暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、邂逅

ブライズウェスト平原。

 

基本荒野で構成されるこの世界でも、特におかしな景観が広がっている場所で。

 

あたしソフィー=ノイエンミュラーが知る中でも、十指に入る奇景だ。

 

荒野なのに。

 

常に豪雨が降り注いでいる。

 

豪雨は血に染まった大地を洗い流し。

 

其処では常に獣が殺し合っている。

 

危険すぎて騎士団は近付くのを基本的に嫌がり。あたしは此処で、騎士団から支給された金(まあはっきりいって何の興味も今更無いが)のために、大物を削って回っている。騎士団が巡回できないほど危ないので、あたしやフィリスちゃんが主に此処を回って、獣を処理しているのだ。

 

後ろから飛びかかってきたキメラビースト。

 

振り返る必要もない。殺す。そう思うだけで良い。それだけで、キメラビーストの体がみじん切りになる。

 

振り返ると、指を鳴らす。

 

虚空から現れた扉。

 

扉が開くと、何名かの深淵の者構成員が現れて、キメラビーストの死骸を運び込んでいく。

 

中くらいのキメラビーストだ。

 

死骸は色々に応用できる。

 

この深淵の者本部につながる扉も。

 

今では、位相をずらすことで、自由に呼び出すことができるようになっていた。まあ二十億年以上経験を積んで試行錯誤してきたのだ。これくらいは容易い。

 

さて。

 

遠くから此方を伺っている奴がいる。

 

しばらく泳がせていたが。そろそろ良いだろう。

 

自分自身も危険を冒しながら、あたしの居場所を突き止めたことは称賛に値するが。情報を流したら、此処までアグレッシブになるとは、流石に予想の範囲を超えていた。

 

それはそれでいい。

 

予想を超えた動きをする相手は嫌いじゃあない。想定は越えられていないが、まあそれは仕方が無い。

 

実際問題、この世界の人間は。

 

予想を超えたことがほぼない。想定を超える事に至っては一度もない。

 

フィリスちゃんもイルメリアちゃんも。

 

二十万回以上の繰り返しでやっとものになった。

 

双子も、そのノウハウを使っているにもかかわらず。

 

一万回以上繰り返して、未だにものになっていない。

 

要するに、人間という生物はゴミクズなのだ。

 

それについては、もはやあたしにとっては、異論のない現実。

 

今回は上手く行っているかも知れないが。

 

あたしの想定を越えたことは、一度もない。

 

指を鳴らす。

 

周囲に降り注いでいた雨粒が、止まった。

 

正確には空中で、無数の雨粒が浮かんだままになる。

 

時を止めたのである。

 

鼻歌交じりに歩いて。

 

そして、あたしを監視していたもの。

 

公認錬金術師、ロジェ=マーレンの後ろにでる。

 

本当にもう何もかもどうでもいいのだなと、一目で分かる格好だ。文字通り生きているだけ、である。

 

無精髭はそのまま。

 

服も何日着替えていないのか。

 

臭いの遮断を道具で行うと。

 

時間の停止を解除した。

 

隠れて見張っていたらしいロジェは。目の前にあたしが現れたのを見て、流石に驚いたのか。

 

だが、生唾を呑み込みながらも。

 

大雨と、時々鳴る雷の中、言う。

 

「そ、ソフィー=ノイエンミュラーだなっ……!」

 

「まだ名乗っていないんだけれど、どうしてそう思う?」

 

「貴様の全身からは、隠しきれない血の臭いが漂っている! それに貴様のその目、深淵よりなお深い悪夢の闇そのものだ……」

 

「ふうん」

 

まあどうでもいい。

 

それよりも、ストーキングとは感心しない。

 

目的は知れているけれど。

 

大きく咳払いを二回した。

 

「それでこんな雨の中、何用かな」

 

「双子に手を出すな。 俺だったら、代わりに何でもする。 だから……!」

 

「公認錬金術師って言っても実力はピンキリでね。 そして錬金術師は才覚の学問だと言う事を良く知っているんじゃないのかな」

 

「俺などいらぬ、というわけか」

 

頷くと、ロジェは拳を握りしめ。唇を噛みしめた。

 

血色の悪い顔だ。

 

この様子だと、しばらくまともに食事もしていないだろう。

 

ロジェの才覚は、公認錬金術師としてはごくごく平凡だ。不思議な絵を描けるという点では優れているが、別にあんなものフィリスちゃんでもあたしでも描ける。イルメリアちゃんは今までの周回では描いていなかったが、その気になればできるだろう。

 

だから、別にいらない。

 

人材は幾らでもいる。

 

これに関しては事実だ。

 

だが、裏切る事が確定の人材については。

 

