暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
今回は可能性が高そうだと言う事もあって、積極的に出て来ています。
序、合同任務
以前獣狩りにでた大規模部隊と同レベルの部隊が、城門前に集結していた。病み上がりのルーシャだけではなく、フィリスさんもいる。
そして、それだけではない。
以前から何度か見かけている、嫌みなまでの美形青年錬金術師も混じっていた。
名前を聞くと、アルトというらしい。
さっそく若い女の子がたくさん押しかけてきているとかで、非常に迷惑だと笑っていたが。
何だかもの凄い違和感をスールは覚える。
この人を見ていると。
若いとはとても思えないのである。
何というか、よく分からない。
少なくとも、性欲に振り回される時期の若い青年ではない。言動も、時々何だか露骨におかしい。
美形にはまるで興味が無いスールだが。
リディーにも何だかおかしいという話はしておいた。
リディーは相応に美形が好きらしいので。
この何か妙な印象の人に引っ掛かると困るのである。
騎士団側からは、アンパサンドさんとマティアスが来ている。
フィンブル兄も、今回は普通に仕事として加わっている様子だ。
指揮を執るのは、以前も世話になった騎士キホーティスさんである。
見た目面白い人だけれども。
騎士としては、立派な人である。
「あーおほんおほん。 今回は、戦略事業の支援任務となる。 既に現地で活動している部隊の支援を行いつつ、安全経路を確保する」
ついにきたか。
今回、リディーとスールに求められるのは、活動中の人夫達を騎士団と一緒に守る事である。
傭兵も同じように仕事をする。
既に現地では、アダレットから伸びる街道の先にある街の一つを緑化する作業を行っているらしく。
また緑化のスペシャリストが来てくれていて。
作業を行っているとか。
だけれども、数人で緑化作業をできる訳がない。
其処で騎士団と傭兵部隊が、これだけの数でて護衛を行い、近付く獣を片っ端から駆除する。
また、その過程で、行き来する物資は、馬車で運ぶのだが。
その護衛のサポートも行う。
王都の周囲は森で囲まれているが。
それも、森をでてしまうと後は無法の荒野である。
森を伸ばし。街道を守って行く。
そして伸ばした森で街道を守りきり、隣の街にまでつなげる。
最終的には、全ての街道をそうやって守りたい所だが。
今回は、残念ながら。
近くにある宿場町を。
緑化して、守る作業となる。
集落の周辺を緑化すれば、それは獣に対する絶対防御壁となる。まあファンガスのような例外もいるけれど、いずれにしてもそれは例外中の例外。
警戒しなければならないのは、匪賊だけになる。
それだけでも、街の自警団の負担がぐっと減る。
更には、街の周囲を緑化すれば、それだけ安全範囲も拡がることを意味していて。
計画的に緑化できれば。
或いはその中に田畑を作ったり。
水路を引いて、安全に水を得られるようにしたりと。
様々なことが期待出来る。
森からも、豊かな恵みを得る事が出来るし。
比較的弱めの獣が住み着いてくれれば。
凶暴性が抑えられた獣を相手に、自警団が比較的安全な訓練をする事が出来るし。
何より食糧にもなる。
良い事づくめだ。
その代わり、緑化作業には、専門家の支援が必要な上。
貴重な深核を材料にした栄養剤も必要になってくる。
それも、地面に適当に撒いておけば良い、と言うようないい加減なものではなく。
専門家と相談しつつ。
順番にやっていかなければならない、という話だ。
いずれにしても、緑化作業がとても大変なのは、今まで荒野を見てきたから分かる。アダレットが国になってから500年。
緑化できているのは、万の人口を抱える都市周辺と、一部の街道だけ。
このことだけでも。
緑化作業が如何に大変なのかは、わざわざ説明しなくても分かる、というものだ。
しかも話に聞く所によると、錬金術大国とも言われるラスティンでも、状況は似たようなものだと聞いている。
