暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
双子が顔が変わるまで殴られる覚悟で土下座しに行ったのは、それだけの事をしてきたという自覚がやっと生じたからです。
ようやくこの双子は、いわゆるクソガキではなくなったと言えるのかもしれないですね。
アトリエヴォルテールが営業をいつも通り再開するのを見た時には、心底からほっとした。
ルーシャはイル師匠のお墨付き通り、数日で復帰。
トカゲの王は、約束を果たしてくれたのだ。
熱が、トカゲたちにとってどれだけ大事だったのか。
それが、約束を果たしてくれたと言う事だけでも、よく分かった。
それにトカゲの王は、恐らく嫌だったのだ。
世界を滅ぼした自称万物の霊長と一緒になる事が。
だから二枚舌のヒト族と違って、きちんと約束を守った。
ヒト族の間では。
約束を守ったり。
信念を貫いたり。
何かのために一生を捧げる行為を。
馬鹿にする風潮がある。
どうしてもある。
これは認めなければならないことだが。努力をしていると馬鹿にする奴は絶対に出てくるし。
そもそもリディーとスールが。
わざわざ当て馬になって、生きる気力を作るために道化になってくれていたルーシャに。散々非道を働いていたのだ。
これからは。
一緒になってはいけない。
ヒト族は腐りきった一族で。
呪われている存在なのかも知れない。
もう帰ってくるなと出身世界の者達に言われても、返す言葉がないのも事実なのだろう。
だからこそ、そんな愚かな先祖とは一緒にはならない。
お化けたちが言っていた様な。誇れる先祖と一緒になる。
少し目つきが変わったと。周囲に言われる。
スールはもっと前から、何だか雰囲気が変わったと言われているようだ。
いつのまにか。
もうポンコツと、呼ばれる事はなくなっていた。
レポートを提出した二日後。
マティアスさんがスクロールをもってアトリエに来る。
試験結果である事は、明らかだった。
「ほい、リディーにスー。 結果を見ておけよ」
「はい。 ……?」
合格。
試験内容は合格につき、これよりリディーとスールをEランクとして認める。
それについてはかまわない。
いくら何でも、あの後不合格、というのは流石にないだろうとは思っていたから、である。
問題はその後だ。
「この戦略事業に参加ってのは何ですか」
「ラスティンもそうなんだが、アダレットもそもそも、まともに通れる道が殆ど無いことは知ってるよな」
「はあ、まあ」
「錬金術師の仕事の一つは、そういった道を、緑で守る事なんだよ」
絶句。
確か、そもそも荒野に森を作るには、深核を使って栄養剤を作る必要がある、と聞いた事がある。
安全に通れる街道や、森で守られている王都は。
そもそもそれらの栄養剤を、先達錬金術師が作って、戦略事業として多くの人達と一緒に働いた結果。
そう、フィリスさんが言っていた。
人口太陽も、そういった戦略事業の一旦という事になるのだろう。
「今後はそれに参加して貰う。 獣狩りよりも、もっと複雑で総合的に見て難しい作業が増えると思うが、まあ頑張ってくれよ」
「頑張ってくれよって、そんな他人事な!」
「酷いよマティアス!」
「お、俺様に言うなよ!」
スールに詰め寄られて、マティアスさんが困惑する。
リディーにだって如何に無茶かはすぐに分かる。
だって、そもそも一番大事な主要街道さえ、まともに緑化されていないのが現状なのである。
戦略事業の難易度がどれだけ厳しいかは王都から外に出てみてよく分かった。
緑豊かなアダレットなんて大嘘。殆どは荒野で、街道でさえ安全に歩ける場所はまず存在しない。
森の方が、この世界では異常な存在なのだ。
むしろこの世界では、獣の方が人間より主体。
いや、ひょっとするとだけれども。
今回の、不思議な絵画の件で確信できたが、そも人間は、ヒト族も含めてこの世界に招かれている。
何故招かれたのか。
善意だったのだろうか。
善意だったとしても、だとしたらどうして楽園にいないのか。
嫌な予感がびりびりする。
緑化作業を行って、人々を救う。それはまったく異論無い。現状の実力では厳しすぎるとは思うけれど、それでもやらなければならないことだ。
しかしながら、あの凍り付いた世界を見てしまうと。
ヒト族を放置しておくと。
自分達のような、リディーとスールのような愚かな例もある。
同じ事を、何度でも繰り返すのでは無いのか。
そういう恐怖が、生まれ始めていた。
「と、とにかく、義務としての仕事については、また別途連絡が行くから、他の義務をこなしてくれ。 発破とか薬とか、納品しなければならないんだろ」
「うー」
「スーちゃん」
「分かったよ。 もう、マティアス、本当に残念だよね」
「……ああ、それは自覚はしてる」
ドラゴンの似姿をとったトカゲの王の前での醜態。
