暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
騎士団は創意工夫と経験と装備で苦境を乗り切り続けましたが、それも限度があります。
多くの騎士が従騎士の頃に殉職していきます。勇敢だったり良い奴だったりする奴の方が先に死んで行くものです。
相手が人間を遙かに超えるのだから、なおさらですね……
それは、もはや元が何の生物か分からなかった。
分かるのは、いにしえの伝承に出てくるヒドラのように、首がたくさんあって。
蛇のようであり蚯蚓のようであり。
それでいながら体の分岐は滅茶苦茶で。
文字通り丘を丸ごととぐろを巻くほど巨大で。
傷ついているのにもかかわらず。街に火球を叩き込み。
弱々しいシールドが火球を弾くのを見ながら。
突入のタイミングを計っている、と言う事だった。
「ネームド、百股の火舌だ……!」
戦慄の声が上がる。
またネームドか。
前に戦った驀進の多眼という猪のネームドよりも、一回りどころか、とんでもなくでかい。
大きければ強いと言うことも無いだろうが。
その背中に生えている無数の棘や。
自分を隠すつもりさえない派手な斑模様からも。
あの存在に天敵などは存在せず。
誰に見つかろうが気にさえしない。
そういう圧倒的な自信が見て取れた。
ただし、見た印象ではやはり相当に傷ついている。
事前に何かと交戦したのだろうか。
だとしたら錬金術師だろうか。
わずかに悩んだが、即時で判断する。
「総員街に突入、シールドを張れ! 確か近所で駆除作戦を実施中の錬金術師殿がいるはずだ! その到着まで持ち堪える!」
「はっ!」
騎士達が隊列を組み直すと、傭兵達もろとも、街へと突入を開始する。
老朽化した城壁は今にも倒壊寸前。
獣よけのシールドも、撃ち抜かれる寸前だ。
こういう街にも、一応獣よけの城壁はあるのだが。
良くてシールドがあるくらい。
酷い場合は石を積んだだけだ。
街には年老いたヒト族の魔術師が一人いて、必死にシールドを張っていたが。
すぐに騎士団員達が、それに倣ってシールドを張る。
無言のままスールが、発破を手にしたので。
慌ててその手を掴む。
「待ってスーちゃん! レンプライアの欠片使うつもり!?」
「そうだけど」
「駄目だよっ!」
「じゃああのバケモノにどうやって致命打を与えるの」
声が詰まる。
また、相手があからさまに抵抗能力を測るためだけに、火球を放ってくる。
それだけで、街が覆い尽くされそうな巨大さで。
魔術師がついに限界になったらしく、倒れる。
騎士団員や傭兵達がシールドを張り直すが。
相手は余裕綽々だ。
街を襲って人間を喰らい。
傷を癒やすつもりなのだろう。
「彼奴にダメージを与えた錬金術師が来るって話だし、もう少し様子を見てみよう」
「そんなの……」
「お願い、もう少しで良いから……」
「……っ。 勝手にすれば」
アンパサンドさんがゴミでも見るような目で此方を見ていたが。
スールはついっと視線を背け。
リディーは申し訳なくて、アンパサンドさんの顔を見られなかった。
アンパサンドさんは、申し出る。
「もう少ししたら、自分がでるのです」
「君の話は聞いているが、いくら何でも無理だ。 あの大きさだぞ」
「何ら問題は無いのです」
「……時間を稼いでくれるというのなら、それも有り難いが……」
ぐわんと、凄い音がした。
シールドがいきなり強くなったことに巨大蛇が気付いたのか。
いきなり、川くらいもある尻尾を降り下ろしてきたのだ。
尻尾は七つにも八つにも分かれていて。
街の周囲にひびが入る。
ひいっと、悲痛な声が周囲に轟く。
獲物の様子はどんなかなと、ネームドが覗き込んでくるが。
その顔には、無数の目玉がついており。
その目玉は、いずれもが蛇のものとは違い。
人間の眼球に酷似していた。
そして、街の至近距離で、口を開けたネームドが。
一斉射撃を叩き込もうとして来た瞬間。
それが起きる。
巨大ネームドの全身が、一撃で爆発炎上。
更に岩がせり上がり、ネームドの全身を前後左右から押し潰したのである。
悲鳴を上げながら、もがくネームドだが。
リディーは見た。
