暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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恒温動物と変温動物(近年はこの定義が揺らいできていますが)には、それぞれ明確な長所と欠点があります。

恒温動物は出力が大きくパワーがありますが、しかし体を支えるのに膨大な食糧が必要になります。

変温動物は太陽熱などを取り込まないと生きるための熱量を確保できませんが、とにかくエサを少なく済ませることが出来ます。生きるための燃費が何倍どころじゃないレベルで恒温動物より良いのです。

こういう事情もあって、過酷な環境では変温動物の方が強いという現実があります。

まあ。その定義も揺らぎ始めているのですが。


2、熱望されしもの

スールがペンチで抑えて。

 

リディーがハンマーを振るう。

 

如何に装備品で倍率が上がっていると言っても。

 

元の筋力が貧弱なのだ。

 

リディーの腕力では、ハンマーを振るった際の音が弱々しくて、どうしようもない。がいんと弾き返されることもある。

 

それでも、必死に作業を続ける。

 

イル師匠が納得するまでインゴットの純度を上げるまで三日。

 

更に合金として混ぜるまで二日。

 

時間が容赦なく過ぎる中。

 

合金を加工し始める。

 

まず上下に、長く引き延ばし。

 

その間に、魔法陣を組み込んだ本体と。

 

魔術発動のエネルギー源として、深核を組み込む。

 

ガワを作ってしまえば。

 

後は魔法陣を組み込んだ本体を作るだけだが。

 

シルヴァリアでも加工が大変だったのに。魔法陣を刻み込む労力が尋常では無い。

 

手がおかしくなりそうになる中。

 

イル師匠が書いてくれた魔法陣を。

 

今まで見たことが無いほどおぞましいレベルで複雑な魔法陣を、合金に刻み込む。

 

呼吸を整えながら、インクで最初に書いた魔法陣を掘る。

 

今回は強度が強度なので、簡単に合金を貫通する恐れはないが。

 

しかし、その分一掘りずつが尋常では無い労力を伴うため。苦労はそれこそ生半可なものではなかった。

 

「三刻休憩。 アリス、水を」

 

「はい」

 

イル師匠が手を叩くと。

 

多分からだが覚えてしまっているのだろう。

 

地面にへたり込んでしまう。

 

水を貰って飲むと、その場で床に転がって、しばらく身動きせずに過ごす。かなりだらしないけれど。

 

極限まで自分を絞りながら作業しているのだ。

 

その間、イル師匠は品質のチェックをし。

 

黒板に色々書き込んでいた。

 

起きだしてから、それについて聞かされ。

 

彼方此方の手入れを行う。

 

深核の組み込みは最後の最後だ。

 

あまりにも貴重な品のため。

 

失敗が絶対に許されないのだ。

 

ましてやこの温熱発生装置。本来は、リディーとスールごときが作れるような代物ではないのである。

 

イル師匠が側で監督し。

 

あらゆる事を手取り足取り教えてくれて。

 

それでどうにかできるようになっている。

 

順番にまた作業を進めていく。

 

アリスさんが合金を抑えてくれて。

 

リディーとスールが、手分けして魔法陣を掘り進める作業を行う。

 

そうしてみて分かったのだが。

 

スールはコツを掴むと、魔法陣掘りそのものは、リディーより上手いようだった。

 

というか、恐らくだが。

 

勘でどれだけ力を入れれば良いか、分かっているのだろう。

 

今まで散々やってきた基礎が。

 

今になってやっと芽吹いてきている。

 

汗を拭いながら、合板の魔法陣を掘り。

 

時には、イル師匠が高熱で赤熱しているペンを使って掘った箇所を修正し。

 

そしてまた掘り直す。

 

そんな事を繰り返している内に。

 

更に二日が経過していた。

 

どうにかできたガワを、上下であわせる。

 

恐ろしく重くて。

 

アリスさんと、オイフェさんが手伝ってくれなければ、とてもあわせる事なんてできなかった。

 

あわせた後、イル師匠が細部までチェック。

 

何カ所かに修正が入った。

 

ハンマーで細かく叩いて修正を行い。

 

そして直しきった後。心臓部になる魔法陣を刻んだ合板を中に入れ。そして、深核を組み込む。

 

だが、これで終わりでは無い。

 

細部まで、徹底的にイル師匠がチェックする。

 

