暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
多数の経験から、これが最も伸びると知っているのです。
アトリエに戻って。
やっと一息つく。
少し休憩した後、レポートをスールと一緒にまとめて、イル師匠の所に出向く。チェックをして貰った後、イル師匠に言われた。
「もういいでしょう。 今後は、この用紙の規格は使って良いから、自分達だけでレポートを出しなさい」
「! はいっ!」
「分かりました!」
これは、レポートに関しては、一人前として認めて貰ったと言う事か。
ちょっとではなく。
尋常では無く嬉しい。
ブライズウェストの地図については、イル師匠が提出するそうだ。まあそうだろう。作っていたのは、実質イル師匠。リディーとスールは。ついていっただけ。それも、イル師匠とアルトさん、それにドロッセルさんがいなければ、確実に死んでいただろうから。
ドロッセルさんの家には帰った後に様子を見に行ったのだが。
また嬉しそうに笑いながら凄くリアルな人形を作っているおじさんを、スールがその場で回れ右して逃げ出しそうに怖がっていて。
引き留めなければならなかった。
そういえば。
今度教会で、人形劇をやってくれるらしい。
家族そろって人形劇一家らしいので。
そうなると、息のあった人形劇が見られるのかも知れない。
ドロッセルさんのお母さんも。生きてこの街にいるので。
それだけは、ちょっと。
いや凄く羨ましかった。
レポートは提出し。
その後は見聞院に。
恐らく、近いうちにファルギオルとの総力戦がある。ファルギオルに関する資料が、少しでも欲しい。
スールにも手伝って貰い。
今まで得てきた情報を全て提出して、本を閲覧する権利を見聞院に貰う。
ファルギオルの伝説はいくらでもある。
それらの中で、英雄戦記にされているものは全てパス。
スールはそういうのを見たがったが。
違う。
これからファルギオルと戦うのだ。
殺し合いをするのである。
先代騎士団長を神格化したり。
その後のネージュに対する迫害を色々緻密に描写しているような話はいらない。
具体的にファルギオルがどんな姿をしていて。
そしてどんな風な行動をして。
実際にどれくらいの攻防が出来るのか。
それを知らなければならないのだ。
出来れば騎士団の報告書が良いのだが、流石に最高機密か。それでも、幾つか、それっぽいのは見つけてきた。
適当な本数冊を借りると、一旦イル師匠のアトリエに行き。
ライデン鉱を用いて作る、ドナーストーンについて、イル師匠に教わる。理論だけを聞いて、後は自分で作るように言われたので。やってみる。
散々発破を作ってきたから、だろうか。
正直な話、それほど難しくは無かった。
城門の外で試運転もして見たが。
直撃させれば、雷が至近で爆裂したくらいの火力は出る様子である。
これはひょっとすると、或いはレヘルンで凍らせた後、ドナーストーンを叩き込んでやれば。
効果を倍増できるかも知れない。
戦闘で試してみよう。
メモをとると。礼を言ってアトリエに戻り。
ファルギオルについて調べ始める。
スールは寝ていたが。
ちょっと最近立て続けに酷い目にあっていたので、良いとする。後で要点だけを一緒に見れば良い。こういうのは、リディーの仕事だ。スールはその優れた勘と、勇敢さを生かして、戦闘で頑張ってくれればかまわないのだ。
まず容姿だが。
黄金に輝く剣を持ち。
二本の腕と四本の足。
鎧を着た昆虫を思わせる姿をしているそうだ。
この姿だけでスールが逃げだそうとしないか不安だ。
その一瞬だけで、此方が壊滅する隙になりかねないのだから。
幾つか、ファルギオルの姿を具体的に描写している資料を調べ。
そして像を造ることを考える。
スールは虫がまだ駄目だ。
お化け嫌いはだいぶ克服できてきたが。
虫に関してはまだまだである。
だから、事前にファルギオルの姿になれさせておかなければならない。
皆に被害を出さないためにも。
これは粘土か何かで造れば良い。
絵に関しては正直独特だといわれるリディーだけれど。
