暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
そもそもその原作ですらも、絶賛舐めプ中なんですよねえ。
多分ファルギオルとやり合って「苦戦していた」ときも。
ギリギリまで手を出すつもりは無かったのでしょう。
この間の試験で。
最後に試験の合格を告げられて、驚いていたリディー。だけれど、スールは実のところ、それほど驚いていなかった。
あの試験が、想定外のトラブルだらけだったのは。
確実だったからだ。
本来騎士団の演習を手伝う、くらいの内容だった筈なのに。
ネームドに二度も襲われ。
下手をすれば、部隊が壊滅していてもおかしくなかった。
それなのに、途中からあからさまに実力がおかしい錬金術師が救援に来る。
それを前提としているとしか思えない状況が続く。
試験官はそれを知らされていなかった可能性が高い。
キホーティスといったか。
あのおじさんも、道化だったというわけだ。
スールと同じように。
暗い笑いが浮かんでくる。
何かにもてあそばれている。
そう、勘でわかり始めているのだけれど。
ほぼ確実と見て良いだろう。
もてあそんでいる何者かは、あまりにも強大すぎて、逆らう事さえ許されない。もし逆らおうとしたら、即座に殺される。
それくらいの強大な存在で。
多分アダレットが総力を挙げても逆らう事は無理だ。
あのフィリスという人一人でさえ、多分単独でアダレットを焼き払う事くらい、容易に成し遂げるはず。
それより黒幕だと思われる存在は高位にいること確実で。
つまり、である。
リディーもスールも。
逆らう事なんて、出来る筈も無いのだ。
何をさせられるんだろう。
何かのエサにされるんだろうか。
それとも。
ぼんやりベッドで横になっていると。
いつの間にか朝になっていた。
裏庭でうねうね動いて体をほぐすと、
リディーが起きだしてきたのを横目に、簡単な調合の復習に入る。
レンプライアの欠片を使った切り札。名付けるならバトルミックスを使う許可は、まだイル師匠に貰っていない。
これも何か作為的なものを感じる。
この間の試験。
もしもバトルミックスを使っていたら。
それこそ、一発で免停まであったのではないのだろうか。
そんな気さえするのだ。
追い込んでおいて。
きちんと教えた事を守りながら。
それでいながら生き残れるか。
そんな事を試されている気がする。
不愉快だけれど。
逆らう事さえも許されない。
「スーちゃん、朝ご飯できたよ」
「うん」
「今日はスクランブルエッグだよ」
「ありがとう」
別にリディーに噛みついても仕方が無い。
だから、朝ご飯は普通に食べる。喧嘩をしているわけでも無い。リディーは心配して話しかけてくるけれど。
ただ、掌の上で踊らされているのを理解出来ているから。
腹立たしいだけだ。
逆らう事さえ許されないのが、余計に腹立たしい。
それ以上でも以下でもない。
そして頭が良いくせに。
それに気付いてもいないリディーにも、余計に腹が立つ。
「多分今日か明日だね、試験の結果が正式に来るの」
「レポートは出したから、待つだけだね」
「うん!」
リディーは嬉しそうだが。
気が知れない。
あの試験内容、明らかにおかしかった。
今後はスールの予想では、更に試験内容は加速度的に過酷になっていくはずだ。それも、確実に此方を殺すつもりで。
何が目的なのかは分からない。
だって、リディーとスールを殺す気なら。
アリスさんがその気になれば。多分二人は瞬きする間に死んでいる。
死体の処理だって簡単だろう。
匪賊の死体をそうしたように。
何も残さず処分する事だって簡単なはずだ。
この状況を作り出している誰かは。
何を目的としているのか。
遊んでいるのか。
それだったら、まだ反撃のチャンスがあるかも知れない。
だが、そんなのとは全然違う、もっともの凄くタチが悪い目的があるのであったら。
それは恐らく。
逆らうとか、そういう話ではなくなってくるはずだ。
「調合してるね」
「うん。 私は見聞院で本借りて来る」
「勉強?」
「そうだよ」
この間の演習で遭遇した二体のネームドについても、情報提供すれば、小遣い稼ぎにはなるのだ。
また、戦闘のどさくさでかなり失ったが。
あの演習で得た素材も。
活用方法が分かるかも知れない。
そう嬉しそうに言うリディーは真面目極まりない。
頭も良いのに。
しかしスールとは違う方向でバカだなと思う。
悪い意味で疑う事を知らないのだ。
スールが闇ならリディーは光だ。
ものの表面しか見ていない。
双子だから、それでいいと思うのだけれども。
だが、今後、それが原因で悲劇が起きるとしか思えないのである。
うきうきの様子で見聞院に出かけていくリディーを見送ると、黙々と釜を掻き回す。発破もお薬も補充しなければならない。腕も上げなければならない。
