと拳を握りこんで。

 

雨の中、気持ちを抑え込む。

 

ただでさえ半人前。

 

分からない事だらけ。

 

そもそも、レンプライアの欠片が悪意の具現化だとして。それが本当にものを増幅させているのかもよく分からないのだ。

 

イル師匠は口をつぐんで応えてくれないし。

 

勿論他の錬金術師が教えてくれるとも思えない。

 

知っているとも思えなかった。

 

雨の中。

 

すごすごと引き返す。

 

散々空回りして。

 

一体スールは何をしているのだろう。

 

悔しくて涙が出てくる。

 

結局バカは、どこまで頑張ってもバカなのだろうか。バカだから、何をやっても無駄なのだろうか。

 

今回も、戦闘で誰も死なせずに。

 

戦いを終わらせることができるだろうか。

 

とてもそうとは思えない。

 

リディーだけなら兎も角。

 

スールは。

 

天才ではないのだから。

 

アトリエに戻った時には、すっかり雨に濡れていて。

 

リディーに心配されたが、無言でタオルを取りだし、自分で乱雑に頭を拭う。

 

暗い気持ちが、自分の中にわき上がってくるのを感じる。

 

同情されるのは大嫌いだ。

 

ましてや、出来る奴に、できない自分が同情されることほど、惨めなことはない。

 

イル師匠がいうように、本当に後天的に才覚が目覚める事なんてあるのだろうか。

 

もしあるとしても。

 

本当にスールに、そんなものはあるのだろうか。

 

リディーが不安そうに声を掛けて来るが、無視。

 

黙り込んで、それからは一言も口を利かなかった。

 

リディーもそれで、スールがよほどの鬱屈を抱えている事に気付いたのだろう。以降は何も言わなかった。

 

大雨は翌朝まで続き。

 

眠っている間も、ずっと雨音が響き続けていた。

 

無能。

 

役立たず。

 

そういって、雨が笑っているように、スールには聞こえた。

 

そんな事。

 

自分でも分かっている。

 

どれだけ罵り返したかったか。

 

だが、雨音は雨音。

 

それに罵り返しても、虚しいだけだ。

 

それくらいの判断力は、スールにもあった。

 

翌朝は、もう何も言葉を交わさず、準備をひたすらにし始める。

 

納品用にとっておいたナイトサポートも、少し取りだしてくる。

 

リディーは、これくらいは必要かも知れないとスールに言ったが。

 

スールは頷いただけ。

 

会話は、殆ど生じなかった。

 

大人げないとは自分でも思うけれども。

 

あらゆる負の感情が腹の中で渦巻いていて。

 

とてもではないけれど、冷静に対応出来る自信は無かった。

 

まったく上手くなる気配がない。

 

用語も技術も覚えられない。

 

基礎ばっかりずっと繰り返している。

 

戦闘でも殆ど扱いは鉄砲玉。

 

そんな状態で、自分を凄い奴だなんて、鼓舞することが出来るわけが無い。リディーの当て馬にするために、神様はスールを作ったのか。お母さんから受け継いだ銃だって、戦闘ではほぼ役に立っていないのだから。

 

薬と発破は、必要な分作った。

 

リディーは午後からイル師匠の所に出かけていく。

 

スールは、ずっと下支えのために、ざわめきの森で回収した素材を使って、フラムやルフトを作っていく。

 

油断はしない。

 

これ以上足手まといになるのは嫌だからだ。

 

指ぐらい吹っ飛んでも、ナイトサポートでくっつけられるとは思うけれど。

 

それでも後遺症くらいは出てもおかしくない。

 

ルフトを作って、丁寧にチェック。

 

イル師匠の作った奴に比べると、非常に稚拙だが。

 

それでも充分な火力は出る筈だ。

 

鉱石破壊用の発破も作る。

 

置き石戦法に限定すれば。

 

敵を粉みじんにするのは容易いからである。

 

夜になって、リディーが帰ってくる。

 

やはりというか、なんというか。

 

相当にしごかれたようで、疲れ切っていたが。

 

それはスールとはまったく違う事をしていると言う事で。

 

スールができない上位の錬金術を教わっていてもおかしくない、と言う事だ。

 

「スーちゃん。 ナックルガード、人数分揃ったよ。 後1セットか2セット、作れるかも知れない」

 

「そう。 スーちゃんには出来ない事が出来て羨ましいよ」

 

「イル師匠が言ってたでしょ。 向き不向きがあるって」

 

「……」

 

じゃあ。

 

スールには何が向いているというのか。

 

そう言葉を叩き付けそうになったが。

 

必死に堪える。

 

今此処で、リディーと喧嘩したところで、何の意味もない。それくらいは、幾らオツムが悪くても、自覚できている。

 

作った分の発破や薬については、机の上に並べてあることを説明すると。

 

リディーがチェックに入る。

 

特に大きなミスはないと言いながらも。

 

リディーは幾つかの発破に、細かい手を入れていた。

 

大きなミスはないのではなかったのか。

 

そう反射的に噛みつきそうになるが、堪える。

 

これから、今までに経験が無い大規模遠征に出るのである。

 

喧嘩なんてしていたら。

 

生きて帰れる戦いも。

 

生きて帰れなくなる。

 

リディーとスールだけが死ぬならまだいい。

 

他の騎士や傭兵も、大勢死なせる事になる。

 

それだけは、絶対に許せなかった。

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