アクセサリ類でその手の事を言われることは無い。
造形に関しては、心配をしなくても良いはずだ。
軽く粘土を使って、ファルギオルの姿を再現する。
スールが寝ている間に出来た。
彩色もしておしまい。
確かにかなり虫に似ている。四本の足もそうなのだが、節くれ立った関節部分が、いずれも虫の特徴を示しているのだ。
ただ、胴から出ている足は四本だけ。
虫は三つの体節に別れる生物だが。
その中で、足が生えているのは胴だけである。
此処は虫と違う。
しかし、蜘蛛でもスールはきゃあきゃあ泣くので。
言い含めて、事前にしっかり慣れさせないと危ない。そうファルギオルの像を造ってから、確信は出来た。
さて、ファルギオルの能力についてだ。
邪神の中では珍しく言葉を発するそうだが、人間の事は基本的にどの種族もゴミとしか思っていないらしく。
集落を一瞬で爆散させた記録が残っている。
森に守られていなかったのだろうが。
それでも集落ごと一撃。
思い出す。
イル師匠の話を。
錬金術はその気になれば、アダレット王都を一瞬で吹き飛ばすことも出来る学問なのだと。
つまり、そういう力を使わないと。
ファルギオルには対抗できない、という事である。
火力に関しては、多分文字通りアダレット王都を一撃で消し飛ばす事も可能なのではあるまいか。
ぞっとする話だ。
攻撃をまともに受けてしまったら、ひとたまりもないだろう。
ファルギオルとの戦闘記録をまとめていく。
アダレットにいた山師のような錬金術師は、まるで手も足も出ず、一瞬で炭クズにされたという。殆どがそれを見て逃げだそうとし、そして背中から焼き払われてしまったそうである。
更に大雨の中だ。
雷撃は通常よりも更に火力を発揮し。
戦う者達を苦しめた、ともある。
騎士団も甚大な被害を出したと書かれているが。
先代騎士団長がいた頃の騎士団は、それこそ全盛期だった筈で。今より戦力が劣っていたとは考えにくい。
そうなると、騎士団のシールドを、容易くファルギオルは貫通し。
攻撃を受けてもびくともしなかった、と考えるのが正しいだろう。
防御に関しても、異次元だというのは間違いなさそうだ。
ネージュが具体的にどう倒したかの記録はないだろうか。
見つからない。
先代騎士団長の手記などがあれば良かったのだけれど。
どうせあっても検閲されているはずだ。
記録の中に、斬りかかった騎士が逆に感電死した、というのがあった。
ひょっとすると。
雷神というだけあって、或いは全身が雷の塊も同然なのかも知れない。もしそうだとすると。
接近戦は、自殺行為だ。
少し考える。
雷を散らすには、やはり何かしらの方法がいる。
イル師匠が使っていたあの道具。
作り方を教わるしかない。
更に言えば、いつもスールがやっている接近戦、あれも厳禁だ。
見ると、かなり素早く動くという記載がある。
相手に攻撃を仕掛けようとした部隊が。
一瞬で背後に回られ。
まとめて薙ぎ払われたという記録が残っている。
この記録が正しいとなると。
雷神の名のごとく。
雷のように動けるという事も意味しているだろう。
攻防共に最強。
更に速度まである。
人間の言葉を話せる程度の知能もあるとなると。
もし戦うとなれば。
一瞬で畳みかけて、反撃の機会を与えずに倒すしか無い。しかも相手は、人間を逆恨みして猛り狂っているのだ。
バトルミックスを使ったとして。
出来るのか。
そもそも、相手に当たらない。
それとも挑発してみるか。
それほど強いと言う自信があるのなら、おそれずに避けてみろと。
いや、そんな挑発に乗るほど阿呆ではないだろう。
乗ってくれるかも知れないが。
乗ってくれないと勝負が成立しない、というような賭は避けるべきだ。
この辺りは、散々座学で習ったし。
今更疑うつもりもない。
スールが起きだした。
目を擦っているが。やがて思い出したのだろう、聞いてくる。
「リディー、何か見つかりそう?」
「多分まともにやりあったら、イル師匠やフィリスさんでもない限り、一瞬でめちゃめちゃにされて終わりだと思う」
