暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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レンジャー訓練というのはとても過酷だそうですね。

様々な装備がある近代軍でも過酷です。

現実の歴史でも古くに遠征で多くの兵士が戦傷以外で倒れていったのも、色々と納得が出来ます。


一週間のサバイバル
序、地獄の始まり


時々騎士団が大規模な出動をしているのは、リディーも知っていた。最近はそれに同道する事もあった。

 

今回は騎士六人、従騎士二十人、傭兵四十人に二頭立て馬車四台という大所帯で。

 

一週間、獣を徹底的に狩る。

 

そんな過酷な任務だ。

 

そしてこれがアトリエランク昇格の試験その一でもある。

 

リディーとスールがセット扱いとは言え。

 

昇格のためにこれだけの騎士が動くのだ。

 

勿論試験のためでもあるが、大事な駆除作戦も兼ねている。

 

騎士達にしてみれば、昇格試験の方がついで。

 

此方は、騎士達の都合に合わせなければならない。

 

スールは相変わらず少し空気が悪い。

 

リディーとあまり目を合わせてくれない。

 

アンパサンドさんは、それを冷静に見て取ったようだが。

 

問題行動を起こすまでは、何も言うつもりはないようだった。

 

そもそも今回作戦指揮を執るのは、騎士団の方。

 

前にネームドと戦った時に出てきた人とは違う、口ひげを立派に蓄えた男性のヒト族騎士である。

 

アダレットでは、魔族騎士が主力となる事が多いので。

 

むしろヒト族騎士の方が珍しかったりする。

 

アンパサンドさんのようなホムの騎士は流石に例外中の例外としても。

 

ざっと見た中で、騎士の上層部は魔族が多く。

 

獣人族がその次に多いようだった。

 

ただ、今の団長と副団長はともにヒト族だという話だし。

 

この辺りは実力主義の結果なのだろう。

 

荷車のチェックを終える。

 

アンパサンドさんと、マティアスさん、フィンブルさんに声を掛けて、軽く話をする。

 

既にナックルガードは全員に配り終えてある。

 

更に、今回心強いことに、イル師匠のメイドであるアリスさんが来てくれている。

 

この人の実力は折り紙付きだ。

 

ちょっと無機質で怖いところもあるけれど。

 

戦いで、これ以上頼りになる人も、あまり思いつかなかった。

 

「ハンドサインはいつも通りで大丈夫ですか?」

 

「対人戦が想定される場合は切り替えたりするのですけれども、今回に関しては問題ないのです」

 

「分かりました。 スーちゃん、大丈夫?」

 

「うん」

 

スールは相変わらず対応が冷たいが。

 

少し拗らせている仲を、流石に戦場にまで持ち込むほど馬鹿では無いと思いたい。

 

そんな事したらアンパサンドさんに蹴り殺されかねないし。

 

何より多くの騎士や傭兵の命を危険にさらすことになる。

 

獣が如何にヤバイかは。

 

今までの討伐任務で。

 

リディーもスールも思い知らされているのだ。

 

一度城門を出て。

 

其処で、今回の指揮をとるお髭の騎士が自己紹介。

 

「あーあー。 我が輩はキホーティス三世である。 名誉な事に代々アダレット王家に仕える騎士の家系である。 以降よろしゅう」

 

見た目は尊大そうだが。

 

話しぶりからして、そこまで嫌な人ではなさそうだ。

 

それだけはまあ良いとするべきか。

 

それから、今回の作戦について説明を受ける。

 

まず街道を進み、途中に見かける獣を駆除。

 

大沼沢地帯に出る。

 

此処が非常に厄介で。

 

逃げ込んだ匪賊が確実に死ぬと言われている、凶暴な獣の住処と化しているという。

 

「沼地はぱっと見で分からない事も多く、しかも獣が潜んでいる場合、踏み込んだらまず助からない。 気を付けて進んで欲しい。 騎士や従騎士の中にいる魔術を使える者が、沼地の位置を特定はするが、それも絶対では無い。 その魔術を誤魔化してくる獣もいるのだ」

 

「予想以上に危なそうだね……」

 

「うん」

 

スールの反応は蛋白だ。

 

リディーは何かしてしまっただろうか。

 

ショックは少し受けているが。

 

しかしながら、ともかくだ。

 

連携して戦わないと。

 

死者を出してしまう。

 

「錬金術師殿には、沼地に片っ端から発破を叩き込んでいただきたい。 この沼地で大型化した獣が、ネームドとなって近隣の街を襲うケースが今までに何度も起きている。 今回はそれを事前に防ぐための戦略事業である。 よろしいだろうか」

 

「はいっ!」

 

「わかりましたあ」

 

「ふむ、とにかく頼むであるぞ」

 

キホーティスさんが、前進、早足を指示。

 

部隊が進み始める。

 

この間の対ネームド戦以来の規模だ。

 

しかも今回は錬金術師が二人しかいない。

 

アリスさんがいてはくれるけれども。

 

ネームドに襲われたらどうなるか。

 