イル師匠はやはり身につけている装備品が違いすぎるのだろう。

 

細い手をしているのに。

 

すんなり合板を片手で持ち上げて、ルーペを使って内部をチェックしている。魔法陣にも触って、徹底的に品質をチェックしているようだった。

 

「……深核の余りを使って中和剤を作って」

 

「はい」

 

「おまけよ。 少しだけ、手助けをしてあげる」

 

人命が掛かっているからだろう。

 

イル師匠がハンマーを振るって、極めて微細な作業をしてくれる。ただし、その分の金を貰う、とも言われた。

 

どれだけとられるのか見当もつかないけれど。

 

それでも、此処は頼むしかない。

 

深核を溶かした中和剤。

 

こんな贅沢品はそう無いだろう。

 

完成すると。

 

イル師匠は頷いて、刷毛を取りだしてくる。

 

多分とんでもない高級品だ。

 

そして、言われた通りに。

 

接合部、それに魔法陣の中心部付近、それに深核そのものに塗っていく。

 

それを丁寧に乾かした後。

 

全てを組み合わせた。

 

呼吸を整えながら。様子を見守る。

 

魔法陣が起動したのが分かった。

 

「面倒だから、機能のオンオフについては考えないわよ。 本来なら溶接してしまうべきだろうけれど、設置する場所が場所だから、盗難は考えなくても良いでしょう」

 

「その、機能を止める場合は」

 

「深核を取り外すだけよ」

 

「ああ……」

 

スールが覚めた目で言う。

 

本来なら。

 

これは、戦略事業に使うような、超高度錬金術の産物。

 

イル師匠が手まで入れてくれた品だ。

 

自分達が作った、何て口が裂けても言えない。

 

だからこそに徹底的に簡略化もされている。

 

盗難対策もされていない。

 

勿論騎士団が今後絵そのものを見張るか、あの絵を封印措置してしまうのだろうけれども。

 

それでも、此処に深核があることは、知られない方が良いだろう。

 

荷車に乗せる。

 

流石に合金。

 

載せた程度で曲がるような硬度をしていない。それでも、荷車に載せるときは緊張した。

 

更に、一旦休憩して、疲れをとった後。

 

すぐに騎士団に連絡に行き。

 

明後日には、絵に入る話をしてくる。スールには、フィンブルさんに話をつけてきて貰った。

 

あのトカゲの王と戦うつもりはない。話をするだけだ。交渉をするのが目的だ。

 

多分、戦いにはならないとは思う。

 

それでも相手はドラゴンの似姿。

 

備えはしないと危ない。そもそも会話ができる獣なのだ。会話はできればしたい。交渉するには力もいる。準備はしておかなければならない。

 

一通り作業を済ませてから家に帰る。

 

一週間以上、帰っていなかっただろうか。

 

その間、お父さんが帰っていた形跡は無かった。

 

何をしているんだろう。

 

のたれ死んでいないといいのだけれど。

 

素直にそう思えるようになっていた。昔は、あれほど毛嫌いしていたのに。痛みが少しでも分かるようになって来たのだろうか。

 

疲れが溜まっているからか、体の方は正直で、ベッドでぐっすり眠る。

 

起きだしてからは。温熱発生装置を積んでいる荷車と、もう一つの方に、薬や爆弾を積み込んでいく。

 

これは途中のレンプライア対策だ。

 

そして起動すると分かるが、露骨に部屋の中が蒸している。

 

確かにこの装置、効果がある。

 

かなり暑いとすら感じたので。

 

厳しいようなら、コンテナに入れてしまうしかないだろう。

 

ただ、緊張感を保つためにも、今はこのままにしておきたかった。

 

準備を済ませている内に。

 

予定の日があっと言う間に来てしまう。

 

そして、リディーとスールは。

 

今までの愚かな過去と決別するためにも。

 

凍り付いた絵に。いや、人類の罪そのものの世界に。

 

再び、足を運ぶのだった。

 

 

 

トカゲの王は、やはりドラゴンのままの姿をしていた。浮いているのも、魔術を使っているのかどうなのかはよく分からないけれど。少なくとも、戦った場合、死者を出す覚悟をしなければならないだろう。

 

フィリスさんは監視役だ。

 

彼女が戦ってくれれば、それはもう秒で戦いが終わるだろうが。

 

