暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
街の周囲を緑化し。
街道の緑化を開始した時点で、パイモンさんと、もう一人若い錬金術師が来た。多分リディーとスールより先に、アトリエランク制度に参加した人だろう。それと入れ違いに、ルーシャと、リディーとスールが戻る。
あの若い人はともかくとして。
パイモンさんは、多分ルーシャとリディーとスールをあわせたくらいは強いはずで。
そう考えてみると、多分トレードとしては丁度良い感触だろう。
それにあわせて、騎士や傭兵も、二十人ほどが入れ替わるようだった。
確かに此処に何ヶ月も貼り付きで仕事をするのはぞっとしない。
深核は少しだけ分けて貰ったけれど。
それだけだった。
帰りはしばし無言で歩いたが。
王都側の森に入ってから、ようやく口を開く。
流石にスールも、もう外が如何に危ないかは、よく分かっているし。
ハンドサインもしっかり理解した。
だから、安全圏も、きちんと肌で理解している。
「そういえばルーシャ、Dランクの試験って難しかったの?」
「……あまり思い出したくありませんわ。 今Cランクの試験をしていますけれども、それより難しいかも」
「え……」
「恐らくですけれども、Dランクがふるいになっているのですわ。 突破出来ない人間には、何をやっても無理というラインでしょう。 わたくしが突破出来たのは、運が良かっただけですわよ」
そうか。
そんなに難しいのか。
今Eランクだから、その内Dランクの試験は受ける事になる。
覚悟は決めておいた方が良いだろう。
次に入る絵についても聞いてみるけれど。
それについては、教えてくれなかった。
まあ、試験にならなくなってしまうだろうし、それはそうか。
空が曇ってきた。
一緒に帰る部隊を率いていた騎士オリアスさんが、駆け足を指示。
皆、少し急ぎ始める。
城門に入った頃には、少し降り始めていて。
これから本格的に降るぞと、空が自己主張していた。
解散となる。
「はー、今回も怖かった。 ヤバイ獣ばっかり最近相手にしてる気がする」
マティアスはいつも通りだ。
アンパサンドさんはしらけた目でそれを見ていたが。
やがて、一人ふらりと消えた。
フィンブル兄は、良く斬れるとハルバードを褒めてくれたが。それでも、まだ足りないとも言ってくれた。
「強いネームドの噂は聞いていたが、正直噂以上だった。 お前達も気を付けろ。 まだまだ強いネームドは上がいる筈だ」
「はいっ」
「今回も助かったよ、フィンブル兄」
「良いって事よ。 だけどな、出来れば……無理はしすぎるなよ」
ルーシャは傘を差すと、無言でオイフェさんと一緒に帰って行く。
何だか今回の事を怒っているようだったけれど。
正直返す言葉もないので。
こればかりは仕方が無かった。
後は、二人で家に帰る。
アトリエについた頃には本降りになっていて。荷車にかぶせていた油紙を、急いではたいて水を落とさなければならなかった。
そして、驚いたことに。
お父さんがいた。
お父さんはリディーとスールを陰気な目で見ると。
酒瓶を片手に、地下室に行ってしまう。
お酒を飲んでも暴力を振るったりはしないお父さんだが。
何か余程の事があったのだろうか。
最近は、殆ど飲まなくなっていたのに。
外で雷が落ちて。
思わず首をすくめる。
「ちょっと、今のすっごく近くなかった!?」
「そういえばスーちゃんが寝ている間、雨が多くなっていたんだよ凄く。 その度にオスカーさんが色々してた。 土を育てるには、適度な水が必要だとかで、水が入り込みすぎないようにとかって。 フィリスさんと協力して何かしていたよ」
「へえ……」
「雷もドッカンドッカン落ちてた。 遠くの方、まるでドラゴンが空からブレス吐いてるみたいに、雷がどかどか落ちてたよ」
そうか。
それはさぞや恐ろしい光景だった事だろう。
生唾を飲み込むと。
とりあえず、もう普通のものを食べて良いと言われているので。普通にリディーが料理してくれた食事を口に入れる。
しばし休んでいると。
アトリエの戸がノックされた。
今、別れたばかりのアンパサンドさんだった。