今の恐怖の一撃は。
たった一本の矢が引き起こした。
起点となったのは矢一本。
それであの火力、と言う事だ。
「ふう、間に合った。 お待たせー」
ぱたぱた手を振っている姿が、丘の向こうから歩いて来る。
その人が、今のをやった犯人に違いない。
そして、瀕死のネームドが、まだ動く体を、無理矢理ひねって其方に向けようとしたときには。
その人は跳んでいた。
空中で矢を引き番えると。
放つ。
今度は雷撃と烈風が、巨大ネームドの全身を情けも容赦もなく蹂躙。
悲鳴さえ上げる余裕も無く。
その体は骨になっていた。
流石にこれでは、ネームドでもどうしようもない。
半ば岩に押し潰され。
そして骨にされてしまったネームドの墓標の側に降り立つと。そのもはや人外としか思えない存在。
恐らく錬金術師である人は、ゆっくり此方に歩み寄ってきた。
「数日前からこの街近辺でこのネームドの目撃報告があって、危険だから近付かないように、外出もしないようにと連絡はしておいたんです。 見つけたのがついさっきで、退治しきれずに街の近くにやってしまって申し訳ありません」
「い、いや。 流石は三傑が一角、フィリス=ミストルート。 恐るべき手際だ……」
三傑。
となると、この人が。
あのイル師匠と並ぶ最強の錬金術師の一角か。
更に言えば、名前からして。
あの恥ずかしい名前のお店を開いているリアーネさんの、自慢の妹なのだろう。
見た感じでは、多少背は低いけれど、極めて健康的な背格好である。イル師匠はちょっと心配なくらい痩せているし小さいけれど。フィリスさんは多少小柄なくらいで、極めて健康的な体であると一目で分かる。
「ともあれ助かった。 このまま交戦していたら、どれだけの被害を出していたか」
「それなら大丈夫ですよ。 実は最初の交戦時に、爆弾も仕込んでおいたんです。 とはいっても暗黒水って呼ばれる超猛毒を、任意で体内に拡散させるものだったんですけれどね。 もし何処かに逃げ込まれて見つからないようだったら、それで殺してしまうつもりでした」
「そ、そうか。 流石ですな……ハハハ」
「うふふ。 それでは死体は引き取りますので、また」
可愛く手を振ると、フィリスさんはてきぱきと殺したネームドの処理を始める。
どこから出てきたのか、十人以上の屈強な傭兵が、その作業を手伝い始める。手際よく敵の残った部分を解体し、回収している様子だ。
いずれにしても、これでもうやる事はないか。
流石に今の戦いは想定外だったのだろう。
キホーティスさんは、予定を変更して今日の残りは休む事にし。
此処で全員を休憩させる。
第二戦速で走ってかなり疲れているし。
妥当な判断だろう。
そして、見ていると。
みるみるうちに、山をも取り囲む巨体だったネームドの残骸が消えていく。
まるで、何だろう。
驚天の奇蹟だ。
いや、錬金術そのものが、驚天の奇蹟を引き起こす技術だけれども。
それでも次元が違いすぎる。
多分イル師匠もあれと同じレベルの事が出来るのだろうけれど。
いずれにしても、ちょっと桁外れ過ぎる。
矢一本で、普通の魔術師だったら数日がかりで詠唱するような特大魔術を複数同時発動させ。
それを二回連続で放って、汗一つ掻いていない。
跳躍にしても異次元だった。
身体能力を極限まで上げているのだろうけれど、教会の屋根くらいまでは普通に跳んでいた筈である。
あれが。
三傑の実力か。
しかもあの様子では、本気なんてまるで出していまい。
イル師匠がもうAランクのアトリエになっていると言う話だったけれど、それもまた当然だと思うし。
本気になられたら。
一体どれだけの事を成し遂げられるのか、想像もできない。
休んでいる間。
マティアスさんに言われる。
「すごかったな今の……錬金術師ってのは、神々か何かの眷属か?」
「マティアスさん、女の人大好きですよね。 フィリスさん結構綺麗な……どちらかというと可愛い人でしたけれど、口説こうとか思わないんですか?」
「……ゴメン無理。 怖すぎる。 姉貴と同じか、それ以上の怖さを感じる」
「はあ」
なるほど、一応相手を見る目はあるというわけだ。
