暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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これは一つの世界の終焉の形の話。

我々の世界の、ある一つの結末の話。


凍てついた世界の風景
序、終焉の形の一つ


わたしフィリス=ミストルートは知っている。

 

人間四種族は、この世界に「救い入れられた」事を。

 

そしてその中でもヒト族は

 

そう。

 

今いるこの不思議な絵画の世界。

 

「氷晶の輝窟」のように。

 

世界を凍り漬けにして、終わらせてしまったと言うことを。

 

パルミラが生まれ。

 

世界が意思を持ち。

 

そしてその前後の出来事である。

 

色々と細かい情報を仕入れていく過程で知ったのだが、簡単に言うとヒト族の欲がそれを招いたらしい。

 

自分だけは豊かな生活をしたい。

 

自分のものを他人に渡したくない。

 

やがて身勝手なエゴは暴走を開始し。

 

世界レベルでヒト族は己の住む土地を蝕み。

 

世界を滅ぼす兵器を互いにたたき込みあった。

 

それは世界を熱で焼き尽くし。

 

あらゆる資源を使い物にならないようにし。

 

そして噴き上げた粉塵が。

 

世界の全てを氷漬けに。

 

そうでないものも、兵器の毒が汚染し尽くして。もはやどうにもならない状態にしてしまった。

 

自分の手に入らないなら。

 

焼き尽くしてしまえ。

 

その過程で死ぬ者などどうでもいい。自分さえ良ければどうでもいいのだ。

 

そんな風にヒト族が考えていたから。

 

世界が一つ死んだ。

 

笑えない話だった。

 

そしてそんなヒト族にさえパルミラは手をさしのべた。

 

そいつらの子孫であるという事を思うと、わたしはあまり良い気分はしない。事実現在でも、ヒト族はもっとも匪賊に落ちやすく。もっとも身勝手で。もっとも野心で周囲を踏みにじる事を平然とやらかす。

 

数だけは増えるから。

 

人間四種族の中でもっとも平均的でも。もっとも存在感を放っている。

 

ただ増える。

 

それだけの理由で。

 

平均的なヒト族は。

 

錬金術師がたまに誕生するという事を抜きでも。

 

この過酷な世界でのさばっている。

 

結局の所、パルミラがやるべきだったのは。

 

このヒト族という生物に、もっと根本的な改良を加える事、だったのではないかとわたしは思うのだが。

 

勿論試してはいるだろう。

 

9兆回。

 

世界を施行した存在だ。

 

人間が思いつく程度の事は、全てやっている。

 

それならば、もう何も言うことは無い。

 

それだけやってもどうにもならなかったカス生物が人間で。

 

わたしはイルちゃんやリア姉、ツヴァイちゃん。お父さんやお母さんのためにも。この世界をどうにかしなければならないのだから。

 

一緒にこの世界に入った騎士が敬礼してくる。

 

「作業全て終わりました」

 

「設置は大丈夫ですか」

 

「はい。 しかしあのようなものを配置して……大丈夫なのでしょうか」

 

「……」

 

苦笑いしか返せない。

 

ソフィー先生の指示は絶対だ。

 

前回の戦いで、双子の成長が予想以上だとソフィー先生は判断した。

 

本来、双子にとって二つ目に本格的に調査することになるこの氷晶の輝窟で、戦う相手はどうと言うことが無い相手の筈だった。

 

だが、今わたしが配置した装置類によって。

 

これより此処は地獄と化す。

 

双子が此処を乗り切れるかどうかは。

 

もはや分からない。

 

とはいっても、双子に優しくした周回も。双子に厳しくした周回も。

 

いずれも全て無駄に終わった。

 

ならば、ソフィー先生が言うように。

 

やっていないことを試して行くしか無いのだ。

 

最近イルちゃんの様子がどんどんおかしくなっている。周回を重ねるごとに苦しみが増しているのが分かる。

 

前から苦しんでいたのは分かっていた。

 

だが最近は特に酷い。

 

ずっとふさぎ込んでいる事が増えたし。

 

嘆いている事も増えた。

 

わたしにだけは本音を話してはくれるけれど。

 

それ以外では、冷酷な仮面を被って、殆ど心を隠してしまっている。

 

無理もない。

 

双子の面倒を直接見ているのだから当たり前だろう。

 

更にこれでも人間でありつづけようとしているんだからなおさらだ。

 

人間なんて早く止めた方が楽。

 

ソフィー先生はそう言う。

 

事実その通りなのだと思う。

 

わたしはもうある程度、人である事は諦めている。故に多少は気も楽だけれど、それも厳しくなりつつある。

 

イルちゃんはそれが出来ずにいる。

 

故に苦しいのだろう。

 

痛いほどイルちゃんの気持ちは分かる。

 

そしてそれ以上に。

 

どうしようもない人間という生物そのものに怒りが湧く。

 

状況を確認すればするほど、悪いのは人間だ。

 

そもパルミラに救助されなければ滅びていたし。

 

時間が経てば勝手に自滅する。

 

生物として根本からして救いようが無いのだ。

 

