暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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既に魔人と化しているソフィー=ノイエンミュラーは、エゴで面白おかしく世界を蹂躙しているわけではありません。

世界の破綻を防ぐあらゆる方法を総当たりで試しているだけです。

二十万回をゆうに超える繰り返し。

時間をとめる事も全く問題なく出来るソフィーの体感時間はとっくに億年の大台に乗っています。その時間ぶん、世界最高の天才が努力を続けていたのです。その力が究極であるのも当然です。

しかし結果として。元から狂気を帯びていた人格は。すっかり魔人と呼ぶに相応しいものとなり果てていたのです。


4、深淵からの手

もう、人と呼ぶには無理があるかも知れない。

 

ソフィー=ノイエンミュラーは、それを自覚していた。だが、だからどうだとも思わない。

 

幼い頃から世界の全てが気に入らなかった。

 

周り中からする声。

 

理解者はオスカーとモニカだけ。ソフィーの事を大事にしてくれたおばあちゃんも早くになくなった。

 

父親は考えるだけで殺意で頭が塗りつぶされるろくでなし。

 

母親なんて知りもしない。

 

孤独に生きてきた。

 

理解者がいるだけでもマシかも知れないが。

 

それでもはっきり言って。錬金術師として大成してからは、更にこの世界が嫌いになった。

 

世界そのものを動かして見て。

 

そして分かった。

 

本当に人間という生物がどうしようもないという事を。

 

今では完全に人間を超越したソフィーは。

 

枷を全て失っている。

 

どんな残忍な事でも出来るし。

 

相手の事を掌の上で転がす事も何とも思わない。

 

エゴを充足させるために力を振るうつもりは一切無いけれども。

 

そもそもソフィーには、既にエゴというもの自体が存在していない。

 

まだ賢者の石を作る前は人間だった。

 

そうプラフタには。

 

本の状態で出会い。

 

人形の体に魂を写した、大錬金術師はそう言う。

 

既に繰り返しの回数は、フィリスとイルメリアを育てるときに22万回を超えていたが。

 

リディーとスールを育て始めてから、更にそれに一万回を加え。

 

時を止めて行動する事が増えたため。

 

実体感時間は、二十億年を超えていた。これは、フィリスとイルメリアにも話していない事だが。

 

「ソフィー。 今回は、貴方はできるだけ裏方に徹するのですね」

 

「そうだよ。 雷神の復活タイミングにずれがあるのと、復活したときの強さにムラがあるから、それの調整が最初の仕事。 もしも雷神を超えられたら、私が作ったあの絵を超えられるように育てるのが次の仕事」

 

「……」

 

プラフタは悲しげに、人形だから当然だとも言える美しいまつげを伏せるが。

 

もともとこのプラフタの体は、生前の姿に似せて作ったもの。

 

本人を知っているルアードお墨付きの姿である。生き写しだそうだ。

 

ルアードの本来の姿も、ソフィーは知っている。

 

「歴史的には」およそ500年少し前。

 

ルアードは「醜悪のルアード」とまで呼ばれ、差別された。

 

プラフタは逆に神格化されて持ち上げられた。

 

ルアードは先天的に内臓に多数の疾患があり、生殖器も機能していなかったらしく。プラフタとは幼い頃から一緒にいて、錬金術の腕を磨き合ったパートナーであったらしいのだが。

 

男女の関係ではなかったそうだ。

 

ルアード自身は男性機能を持っていなかったし。

 

プラフタも恋愛ごとに殆ど興味が無い気むずかしい性格だったから、それは必然だったのかも知れないが。

 

いずれにしても、救われない話だった。

 

この世界の真実同様に。

 

「ソフィー。 貴方はもはや、この世界を動かす機械の一つとでも、自分を設定しているのですね」

 

「あたしが好き勝手に振る舞ったら、それこそ世界を一夜で焼け野原にすることも難しくないからね。 そう振る舞わざるを得ないね」

 

「その力を強引に振るって、最終戦争を止めようとしたこともありましたね」

 

「うん。 でも上手く行かなかった」

 

人間四種族。

 

考え方も違い姿も違い。何よりも互いに交わることがない四種の「人間」が、どうして上手くやって行けているか。

 

それはこの世界があまりにも過酷すぎるからだ。

 

協力し合わないと生きていけない。

 

それについては同意する。

 

だが危ういバランスでその協調は保たれていて。

 

終焉の時。

 

他の文明と共存する事が可能になるまで文明が成熟することなく。

 

この世界の資源を使い果たした時には。

 

バランスは崩壊する。

 

そして世界は終わる。

 

その回避のためには、後二人。

 

どうしても、賢者の石を作る事が出来るレベルの、しかもソフィーとは考え方が決定的に違う錬金術師がいる。最低で後二人だ。できればもっと欲しいが。それは恐らく無理だろうと。遺伝子プールを調べ、その中から現れうる可能性を全て試した結果結論出来る。

 

創造神は。

 

あらゆる可能性を試行した。

 

人間に思いつきそうな事は全てだ。

 

だからこそ、創造神は、ソフィーよりも更に桁外れの回数。9兆という回数、世界をやり直している。

 

自己申告によると、体感時間は2700京年。

 

宇宙など何度滅びるか分からない程の時間である。

 

人間よりも次元が幾つも違う存在である創造神がそれだけしてもどうにもならなかったこの世界。

 

人間の延長線であるソフィーが十万回や二十万回やり直したくらいで、どうにかなる筈も無い。

 

