暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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魔人に目をつけられたリディーとスールの姉妹。

不幸な事態が重なった結果、この二人はそもそも崩壊家庭の出でした。

半分廃人になっている父。既に故人の母。

幼い頃は生活が出来ず、救貧院(今で言う孤児院)にいたこともあります。

それでも二人が暮らせているのには、周囲からの援助があったのですが。

それを愚かな二人は理解出来ていませんでした。


底辺錬金術師の生活
序、崩壊家庭


リディー=マーレンは、アダレット王国首都メルヴェイユに住んでいる。一緒に住んでいるのは二卵性の双子の妹スール。半分廃人になっている父親。

 

黙々と手を動かして、食事を作る。

 

料理がからきしな妹の代わりに。

 

もはや動く事さえ辛そうな父親の代わりに。

 

家事関係はリディーが賄わなければならない。

 

昔は世界はきらきらしていた。

 

お父さんの事だって嫌いじゃなかった。

 

今は違う。

 

世界はくすんで見えるし。

 

お父さんだって大嫌いだ。

 

何もかも、お母さんが死んでしまってからこうなってしまった。

 

優しくて強かったお母さんでも、病気には勝てなかった。お母さんを助けられなかったと呟いて、お父さんは錬金術を捨てた。正確には、腕が良い錬金術師だったのに、殆どまともに頭を使うことが無くなってしまった。

 

酒に溺れて、リディーとスールを殴ったり、もっと酷い事をするような事だけはなかったけれど。

 

それでもいつもフラフラと出かけたり。

 

地下の部屋に籠もって何かをしていたり。

 

無精髭だらけで。

 

昔は凄い錬金術師だったらしいという話も、とても信じられないほどに落ちぶれてしまっていた。

 

可哀想だとは思う。

 

だけれど、今のお父さんは大嫌いだ。

 

それも事実だった。

 

「リディー。 おなかすいたあ」

 

「待っていてね。 今何とか作るから」

 

「はやくう」

 

妹のスールが、ベットでうだうだ呻いている。

 

手伝えと言うのはもう諦めた。

 

スールは昔はやんちゃで可愛いいたずらっ子だった。悪戯をしてはお母さんに怒られて、それをお父さんがなだめる。そんな暖かい光景の中にいた。

 

今は違う。

 

すっかり壊れたお父さんの様子を見たからか。

 

スールは何もかもやる気を無くした。

 

今では本を読むのも億劫らしく。

 

錬金術の勉強をしたがりもしない。

 

興味があるのは金儲けだけ。

 

確かに生活費を稼ぐのはとても大事だ。それについてはリディーも異論がない。苦しい生活をしてみて、はじめてお金の価値は分かった。

 

だけれども、それでもだ。

 

錬金術の技量を上げられれば。

 

ひょっとすれば、もっと良い生活を出来るかも知れない。

 

そんな事も忘れてしまったのだろうか。

 

誓ったはずだ。

 

この国一番になろうと。

 

お母さんは常に言っていた。

 

基本的に一番を目指すくらいで良いと。

 

ダメだったらその時は仕方が無い。色々な要素が絡んでくるし、どうしようもない。

 

でも、二番を目指すような妥協をしてしまうと。

 

どうしても伸びは其処で止まってしまう。

 

やるなら一番を目指すように。

 

お母さんは時々真面目にそんな事を言った。

 

苦労を重ねてきたからかも知れない。

 

お母さんの言葉には、とても重みがあった。騎士として、多くの戦いを経てきて。引退した後も、子育てをして来たからだろうか。

 

スールはどちらかというとお母さん似で。

 

勘が鋭く身体能力も高い。

 

リディーはいやだけれどお父さん似で。

 

勉強が得意だ。

 

料理がやっとできたので、スールと二人で食べる。スールは、料理と呼んで良いのか分からない、雑草の炒め物を心底まずそうに食べながら言う。

 

「ホットケーキ食べたいね」

 

「お母さんが焼いてくれたの、いつも美味しかったもんね。 お店が開けるくらい美味しかった」

 

「あのろくでなしが稼いでくれば少しはマシなのになー」

 

「せっかく錬金術の仕事を取ってお小遣い稼いでも、いつの間にか使っちゃうんだから」

 

お父さんの悪口を言う事は。昔は絶対にあり得なかったのに。

 

くすんだ毎日が続く中、いつもの日課になっていた。

 