流石にいらない。

 

それが規格外の才能でも持っていない限りは、だ。

 

「双子は、まだ子供なんだぞ! あんたみたいなバケモノが、一体何の目的で利用しようっていうんだ!」

 

「言っても分からないだろうし、言うつもりもない」

 

「雷神ファルギオルが関係しているのか!」

 

「ファルギオルなんてあたしの前では路傍の小石にもならないよ」

 

どかんと、至近距離で雷が落ちて。

 

ロジェが顔を覆う。

 

あたしは平然としている。

 

雷が落ちることも分かっていたし。

 

雷撃によるダメージも、全て防いだからである。今更あたしに、雷なんて通用しない。

 

「双子は、俺にとって最後の光なんだ……もしも死なせでもしたら、妻に申し訳が立たない……!」

 

「泣き落としが通用する相手に見える? だとしたら舐められたものだなあ」

 

「何でもする! だから!」

 

「しつこいなあ。 此処で殺すとそれはそれで面倒だしね……」

 

敢えて言ったのは。

 

既にティアナちゃんが、笑顔のまま剣をロジェの後ろで抜いていたからである。

 

合図があれば何時でも斬る。

 

むしろ斬らせて。

 

そう顔に書いているが。

 

駄目である。

 

此奴を殺すわけにはいかないのだ。

 

顔を上げた瞬間。

 

ロジェの頭を掴む。

 

そして、今の記憶を全て消し飛ばし。

 

動かなくなったロジェを引きずっていき。

 

アダレット王都の噴水広場に放り出していった。ぐしょ濡れのロジェが、顔を上げて、周囲を見回したときには。

 

もうあたしは、位相をずらして、ロジェには認識もできないようにしていた。

 

「意外に侮れないな。 あたしの居場所を見つけるとは思わなかった」

 

「それなら、弱みを握って部下にしないんですか?」

 

「部下にしたら、裏切るの確定だし」

 

「あ、そうなのか……それで殺せないのは面倒ですねっ!」

 

ティアナちゃんはいつも楽しそうで見ていて和む。

 

殺しがしたくてうずうずしている様子も微笑ましい。

 

この子は何があってもあたしを絶対に裏切らないので。どんな汚れ仕事でも任せられるのが良いところだ。

 

自分を崇拝している相手は、便利だ。

 

とはいっても、崇拝している相手だけで周囲を固めても、それはそれで組織の柔軟性を削ぐ。

 

自分に対して批判的な意見を口にできる者も。

 

自分と違う方法論を模索する者も。

 

いずれも必要だ。

 

ただロジェの場合は、寝首を掻くことだけを狙って来るので、それはいらない。そういう話である。

 

双子くらいの才覚があれば。

 

それでも部下にしたのだろうが。

 

連絡を入れておく。

 

ロジェについては、監視をこれからつける事にする。まさかブライズウェスト平原での調整作業中に姿を見せるとは思わなかった。一体どうやって居場所を嗅ぎつけて来たのかは分からないが。

 

軽く話をした後。

 

ルアードが来たので、頷く。

 

「そろそろ僕の出番かな」

 

「お願いしますね。 次は戦略事業ですし、今の双子だけでやらせると多分死にますから」

 

「分かっているよ。 フィリスは監視に特化しているし、僕が適当に手を抜きながら助けておく」

 

「ふふ。 手抜きについてはプロですもんね」

 

アルトと今は名乗っているルアードは。

 

凄絶な笑みを浮かべた。

 

嫌みな程の美形のガワを作ってから、ますます人間が、特にヒト族が嫌いになったと公言して止まないプラフタの比翼。

 

500年前から世界を調整し。

 

やっと此処までの形にした最大の立役者が。

 

今動き出そうとしている。

 

そろそろ雷神が蘇るという事情もある。

 

死ぬ寸前まで追い詰めながら。

 

徹底的に双子を鍛え上げていかなければならない。上手く行っている今回はなおさらだ。

 

幾つもの思惑が交錯しているが。

 

その全ては、あたしの掌の上にある。

 

そしてその制御を。

 

今後も外す気は、無い。

 

 

 

(続)




原作でもルアードは色々不可解で、元の姿がああだったとはとても思えないんですよね。なんでイケメンだったのならフードとマスクで顔を隠す必要があったのか。むしろ容姿は他人と接するときに色々と武器になりますので。

本作におけるルアードは、凄惨な人生を送ってきて、それでも人間を嫌いにならなかった偉人です。ただ、それでもガワで相手を判断する人間の性質については徹底的に嫌っています。

本作におけるルアードがイケメンのガワを被っているのは、過酷な人生に対する彼なりの意趣返しというわけです。
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