「そりゃそうだよ。 あの先代騎士団長と、伝説のネージュが手を組んで、やっとどうにかできた相手だもん。 スーちゃん達がどうにか出来る訳ないじゃん」
「……何か大きな事に巻き込まれてるってスーちゃん言ったよね。 多分近場でほぼ確実に起きる一番大きな事って、ファルギオルの復活じゃないのかな」
眠気が一瞬で消し飛んだらしいスールが。
真っ青になっていく。
震えているのが一目で分かる。
勘が鋭いスールだ。
最悪の可能性。
ファルギオルと、最前線で戦わされる事について、可能性を思い当たってしまったのだろう。
「調べたけれど、攻防共に完璧に近いし、しかも稲妻みたいに動くって話だよ。 バトルミックスでも使わない限り、傷一つつけられないんじゃないのかな」
「そもそもそんなに速いんじゃ何やっても当たらないじゃん! どうやってネージュはそんなの不思議な絵画に放り込んだんだろう」
「資料がないよ……」
「困ったね」
攻防完璧、速度も人間が対応出来る次元でない。邪神と言うだけでドラゴンよりも強いと言う話なのに。その最高位存在である。
人間がどうにか出来るはずがない。
本当に一体、なにをどうやって倒したのか。
そしてスールの前に。
まずファルギオルの像を出す。
ひいっと案の定悲鳴を上げるスール。
「な、なな、なにこの気持ち悪い虫!」
「これが雷神ファルギオルを出来るだけ正確に再現した姿だよスーちゃん。 戦場で見た時、これを見て腰が引けたら、その瞬間負けるでしょ。 だから、今のうちになれておいて」
「やだやだやだあ!」
「みんなを死なせる気!?」
珍しくリディーは大きな声を出していた。びくりとしたスールが、しばし俯いていたが。
やがて。神妙に頷いた。
これでいい。
まずは、第一の関門は突破出来た、という事になる。
次だ。
まず、ファルギオルの攻撃をしのぎ。
更には足を止めなければならないだろう。
多分だけれど、アンパサンドさんだけではとてもではないが凌ぎきれないはずだ。
あの人は魔術まで回避する事があるが。
多分攻撃の前兆を察知して、それで回避しているのだと思う。歴戦に次ぐ歴戦が、それを可能にしているのだ。
とはいっても相手は雷神。
寝起きで弱体化しているといっても。
広域攻撃くらいは簡単に使いこなしてくるはず。
シールドを。
ルーシャに任せっきりとはいかないだろう。
雷撃を防ぐシールドがまず必要になる。
イル師匠に、避雷針の作り方を教わらなければならない。
それも錬金術で、命一杯強化する必要があるだろう。
続いて、その直接攻撃に対する防御だ。
黄金に輝く(多分雷撃を纏っているからだろう)剣を振るって、騎士団や木っ端錬金術師を鏖殺したという記録が残るファルギオルだが。
これに関しては、ルーシャに聞いて、シールドについて勉強していけば良いはずだ。
現状のシールドでは問題にもならないはず。
せめて金色の剣の一撃を、数秒でも防げないと、話にさえならないだろう。
生唾を飲み込む。
やはりとんでも無い怪物を相手にしているのだと、思い知らされてしまう。
地域全域を焼き尽くしかねなかった怪物なのだ。
当たり前だが、戦うには相当な覚悟がいる。
そういう話だ。
泣きながらファルギオル像を触っているスールは一旦無視。詳しい戦術の打ち合わせは、イル師匠と行う。
防御の後は足を止めることを考えなければならない。
稲妻のような速度で動くとなると。
シールドを展開しても。
後ろから斬り付けてくる可能性が大いにある。
どうにかして防がないと。
そもそも死んだ事さえ認識出来ないまま、戦いが終わってしまう可能性も充分以上にあるのだ。
どうやって足を止める。
何かのトラップを使うか。
考えている内に、雨が止む。
レポートの結果について、報告が来たのは、それからだった。
やはりマティアスさんが、スクロールを持ってくる。
今回の試験については、第一段階を既に突破、と言うことで良いそうだ。
何でもEランクの試験は、それぞれの錬金術師にあわせて第一段階を設定しているそうで。
今回は、緊急任務に対して。
適切に動けるか、という試験内容だったそうである。
