暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、動き出す特異点

アリスがイルメリアのアトリエに戻ってくる。

 

頷くと。

 

既にツーカーの仲であるアリスは、即座に意図を察した。

 

「採点は此方のレポートに」

 

「どれ」

 

見せてもらう。

 

戦闘判断。リディー17点、スール17点。

 

やはり此方の才能はスールの方が格段に上。

 

徹底的に仕込んでも、勘でスールが上回ってくる。だから、スールには調合を中心にリディーには座学をやらせているのである。それぞれ苦手分野を埋めるために。リディーはあれだけ勉強して、やっと判断でスールと互角程度、とも言える。

 

勿論100点満点だから未熟も良い所だが、正直あの二人のスタートラインで、此処までできるようになっていれば充分すぎるくらいである。

 

戦闘実績、リディー15点、スール13点。

 

今回はスールに大きく減点が入っている。

 

戦闘時に自分を殺せていないからだ。

 

自分の感情を優先して、味方の被害を増やしかねない言動をしている。

 

これはまずい。

 

最後にネームドの攻撃を察知したことを加味しても、大きな減点をせざるを得ない。また、発破の使い方がどれだけ見事であっても、減点は免れない所だ。残念極まりない話ではあるが。

 

戦闘結果、リディー16点、スール16点。

 

大きな減点はあったが。

 

やはり前線任務に関しては、スールの方が適性が高い。

 

リディーは典型的な後方支援型で。

 

最悪、研究室に籠もってずっと皆のための道具だけ作っていれば良い、くらいの才覚である。

 

だが、勿論戦闘ができない錬金術師は勘も鈍る。

 

だから戦闘に出しているのであって。

 

多少無理をしてでも。

 

経験を積んで貰わなければならないのだ。

 

騎士団の判断、合格。

 

まあこれについては、妥当だろう。

 

そもこの任務は、騎士団で恒例として行っているもので、凶悪すぎる獣がでない場所で、比較的安全に演習を行う、というものだ。

 

今回それに関しては、双子は充分以上にやれた。

 

それどころか、予期せぬネームドとの戦いでも、足を引っ張ることはなかったし。

 

早期徹底の判断のおかげで、死者を出さない結果にもつながった。

 

騎士団としては、貴重な人員の減少を防ぐばかりか。

 

ベテランであるキホーティスの引退も防げたと言う事もあって。

 

それこそ花丸を双子にあげたいに違いない。

 

まあ妥当だな。

 

頷くと、下がって休むようにアリスに指示。

 

自身は、アトリエの奥にある扉を使い。

 

深淵の者本部に向かう。

 

定期会議があるのだ。

 

出向くと、ソフィーはいない。

 

その代わり、プラフタとシャドウロードがいる。

 

ルアードは既に姿を変えて、アダレット王都で活動を開始している。多分次の試験くらいから双子と連携して動くはずだ。

 

他の幹部は、特に大物はいなかった。

 

各地で動いているか。

 

こんな中間報告に、わざわざでる必要もないと判断したからだろうか。

 

だが、である。

 

プラフタから、驚くべき事を聞かされる。

 

ソフィーの師であり。

 

バケモノを育ててしまったと時々嘆いているいにしえの大錬金術師は。

 

イルメリアが悲しむ事を知った上で。そう言う。

 

「ソフィーが表に出る事を決めました。 どうやら今回、早めの干渉をした方が「面白そう」だと判断したようです」

 

「面白そう……ですって!」

 

「落ち着けイルメリア。 暑くてかなわん」

 

シャドウロードが腕組みしたままぼやく。

 

どうやらイルメリアは瞬間沸騰していたらしい。

 

呼吸を整える。

 

二人に当たり散らしたところで仕方が無い。

 

そして、妙だと思っていた事に結論が出る。

 

どうしてロジェが、ソフィーを探していた。

 

あれはひょっとして。

 

ソフィーが面白がって、情報を自分から流したから、ではないのだろうか。

 

「そもそも! ファルギオルがでるまでは、裏方をしている筈でしょう! どうして急に!」

 

「理由はこれですよ」

 

「……」

 

資料が配られる。

 

それによると、今までそれほど着目されていなかったロジェの経歴についてまとめたものだった。

 

ロジェの経歴については調べた。

 

関係者の記憶を覗くまでして、徹底的に調査までした。

 

だがこの資料は。

 

先祖まで遡っている。

 

「ロジェが不思議な絵画制作者だという事は知っていたけれども、まさかこれは……」

 

「ロジェはネージュの子孫ですよ。 ネージュとの特徴的な遺伝子一致が見られます」

 

「……」

 

ネージュは孤独に老後を過ごしたと聞いている。

 

確か夫もいなかったはず。

 

気に掛けていたのは先代のアダレット騎士団長だが、あれは巨人族だ。

 

そしてネージュは、追われるように王都をでてから。

 

すぐに命を落とした。

 

だが、この遺伝子情報は。

 

ネージュの一族の末裔か。

 

それとも。

 

はっと、思い当たる。

 

「まさか、遺伝子情報の移し替え!?」

 

「ええ」

 

「……やられたわね。 そういえば、あるんだったわ」

 

拳で机を叩く。

 

ぎりぎりと奥歯を噛んでいた。

 

この世界には人間の絶対数が足りない。創造神は、そのため足りない遺伝子が近親交雑で弱体化しないために幾つかの手を打っている。

 

その一つが。

 

遺伝子情報の移し替えである。

 

数が少ない魔族や。元が1人だったホムなどはこれによって相当数が「産み出された」と聞いているが。

 