「あれ、アンパサンドさん。 どうしたの?」
「どうもこうもないのです。 二人とも、少し急ぎの用事なのです。 まったく、片方は病み上がりだというのに」
苛立っている様子のアンパサンドさんに、リディーがひっと小さな声を上げる。
まあ、この人は元々闇が深いし。
仕方が無いと言えば仕方が無いのか。
すぐに来いと言われるので、一緒にお城に向かう。
雨は激しくなるばかりで。
傘を差していても、外には出たくない状況だったけれど。
わざわざ呼ばれたと言うことは。
何かあった、と言う事だろう。
お城にはイル師匠が先に来ていて。
遅い、と文句を言われた。
流石にコレばかりは仕方が無いと、アンパサンドさんが庇ってはくれたけれど。師匠はあまり機嫌が良くない。
或いはイル師匠も、急に呼び出されたのか。
いつも納品を受けてくれるモノクロームのホムが来て。
応接室らしい場所に案内してくれる。
傘は預けたが。
其処には、アルトさんも来ていた。
むっとした様子のイル師匠と。
苦笑いしている様子のアルトさん。
てか、アルトさんは確か現場に行っていたはずだけれど。どうして此処にいるのか。
「僕も呼ばれてね。 手練れと交代して戻ってきたんだよ」
「アルトさん並みの手練れですか!?」
「そういう事」
ぞっとしたが。
そんな人がいる事よりも。それよりも先に、まず此処に集まっている面子が問題だ。イル師匠が来ていると言う事は、ロクな事が起きていない事を意味しているからである。
ほどなく、姿を見せたのは。
頭のはげ上がった、ヒト族の偉そうな人だった。多分階級章からして大臣だとは思う。
「いや、すまないね。 君達に急ぎで頼みたい事がある」
「ブライズウェストね」
「ああ、その通りだ。 獣が集まり始めているから、駆除と調査をお願いしたい。 それと、出来れば地図も作ってきて欲しいのだが……」
「分かったわ」
話が見えない。
大臣が行った後、イル師匠が話してくれる。
「ここのところの雷雨、ブライズウェストが発生源なのよ。 何かあってからでは遅いから、調査を頼みたいというのでしょうね。 手練ればかり集めて」
「あ、あの私達は」
「おまけ」
「……」
涙目になるリディー。
それよりもだ、気になることがある。地図を作るとはどういうことか。
ブライズウェストは確かあの雷神ファルギオルとの決戦場になった土地の筈。
どうして地図がない。
スールの疑問を先読みしたように、イル師匠が言う。
「危険すぎて踏み込めないのよ。 最近知り合いの手練れが、住んでいる大型のネームドはあらかた駆除してきたけれど。 それでも騎士団には苦手意識があるんでしょうね」
「それで僕達と精鋭を少しだけ派遣して、正確な地図や、獣の数を調べたいという所なんだろう」
アルトさんが肩をすくめる。
ああ、なんだろう。
また、終わった感が凄い。
アンパサンドさんは来てくれる。マティアスも来てくれるらしい。
フィンブルさんには、悪いけれどひとっ走りして、手助けを頼むか。後は、ちょっと手持ちが暖かいから。頼みたい人がいる。
「ねえリディー。 あのさ、今お金があるから、ドロッセルさんに声かけられないかな」
「……ちょっと相談してみた方が良いかもね。 雇えそうなら声は掛けて来る」
「スーちゃんフィンブル兄に声かけてくるから、そっちはお願い」
「それじゃあ、一刻後に城門で集合ね。 相手が無理なようだったら、諦めてさっさと行くわよ」
忙しい話だが、仕方が無い。
兎も角やるしかない。
生きて帰るためにも、準備は可能な限りしなければならないが。
それでも生きて帰れるかどうか。
ただイル師匠が一緒にいるのは嬉しい。かなり心強い。アルトさんは得体がしれないけれど。
しかし、考えてみれば、イル師匠だってどうせ何か目的があってリディーとスールに近付いているのだ。
信用しすぎるのは、危険か。
いずれにしても、今は目の前の危機を乗り切ることを考えなければならない。
すぐに二手に分かれて動く。
今度こそ。
生きては帰れないかも知れない。
(続)
文字通りの暗雲の土地。
あらゆる意味で、双子にとって因縁の……因縁が深すぎる土地です。