それについては、或いは思うところがあったのかも知れない。
ともかく、マティアスさんは帰って行く。
リディーは、機嫌が悪そうなスールをなだめると。
在庫を再確認。
発破と、ナイトサポートの、追加での調合を始める。
コバルト草は、ざわめきの森の追加調査で、山ほど手に入れている。
それにゴルトアイゼンを作れるようになったのは大きい。
後はバトルミックスの使用許可が出れば。
戦略級の事業にも、多少は対応が出来るかもしれない。
色々話し合いながら、作業を進める。
久々に時間が出来たので。
リディーはイル師匠の所に行ってお勉強。
スールは、発破やナイトサポートをアトリエで作る。
もう納品分は、スールに任せてしまってかまわないだろう。
ゴルトアイゼンを作れるようになり。
更にシルヴァリアとの合金も作れるようになったのだ。
そろそろ、皆の装備も更改しても良いかも知れない。
それらも、イル師匠と相談したい所だ。
ルーシャがいなくなって、イル師匠のアトリエは、少し広くなったような気がする。
イル師匠は、何かもの凄く難しそうな調合をしていて。険しい顔をしていたが。リディーが来た事には気付いていた。
「さっき、貴方たちのお父さんが来たわよ」
「! 元気そうでしたか!?」
「無精髭でくぼんだ目。 身繕いに一切の興味が無くなっているわね。 幾つか話をしたけれど、内容については知らない方が良いわよ」
「教えてください! お父さん、ずっと帰ってきていないんです!」
思わず叫んで。
口を押さえる。
スールよりも、何だか最近は激情家になってきている気がする。良い影響を受けたのだろうか。
それとも。
「もう噂には聞いているかも知れないけれど、近々雷神ファルギオルが復活するらしくてね」
「ええと、小耳に挟んだ程度ですが……」
「詳しい時期を聞かれたわ。 まあ知らないけれどね」
もしスールなら。
今のイル師匠の言葉が本当か嘘か、見抜けたかも知れない。
だが、少なくともリディーには分からない。
こういう所は、リディーには不利だ。
勉強を始める。
アリスさんに戦術を習い。
それが終わった後。
調合を終えたイル師匠に、戦略を習う。
今後は、国家規模の戦略にも関わっていくのだ。戦略というものを学ぶのは、必須である。
順番に一つずつ話を聞いていき。
最後に質問を許可された所で。
話を聞く。
「今のアダレットは、とても危ない状態にあると思うんですが、10年や20年で改善できるんでしょうか」
「無理ね。 最低でも千年はかかるわ」
「千年……」
「規格外の錬金術師がいて、それらが大暴れしている今の時代でさえもこんな状態なのを見て分かるでしょう。 大きめの街どうしですら、きちんとしたインフラが接続されていないのが今の時代なの。 とてもではないけれど、国家としてアダレットが次の段階に行ける状態ではないわ」
そうだろうなと思う。
アダレット王都は森に囲まれ。
人々は比較的豊かに暮らしている。
人によっては、生きている獣を見る機会さえないかも知れない。
襲われる事がないかも知れない。
だが、王都をでてしまうとどうか。
とくに小さな街になってくると。
匪賊の脅威が間近にあるだろうし。
獣の恐怖だって、王都に暮らしている人とは比較にならない状態の筈だ。
獣によって滅ぼされた街は、王都の近くにさえある。
それはもう見知っている。
そんな状態なのだ。
この国は。
豊かな国などと言うのは大嘘。武門の国などと言うのだって大嘘だ。
或いは、あの凍てついた世界も。
そんな大嘘を並べ立てながら。
取り返しがつかない所まで、行ってしまった世界なのかも知れない。
一つずつ、インフラ整備についての話を聞いていく。
いずれもとてつもなく困難だと言う事がわかる。
イル師匠やフィリスさんのような規格外がはりつきで、年単位での作業を行わなければならない。
今でこそ、ラスティンに「行く事は出来る」ようだけれど。
それも膨大なお金を掛けて傭兵を雇い。
命がけで行く事になる。
それは、誰でもできる事では無い。
アダレット王都が雷神ファルギオルにでも焼き尽くされたら。
文字通りアダレットは終わりだ。
勉強を終えて。
ラブリーフィリスを見に行く。
リアーネさんが、妹が凄い美人で、この街一番の美人だとかお客さんに喧伝していたので。思わず笑顔が引きつる。
フィリスさんの噂は既に彼方此方で流れていて。
もの凄い美少女らしいとかいう話になっているが。
そももうフィリスさんは「少女」いう年ではないし。
美人と言うより可愛い系だとは思う。
いずれにしても、過大広告も良い所で。
本人が聞いたら青ざめそうである。
「あら、リディーちゃん。 お勉強の帰り?」
「はい。 どんな品が入っているか、見せて貰えますか」
「いいわよ、ほら」
ざっと並べられる中には。