恐らく絶対にそんな事はしてくれない。

 

スールが荷車を引いて前に出る。

 

リディーは頷くと、全てを任せた。

 

交渉そのものは、相変わらずスールが実施する。リディーはこういうのに向かない。

 

「ほう。 その長細い棺のようなものが、熱をもたらすのか」

 

「今降ろすよ。 効果を確認してみて」

 

マティアスさんに目配せして。スールが手伝わせる。フィンブルさんとアンパサンドさんは、いざという時に備えて貰う。何しろ、ここに来るまでの間、七回レンプライアと交戦したのだ。

 

中には、例の下半身がないのもいた。

 

いずれもが、どういうわけか氷にとても弱かった。

 

それとどうしてか分からないが。

 

レンプライアはトカゲたちには興味が無く、襲うつもりもないようだった。

 

またレンプライアは、所々にある見えない壁の向こうに行くつもりも無い様子である。

 

あるいは。

 

事前にフィリスさんかイル師匠が、結界でも張ったのかも知れない。この人達なら、それくらい容易だろう。

 

マティアスと一緒に、温熱発生装置を卵がたくさんある聖域の真ん中に運び込む。

 

「大丈夫かコレ、デリケートな機械なんじゃないのか」

 

「大丈夫。 プラティーンと同じくらい硬いから、ちょっとやそっとじゃ壊れない」

 

「マジかよ」

 

「スーちゃんだけじゃとても作れなかったけれどね」

 

箱を置く。

 

トカゲの王は慎重に動きながら見て回っていたが。

 

正直なのはトカゲたちだ。

 

すぐに箱に集まってくる。

 

分かったのだろう。

 

部屋の温度が、一瞬にして上昇開始した事を。

 

この装置の能力では、部屋の温度をある程度まであげる事しか出来ない。正直な所、今の「温度が上がった状態」でも、リディーとスールにとっては毛布を被ってやり過ごしたいくらい寒い。獣の腕輪を少し弄って、個人用の熱発生フィールドを展開していなければ、とてもではないけれど生きていけないだろう。

 

丸まって目を閉じているトカゲたちを見て。

 

トカゲの王は、しばし腕組みして考え込んでいたが。

 

やがて言った。

 

「良いだろう。 お前達は約束を果たした。 この装置も今分析したが、未知の技術とは言え、数千年……外が暖かくなるまではもつ様子だ。 それならば、此方としては文句はない」

 

「!」

 

「この聖域に入らなければ、お前達の先祖が残した品を持ち帰るのはよしとしよう。 その代わり、この聖域に入ったら容赦なく攻撃する」

 

「それならばこうしておくね」

 

フィリスさんが前に出ると。

 

空中で印を書く。

 

多分何かの道具を使って、結界を上書きしたのだろう。

 

「これで、ヒトは中には入れない。 わたし達も、絵をでるともうこの部屋には入れない」

 

「……ありがとうございます、フィリスさん」

 

「ううん、いいんだよ。 それよりも、王。 本当に良いの? 人の姿さえ、見たくないんじゃないの」

 

「どの道この聖域だけが我等の場所だ。 我等の総力を挙げて、安全に卵を産めるようにklashlhfsdkfjhsdfの汚染を排除した場所。 外に出てエサを採ってくるにしても、此処でしばらく寝かせなければ、結局我等も同じ汚染によって体を壊す。 我等は当面は、コピーを作り続けるしかないだろう」

 

そうか。

 

王は多分特別な存在で。

 

一族を守るための義務があるのだろう。

 

呪いは解除したと、トカゲの王は言った。

 

ならば此方も相手に敬意を払い。

 

この聖域には以降絶対に入らない。

 

それだけのことだ。

 

頭を下げる。

 

先祖がごめんなさいと。

 

トカゲの王は、しばし黙り込んでいたが。

 

やがて、もう行くが良いと言った。

 

向こうとしても、落としどころだろうと判断してくれたのは間違いない。そして、此方は、これ以上を望んではいけないのだ。

 

絵をでる。

 

これで調査終了だ。

 

アンパサンドさんに念を押される。

 

「レポートの提出を数日以内に。 それと、できるだけ急いでルーシャさんのお見舞いに行ってあげるのです。 優先順位はルーシャさんで」

 

「はい!」

 

「ありがとうございます!」

 