この世界は。
人間には優しくないのである。
かといって、他の世界が優しいかは分からない。
ざわめきの森は、比較的優しい方だと思う。いつレンプライアに襲われるか分からない事を除けば。
そもそも氷晶の輝窟は、ヒト族が入って良い場所ではない。
彼処にはあれから何度か素材を得るために入ったが。
既にトカゲたちは、あの温度を上げる装置を納入した「聖域」に全て退避しており。
残っているのはたまに見かけるレンプライアだけになっていた。
また、フィリスさんが塞いだ壁は、完全にヒトだけではなくホムも獣人も魔族も通れないようになっており。
文字通り、完全に封鎖されていた。
あれを突破するのは無理だ。
いずれにしても、もはやあの世界には、本来はヒトは行ってはいけない。
そう考えてみると。
他の世界も、同じようなものなのかも知れない。
この世界が仮に地獄だったとしても。
人間は、或いは他の世界から追い出されて、地獄にいるのかも知れないのであって。
今、どうやって地獄で生きていくのか。
考えて行かなければならない。
キホーティスさんが、スケジュールについて説明を終え。その後、順次馬車がでていく。今回は馬車に貴重な物資が大量に積まれているようで、四台の馬車にそれぞれ錬金術師が即応できるようにと、配置が行われていた。また、ベテランの騎士も、馬車事に別れて護衛をしているようだ。
リディーとスールが割り当てられたのは真ん中三番目。
フィリスさんが先頭。
二番目をルーシャ。
あの嫌みな程のイケメン青年は、最後尾を守っていると言うことだ。
「早足!」
指示だけが飛び。
殆ど私語は飛び交わない。
此処はまだ森の中だが。
それでも例外的に人を襲うファンガスのようなのもいるし。
最前衛が攻撃を受けたら、すぐに対応をしなければならない。
大物は森の中には入ってこない事だけが救いだが。
逆に言うと、森から出ると、その時点で既に色々と危ないのである。
今向かっているのは、珍しく街道が森で守られている方向。
つまるところ、ラスティン方面の街道だ。
ただし、森で守られているのは、次の街までくらい。次の街もかなり周囲は怪しい状態である。
今回はその街の緑化作業を実施し。
水路を延ばし。獣が入り込まないように処置もする。
つまるところ、土木工事をしつつ。獣を排除し。緑化作業をたくさんやらなければならない、という事である。
難易度がいきなり上がりすぎのようにスールには思えるけれども。
その代わり、今まで見たことも無いような支援金が振り込まれていて。
要するに、そういう事だ。
責任に比例して、給金も出る。
ルーシャは少し前にDランクに昇格したらしいので。
今のリディーとスールよりも、たくさん貰っているという事になる。
だがそれは適切な給金だ。
錬金術師としての評価が一つ上がるだけで、これだけがくんと関わる仕事が危険になるのである。
それくらいは貰わないと。
はっきり言って、割に合わない。
まだこの辺りの街道は森で守られているけれども。せめて次の万の人口がいる街までは、しっかり街道を整備しなければならない。
今回は、次の宿場町を主体的に整備し。
更には、別方向に伸びている街道の周辺にでる獣の駆除。
可能なら、その街道の緑化についても調査する。
そういう話らしかった。
早足だが。
リディーはついてこれている。
体力が上がっていると言うよりも。
装備品の更改による効果が大きい。
ナックルガードを、合金で作り直したのである。
効果は劇的で。
さび止めの魔法陣を組み込まなくても良くなった分、能力を更に強化出来るようになった事が大きく。
更に一つ一つの強化魔術も威力が上がっていて。
スールも小走りしていて。
息一つ切れない。
周囲を警戒しつつ、ひょいひょい飛び回っているアンパサンドさんは。
地中などに潜んでいる獣がいる場合。
攻撃を誘発すべく、わざと動き回っている。