宝石類などもあるし。
それを使ったアクセサリもある。
錬金術師が造ったのかも知れない。値段については、それこそ家が買えそうな数字が並んでいた。
とりあえず、毛皮などを幾つか見繕う。
魔力は見えるので、強力な獣の毛皮かどうかはすぐに分かる。
良いのだけを幾つか選んでいくが。
リアーネさんは苦笑い。
というか、正直な話。
美人という点では、この人の方が、余程それっぽい気がするが。
「いつもいいの選ぶわねえ。 たくさん買っていってくれるから此方も助かるけれど」
「はい、ありがとうございます。 それと、これって何処で入手しているんですか?」
「宝石類なんかはフィリスちゃんと旅をしたときに作ったコネから。 獣は自分で狩った分よ」
「……っ」
フィリスさんと、旅をしていた。
なるほど、納得だ。
この毛皮、どれも並みの獣のものではない。フィリスさんと一緒に戦い、鍛えに鍛えられていた人なら。
容易く狩る事が出来る、というのも頷ける話である。
向こうにフィリスさんのアトリエが見えるが。
リアーネさんは、多分彼処で寝泊まりしていると見て良い。
フィリスさんの妹さんもいたし。
今でも仲良く暮らしているのだろう。
ちょっと過剰すぎる愛情に辟易しながら。
そう思うと、少しだけ微笑ましいが。
だがフィリスさんの怖い顔も、リディーは知っている。
きっとリアーネさんも、微笑ましい世界にだけ生きているのでは無い。ひょっとするとだけれども。
ダーティーワークの類も、こなしているのかも知れなかった。
この人は恐らく弓使いだが。
暗殺にはあらゆる意味で向いているのだろうし。
買い物を終えると、後はついでにコルネリア商会にも寄る。
幾らかの素材があったので買っていく。
国から補助金が出ていて。
その金額が、更に上がっているので。
こういった素材を買うお金に関しては困らないのが有り難い。
金属の鉱石に関しても、不思議な絵の中から見つけてくるような高品質品が幾つも並んでいる。
中には、見た事がない鉱石もあったので。
幾つか購入しておく。
その内、使えるかも知れないからだ。
「もう少し買い物をしてくれるようなら、サービスを解禁するのです。 何人かのお客様には、既にサービスを解禁しているのですよ」
「それって具体的には何なんですか?」
「秘密なのです」
「……そうですよね。 ごめんなさい」
そういえば。
コルネリアさんはそこそこ飲むらしく。この間、夜に外に出たとき、カフェでお酒を口にしているのを目にした。
誰かと飲むような事もなく。
一人でちびちびと飲んでいるようだったので、声は掛けなかったけれど。
あの人もホムだ。
ヒト族からは年齢も判別しにくい。
家に戻ると、荷物が既にかなり重くなっていた。
丁度ナイトサポートの調合を終えたスールと、一緒にコンテナに荷物を入れる。夕食は作るけれど。スールが手伝うと言い出したので。少し思案した後、野菜を切るのを手伝ってもらった。これなら失敗しても、多少ならリカバリが効く。
熱を発する器具を使い。
卵を焼きながら、軽く話をする。
ナイトサポートについては、さっき来ていたイル師匠に、もう納品しても大丈夫と言われているという。
発破についても。
そろそろ、鉱石の加工も自由にして良いという話になりそうなので。
炉の掃除の仕方も教わった。
ただ、まだやった事がない鉱石の加工については。
イル師匠の所でやるようにと、念押しもされた。
いずれにしても、まだバトルミックスについては練習をしろという事で。
まだ二回か三回。
不思議な絵画、氷晶の輝窟に入らなければならないかも知れない。
彼処にでるレンプライアの欠片は、今までとは品質が段違いだ。
ただ、レンプライアの欠片を使うと、威力が上がりすぎるので。
それは早い話、少ない量で大規模な威力強化をできる、と言う話になる。
その適切な量を、スールは見極められなければならない。
焦るな。
何度もそう言われたと、スールは愚痴る。
リディーも、その焦りについては。
嫌と言うほど分かった。
ただでさえ、恐ろしい事に巻き込まれていることは確実なのだ。
早く力を身につけないと。
どんな怖い事になるか。
知れたものではないのだから。
イル師匠だって、本当に味方かどうか分からない。
味方だって信じたいけれど。
最後は、自衛する力を身につけなければ。
そうしなければ、また。
今回のルーシャのような目にあわせる人を、出してしまうことは、確実だった。
料理ができた。卵料理を中心に、スープと後は小麦粉を使った揚げ物だ。
夕食としては充分な品で。
最近は栄養も体に満ちているのがよく分かる。
後は、戦略事業についてだけれども。
それについては、実際に指示が来てから考えれば良い。
眠る。
眠って体を休めるのは。
とても大事だと、最近の事件で、よく分かった。