ネームドはとにかくとんでもなかった。

 

あんなのとは、まだまともにやりあいたくない、というのが本音だ。もしも出てきたら、どうすればいいのだろう。

 

対応出来なければ、大勢殺される。勿論、最悪の場合全滅という可能性も出てくるだろう。

 

それだけは、絶対に避けなければならない。

 

森を抜けると、馬車を守るように隊列を展開。街道を少しはずれて進み始める。この辺りの街道は森で守られていないため、どの道剥き出しである。それならば、街道を使う方がまだ安全な、商人などに譲る。

 

そういう発想なのだろう。

 

騎士の家系と言っていたが。

 

この辺りは、何というか。

 

毛並みの良さを感じさせる。

 

口だけ良いことを言っていても仕方が無いが。

 

きちんと実行しているのだから、立派だと言えるだろう。

 

途中で獣が姿を見せるが、数の暴力で蹂躙。

 

流石に小物は、錬金術師がわざわざでなくても、これだけの戦力が揃っていればどうにでもなる。

 

また獣の腕輪は参加した騎士分の作成が済んでおり。

 

渡して使って貰っている。

 

いずれも非常に好評で。

 

騎士達の中からは、文句を言う者は出なかった。

 

良かった、と思うけれど。

 

スールは相変わらず無言で。

 

むしろ無関心にさえ思えた。

 

それがとても不安だ。

 

少し前まで、何とか上手くなろうと必死になっていたのに。

 

その熱意を、何処かに置き忘れてしまったかのようである。

 

才覚の差。

 

イル師匠の話していた、才覚の性質の違い。

 

それで苦しんでいるのだろうか。

 

でも、リディーだって才能が欲しくて手に入れたわけでは無いし。

 

文句を言われてもこまる、というのが本音だ。

 

いずれにしても、ナックルガードの常時体力回復もあり。

 

アリスさんに鍛えられていたこともある。

 

ずっと早足で行軍していた騎士団にも。

 

リディーはついていけるようになっていた。

 

これは嬉しい。

 

貧弱体質はリディーの悩みの種の一つだったから。

 

一つでも問題を改善出来たのは。

 

それは喜ばなければならないことだ。

 

王都からは街道が何本か延びているが。

 

その中で緑化されているのは、ラスティンにつながる一本だけ。

 

それ以外の全ては、森に守られていない。

 

そして、やはりというかなんというか。

 

最初に見えてきた街も。

 

森に守られて何ていなかった。

 

一度、此処で休憩にする。

 

干涸らびた畑だなあと、悲しい思いをしながら見ているが。

 

そもそも街の中ですら安全では無いのである。

 

畑仕事さえ命がけで。

 

税金どころでは無いのだろうなと言うのは、見ていて一目で分かった。

 

こんなのは、勘が鋭くなくても分かる。

 

キホーティスさんは、何人かの騎士と一緒に、街の長老の所に話しに行き。

 

そして戻ってきた。

 

「寄り道は無し。 この近辺に大型の獣、もしくは群れはでていない。 そのまま次の街へ向かう」

 

「キャンプ-、片付けーい」

 

副官らしい騎士が声を張り上げ。

 

いそいそと作業が進められる。

 

恨みがましい目で見ている長老。

 

待ってと声を掛けたくなる。

 

あの様子では、大物はいないにしても、街を脅かすレベルの小物の獣は、たくさんいるはずだ。

 

いちいち駆除していられない、というのだろうか。

 

そういう奴らは、大戦力が来たのをみて、距離をとって様子を見ているだろうし。

 

追いかけて殺すのは手間だとでもいうのか。

 

それが騎士のあり方なのだろうか。

 

最初見直したのに。

 

見下げ果てそうになる。

 

不意に、手を引かれた。

 

アンパサンドさんだった。

 

「仕方が無いのです。 今周囲にどういう獣がいるかは、騎士隊長もしっかり把握しているのです。 騎士団は極端な実力主義で、一部の例外を除くと、バカは入団できないのです」

 

「だったら何故!」

 

「荒野には幾らでも湧く程度の獣だからなのです。 殺しても、すぐに次が湧いてくるだけなのです。 此処にずっと関わっている間に、沼地では獣が巨大に成長している可能性があるのです」

 

ぐっと唇を噛む。

 

納得がいろいろいかないけれど。

 

理由があるのは、何となく分かった。

 

それと、バカという言葉に悪意があったので、何となくそっとマティアスさんの方を見たが。

 

やっぱり真顔になっていた。

 

まあそうだろう。

 

捨て扶持で騎士団に地位を貰っていると聞いている。

 

騎士団長達に稽古はつけて貰っているらしいが。

 

王族だから騎士一位になり。

 

実力主義社会の中で良い道具を貰い。

 

そんな恵まれた状況の中で。

 

怖いだの嫌だのぶちぶち文句を言っている。

 

それは、騎士団の中でも嫌われるか。

 

ただ、その辺りは、リディーにも分かるような気がしてきている。

 

リディーも、今スールと似たような理由で関係がこじれてきているからだ。

 