「それにしても、うちの王子は本当に力仕事しか役に立てないのです」

 

冷たい目でマティアスさんをみるアンパサンドさん。

 

マティアスさんは、確かに今回もへっぴり腰になっていた。ドラゴンの似姿が余程怖かったのだろう。

 

「だって仕方ないだろ! 前に俺が今の騎士団長と副騎士団長と一緒に見に行った上級ドラゴン、見た瞬間コレ勝てないって一目で分かるくらいやばかったんだからよう!」

 

「殿下、あまり大声でそういう事をいうものではない」

 

「あー、そうだなフィンブル。 分かってるよ」

 

「殿下はその恐怖の前で、機械を落とす事もなく、きちんと動けたではないか。 それで充分だろう。 恐怖はそれぞれの速度で克服していけばいい」

 

フィンブルさんは、そう言うと。

 

もう此処は良いから、ルーシャの所にと。

 

頷いて、促してくれた。

 

フィリスさんはまたいつの間にか何処かへと消えてしまう。

 

リディーは、スールと一緒に頭を下げると。

 

全速力でアトリエに戻り。

 

そして、荷物をしまうと。

 

イル師匠のアトリエに向かった。

 

試験の合否なんてどうでもいい。

 

ともかく、今はルーシャがどうなったかだ。

 

十日以上は、地獄の苦しみの中にいたはず。酷い苦しみの中に居続けると、人の心は壊れてしまう事があると聞いている。

 

走って、イル師匠のアトリエに。

 

ルーシャは、既に半身を起こしていて。

 

オイフェさんが淹れたらしいお茶を口にしていた。

 

「あら、無事でしたの」

 

「ルーシャ!」

 

「大丈夫!? もう痛くない!?」

 

「平気ですわ」

 

ふふんと、虚勢を張ってみせるルーシャ。

 

分かりきっている。

 

絶対に平気な訳がない。

 

あんな苦しみの中、しばらく過ごしていたのだ。

 

今だって、涙を拭いたいはずだ。

 

無理をして、馬鹿な振りをして見せている。そんな事は、もう分かっている。

 

だから、リディーは。

 

スールと頷きあった。

 

「ルーシャ」

 

「……」

 

「今までごめんなさい。 私達がバカだった」

 

「スーちゃん達、どうしてもルーシャに謝らないといけないのに、できてなかった。 本当にごめん」

 

二人で土下座する。

 

思えば、ルーシャの様子がおかしくなったのは、お母さんがこの世からいなくなって。

 

そしてリディーとスールが、教会から家に戻った直後くらいからだった。

 

その頃から、決めていたのだろう。

 

双子を助けるために。

 

どんなことでもすると。

 

今までたくさん暴言を吐いてきたことをわびた。

 

スールが、今まで支援してくれたことに感謝の言葉を述べた。

 

そうだ。

 

リディーもあれから話したが。

 

今までの生活なんて、極貧だったわけがない。

 

ルーシャが支援してくれていたのは、ほんのちょっとでも考えれば分かる事だったのに。それができていなかった。つまり本当のバカは、リディーとスールの方だったのだ。それがやっと分かった。

 

「顔を上げて、二人とも」

 

全てを聞き終えた後。

 

ルーシャは、茶を下げさせる。

 

やっぱりだ。

 

相当無理していた様子で、半身をオイフェさんに手伝って貰いながら、また寝かせて貰っている。

 

脂汗を掻いているのを見て。

 

イル師匠が嘆息した。

 

「無理をするからよ。 そのままで良いって言ったのに」

 

「見栄くらい、張らしてくださいまし」

 

「……好きにしなさい。 アリス、少し外に出ていましょう」

 

「分かりました」

 

アリスさんとイル師匠が、気を利かせて外に出てくれる。

 

いたたたたと、ルーシャが呻きだしたのは、直後だった。

 

痛み止めらしいのを、オイフェさんがすぐにルーシャの口元にもっていく。

 

咳き込みながらも、ルーシャはそれを飲む。

 

何も言えなかった。

 

今回は、体の痛み。

 

だが、今までは。

 

ずっとこんな感じで、心の痛みを、リディーとスールはルーシャに加え続けていたのではないのだろうか。

 

ルーシャがリディーとスールのために、敢えて道化になる事を選んだとしても、だ。

 

