暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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その土地は、アダレットにとって歴史的にもっとも大きな意味を持つ場所だと言えるでしょう。

それはそうです。

「介入」がなければ、確定で国ごと滅んでいた因縁の土地なのですから。


雷鳴の平原
序、ブライズウェスト


アダレットに生まれた人間は誰でも聞く。

 

二百年の昔。

 

恐ろしい雷神が、人間達に攻撃を開始した。

 

雷神の名前はファルギオル。

 

多くの騎士達が、その凄まじい力の前に倒れた。邪神の中でも最強と言われるファルギオルの力は圧倒的で、上級ドラゴンすらしのぎ。。幾つもの街が焼き払われ、もはやどうにも出来ないと思われた。

 

其処で二人の英雄が立ち上がった。

 

一人は先代の騎士団長。

 

魔族の中のレア種族である巨人族で。

 

アダレットの守護神として君臨してきた騎士の中の騎士。なお、寿命が長い魔族の、しかもさらに寿命が長い巨人族と言う事もあり、引退はしたが存命である。

 

もう一人は錬金術師ネージュ。

 

一部では、この名前を教えない事もあるらしいのだけれども。

 

最近は、その風潮は薄れてきている、らしい。

 

騎士団長率いる決死の覚悟を決めた騎士達と。

 

錬金術師ネージュは。

 

当時の国王が陣頭指揮を執り。

 

大きな被害を出す中、決死の戦いをブライズウェストで挑み。

 

そして、辺りを塵芥に化す戦いの果てに。

 

雷神を葬り去ることに成功した。

 

後は色々な話が付け加えられたりするが。

 

概ね、こんな感じである。

 

なお、具体的にどう倒したかは、ほぼ伝わっていない。

 

シスターグレースが人形劇で見せてくれたときも、その描写はなかった。

 

大雨の中、急ぎながらリディーは思い出す。

 

今回は、本当にヤバイと思って。

 

戦略級傭兵として現役で活躍しているドロッセルさんに声を掛けた。

 

やはり相当な金額を要求されたが。

 

大枚はたいて、来て貰うことには成功した。

 

だが、それでもなお。

 

戦力が足りるとは思えないのだ。

 

今でも、ブライズウェストは人が出来るだけ近寄りたがらない土地である。二百年をすぎてなお、雷神の恐怖は語り継がれているのだ。

 

更に言えば。

 

その雷神が、復活するという噂がある。

 

邪神の類は、倒しても復活するという話は確かに聞いた事があったが。

 

それでもよりにもよってファルギオルが。

 

ぞっとしない話だ。

 

三つ目の街で宿を取る。此処から、ブライズウェスト平原まですぐ近くである。

 

比較的雨が弱まってきているが。それでもここのところ、少しばかり雨が多すぎる気がする。

 

近くの川は囂々と凄まじい音を立てていて。

 

出来れば近寄りたくはなかった。

 

それほどに危ないと、一目で分かるほどの状態なのだ。

 

彼方此方で、災害も起きているかも知れない。

 

雷は近くで落ちると体が壊れるほどのダメージを受けることもあると聞いている。

 

ブライズウェストに赴くときには。

 

準備は必要だろう。

 

宿を二部屋とり。

 

男女それぞれ分けて止まる。

 

そこそこ大きめの宿場町だが。それ以上に気になったのは、駐屯している騎士が多いと言う事だ。

 

やはりファルギオルに備えているのだろう。

 

復活の噂は。

 

恐らく本当だ、と言う事だ。

 

そういえば、この街に入ってから、空き屋が目だった。

 

或いは、住民達にも。

 

自主的な避難が指示されているのかも知れない。

 

実際雷神が出た場合。

 

時間稼ぎさえ、騎士達では出来ない可能性が低くないのだから。

 

イル師匠とアンパサンドさん、ドロッセルさんとアリスさん、スールと一緒の部屋に泊まる。

 

少し手狭だけれども。

 

宿そのものが大きくないのである。

 

外はまた雨が激しくなってきていて。

 