事実どうしようも無いことは、ずっとずっと繰り返す世界の中で見てきた。記憶を正確に繰り越しているのはパルミラを除けばソフィー先生とわたし、イルちゃんだけだけれど。

 

既に万回繰り返しただけで。

 

わたしも人間に対する強い不審を嫌と言うほど植え付けられてしまっている。

 

イルちゃんはそれでも抗おうとしているのだから立派だ。

 

わたしは、どうにか支えてあげたいけれど。

 

しかし。

 

一方で、ソフィー先生が言う事が正しい事も理解出来る。

 

故に、もうすっかり自分の目が光を失っていることを。深淵に濁りきっていることを理解している上で。

 

こうして、言われるようにやっていくしかない。

 

騎士団に退避を指示。

 

元々この氷の絵画は。

 

適切な危険度で、錬金術師達のランク制度における試験で活躍してきた。何人もが此処を抜けて、的確な危険度の洞窟で経験を積み。そして一人前の錬金術師になった。まあせいぜい「何人」程度なのだけれど。わたしやイルちゃんは、「繰り返している」のでその見ている回数が違う。

 

だがそれも此処まで。

 

古き時代。

 

ヒト族の先祖が作り出してしまった地獄へ。

 

此処は変わるのだ。

 

ついでだ。

 

双子を守るために、あらゆる手段を採ろうとしているルーシャにも、同じように地獄を味わって貰おう。

 

勿論わたしも入る。

 

無意味な事故死は避けなければならないからだ。

 

双子が周回時、死ぬのは仕方が無い。

 

だが、それは意義がある死にしなければ。

 

つぎ込んだリソースの意味がなくなる。

 

この作戦、裏で数千人もの人間が動いている。

 

世界のどん詰まりを打破するためにだ。

 

この世界の人口規模から考えると、とんでも無い人数である。

 

故に、その作戦が仮に失敗するとしても。

 

ただで失敗させてはならないのである。

 

意義ある失敗を。

 

ただ、そのように考えている時点で。

 

わたしももう、ヒトとは。勿論人間とも。言えないことは、分かりきっていた。

 

選択肢はない。

 

騎士団の退避を見届けると。

 

設置したものが。

 

稼働開始するのを確認。

 

データをとっていく。

 

勿論事前に確認はしてあるが。

 

まあ大丈夫だろう。

 

事実、予定通りに動き始めている。

 

頷くと、データを取得した後、一度時間を凍結して動きを止める。

 

此奴は無節操に活動されると困る装置なのだ。

 

此方の管理できる範囲内で動いて貰わないと困る。

 

そして、管理できるのだから。

 

管理する。

 

それだけである。

 

いずれにしても、わずかな時間動いただけで。

 

既にこの不思議な絵画は、もはや半人前錬金術師がのうのうと入れる場所では無くなった。

 

わたしにはしかけてはこないが。

 

周囲には、以前の数倍も強くなったレンプライアが這い回り。

 

極寒の洞窟は、文字通り生命を拒む場所と化している。

 

そして最深部には。

 

準備してきた。

 

アレが首をもたげていた。

 

これでいい。

 

此処を抜けられないようなら。いずれにしても双子は、ファルギオルの攻撃に耐えられっこないのだから。

 

絵画をでると、指示を出し。

 

以降この不思議な絵画を、双子の試験以外では使用禁止とする。あくまで一時的な処置ではあるが。

 

外では、イルちゃんが待っていて。

 

いざという時の処置を、既に済ませていた。

 

レンプライアが不思議な絵画から逃げ出した場合。

 

このアダレット王城を直接汚染することになる。

 

現在施されている結界など何の役にも立たない。

 

イルちゃんが処置をしておかないと。

 

文字通り周囲は地獄と化すのである。

 

「準備終わったようね。 此方も終わったわ」

 

「うん。 イルちゃん、大丈夫?」

 

「いいえ。 さあ、一度戻りましょう。 双子がそろそろスクロールを受け取っている頃でしょうし」

 

「そうだったね」

 

歩きながら話す。

 

今回から、わたしが双子に同行する。

 

ただし、監視役兼試験官として、である。

 

戦闘には参加しない。

 

わたしが参加してしまうと。

 

文字通り何のためにもならないからである。

 

ましてや双子はわたしの戦闘能力を既に見ている。頼られるようだと困る。あげくわたしの力を前提に動かれるようだともっと困る。

 

元々がいい加減な性格なのだ。

 

手抜きをこんな早い段階で覚えられると。

 

後に悪影響を及ぼす。

 

「スーちゃんはどう? 様子がおかしいけど」

 

「今までに無い速度で病んでいる、としかいいようがないわね。 それに、リディーも壊れはじめて来たわ」

 

「ああ、そうだろうね……」

 

「いずれにしても、まずはファルギオルを越えられないと話にもならないわ。 人間関係の修復はその後ね」

 

冷酷な話をしていることは分かる。

 

ずっと一緒に生きてきた双子を。

 

引き裂くも同じなのだから。

 

そも双子は、錬金術などしない方が、幸せな人生を送れたはずである。

 