昔は大好きだった。

 

愛妻家で、少し抜けたところもあって。でも錬金術師としては凄くて、画家としての才覚もあった。

 

それが今ではどうだ。

 

お母さんがいなくなって悲しいのはリディーもスールも同じだ。

 

だがお父さんは完全に潰れて。今では娘が稼いできたなけなしの生活費を、ろくでもない事に無駄遣いするようにさえなっている。

 

錬金術の腕前も怪しくなり。

 

変なものばかり研究しては。

 

お金をドブに捨てている。

 

ろくでなし。

 

穀潰し。

 

実はスールも大して変わらないことについては、リディーは口にはしない。それにはっきりいって、リディーだって独学で身につけた錬金術は、ゴミ同然の力量。

 

幼なじみのルーシャとは、天地の差がある。

 

此処アダレット王都でも、アトリエは二つしか存在せず。

 

それ故に大事にはされてはいるが。

 

ルーシャのアトリエ、アトリエヴォルテールは毎日行列ができる程流行っているし、国にも納品していると聞いている。前線で戦う騎士。お母さんと同じように、外で匪賊や獣と命がけで戦う騎士達が使う錬金術の装備を任されていると言う事で、それは命を預かっているのと同じ事。

 

それに対してリディーはどうだ。

 

王城前の広場を見に行って。

 

アルファ商会が売っているような高い良く効く薬では無くて、粗悪品でもいいから薬が欲しいと言うような、貧しい人の依頼がないか見に行き。

 

それで何とか糊口をしのぐ。

 

錬金術の腕が上がれば、状況も変わるかも知れないけれど。今のところ、どうやって腕を上げれば良いのかさえも分からない。

 

仕事を見に行くと、騎士団用の装備の納入依頼とかだと、とんでもない額がついている。

 

腕さえ良ければ、一日であんなお金を稼げるのだろうと思うと。

 

自分の非力さが悲しくてならない。

 

「食べたら、お仕事探しに行こう」

 

「えー、めんどくさいー」

 

「スーちゃん。 またこれ食べたい?」

 

「……分かったよもう」

 

稼ぎがないから、適当な野草を取ってきて、炒めて食べるしかない。たまには肉くらい食べたい。

 

信じられない話だが。これが錬金術師の生活なのだ。

 

錬金術師と言えば。

 

奇蹟のような力を駆使して。

 

もののあり方さえ変える技術。

 

凄かった頃のお父さんの錬金術は、本当に出来ない事はないのではないかとさえ、思わせる代物だった。

 

それが今では、日々の糊口を凌ぐために。

 

かろうじてその残滓を自分で舐めて使う。

 

それ以上でも以下でもない。

 

情けなくて言葉も出ない。

 

スールも少しはやる気を出してくれればいいのだけれど。

 

実際には明るく振る舞っていても、スールが半ば焼け鉢になりかかっている事は、リディーもよく分かっていた。

 

仕事を探しに行く。

 

一応それなりに社交的なリディーは、スールの着替えも手伝って、見栄えだけは良くして行く。

 

昔豊かだった時代の名残で。

 

外に着ていく錬金術師の正装はある。

 

というか、これは売るわけにはいかない。

 

本当にこれを売ってしまったら。

 

家を持っているだけで、乞食と何ら変わらなくなってしまう。

 

何よりも、錬金術師は本当に数が少ないのだ。

 

アダレットでも、お父さんが健在だった頃にも、十万都市であるにも関わらずアトリエは二つだけ。

 

流れの腕が怪しい錬金術師が来ることはあったけれど。

 

腰を据えて活動しているアトリエはたった二つだったのである。

 

今は、事実上稼働しているのはアトリエヴォルテールだけ。

 

バカで間抜けな幼なじみのルーシャのアトリエだけだ。

 

悔しいけれど錬金術の腕前では勝てっこない。

 

そしてルーシャが間抜けで見ていて面白いからか。

 

アトリエの客は途切れる事もない。

 

さぞや儲かっているのだろう。

 

そう思うと、腹も立つし。

 

頭にも来るのだった。

 

知り合いに挨拶しながら歩く。

 

昔は知り合いに会う度に、大変ね、頑張ってねと言われたが。

 

今ではすっかりそれも減ってきた。

 

向こうは挨拶を返してくれるが。それだけ。

 

関わっても何の利益もない。

 