猛獣を口説こうとして、ぶちっと踏みつぶされるような愚は犯さないというわけで。
ましてやフィリスさんがあのリアーネさんの妹さんだとすると。
愛がもの凄く重いお姉さんがついてくる事もほぼ確定である。
あのお姉さんは先にアダレットで活動しているわけで。
バカ王子の話は当然聞いているだろうし。
妹を守るためには手段も選びそうにない。
とにかく物件としては重かろう。
それになんとなくだけれども。
はっきりいって、アダレットが総力を挙げても。今の戦いの様子を見る限り、フィリスさんに勝てる気がしない。
イル師匠も同じ程度の実力があるとすると。
今、三傑と呼ばれている状況を呼び込んでいるアダレットは。
余程危険な賭に出ているのではあるまいか。
雷神ファルギオルの話をこの間マティアスさんが話してくれたけれど。
それにしてもリスクが大きすぎる。
何かもっと大きな問題があるのではないだろうか。
「気付いた?」
不意に。
スールが話しかけてくる。
一瞬反応が遅れて、むっとむくれるスールだけれど。
リディーはちゃんと、遅れながらも笑顔を作った。
「う、うん、何が?」
「今の人、前に見たよ。 挨拶はしなかったけれど、城ですれ違ったこともあるかも知れない」
「よく覚えてるね。 流石スーちゃん」
「いや、そんな事はいいの。 あの人、スーちゃん達を一瞬だけ見て、それで何だか見透かしたようにしていてさ」
見透かされた。
そんな悪意みたいのは感じなかったが。
むしろ笑顔は太陽みたいだったし。
スールは、ふっと、何だか影のある笑みを浮かべる。
あれ、この子。
こんな笑い方したっけ。
ちょっとだけ。
背筋がぞくりとした。
「太陽って熱すぎて、何でもかんでも焼き尽くすって聞いた事があるよ。 あの人、その類じゃないの?」
「ま、まてまてスー。 一応三傑の噂は俺様も聞いているが、フィリスどのは彼方此方で騎士団がアンタッチャブルにしていたネームドや、危険なドラゴン、邪神までを退治してくれているって話で、多くの人が感謝しているんだ。 あんまりそういう事を言うと……白い目で見られるぞ」
「知らないよそんなの。 それに言葉飾らなくて良いよ。 白い目どころか、迫害されるんじゃないかってんでしょ」
「いや、流石にそれは被害妄想だ。 だいたいだな、むしろヤバイって噂なのは、三傑最後の……」
ぱんぱんと、手を叩く音。
キホーティスさんだった。
「皆、注目せよ。 街の被害状況を確認し、まとめた。 これより復旧部隊が到着するまで、この部隊は此処に留まる。 部隊の到着はおよそ一日後となる。 それまでは、ゆっくりするように」
「……とりあえず休むのです。 今からギスギスしていても仕方が無いのです」
「そうだな。 アンパサンドどのの言う通りだ」
フィンブルさんがなだめると、不満タラタラという雰囲気ではあったが、スールも従った。
人間の慕っている異性とは違うとしても。
やっぱりスールにとって、フィンブルさんは兄貴分として欠かせない存在なのだなと思う。
とにかく、言われたまま、復旧を専門とする部隊が到着するまで、ほぼ一日待つ。
予定は一日延びてしまったが。
そもそも物資はトラブルを想定して多めに持ってきているとかで。
不足する恐れはなかった。
翌日昼。
引き継ぎを終えて、街を後にする。
ますます荒野が酷くなる一方。
乾燥に強い植物が散見される事さえなくなり。
辺りは岩と、たまに川が見られるくらいの状況になっていた。
遠くには、連なる山脈。
アダレットとラスティンに明確な国境はなく。
「緩やかに所属している街」くらいでしか区別はつかないと聞いてはいるが。
これでは確かに国境どころでは無いだろう。
そんなもの維持できる状況では無い。
なにしろ重要拠点にさえ、昨日のみたいなのが押しかけてくるくらいである。アレを騎士団だけで討伐するとなると、一体どれだけの騎士が殉職することになったのか。想像もしたくない。
川に掛かっている橋は頑強で。
橋の左右には木も植えられていた。
これは川が本当に危ないから、なのだろう。
最悪の危険がある場所にだけは、徹底的な対策をしておく。
逆に言うと、一番危ないところにしか対策はできない。