雷の音に、リディーは思わず耳を塞いでいた。

 

怖い。

 

だけれども、これからブライズウェストに行くのだ。

 

正直、怖いなど言ってはいられない。

 

手を叩くイル師匠。

 

どうやらドロッセルさんとは知り合いらしく。

 

話をしているのを見かけたが。

 

内容については。聞こえなかった。

 

「現状、ブライズウェストは雷撃対策無しで行ける場所じゃないわ。 と言うわけで、常時これを展開します」

 

指を鳴らすイル師匠。

 

空中に浮かび上がったのは、球体からたくさん棒が生えている謎の物体だった。

 

何だろうあれ。

 

小首をかしげて見ているが。

 

まあ、見ていても仕方が無いか。

 

説明をしっかり聞く事にする。

 

「これは一種の避雷針で、空中で雷を集めて地面への直撃を防ぐわ。 これを四つ同時に、空中に展開する事で、雷撃を防ぐのだけれども」

 

「機械が展開されている範囲からは余り離れるな、機械には近付くな、ね」

 

「そうよドロッセル。 前に見せた事あったかしら」

 

「バカでも分かるわよ」

 

苦笑いするドロッセルさん。

 

スールは分かっていなかったようで、うんうんと頷いていたが。

 

アンパサンドさんが、その様子をしらけて見ていた。

 

「そうなると、あまり跳躍するのは好ましくない、ですね」

 

「そうなるわ」

 

「……機動力が殺されるのは面白くない。 何か対策が欲しい所ですが」

 

「不自由な中戦う事になるけれど、我慢して」

 

イル師匠にも、対策はないということか。

 

いや、雷がドッカンドッカン落ちている所に行って。

 

雷の被害を、限定的に消せるだけでもマシ。

 

そう思うしかないか。

 

ただ、イル師匠は、それぞれに靴につけるための道具を準備してきてくれた。靴にバッヂのようにつける道具で。

 

雷撃避けだという。

 

避雷針で吸収しきれなかった雷も。

 

これで受け流すことが出来るとか。

 

ただ体が横倒しになって、流石に肌に直に触れている場合は危ないらしいので。

 

注意するようにも言われた。

 

錬金術師として超の上に更に超がつくほどの格上である。

 

イル師匠が何を作ってきてもおかしくは無いが。

 

それにしても、ちょっと疑問が残る。

 

何だか、イル師匠にしては。

 

随分中途半端な気がする。

 

その気になれば、雷撃を完全防御する装備くらい作れそうなのに。

 

或いは、其処までの面倒を見る気は無い、と言う事なのだろうか。

 

いずれにしても、力不足は痛感している。

 

明日までに、強化用の装備品のアイデアを一つ出せと言われて。そしてイル師匠はさっさと寝てしまった。

 

ドロッセルさんも、壁際で毛布にくるまって休みはじめる。

 

二人とも、ドッカンドッカン雷が落ちているのに意に介してもいない。

 

流石に歴戦としかいいようがない。

 

リディーなんて、怖くておへそをどう隠そうとか、真面目に考えている程なのに。

 

スールでさえ、少し青ざめていて。

 

近距離に雷が落ちたときには、時々首をすくめていた。

 

流石にこの雨だと、多少の雨漏りもする。

 

部屋の中で、ぽちゃんぽちゃんと時々音がしているので。

 

それも気になった。

 

「獣の腕輪にナックルガード。 どちらも腕につけるものだよね。 そろそろ別の路線で行って見る?」

 

「ルーシャ、……はいないか」

 

「仮にいてくれても、教えたら何されるか分からないよ」

 

「あ、ごめん……」

 

スールの返事については。

 

今ではよくその意味が分かる。

 

イル師匠だって、寝ているけれど。その間に意識がないとは言い切れない。冗談抜きに、人間を止めているとしか思えないのだこの人は。

 

アリスさんも起きているし。

 

或いは全部報告されてもおかしくない。

 

アリスさんは、此方を一瞥だけすると。

 