それを知っているのだ。

 

錬金術師の知り合いがいれば、病気になれば薬を作ってくれるし、大概の無茶も解決してくれる。

 

そういう下心があったからこそ、昔周囲は優しくしてくれた。

 

今は違う。

 

リディーとスールのお父さんが廃人同然になり。

 

リディーとスールがポンコツ以下の半人前錬金術師である事を悟ると。

 

さっと周囲は距離を置いた。

 

それが現実だ。

 

「あ、リディー。 アルファ商会!」

 

「どうせ何も買えないよ」

 

「いいの、リサーチリサーチ!」

 

錬金術の道具も扱っている、この世界最大の商会、アルファ。アルファという名前のホムがトップにいるらしい、と言う事しか分からないが。少し割高になる代わりに、錬金術の道具を売ってくれるお店である。

 

勿論爆弾など危険な品を一般人には売ってくれないが。

 

冗談のように効くお薬や、便利な道具は、山のように売られている。

 

今日は馬車の側に組み立て式の出店を出していて。

 

気むずかしそうな護衛を連れたホムが店番をしていた。

 

見るだけには、ホムは何も言わない。

 

ヒト族だったらそうもいかないのだが(冷やかしはお断りと露骨に言われる事もある)。少なくともホムは、誰に対しても平等で。誰に対しても値引き交渉に応じることは絶対にない。

 

数字に強いホムは、実はリディーは少し苦手だ。

 

ホム達は平等で、不正を絶対にしないが。

 

逆に情けを掛けてくれるようなことも滅多にない。

 

困窮しているのを察しておまけしてくれるような、気を利かせることをしてくれた事がない。

 

ただ、そうだからこそホムは誰にでも平等に接してくれるとも言える。

 

故に、苦手ではあっても。

 

嫌いでは無かった。

 

「うわー。 凄そうな薬……」

 

「その薬は、腕くらいなら切った直後であればすぐに塗ればつながるのです」

 

「ハハ、リディー、とてもじゃないけど勝ち目がないね」

 

「そうだね……」

 

肩を落とすスール。リディーも薬に触ることも恐れ多くてできなかった。

 

他にも幾つか話を聞く。

 

自走する荷車。

 

命令を幾つか出す事が出来、それを聞いてくれる。見ると値段の側に、「要相談」と書かれていた。

 

前に話を聞いたが。

 

爆弾などと同じ戦略物資だという。

 

街や国などの行政単位に話を通して、それで買う品物だそうだ。

 

「そういえばこの荷車って、そんなに凄いの?」

 

「使っている所を見た事がないのですか?」

 

「うん、庭園趣味の前の王様、もう幽閉されちゃって。 工事ラッシュ、物心つく頃には終わってたから」

 

「そうなのですか。 この王都を出ると、近くの集落でも使っている所は使っているのです。 ただし、役人同伴で、ですが」

 

それを聞くだけで、どれだけの性能なのかは分かった。

 

マニュアルを見たいなと思ったが、スールが退屈そうにしているので、頭を下げて商会の前を離れる。

 

どんな品があるかはリサーチしている。

 

そうしないと、自分で作る時に、参考にできないからだ。

 

ただ、傷薬も満足に作れない今の状況では。

 

夢のまた夢なのだが。

 

仕事掲示板を見に行くと。

 

あるにはあった。

 

掲示板の側には、基本的に役人と騎士がいる。

 

トラブルを避けるために、基本的に控えている役人に成果物を納入することになっている。肉体労働などの仕事もあるが、その場合は手続きをしなければならない。役人は納入者の名前を逐一記録。もしも住民として登録されていないものだったりすると、その場で捕らえられてしまう。住民としての登録は簡単だが、その代わり登録すると当然色々な面倒事も発生する。

 

仕事を受けるためにも。

 

登録は当面解除できなかった。

 

「仕事、あるにはあるけれど……どれも難しそう。 騎士団がまた爆弾を欲しがってるけれど、爆弾なんて、今の技量じゃ作れないよね……」

 

「釜ごと二人で木っ端みじんだね。 銃弾だって買ってる位なのに」

 

けらけらとスールが笑う。

 

幸い、十万都市だけあって、この王都には技術者もいる。銃は存在していて、スールは母親譲りの銃使いだ。戦士だったお母さんの血を濃く継いだスールは、錬金術の腕前はリディー以上に怪しい一方でとにかく身体能力が高く、高速機動を生かして銃弾の雨を浴びせる戦法を得意としている。