その程度の事しか、今のアダレットにはできない。
そういう現実が、この橋からも見えてしまう。
橋は渡らない。
此処から川に沿って北上する。
上流に向かうのだが。
問題は、川に近付きすぎないようにする、という事である。
やはり川に住んでいる獣が危険すぎるから、というのが理由であるらしいが。
まあそれについては。
実際に川に住んでいるのが、本当に見た瞬間ヤバイと分かる獣ばかりだったので、身に染みてはいる。
黙々と行軍を続けるが。
騎士団に比べて、やはり傭兵は装備だけではなく、動きも若干雑多だ。
列を外れそうになる者が出て。
その度に騎士が慌てて引き戻していた。
休憩まで排泄の類は我慢しろ。
そんな事も飛び交っている。
確かにこんな荒野で、一人きりになったら、100%助かりっこない。それでも時々列を外れようとする傭兵が出てくるのは。
恐らくは、危険地帯を歩いていて。
悪い意味で慣れてしまうから、なのだろうか。
高い所で危険作業をするときも。
変になれてくると、命綱や、それに類する魔術を受けるのを忘れて。
落下死、と言う事態が絶えないそうだ。
人間は危険に麻痺する。
それを、実例を見て。
リディーは思い知らされていた。
これに関しては、人間四種族関係無いだろう。
上手に危険に対する感覚を麻痺させている例は、アンパサンドさんのようなケースなのだろうけれど。
あの人の場合は、色々とブチ抜けてしまっていて、とてもではないけれど真似は怖くてできない。
ほどなく、足を止めろと声が掛かる。
此処が、今回の討伐駆除場所。
グルムアディス大沼林だ。
林という割りには、殆ど木々はない。
そもそもこの土地は、グルムアディスという極めて人間に敵対的な邪神が縄張りにしていたらしく。
邪神そのものが手に負えない上。
住み着いている獣が際限なく巨大化して近辺の街を襲撃するため。
何度となくアダレットが討伐軍を組み。
その度に敗北してきたという忌まわしい土地だという。
此処で命を落とした騎士の数は百名を超えており。
戦死した王までいるそうだ。
若い頃のネージュと、先代騎士団長の活躍により、その悪夢の歴史には終止符が打たれたのだが。
それ以降も地形の関係上、此処には凶悪な獣が住み着くことが常態化し。
今回のように、定期的な駆除任務が行われる事になっている、ということだった。
早速前に出た、数名の騎士。
ヒト族の従騎士が目立った。
魔術を売りに騎士団に入った者達で。
「魔術専」と呼ばれているそうである。
騎士団というと、剣で華々しく戦う者達を想像しがちだが。
実際には優れた魔術の腕前でも、騎士団に入ることは不可能では無い。
試験の方法もかなり変わるらしく。
騎士団の隊長の中には、魔術専から隊長になっている人もいるそうだ。
ただやはりというか、騎士団は「直接戦闘力を重視する」傾向が強いらしく。
錬金術の装備などで増幅した分も込みとして。
「戦える」事が重視されるため。
後方支援の魔術しか使えない、という人材は、あまり評価されることがないというのも事実だそうである。
ともかく、その魔術専の従騎士達が、魔術を展開。
危険地帯を割り出していく。
ぽっぽっと音がしながら、朽ち果てた木が点々としている中に。
紫色に染まる場所が出てくる。
更に注意があると、キホーティス氏が言う。
「あれらは、生物の痕跡がある場所だ。 つまり何かがいたか、今現在いる場所に過ぎない」
「!」
「あれ以外にも罠になっている沼地はある。 きをつけられい!」
錬金術師殿方と、いきなり呼ばれて。
背筋が伸びる。
一つずつ、発破を放り込んで欲しいと言うのである。
スールが頷くと。
ピンポイントフレアがついている発破を、腕をくるくる回して投擲。
紫色の沼の一つに、丁度ピンポイントフレアが沼に発射される向きに、完璧に投擲して見せた。
「離れてください!」
「お、おうっ!」
直後。
沼から飛び出した、特大の巨大な蚯蚓のような生物が、見境無く発破を丸呑みにするのと。
発破が炸裂するのがほぼ同時。
沼地が大爆発し。
蚯蚓の残骸が、血と肉と一緒に辺りに降り注ぐ。