少し馬車から離れて見せているのも。
伏せている獣にとって、格好の獲物と見せるためだろう。
文字通り体を張って、陣列の最外縁を守っている。
今は森の中だが。
それでも、なお念のためという訳なのだろう。
フィンブル兄は、合金で更に新調したハルバードを見て、ご満悦の様子である。刃の部分だけではなく、柄も合金に新調した。なお流石にそのままだと盗んでくれと言っているようなものなので。柄は鍛冶屋の親父さんが皮を巻いて隠している。刃も普段はさび止めの鞘に収めていた。もうさび止めは必要ないのだが。
駆け足で急ぎ、次の街へ到着して、確認する。
城壁はしっかりしている。
ただし、その外側にある森は、今見るとまだ彼方此方隙が目だった。こう言う王都の至近にある街でさえこれなのだ。
少しずつ、やれることからやっていくしかない。
フィリスさんが、目つきの鋭い男の人と、何か話している。
騎士団の偉い人が敬礼しているところを見ると、偉い人なのだろうか。まだかなり若いように見えるが。
一旦馬車を整列させ。
皆が並んだところで、仕事を振り分けられた。
「あー、おほんおほん。 現在街から少し離れた地点に、ネームド「黒金の大角」が出てきている。 他のネームドが駆除された影響の様子だ。 これに対しては、ルーシャどの、リディーどの、スールどの、それにアルトどので当たって貰う。 騎士十名、傭兵十五名もこれに加わるように」
「はいっ」
「分かりました!」
フィリスさん以外の錬金術師全員が当たるのか。
まあ、妥当だろう。
ネームドの戦闘力は尋常では無い。まだバトルミックスは。実は少し前に、限定条件で使用を許可して貰ったのだけれど。できるだけ使うなとも言われている。
ルーシャはまだ病み上がりだけれど。
優秀なインファイターであるオイフェさんが側にいる。
多分リディーとスールよりは役に立つと思う。
問題はもう一人。
ただのスケコマシでないと良いのだけれど。
「残りの騎士と傭兵は、フィリスどのの指示の元、まずは用水路の整備から行う! 今回は緑化作業のプロフェッショナルが来てくれている。 緑化作業に関しては、まずはこの街に若干不足している水を補うところから行う! 用水路の一部が獣に占拠され、更には獣よけの設備も老朽化している! 如何にフィリスどのが手練れとはいえ、戦闘は避けられない状態だ! 皆、気を引き締めて欲しい!」
それぞれ戦力がどう分けられるかが、具体的に説明され。
騎士と傭兵達がそれぞれ分けられる。
アンパサンドさんとマティアスは、護衛に来てくれた。
これは助かる。
マティアスは残念イケメンだけれど、一応力はあるし。それに壁役としてなら、相応に役に立ってくれる。
フィンブル兄も側にいてくれるので。
それは心強い。
此方の騎士達の指揮を執るのは。
魔族の騎士で。
全身が緑色で。角は頭の上で炎のようにうねっていた。
魔族の角はみんな違うのだけれど。
この人のように角の自己主張が激しい人は、寝る時大変だろうなあとスールは思う。
実は前に聞いてみたことがあるのだけれど。
基本的に角が邪魔にならないように眠るらしい。
うつぶせか、或いはベッドの横から角がはみ出るようにして、横になって眠るのか。
いずれにしても、慣れないと難しそうである。
ともかく、騎士一位らしい魔族の騎士オリアスさんと一緒に、一旦街から離れる。
森をでるとちょっとだけ草原があるが。
もうこの辺りは既に死地。
そして草原をでると。
一面の荒野だ。
遠くに川が流れているが、フィリスさんと行動する本隊はあっちに行く訳だ。大変すぎる。
川に大きくて危険な獣が住んでいるのは、もう嫌でも思い知らされている。
水路が駄目になっていると言う事は、そういうのと戦わなければならない、と言う事で。
如何にフィリスさんがついていても、一瞬でも油断したら即死だろう。
此方も、あまり状況は良くない。
スールが荷車を引いて。
リディーが少し後ろに。