そして、リディーとスールは適切に動けた。
そういう話だった。
「正直、俺様も驚いたよ。 同時期にGランクから始めた連中は、まだFランク辺りで足踏みしてるのにな」
「そうなの?」
「ああ。 基本的に最初からVIP待遇のハイランク錬金術師と、下っ端の錬金術師で両極端だ。 だからお前達は、噂になっている、というわけだよ」
「それよりリディー! この気持ち悪いの、いつまで触ってればいいの! もうやだあ!」
後ろでスールが泣き言を言っているが、無視。
そのまま続けて貰う。
「あ、あれ良いのか?」
「はい、続けてください」
「お、おう。 それで第二試験だが、また不思議な絵に入って貰う。 今度はちょっと厄介でな……」
「……」
今まで。
厄介では無かった不思議な絵なんて、あっただろうか。
小首をかしげるが。マティアスさんは咳払い。
アンフェル大瀑布という名前を告げた。
確か瀑布というのは大滝の事である。でも、ざっとエントランスで不思議な絵を見て回った時、滝なんて描かれた絵はあっただろうか。
「まあ多分驚くと思うぜ。 俺様も他の錬金術師について一回入ったんだが、今までの絵とはあらゆる意味で色々違うんだ」
「危険じゃ、ないですか」
「いざという時はすぐに外に出ることを意識してくれ。 それくらいには危ないな」
「……分かりました」
不思議な絵の利点は。
普通だったら絶対助からない状況でも。
一瞬で外に出られることだ。
それだけは、非常に有り難い。一瞬後に首を刎ねられているような状況でも、助かるからである。
勿論それが恐怖につながったりはするだろうが。
それでも何とか戦う事は出来る。
例のごとく、事前に連絡を入れるようにと言い残すと、マティアスさんは戻っていく。街でフラフラナンパでもするのかと思ったのだが。色々あれから騎士団の人に話を聞いてみた所、マティアスさんはあまり有能では無いけれど、それでも前線には立つし、仕事も言われた通りやるという話である。
戦闘でも与えられた良い装備を生かして前線で粘るし。
何より基本的に、どんなに怖がっていても逃げ出すことはない。
撤退の時は最後尾で味方を守るし。
騎士としての最低限は、きちんと果たせているという。
それならば、良しとするべきなのだろうか。
正直、リディーにはよく分からないが。
「も、もう無理……」
スールがへたり込んで真っ白になっている。
とりあえず放置しておきたいが。
一度引きずって、一緒にイル師匠の所に行く。
ファルギオル戦の戦術について、色々確認しておきたいのである。戦略については、もう現時点ではどうしようもない。
とにかく、話を聞いて。
準備をしていく以外にはないのだ。
空模様は怪しい。
雨は止んだけれど。
またいつ降り出すか、まったく分かったものではない。
スールはさっきまで触っていたファルギオル像が余程怖かったのか、腰が引けている有様だし。
それでいいのかとも、ちょっと心配になる。
ただ、スールなりに勘で理解しているのかも知れない。
この姿の怪物。雷神ファルギオルが。
とんでもないバケモノという事は。
バケモノの姿をかたどったものでさえ怖い。
実際魔除けは、バケモノの姿をかたどることがあると聞いた事がある。
より高位のバケモノの姿を見せることで。
下位のバケモノを追い払う、という思想だそうだ。
アダレット王都では殆ど見かけないが。
或いは、地方の街に行けば、見られるのかも知れない。
教会もアダレットとラスティンでは結構違うと聞いている。
フィリスさんのように、世界中を旅、とまではいけないだろうけれども。或いは彼方此方を見て回るのも、またありかも知れない。
イル師匠の所に出向くと。
騎士団の偉そうな人が来ていて、話をしていた。
魔族なので、イル師匠のこぢんまりとまとまったアトリエの中では窮屈そうだが。話を終えると、扉が自動的に拡大して、魔族の騎士は苦労せず出ていった。隊長クラスの騎士のようで。キホーティスさんと同じ階級章をつけていた。
イル師匠に、入りなさいと言われたので。
まだ半泣きのスールを連れて入る。