錬金術は文字通り魔の学問。

 

力には。

 

代償が伴う。

 

深淵を覗けば。

 

深淵には覗き返される。

 

力を欲すれば欲するほど。

 

深淵に深く深くもぐることになる。

 

そう、ソフィー先生のように。

 

彼処まで深遠の深奥に到達してしまうと、もはやどうにもならない。

 

だが、双子まで、あのような状態にはしたくない。

 

皮肉な話だ。

 

知識というものは、力そのものであり。

 

そして深淵そのものだ。

 

何かを為すための力は。

 

そのまま何かの心を壊してもいく。

 

更に言えば、ソフィー先生が為そうとしているのは。

 

世界征服でもなければ、人類の抹殺でも。己に都合が良い世界の創設でもない。

 

この完全に詰んでしまっている世界の打開。

 

つまり、未来を切り開くための作業なのだから。

 

深淵というのも生やさしい恐ろしい存在と化している今のソフィー先生でも、それに変わりはない。

 

だからこそ。

 

救われないのだ。

 

イルちゃんのアトリエに入ると。

 

アリスさんが茶を出してくれた。

 

温まるために、という名目だが。

 

実のところ、絶対零度の空間に行った所で、今更何ともならない。

 

温まるという行為自体が必要ない。

 

その気になれば、数百年絶食しても平気な状態である。

 

絶対零度や、数万度の熱量くらい、それこそ何でも無い。

 

ソフィー先生ほどではないにしても。

 

わたしも大概人間は止めてしまっているのだから。

 

それでも有り難く茶はいただく。

 

記号的にしか味は分からないが。

 

それでも心はこもっているのが分かる。

 

それだけしか分からないが。

 

「んー、おいしいね。 わたしに唯一残った人間らしい趣味が、食事だって話だから、おかしなものだよね」

 

「旅行は?」

 

「ははは、何を。 もうこの世界なんて、隅から隅まで歩き尽くしちゃったよ」

 

「そうだったわね……」

 

わたしは。

 

自分が壊れるのを自覚していくうちに。

 

ストレスを少しでも解消するため、世界中のありとあらゆる場所を、何度も周回しながら回った。

 

そしてこの世界は、全て踏破してしまった。

 

文字通りの意味で、である。

 

もう行くところが無いから、自分で不思議な絵画を描いて。

 

その中に入って遊んだりもした。

 

もはやそれすら飽きてしまったが。

 

今では、たくさん食べて、人間らしいフリをすること。

 

それがわたしの、唯一の趣味になってしまっていた。

 

イルちゃんの場合は、それがぬいぐるみ集めだが。

 

わたしほどの執着がない所を見ると。

 

多分元々、イルちゃんはわたしに比べて欲や希望が薄かったのだろう。

 

コルネリアさんが来る。

 

イルちゃんにレポートを渡すので、受け取って二人で確認。

 

双子がコルネリアさんの所で買っていったもののリスト。これにリア姉のお店の分も含める。

 

そうすると、二人が錬金術をどれくらいしているか、大体分かる。

 

頷くと、コルネリアさんは戻っていく。

 

彼女を父親に会わせてあげる事も、このしばらく後に行ってはいる。

 

毎回の周回で、記憶を持ち越していないので。

 

毎回涙を流して喜んではいるが。

 

もう飽きた。

 

ソフィー先生が、わたしが公認錬金術師試験に受かったとき。おぞましい程の冷酷さで言い放った言葉だが。

 

今はわたしがそれを口にできるようになってしまっている。

 

もうわたしはあらゆる意味で。

 

ソフィー先生と同じ側の存在だ。

 

「フィリス」

 

イルちゃんが、わたしの服の袖を掴んでいる。

 

震えているのが分かった。

 

口を引き結んでいる。

 

ぐっと。

 

唇を噛み切って、血を出しそうな程に。

 

「お願い。 双子を、お願い」

 

「……イルちゃん」

 

「分かってる。 私はこのままだと壊れるかも知れない。 ヒトであり続けているから、余計にそれがまずい。 あんたは私よりヒトを捨ててる。 だからそうやってへらへらできているのも分かってる。 でも、だからこそ頼むわよ。 あの子達の側にいるというのなら、お願い。 壊さないで。 少なくとも、できる事は、あんたもしてあげて」

 

「分かってる。 イルちゃんは、わたしにとって、お父さんとお母さん、リア姉、ツヴァイちゃんと、もう一人の家族だよ」

 

震えているイルちゃんの手。

 

哀しみ。怒り。慟哭。嘆き。あらゆる感情が交じり合ったその手を優しく握り返すと。

 

わたしは、イルちゃんのアトリエをでる。

 

まだヒトであろうとしている。

 

わたしの大事な比翼のアトリエを。




フィリスはすっかり壊れていますが、それでもイルメリアとの友情を今でも最大の宝物としています。

これはフィリスが過酷な旅を通じて、比翼である彼女にどれだけ助けられたか分からないからというのもありますが。

初めて出来た立場が同じ同年代の親友だったから、というのも大きいですね。
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