さっきの雷避けの道具を、男性陣の部屋の方に持っていった。

 

さて、此処からだ。

 

どうするか、結構真剣に考えなければならない。

 

しばらく考えた後、ネックレスがいいかなという結論になる。

 

ただし跳んだり跳ねたりする事を考えると。

 

きらきらした奴は駄目だ。

 

マフラーのように首にある程度固定するか。

 

或いは服の下に忍ばせるものがこのましい。

 

ネックレスとなると。

 

鎖に加工を施すのは厳しいだろう。いや、鎖にして、首から外れないようにするのは良い工夫だと思う。

 

鎖の加工は流石に厳しいので、鍛冶屋の親父さんに頼む。少しずつ安定して作れるようになってきた、シルヴァリアとゴルトアイゼンの合金で問題ないだろう。

 

後は宝石だが。

 

幾つかの宝石については、作り方も分かるし。

 

原石も今までの不思議な絵画の探索で見つけている。

 

これらを磨けば。

 

魔力を蓄積するための貯蔵装置としての宝石は出来る。

 

宝石をガードするようにして、合金で包むとして。

 

その合金に、魔法陣を組み込むと良いかも知れない。

 

ただ、そうなると。楕円形に加工した宝石を包む合金のカバーに魔法陣を書くことになるため。

 

掘るための作業が、尋常では無く難しくなる。

 

ただ、合金の加工については、スールもかなり練習を重ねているので。

 

やり方を確立さえすれば。

 

多分行ける。

 

問題はとても小さいと言う事だ。ネックレスなのだから、まあ当然だろう。

 

「いっそ腕輪をもっと増やす?」

 

「ううん、この間の戦いでも、ネームドの尻尾の直撃貰ったでしょスーちゃん。 今後、戦いで腕が無事な保証は無いよ。 少しでも継戦能力を残すためにも、強化装備は体の彼方此方に分散させなきゃ」

 

「……それもそうか」

 

「いっそ、心臓を中心に守るために、強化魔術を彫り込んで、宝石にため込んだ魔力で増幅してみようか」

 

良いかも知れない。

 

メモをとって、しばしすると。

 

アリスさんが戻ってきて。

 

イル師匠が目を覚ました。

 

「何か思いついた?」

 

「は、はい。 こんなのはどうでしょう」

 

文字に起こし。

 

絵にも描いてみる。

 

文字の方は納得してくれたイル師匠だが。

 

絵の方は、何故か一瞬絶息した。

 

スールが苦笑いしている。

 

なんでだろう。

 

「ふーん、個性的な絵ね」

 

「えっ!? そ、そうですか」

 

「イル師匠、言わないでやってください……」

 

「個性的なのは良い事よ」

 

とにかく、これでいいから作って見ろと言われたので、良かった。まさかの一発OKである。

 

今後一発OKが続けば、その内レシピについても、自由に作って良いと言われるようになるかもしれない。

 

そうなれば、とても嬉しい。

 

アリスさんがイル師匠に何か耳打ち。

 

頷くと、イル師匠は咳払いした。

 

「出るのは明日の朝早くよ。 二人とももう寝なさい」

 

この雷の中でか。

 

イル師匠は平然と寝に入るし。アリスさんは壁に背中を預けて目を閉じる。

 

リディーとスールは毛布を被ると。

 

雷が落ちる度に、首をすくめて。

 

それでどうにか、必死に耐え抜いた。

 

怖いけれど、ネームドを間近にするよりはマシだし。

 

これからもっと恐ろしい場所に行くのだ。

 

せめてルーシャも一緒に来てくれていれば、多少はマシだったのだけれど。今回はいないのだから仕方が無い。

 

急ぎの用事だったのだ。

 

或いはこれも試験の一環かも知れないが。

 

いずれにしても、それも知らされていない。

 

判断は、どうにも出来なかった。

 

ともかく、どうにかして眠る。二人で手をつないで。毛布を被って丸くなっていると。雷が落ちても、ある程度耐える事は出来た。

 