左右をルーシャと、アルトという美形の錬金術師が守ってくれているが。杖とか、装備の類を一つも持っていない。
少し心配になる。
拡張肉体の類を使うのだろうか。
すっと、手を上げて、横に伸ばすオリアスさん。
警戒、の意味だ。
すぐに騎士達が、周囲に対して気を張る。
だが、想像を超える事態が、即座に起こった。
アルトさんが本をどこからともなく取りだすと。其処から、無数の剣が空に浮き上がったのである。
そして、周囲を守るようにして、地面に突き刺さり。
電撃が剣の間を走った。
「危ないよ、目をつぶって」
声までイケボか。
言われた通り、目を閉じた、次の瞬間。
閃光が、辺りを蹂躙し尽くしていた。
地面から飛び出した大型の蚯蚓が、ぴくぴくと痙攣しているが。あれはもう死んでいる。全身が焼け焦げているからだ。
「さ、流石だな……」
「いきなりBランク判定受けてるって噂聞いたが……」
生唾を飲み込んで、騎士達が呟いているのを聞いてしまう。
いきなりBランク。
それは凄まじい。
そして、実力もそれに恥じない事が今の一瞬で証明された。
三傑と言われているらしいイル師匠やフィリスさんほどではないにしても、それに近い実力では無いのか。
まさかこの人が、三傑最後の一人か。
「獣を解体後、東に行軍。 黒金の大角の縄張りはもう少し先だが、油断はせぬように」
「はっ!」
「以降私語禁止!」
解体を黙々としている騎士達。
今の蚯蚓、獣としては大きめだが、一瞬だった。
解体が終わり、処理も終えると。再び隊列は動き出す。グダグダ死地で喋っている余裕なんて無い。
夕方近くになって。
一旦キャンプを張る。
地面からの奇襲を防ぐために、ルーシャが結界を展開。
幾つかの資材を組み立てて、柵と櫓を建てる。
いずれも手際はてきぱきとしていて。
殆どリディーとスールが手伝う暇も無かった。
一度、組み立て中の櫓が傾いたが。
一瞬でアルトが放った剣の腹でそれを受け止めて。すぐに立て直す事が出来た。判断力も高い。剣自体も、見た目とは裏腹の凄まじいパワーを持っているようだ。
要するに、ツラだけのスケコマシでは無い、と言う事だ。
周囲への警戒態勢が整い。
天幕が張られ始めると。見張り班を除いて、漸く気を緩めることができる。
アルトという錬金術師が、丁度話しかけてくる。
「君達だね。 破竹の勢いでランクを上げている若手錬金術師というのは」
「いきなりBランクの人に言われても」
「ちょっと、スーちゃん」
「はっはっは、これは失礼したね。 僕はアルト。 君達は?」
知っているくせに、と思いながらそれぞれ名乗る。
リディーは相当なイケメン(しかもマティアスと違って出来る)を前にしてあたふたしているようで。
それが何だか無性に腹が立った。
何だか嫌な予感がしてならないのだこの人には。
「恐らくネームドとの交戦は明日になるだろう。 僕達の力が足りなければ、大勢死者が出る事になる。 それにネームドがもっている深核は、栄養剤の重要な素材だ。 出来れば確保したい」
「そういえば、緑化作業をしているフィリスさんは、深核を持ち合わせていないんですか?」
「持ち合わせているに決まっているだろう。 ただ彼女の在庫は勿論有料だ。 騎士団としても、コストを削減しつつ、存在するだけで大きな脅威になるネームドを駆逐しておきたいのさ」
そういうものか。
感心している様子のリディーに呆れながら。
スールは咳払い。
「疲れているので、これで」
「失礼します」
手を引いたので、リディーも何かおかしいと気付いたのだろう。そのまま、割り当てられている天幕に行く。
先に天幕に入っていたアンパサンドさんは、ナイフを磨いていた。ひょっとするとこれ、プラティーンか。間近で見て、今更気付く。或いは、漸く作れるようになった合金かも知れないが。
「早く休んでおくのです」
アンパサンドさんは此方を見もしない。
苦笑すると、黙々と相棒の手入れをしているアンパサンドさんの邪魔をしないように。二人とも、早々に天幕で休む事にした。