リディーだって才能が欲しかったわけじゃない。

 

スールと格差のある才能なんて欲しく無かった。

 

キャンプをたたみ終えると、また早足で進み始める。一部の部隊が後方に残る。その部隊には、魔族の騎士が残っていた。

 

魔術で姿を隠して、伏兵になっている。

 

なるほど、一応の処置はそれでもして行く、と言う事か。

 

見下げ果てそうになった自分を恥じる。

 

そして、次の街にたどり着いたころには。

 

残っていた部隊は追いついてきていた。

 

彼らはそれなりの数の獲物を荷車に載せていて。次の街で食事にする。肉は殆ど兎だったけれど。

 

基本的に荒野に住んでいる兎はみんな筋肉がムキムキで。

 

非常に堅い。

 

分厚い王都の城壁の内側で買われている家畜や野菜と違って。

 

過剰に逞しすぎるのだ。

 

兎でさえ、子供を殺す事があるという話だが。

 

外に出て、実物を見て納得がいった。

 

額から生えている鋭い一本角は人間を突き殺すのに充分だし。

 

その瞬発力も凄まじい。

 

なお角には強い魔力があるようで。

 

分けて貰ったので、少し嬉しい。

 

いずれ使い路があるだろう。荷車に乗せておく。

 

また、騎士隊長が、長老と話してきたようだった。

 

その間に、アンパサンドさんが、フィンブルさんも含めて話をしてくれる。

 

「現在、騎士団には騎士団長、副騎士団長の下に、八人の騎士隊長がいて、あのキホーティス氏は現時点でヒト族としては唯一の騎士隊長なのです。 現在47歳とヒト族で前線に立つには限界に近い年齢ながら、重ねてきた戦歴、経験に裏打ちされた剣の技、いずれも実力主義の騎士団で恥ずかしくないと言われる腕前なのです。 ただし年齢が年齢なので、恐らく数年以内には地位を退くとも言われているのです」

 

「他の七人の隊長はみんな魔族なの?」

 

「魔族が五人、獣人族が二人なのです。 魔族は兎に角貴重な存在なので、騎士団でも大事にしているのです。 それに魔族達は権力欲がとても薄く、権力を持ってしがらみを持つ立場になる事を好まないようなのです」

 

「ふうん……」

 

無意味に権力ばかり欲しがるヒト族とは対照的だな、とリディーは思う。

 

スールはうつむき気味に話を聞いていて。

 

いつもの興味津々の様子は殆ど無い。

 

フィンブルさんが心配して何度か声を掛けたが。

 

大丈夫、と応じるばかりだった。

 

アンパサンドさんは何も言わない。

 

ただこの様子だと、スールが何か失敗した場合、何をするか分からない。沼地に蹴り込むくらいの事はしかねない。

 

ひやひやする。

 

アリスさんは、自主的に見張りに立ってくれていて。

 

見張りをしながらも、自分の愛剣らしい何だかものすごく禍々しい剣を手入れしていた。

 

あれは多分、生き血とかを啜ってパワーアップする剣に違いない。

 

見ているだけでぞくぞくする。

 

それにしても、騎士隊長が副官達と何か話し合いをしているが。

 

長引いている。

 

どうしたのだろう。

 

「王子」

 

「俺様が行っても聞かせてくれねーよ。 俺様が騎士団で何て呼ばれてるか知ってるだろ、アン」

 

「穀潰し、騎士団の恥さらし、姉に才能を全て吸い取られた役立たず、権力狙いのアホでさえ寄ってこない。などです」

 

「全部解説しないでもいいだろ! ……でもその通りだ。 だから、俺様に声を掛けられても困る」

 

「はあ。 ならば仕方が無いのです」

 

手を引かれ、リディーは一緒に騎士隊長達の所に行く。

 

騎士三位のアンパサンドさんだけなら、この会話に混じる資格は無いが。

 

今アトリエランク制度に参加している錬金術師のリディーが混じれば話は違ってくる、と言う事だ。

 

「うん、如何為された、錬金術師殿」

 

「随分話し合いが長引いているようですので」

 

「おお、心配させてしまったか。 実は、隣の街との連絡が数日前から途絶えているという話でな」

 

「!」

 

流石に慌てるが。

 

キホーティスさんは咳払いした。

 

「この荒野にある街では、珍しい話では無い。 今、一応念のため、快足を自慢にする部下に偵察に行かせている。 もしもまずいようなら、駆け足で救援に向かう。 今のうちに休んでおいて欲しい」

 

「分かりました」

 

そういうのであれば、仕方が無い。

 

慌てて敵の罠に掛かったり。

 

急いで駆けつけても、何も無かったりでは。

 

それこそくたびれ損である。

 

しばしして、伝令が戻ってくる。

 

騎士団が、第二戦速、を指示。

 

急いで動き出した。

 

第二戦速は、駆け足で。

 

戦闘時の全力疾走の次の速度だ。つまり、何かあったという事である。

 

嫌な予感しかしない。

 

そして、その予感は。

 

現地で適中していた。

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