スールが寝息を立て始めた頃には、リディーも何とかうつらうつらし始めていて。

 

そして眠りについた。

 

夢を見る。

 

お母さんの墓参りを、お父さんと一緒にしている。

 

お父さんは、お母さんが死んだ直後は、本当に悲惨だった。

 

お酒に溺れて。

 

完全に壊れてしまっていた。

 

鍛冶屋の親父さんが見かねて助けてくれたけれど。リディーとスールが教会でシスターグレースに保護されている間、お父さんが何処で何をしていたのかは分からない。家に、アトリエに戻った時には。

 

少なくとも、お酒は抜けていたし。

 

ただし、もう何もかも信用できないという目にはなっていたが。世界を恨み、何より自分を憎んでいる目だった。

 

今になって思い出せば。

 

お父さんは、あの時、自分を呪い抜いていたのかも知れない。

 

お母さんを治せなかった自分を。

 

凄い錬金術師になると、時間を止めるわ、巨大な岩を小さなつるはしで瞬時に粉砕するわ、矢二本でネームドを木っ端みじんにするわの現実を、リディーも見てきている。お父さんに同じ事が出来るとは思えない。

 

全盛期のお父さんの腕前は見ていて覚えている。

 

今のリディーとスールでは全然及ばない。

 

だけれども、あれは。

 

病気のせいであって。

 

お父さんのせいではなかったはず。

 

どうしてお父さんは。

 

全て自分で抱え込んでしまったのだろう。

 

目が覚める。

 

朝になっていた。

 

少し雷も落ち着いていて、雨も小雨になっている。探索をするなら、今しか無いだろう。

 

幾つかの道具を、イル師匠が出してくる。

 

どこから出したのかは、よく分からない。

 

いや、フィリスさんもそうだったけれど。

 

高位の錬金術師は、本当に何をやっているのかよく分からない事が、しょっちゅうある。空間とか時間とか、弄り放題なのかも知れない。

 

「地図はアリスが書くわ。 貴方たちは、これをお願い」

 

「これは、何ですか」

 

「測定装置よ。 地図を作るための、正確な座標をはかる装置。 今回は、避雷針の範囲から外れず、獣からの襲撃を警戒しつつ、地図を作るのが目的になるわ。 貴方たちは、少しでも戦闘の経験を今回積むのよ」

 

「ひえっ」

 

スールが声を上げるが。

 

リディーは言葉も無いくらいに怖いと思った。

 

それから、男性陣と合流して。

 

油紙で守った荷車を押しながら、ブライズウェスト平原に出る。手練れの錬金術師が二人もいると聞くと。

 

街の歩哨も、行く事は止めなかった。

 

ただ、命知らずだとは、目に書いていた。

 

街から少し離れると、すぐに緑がなくなる。

 

水は多いはずなのに。

 

枯れ木と、岩と。

 

そして大きな獣たちしかいない。

 

「まずは駆除作業からか」

 

ドロッセルさんが、常識外れのサイズの大斧を担いで前に出る。彼奴の破壊力は、前に護衛を頼んだときに目の当たりにした。

 

大斧は見かけ通りの凄まじい威力で、ドロッセルさんはとんでもない重さだろうこれを、平然と振り回す。前にドロッセルさんと一緒に戦った時には、文字通り一人だけ桁外れの強さだった。ましてやナックルガードも渡した今、更に火力は上がっているはずだ。頼もしい。戦略級の傭兵なのだから、まあ当然なのかも知れないが。

 

荷車から、ルフトとレヘルンを取りだす。

 

この雨の中だと、フラムよりそっちの方が役に立つだろう。

 

わっと襲いかかってくる獣。

 

アンパサンドさんとフィンブルさんが構え、少し遅れてマティアスさんも構える。

 

アリスさんはあくまで接近された時に対処するつもりなのだろう。

 

イル師匠は、傘さえさしていない。アルトさんもだ。

 

多分必要さえないのだろう。

 

戦いが、始まる。

 

それは、雨の中。

 

凄惨を極めた。

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