それだけじゃあない。
どうやら地下で今の沼地とつながっていたらしい沼地から、炎が噴きだし、あぶり出されたらしい蚯蚓のような生物が、火だるまになってのたうち回りながら逃げ出してくるが。
それを好機とみたらしい他の沼地の生物が。逃げ回っている蚯蚓を、ひょいひょいぱくぱくと食べてしまう。燃えているか何て関係無い様子だ。
ぞっとした。
何という魔境だ。
これでは匪賊が逃げ込んでも絶対助からないというのも納得である。
そして此処で巨大化した獣が、街を襲撃した場合、どれだけの被害を出すのかというのも。
想像したくなかった。
「お見事。 まずはさい先良し、と言う所だな」
「ええと、予定では二日ほどこの作業を続けるんですか?」
「そうなる。 獣の中には、勿論反撃を試みてくるものもいるから、錬金術師殿方は気を付けられよ」
「私はリディー、そっちは妹のスールです、キホーティスさん」
そうかそうかと、目を細めてキホーティス氏は笑う。
どうやら、やっと。
此方のことを、多少なりと認めてくれたようだった。
沼を順番に爆破していく内に。
少しずつ分かってくる事がある。
どうやらこの大沼地地帯。
地下で沼同士がつながっているケースだけではない。
一つの沼を爆破したら、いきなり地盤が崩落し、枯れ木が傾くようなケースまであった。つまり地下に広大な空間が存在している、ということだ。
つまるところ地盤が極めて不安定で。
危なすぎて足を踏み入れられない、という事である。
沼に引きずり込まれて食われるどころか。
いきなり足下が崩落して、砂地獄より酷い底なし沼行き、という可能性さえあるのだから。
これでは足を踏み入れられない訳である。
順番にスールに発破を投げ込んで貰い。
沼地を処理する度に、出てくる獣も駆除する。
リディーは支援専門で動くが。
いずれにしても、的確に動けているとキホーティスさんは褒めてくれた。丁度リディーとスールくらいの娘がいるらしい。この人はかなりの年配だし、遅くになってで来た子供となると、余計に可愛いのだろう。
「うちの娘もできれば騎士団に入って貰いたいのだが、中々難しくてなあ」
「その、本人が望むようにしてあげるのが、親として一番良いやり方だと思いますよ」
「……そうか」
残念そうにするキホーティスさん。
騎士団に入るのは大変だし。
何よりすごいエリートコースだ。それに関しては間違いない。
騎士団長ともなると、国の幹部。
しかも伝説的な巨人族の先代騎士団長が退いて、今はヒト族の騎士団長になっているわけで。
次代の騎士団に入れば、ヒト族でもトップを狙える可能性が高いのである。
そういう意味もあって、娘さんには騎士を目指して欲しかったのだろう。
何しろ、代々騎士の家柄、というのだから。
「準備整いました!」
「よし、次の沼、爆破! 総員備えよ!」
スールは今のところ。
口数は少ないけれど、きちんと仕事はしてくれる。
発破の投擲に関しては誰よりも正確で。
完璧にピンポイントフレアが沼に向くように投げ込んでくれている。一度も外していない。
どれだけ練習したのか。
勘があると言っても、ぶっつけでは限界がある。
スールは自分を明らかに過小評価している。
確かに投擲の技術という点で、スールに勝る人間はいるだろう。
だが錬金術師に限定すると。
此処まで見事に、しかも向きまで指定して投げられる者は、そうはいないはずだ。
次の爆破。
沼が吹き飛び。
予想もしない場所から火柱があがるが。
何も住んでいなかったのか。
単に沼地が燃やされるだけに終わった。
だがそれは、安全圏が確保されたという事も意味するし。
逆に言えば。
だからといって、敵の巣をつつかなかった、と言うわけでもない。
わずかに時間をおいて。
巣に衝撃を与えられたとでも判断したのか。
口がたくさんある兎のような生物が(しかも全部縦に裂けている)、ぬっと不愉快そうに沼の一つから顔を出した。
そしてそいつが這いだしてくると。兎のようなのは頭部だけで。全身はむしろ巨大なナメクジに似ていることが分かった。
雄叫びを上げる巨怪に。
キホーティスさんが手を降り下ろし。
先制攻撃が徹底して行われた。