漠然と作るのでは無く。
作ったものは全て記録して。
何処が駄目だったのか。
どうすればよりよくなるのか。
全てチェックしていく。
そうしなければ、上手くなんかならないのだ。
スールは元々どれだけ練習しても、ちょっとだけしか実践していないリディーにさえ勝てない程度の腕前である。
リディーが遊んでいる間にも。
少しでも練習を重ねなければならないのだ。
しばし調合を続けていると。
いつの間にか、側で誰かが笑顔で見ていた。
びくりと身を震わせ。手を止めるが。
その一人がそっと手を添えると、調合を再開する。
「筋は良いね。 もう少し、此処はこうやって力を込めてみてね」
「は、はい。 だ、誰……」
「おや、二回も命を助けたのに、もう忘れちゃった?」
「!!」
思わず跳び上がりそうになるが。
しかし、とにかく心臓が飛び出しそうになるのを必死に堪えて、調合を続け。そして薬を仕上げる。
ほんのちょっと、側で手を入れられただけなのに。
今まで作ったのとは別物としか思えない出来だった。
へたり込んで、恐怖のまま見上げる。
凄まじい手際で、ネームドを殆ど一方的に殺戮していた恐怖の錬金術師。そう、こう呼ばれていた。
破壊神フィリス=ミストルート。
今アダレットに来ている最強の錬金術師三人の一人で。
通称三傑の一角。
そうだ、見覚えがある。
若干小柄だけれど。メリハリが利いている体型で。
優しそうな笑顔と裏腹に。
スールには分かる。
この人は。
何か、とんでもない闇を抱えている。今のスールなんて、比べものにならないほどの。
「スーちゃん、お菓子買って……あれ? お客……さん?」
「お久しぶりだねリディーちゃん」
「あ、この間助けてくれた、ええとフィリスさん!」
「うん。 扉が開いてたから入っちゃった」
嘘だ。
リディーが扉の鍵を掛けずに出るわけが無い。
鍵なんて、この人の前には無いのも同じなんだ。
それを悟ったスールは、腰が抜けたまま。今、目の前にいる文字通りの破壊神を見上げるしかなかった。
優しいように見える笑顔が。
破壊神が、己の所行を楽しんでいるそれにしか見えない。
呼吸を整え、生唾を飲み込むので精一杯。
漏らしかねなかった。
「良いアトリエだねー。 んー、見たところ二人と、もう一人たまに帰ってくる人がいるのかな」
「すごい、そんなのも分かるんですね」
「うふふ、これでも旅のスペシャリストだからね。 この間健闘していた錬金術師達がどんなかなって思って、様子を見に来たんだよ。 この様子なら、まあ二人暮らしでも大丈夫かなー」
彼方此方を見ているフィリスだが。
絶対におかしい。
スールは冷静に見抜く。
此処を知っているとしか思えない動きだ。
此処に何度も侵入されていたのか。
それとも。
違う理由なのか。
不意に手をとって、立たされる。
フィリスは凄まじい力で。スールを立たせるのも、とても簡単にやってのけた。この人の腕力、下手をすると城壁くらい素手で砕くのではあるまいか。
そういえば、腰にぶら下げている小さなつるはしが怖い。
今はキャップがついてはいるが。
それはそれで。
この小さなつるはしが。
多数の血を吸ってきた、恐ろしい武器にしか、スールには思えなかった。
リディーがお茶とお菓子を出して、歓待を始めているけれど。
スールはとてもではないが、作り笑顔以上のものは作れなかった。
どうして気づけない。
リディーの絶望的な鈍さに怒りさえ感じる。
目の前にいるのは、あのネームド二体をゴミクズのように蹂躙した、怪物を越える怪物だ。
多分その気になれば、騎士団ごとアダレット王都を瞬く間に焼き払ってのけるはず。
どうして、気づけない。
いつの間に、フィリスのアトリエに案内して貰うと言う話になっていて。
リディーはきゃっきゃっと喜んでいた。
もうスールは。
生きた心地がしなかった。
そして、城門近くに連れてこられる。
そうだ。
ハンカチのように畳まれていたはずなのに。いつの間にかできていたテント。中に入ってと言われて。
入ってみると。
あからさまにおかしな空間が拡がっている。
民家三つ分くらいはある広さ。
中には快適な空間が拡がっていて。どう考えても、あり得るものではなかった。
一人ホムがいて、てきぱきと仕事をしている。
無言のまま挨拶されたので、挨拶を返すけれど。
一瞬だけ視線が交錯したとき。
此方を鋭く観察する目に、スールは気付いていた。
あの子、見かけ通りのホムじゃない。
多分アンパサンドさん同様、相当な戦闘経験者だ。
「今の方は」
「ああ、わたしの血がつながらない妹のツヴァイちゃん。 前に色々あって、わたしの妹になったんだ」
「そう、ですか」
「今は大事な家族だよー」
こう言うときは聞かないのがマナーだ。