「情けない。 先輩錬金術師なのに、あんなちゃちな呪いも防ぎきれず、貴方たちの世話になるなんて。 いった……いたたたたたたっ!」

 

「もう、無理しないで!」

 

「ごめん、本当に悪かった! だから、もう……」

 

「ぐっ……良いんですのよ。 おばさまと約束したんですから。 二人を助けるって」

 

そうか。

 

やはり、そうだったのか。

 

ルーシャもお母さんと仲が良かった。それにしても、おばさまというのは、何だか違和感がある。

 

兎も角、だ。

 

オイフェさんと一緒に、ルーシャの世話をする。しばらくして、ようやく痛みも引いてきたようで。

 

もう大丈夫と、まだ青い顔のまま言われた。

 

頷くと、今度はアトリエヴォルテールに行く。

 

ルーシャのお父さんはふさぎ込んでいた。

 

顔の形が変わるまで殴られる覚悟で、二人で土下座して謝る。ルーシャのお父さんは、それを見て、ため息をついた。

 

「あれが好きでやった事だし、何より無事で済んだのだ。 イルメリア殿に、数日以内に元のように動けると太鼓判も貰っている。 後遺症も出ないそうだ。 そのようにしなくてもかまわぬよ」

 

「でも、おじさん」

 

「良いんだ。 そもヴォルテール家はこれ以上損害をだすわけにはいかない。 ルーシャが無事で戻ってきてくれただけでも充分なんだ」

 

これ以上。

 

損害を出すわけにはいかない。

 

何だろう。

 

凄く今の言葉、引っ掛かった。だけれども、仕方が無い。頷くと。もう一度謝って、そしてアトリエヴォルテールを後にする。

 

アトリエに戻ると。

 

静かに泣いた。

 

スールも泣いている。

 

やっと、謝る事が出来た。

 

愚かだった自分達に、決別することができた。

 

今、既にリディーとスールは、訳が分からない陰謀に巻き込まれている。とてつもなく怖い何かが側で動いている。

 

スールに言われるまで気づけなかった。

 

或いは、ルーシャは、それからも、リディーとスールを守ろうとしてくれていたのかも知れない。

 

だとしたら余計。

 

今後、馬鹿な自分達のことは思い出し続け。

 

そして、ルーシャには、感謝しなければならなかった。

 

きっとルーシャが支援してくれていなければ。

 

今まで生きている事だって出来なかったのだ。

 

更に、今回の件で、もう一つ思いだしたことがある。

 

お父さんだ。

 

本当にお父さんは、ただ無気力になって、ふらついているだけなのか。実際には何かとても怖い事に巻き込まれているのではないのか。

 

もしそうだとしたら。

 

急に恐怖が襲いかかってくる。

 

だけれど、リディーはお姉ちゃんだ。

 

やるべき事を、やらなければならない。

 

「レポート、作らないと」

 

「うん……」

 

泣いているスールを促して。

 

黒板に、レポートに書くべき点をまとめていく。

 

後は、イル師匠に見てもらって、できれば今日中に提出してしまいたい。

 

此処を突破すれば、晴れてランクE。

 

今後は更に義務が増えるだろう。

 

厳しい状況にもなるだろう。

 

だけれど、もう引くわけには行かない。

 

多分今回、ルーシャが酷い目にあったのは、警告の意味もあったのだ。逃げればこうなるという意味での。

 

だったら、もはや退路はないと思うべきだ。

 

リディーとスールが引いたら。

 

誰か大事な人が、代わりに命を落とすか、或いはもっと酷い事になる。そんな事は、絶対に許されない。

 

レポートをまとめている間に。

 

スールが、コンテナの在庫をまとめてくれていた。

 

深核は今回の件で使い切ってしまった。

 

だが、合金がまだある程度ある。

 

これを鍛冶屋に持ち込めば。

 

騎士団が使っているのに劣らない業物を作る事が出来るはずだ。

 

或いはスールの武器を、ある程度まともに出来るかもしれない。蹴り技にしても。例えば靴に刃物がついていたりすれば。その威力は跳ね上がるはずだ。

 

やっと、一段落した。

 

そして、これから更に先に行かなければならない。

 

できる事が、あまりにも少なすぎる。

 

これからリディーとスールは。

 

更に、できる事を増やし。

 

今後来うる災厄に、対応出来るよう備えていかなければならないのだ。

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