要するにそれは。

 

世界規模で無作為に行われる。

 

本来だったら死ぬ運命だった子供に対しての、遺伝子のチェンジリングである。

 

優秀な遺伝子を死の原因となり得た遺伝子と差し替え。

 

再び世界に戻す。

 

それを機械的に、何ら考えもせず無作為に行う。ただし同年代では行わない。

 

このため、遺伝子情報を調べてみると。

 

別の時代に同じ人間が、出現しているケースが散見されるのだ。

 

なお、「この後の時代」にも、この仕組みは機械的に機能を続ける。

 

創造神が、「平等」であることを示すように。

 

レポートの結論からすると、双子の祖母がネージュと同一遺伝子を60%持っていた。

 

こういった部分的な遺伝子欠損のチェンジリングを、ハーフチェンジリング。全ての遺伝子チェンジリングを、全チェンジリングと呼んでいる。

 

全チェンジリングは滅多に起きないのだが。

 

腕がない、目が見えないなどの遺伝子欠陥を持った子供に対しては。

 

胎児が形になる前に、このチェンジリングが。特にハーフチェンジリングが起きる事が多い。

 

ロジェ兄弟が揃って優れた錬金術師だったのも。

 

この60%のネージュの血が。

 

強く影響していた、というのが大きいのだろう。

 

勿論、双子にも、だ。

 

まずい。

 

イルメリアは呟く。

 

この事実に気付いたソフィーがどう動くか分からない。

 

或いは、単純にネージュの血を再現しようと考え出すかも知れない。

 

今まで、遺伝子合成して作り上げた天才錬金術師は、いずれも上手く行かなかった。これはどうしてかはわからないが。兎も角駄目だった。遺伝子操作だけではなく、交配まで操作して作り上げたケースでも駄目だった。

 

遺伝子プールを調べていたソフィーも、ネージュの60%がハーフチェンジリングされていたとは思っていなかったのだろう。

 

今回動いていると言う事は。

 

何をいつやらかしてもおかしくない。

 

「座りなさいイルメリア」

 

「プラフタ、双子が心配よ。 お願いだから行かせて」

 

「もしソフィーがその気になったら、双子どころか今頃アダレット王都が塵芥だろうよ」

 

「……っ」

 

シャドウロードの言葉ももっともだ。

 

声だけは若いが。

 

一度年老いた威厳はどうしてもある。

 

この辺りはアンチエイジングを駆使したパイモンと同じか。

 

「ともかく、我々の中でソフィーの戦力は圧倒的だ。 そして悔しいが、ソフィーこそが、この世界の終焉を打開できる可能性を持つ人材でもある。 イルメリア、お前もその一人だ。 忘れてはいないだろう」

 

「……」

 

「ならば今が我慢しろ。 むしろ今までソフィーは、よく状況を泳がし、双子を自由にしてくれたとも言える。 今回は二度のネームド戦でも死者を出さず、フィリスの支援到来まで持ち堪えたと言う事もあって、双子を見るのが楽しみなんだろう。 いきなり無体なことをしたりは……」

 

する。

 

あいつは、何をしてもおかしくない。

 

そう言おうと思ったが。

 

できなかった。

 

理由は簡単。

 

後ろに、ぞっとするような。

 

同じく世界の終焉を見てきた存在の筈のイルメリアでさえ。

 

恐怖で動けなくなるほどの、圧倒的気配が生じたからである。

 

ソフィー=ノイエンミュラー。

 

戻ってきたのだ。

 

「うーん、興味深い話をしているねえ。 イルメリアちゃん、あたしにも聞かせてくれるかな?」

 

「き、いていた、でしょう」

 

「そうだったね。 うふふ」

 

イルメリアの頭を掴むと、ソフィーはそのまま隣の席になれなれしく座る。

 

そして、頭から手を離さないまま、言った。

 

「双子の父親であるロジェを泳がせた結果、ネージュの血統の生存を確認。 今まで確認できなかったのは、恐らくは巧妙な偽装があったから、と思われる」

 

「巧妙な偽装とは……」

 

「決まってる。 あたしという絶対捕食者から身を隠すため。 ふふ、でもちょっとロジェさんの危機感を煽って正解だったかな。 巣穴をつつくと、獣ってのは必死になるんだよ」

 

手を離すソフィー。

 

だが、頭蓋骨には、凄まじい痛みが残っていた。

 

余計な事をしたら殺す。

 

ソフィーは、笑顔のまま。

 

指の力だけで、イルメリアにそれを伝えたのだ。

 

そしてイルメリアには。

 

逆らう選択肢など存在しなかった。

 

咳払いすると。

 

ソフィーは威圧的に声色を変え、皆を見回す。

 

「計画を少しばかり前倒しに進める。 双子の成長は予想を超えて早い。 失敗した場合も、今回のやり方は次回に引き継ぐ」

 

「ラージャ」

 

「了解……」

 

「ソフィー、貴方。 双子の人生をもてあそぶのはもういい加減に……」

 

肩をすくめるソフィー。聞く気は無い、という意味だ。

 

プラフタは、ただ悲しそうにしていた。

 

自分が起こしてしまった怪物。

 

後悔するのは当然だろう。

 

しかしこの魔物なくして、この世界の終焉は打破できない。

 

全能に極めて近い神にさえどうにもならないのだから。

 

 

 

(続)




魔人ソフィー=ノイエンミュラーの決定は絶対です。

勿論論理的に問題が生じた場合は聞いてくれますが、情は既に通りません。
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