だからこそ、同格の超越者がいる。

 

結論は簡単極まりないが。

 

その可能性をたぐり寄せるのは。

 

那由多の彼方に潜む可能性をどうにかして引きずり出すほかない。

 

更に言えば時間ももう限られている。

 

繰り返しは何度だってできる。

 

だが、世界に残っている資源を考えると。

 

どれだけ引き延ばしても、いずれ限界の時が来てしまう。

 

ソフィーが無理な壁を用意して。

 

無理矢理にでも双子を育てようとしているのは。

 

それが理由だ。

 

さて、ではまず順番に話を進めて行くか。

 

アダレット方面で工作していた深淵のものと接触。状況を見せてもらい、細かい指示を幾つかだし。道具も貸し出す。

 

ミレイユ王女は完全に深淵のものとの協調路線を貫いているが。

 

何しろ切れ者だ。

 

深淵のものが何を目論んでいるか、気付かせてはならない。

 

気付いた場合、人間らしい思考によって、どんな反撃を試みてくるか分からない。

 

得がたい人材だが。

 

必要になったら消さなければならない。

 

今までの繰り返しでも。

 

何度も起きた事だ。

 

ルーシャの所に。イルメリアを育てたときと同じように、ホムンクルスのメイドも配置済みである。

 

記憶を弄ってあるからばれない。

 

ルーシャを監視するには丁度良いし。

 

イルメリアを育てきった時に比べて、ホムンクルスの完成度も段違いに上がっていて、より人間らしい言動をするようになっている。

 

また、どうしてもルーシャが頑張りきれない場合は。

 

支える事が出来るようにもしてある。

 

稼働は問題ない。

 

時間を止めて、様子を確認。

 

バグが出ていたら修正する。

 

それだけだ。

 

後は、双子の様子を見に行く。

 

時間を止めて行動しているから、気付かれない。気付きようがない。

 

姉のリディーは、錬金術師としての才能はあるが、兎に角ひ弱だ。戦闘どころか、ろくに逃げる事も出来ない。

 

妹のスールは戦士であった母譲りのそこそこ優れた戦闘センスを持っているが。

 

錬金術師としての才能が足りていない。

 

そして共通して、頭があまり良くない。

 

どちらも育て上げるには。

 

非常に厳しい工夫がいる。

 

一人ずつ順番に育てようとも試みたが、上手く行かなかった。

 

引き離すと相互依存が強いから壊れてしまう。

 

かといって一緒に育てると、才能の差が相互依存の関係にクラッシュを引き起こす。

 

難しい二人だ。

 

この二人を育てきらないと、どうしても最後の終焉を突破出来ない。

 

だからやるしかない。

 

今日も、外で取ってきた雑草を使って、薬とも言えないようなゴミを作っている様子であったが。

 

口出しはしない。

 

半ば廃人とかしている父親が、もう少ししっかりしていれば。ソフィーの手間も減っただろうが。

 

この父親が廃人化したときには、既に最初の「世界の固定」が行われた。つまりソフィーが賢者の石を作ったタイミングだった。

 

流石に其処から遡って干渉することは、時間を巻き戻す事さえ出来るソフィーにも無理だ。

 

いつもと変わりなし。

 

それを確認すると、アトリエを出て。

 

メルヴェイユ、つまりアダレット王都を歩く。

 

何がメルヴェイユだか。

 

無駄に国力を浪費して、要塞だった首都を庭園趣味に変え。強固だった防御力をドブに投げ捨て。実用性を放り投げて美しさを重視した。

 

先代アダレット王は現実を知らない男だった。

 

騎士団がどれだけ苛烈に外で戦い。

 

獣や匪賊、ネームドと戦って命を散らせているか。

 

それを理解もできていない男だった。

 

此処がもう少し、戦士としての気風を残した国であったのなら。

 

或いは双子も、もっと育てやすかったかも知れない。戦闘面での教官役にできる人材も、色々見繕えただろうに。

 

いずれにしても、此処もいつもと変わりなし。

 

最後に、雷神の封印を見に行く。

 

いつもよりちょっと封印が解けるのが早くなりそうなので。

 

少しだけ封印を強化しておく。

 

雷神の力そのものも削っておく。

 

フルパワーになった場合、雷神はこの世界を構成する四つの力。電磁力、重力、強い力、弱い力のうち。電磁力を操作するとてつもない邪神となる。実戦闘力で言うと、端末パルミラの四分の一ほどだ。

 

だからこそ丁度良い。

 

此奴の攻撃を死なずに耐え抜き

 

そして不思議の絵の力を使って対処する事を覚えれば。

 

見えてくるのだ。

 

那由多の先にある、未来を切り開く可能性が。

 

時間停止を解除。

 

後は予定通りに、一つずつ進めていくだけだ。

 

ソフィーはくつくつと笑うと、一旦アダレットから姿を消す。

 

ここからが地獄の始まり。

 

そして地獄が始まることにより。

 

地獄が終わる可能性を探し出す旅も始まる。

 

今度こそ、双子を育てきりたい。

 

そう考えているのは。

 

ソフィーも同じなのだ。

 

 

 

(続)




それぞれの意思で世界の破滅を防ごうとする者達。

その行動は、繰り返すだけの回数失敗してきました。

完全に詰んでいるこの世界を打開するための鍵。

それこそが。

違う考えを持ちうる才能の子。

錬金術師リディーとスールなのです。

その可能性を引き出すために。

文字通りの地獄が、其処で展開されているのでした。
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