 

とはいっても、それも並みの傭兵以下。

 

外に出るには、護衛が必須だが。

 

錬金術師は貴重な仕事なので、申請すれば国がきちんと格安で護衛はつけてくれる。税金も安い。

 

だけれども、リディーとスールが、そんな恩恵を受けられるほど錬金術師をできているかというと。

 

リディー自身が、首を横に振ってごめんなさいと応えるしかない。

 

「あー、ちょっとリディー! 見て見て!」

 

「うん?」

 

お触れだ。

 

スールが興味を持つ事はよくある。そして、スールは勘が鋭くて、その興味は大体良い方向に当たる。

 

錬金術師限定。

 

そうお触れには書かれていたので、一枚剥がして貰う。

 

その隣で。

 

身なりのいい赤い服に身を包んだ、赤毛の女の子が。当たり前のように、今のリディーとスールでは手が届かない、騎士団用の依頼を剥がしていった。

 

「あら、お久しぶりですわね、リディーにスール」

 

「ルーシャ!」

 

「何よ、また悪口言いに来たの!? バカのくせに!」

 

「まあ失礼ですわね。 とにかく忙しいのでこれで。 それと、少しは錬金術の腕はあがったんでしょうね」

 

此奴がルーシャだ。

 

一目で分かる育ちの良さ。大繁盛しているアトリエヴォルテールの一人娘。

 

お父さんは難しいと聞く公認錬金術師試験の突破者で、ルーシャ自身も今の双子では束になっても及ばない実力者。

 

「今は二人ともまだ十代半ばだから周囲も甘い目で見てくれますけれど、もう少し年を取ったら錬金術師失格の烙印を押されますわよ。 もっと勉強しなさい。 前に勧めた本は読みました?」

 

「読んだけれど、上手く行かない……」

 

「本なんて大嫌い!」

 

「だーから底辺から抜けられないんですのよ。 本をしっかり読んで知識をつけて、それを反復練習なさい。 いつまでもそのままでいたくなければね。 オイフェ、行きますわよ」

 

落ち込むリディーと、反発するスール。

 

ルーシャはオホホホとギャグみたいに笑うと。

 

無表情な赤毛のメイドであるオイフェさんを連れて、その場を去っていった。

 

はて。

 

そういえばあのヒト族のメイド。いつからルーシャが連れていたっけ。随分前から、まったく変わらない姿のまま、控えているような気がする。でもあのメイド、まだ若いように見えるのに。

 

「悔しいよ! バカに馬鹿にされて! リディー、戻って調合の練習しよ!」

 

「その前に、生活費をどうにかしないとね」

 

バカ、か。

 

何だろう。ルーシャは最近挑発的な言動を繰り返すようになったが、いつも決まったことを言う。

 

悔しかったら勉強しろ。

 

実践を積み重ねろ。

 

近道なんてあるわけが無い。本を読んで知識を身につけて、少しでも場数を踏め。

 

これってひょっとして、ぶきっちょなルーシャなりのアドバイスではないのか。だが、スールは正論を聞けるような度量もない。リディーもそれはあまり変わらない気がする。

 

薬草が欲しい。

 

安めの薬が欲しい。軽い傷を治せればいい。

 

そういう依頼が幾つかあったので、剥がして貰っていく。役人に仕事を登録して、その後は騎士団の詰め所に。

 

外に出ることを告げると。

 

大体はいつも違う騎士が出てきて、護衛をしてくれる。

 

あのチラシについては、今回の仕事が終わったら読もう。

 

そう思って、今は忘却していた。

 

騎士団の詰め所で、話をすると。

 

ほどなく騎士が出てくる。

 

驚いたことに、ホムだった。皮鎧に、腰の両側にぶら下げているナイフ。信じられないほどの軽装である。

 

「えっ!?」

 

「街の外に行くと言う事でしたね。 スケジュールを見る限り、日帰りのようなので、すぐにすませるのです」

 

顔を見合わせる。

 

ホムは戦士に向かない。だがこの人は、騎士の勲章をぶら下げている。ホムは見かけで性別や年が分かりづらいが、多分リディーとスールより年上だ。

 

ともかく、行くしか無いか。

 

底辺錬金術師は。ありとあらゆる意味で、何も選ぶ資格がないのだから。

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