リディーもそれは分かっているようで、後は適当にアトリエを見せてもらって、そして帰ることにする。
実は、次の試験の際。
試験官として同道してくれる、と言う事を言っていた。
背筋が凍るかと思った。
多分あの人。
監視役なんて生やさしいものじゃない。
何か目的があって、側で見張るつもりだ。
場合によってはその場で殺される。
リディーは、それを理解出来ていない。
「ネームドを瞬く間にやっつけたほどの人だよ! 頼りになるね!」
「……うん」
「スーちゃん?」
「リディーさ、バカ?」
帰路で。
ずばり口にしてしまう。
流石にリディーも唖然としたようだった。
「ちょっと、何か文句があるなら言ってよ! 言ってくれないと分からないよ!」
「文句も何も、本気であの人が善意で助けてくれてるって思ってる?」
「え……」
「あの人、すっごい怖い目してたの気付かなかった? イル師匠のは厳しい目だけれど、あの人の目、荒野の獣を更に獲物として狙うような目だったよ。 どうしてそういうの、気付けないかな」
ようやく分かったのか。
硬直しているリディーに、冷たく言う。
「何か動いてるんだよ、私達の側で」
「何かって……私達、ただの半人前の錬金術師だよ」
「それにしてはおかしいよ。 だってイル師匠みたいな人が、本来時間なんて割いてくれる筈無いでしょ」
「そ、それは……」
気付いていなかったのか。
あの人、本来なら存在そのものが国宝以上だ。
国宝級のハルモニウムをポンポン鋳造し。
それを使った道具を作り出す。
文字通りの超越存在である。
そして、あのフィリスという人。
もし三傑という言葉通りだとしたら。
更に気になる事がある。
前の演習で、マティアスが言いかけていたこと。
思い出した。
フィリスという人は、騎士団から滅茶苦茶に評判が良い。それはそうだろう。あの暴力的な戦闘力で、獣狩りをしてくれるなら。命がけで騎士団が戦っていた相手が、みるみる荒野から削られて行っているのだろうから。
だが、マティアスは言ったのだ。
本当にヤバイのは。
三傑最後の一人。
もう一人の三傑がイル師匠だとすると。
最後の一人。
誰だか分からないけれど、最大限の警戒を払う必要がある。
そして今、スールは確信したけれど。
あの人、フィリスも相当に危険だ。
実力もそうだが。
やっぱり間近で見て確認したが、明るく振る舞っている表の顔の裏に、何かとんでも無いものがある。
そしてフィリスでそうなのなら。
残る一人は。
背筋が凍りそうになる。リディーは、完全に青ざめていた。そろそろ自覚して貰わないといけない。
リディーが、どれだけ危険な所に足を突っ込んでいるかを。
でも、もし気付いているとばれたら。
その時点で殺されるのではあるまいか。
呼吸を整える。
多分、それについては。もうばれてしまっている。最悪の場合は、覚悟を決めるしか無い。
勿論逃げる事なんて無理だ。
今の時点では、アリスさんが「殺そう」と思うだけで、リディーもスールもひとたまりもなく殺される。
逃げる事なんて、できっこない。
アトリエに、死人のような顔色のリディーと一緒に戻る。
そして、其処では。
マティアスが待っていた。
「よう、どうしたリディーにスー」
「フィリスさんのアトリエに、お呼ばれしていて……」
「そっか。 凄い人だし、頼りにするんだな」
「うん……」
小首をかしげながらも。
マティアスがスクロールを渡してくる。
そう。
試験二つ目が記載されているスクロールである。
アトリエに入ると。
開いて、中を確認する。
やはり内容は。
不思議な絵画の調査だった。
「不思議な絵画、氷晶の輝窟」の調査。
それが第二試験の内容だった。
ざわめきの森同様、護衛についてはいつもの面子に加え、傭兵を連れて来ても良いと言う話である。
更にベテランが同行する。
ルーシャだろうなと思ったけれど。
マティアスが、何気なしに言う。
「今回はフィリスさんが来てくれるらしいぜ」
ああ、そうか。
騎士団も公認の事実ということか。
死んだな。
スールは、自分の命がもうすぐ尽きる事を悟った。多分もう、近いうちに死ぬような目にあうと言うことだ。
青ざめているリディーと。
完全に乾いた笑いが止まらなくなったスールを残して。
マティアスは帰って行く。
終わった。
何もかも。
もう頼れる人もいない。
イル師匠も、多分この件には噛んでいる。
もう、覚悟して、死を受け入れるしかない。スクロールを見ると、三日後に試験を行うとある。
今回も一発クリアでなくても良いだろうけれども。
それでも、もはや命運は尽きたとみるべきだろう。
リディーが泣き始める。
スールは、無言のまま、イル師匠のアトリエに向かう。
せめてバトルミックスの許可が欲しい。
最後くらい。
抗いたいから。
それが理由だった。
そして勿論。バトルミックスの使用許可は下りなかった。