そして、分析したファルギオルについて話すと。
一瞬だけ、イル師匠は驚いたようだった。
「良い事だわ。 いずれ戦う相手の対策を今から練っておくのは、立派な心がけよ」
「ありがとうございます!」
「それで、どうしてスールはそんななの」
「それが、ファルギオルの姿を見るだけで腰が引けるとまずいと思ったので、ファルギオルの像を造って、慣れるために触らせていたらこうなって」
呆れ果てた様子で、頭を振るイル師匠。
それから、幾つかの話を聞く。
順番に、メモをとっていく。
時々スールが鋭い質問をするけれど。
それも立て板に水で、イル師匠は捌いて行った。
この辺りは流石という他ない。
「他には?」
「いえ、ただ……まだとても勝てる相手じゃないなって思うだけです」
「もしファルギオルが現れたら、私とフィリスも戦うから、まずは身を守ることを第一に考えなさい。 足止めは私とフィリスがやってあげるわ」
「はい……」
それでも、だ。
相手は最高位の雷神。
何があるか分かったものではない。
あらゆる対策はしておきたい。
幾つかの、難しいレシピを貰った。どれもこれも、とても難しくて、今の状態では再現するのがやっとだ。
それと金属加工の完全許可を貰った。
スールも含めて、自宅でやって良い、という許可だ。
これでイル師匠の所で、貴重なイル師匠の時間を取らなくても良くなった。
良い事である。
イル師匠が非常に忙しいことは。
当然知っていたから、だが。
ともあれ、一度アトリエに戻る。
アンフェル大瀑布というのがどういう場所かは分からないが。マティアスさんは危険だと言っていた。
ならば、色々と対策はしなければならないだろう。
何をどう対策すれば良いのかは分からないが。
いずれにしても、最悪の場合は入ってすぐに撤退し。
そしてそれから、対策を練る必要が生じてくるかも知れない。
スールが、聞いてくる。
「ね、ねえリディー。 またあの怖いのに触らないといけないの?」
「とりあえず今日はフィンブルさんに不思議な絵の調査について話してきて。 明後日でいいかな。 私は騎士団の所に行って、話をしてくるよ」
「あ、うん」
「それと、人形劇があるらしいから、明日見に行こう」
教会で慰安目的で人形劇をしてくれていると、ドロッセルさんがいっていた。
ドロッセルさんは脚本を主に担当し。
あの怖い高笑いおじさんが人形を主に作っているそうだ。
あのおじさんは怖かったが。
作られている人形達は、人の形をしたものから、悪役らしいドラゴンまで、色々揃っていて。
どれも尋常では無い完成度だった。
人形劇は一度に出せる役者が限られるから。
かなり難しいとドロッセルさんも言っていたけれど。
きっと楽しい劇になるはずである。
「分かった。 すぐにフィンブルさんに声を掛けて来る」
「行ってらっしゃい」
二人で手分けして動く。
帰った後は、またずっとファルギオル像に触っていて貰うという話は、此処では敢えてしない。
その方が多分精神衛生上良いからである。
後は、貰ったレシピの中から。
手が届きそうなものから順番にやっていくしかない。
そして、来るべきXデイには、最低限の対策を出来るようにする。
それが今。
リディーに出来る、最低限の事だ。
少しでも生き残る確率を上げる。
多分逃げても。
ファルギオルにもしフィリスさんとイル師匠が負けたら。
この国全部が焼き払われる。
何処にいたってどうせ助からないだろう。
森を傷つけずに、王都を丸焼きにするくらいの事は、して来てもおかしくは無い相手なのだから。
騎士団の受付に行くと。
以前一度だけ見かけた、すごい怖い鎧の人がいた。あの人、もの凄い剣の使い手だったけれど。今日はどうしてか、槍を手にしている。訓練の帰りらしく、騎士達は皆へとへとだった。
受付に立っている従騎士に話をして。
マティアスさんとアンパサンドさんに、話を伝えて貰う。
後は、待つだけで良い。
アンフェル大瀑布というのがどういう場所かは分からない。
ただ、情報がゼロだ。
ともかく、一度行って見るしか無い。
その上で判断するべきだと、リディーは思っていた。