暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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武門の国といわれるアダレット。

優れた王ばかりを輩出してきたわけでもなく、五百年もの年月を存在しているのには大きな理由があるのですが……それは第一話で理由を語っております。

この国の先代王は庭園王と言われる無能な人物で、要塞化されていた王都を庭園趣味で滅茶苦茶にし、あわや国を滅ぼす所でした。

先代王である父をクーデターによって幽閉して退位させ、そして現在実質上国政を担っているのが。

現「王女」であるミレイユです。彼女は血染めの薔薇竜などと言われる女傑として国を一身に背負っています。

彼女には双子の弟である王子がいます。

しかしこの弟マティアスは、姉よりもむしろ先代王に近いと言われるほど無能で、周囲に全く期待されていません……。

それが、「武門の国」の現在の状況なのです。


1、花の都の城壁は

アダレットは武門の国で、昔から勇壮なお話が幾つも伝わっている。

 

武王と呼ばれた初代国王の、伝説的な武勇のお話。

 

先代の騎士団長は、魔族のレア種族である巨人族。伝説の錬金術師と一緒に、この地方出身者であるなら誰でも知っている雷神ファルギオルを撃ち倒した。

 

騎士団の勇壮な活躍の数々。

 

ドラゴンを倒し。

 

邪神を退け。

 

匪賊をやっつける。

 

昔はスールはそんな話を良く聞きたがって。

 

リディーは苦笑いしながら、お母さんに話をせがむスールの側で。お母さんの話を聞けるだけで幸せだなと思っていた。

 

そして、お母さんがいなくなって。

 

お父さんがダメになって。

 

自分で外に出るようになってから、現実を知った。

 

花のように綺麗なアダレット王都の城壁から出ると。

 

其処に拡がっているのは、まず森である。

 

森は静かだが、絶対に傷つける事は許されない。最初に出たとき、この森は何だと聞いてみたら。

 

その時護衛についてくれた魔族の騎士は、応えてくれた。

 

これは守りの森だ。

 

城壁なんて、この森に比べたら何の役にも立たないと。

 

森は獣を大人しくさせ。ドラゴンや邪神も森には攻撃しない。

 

その答えを聞いたときリディーは悟った。

 

伝説が大嘘だと言う事を。

 

騎士団は強く何てない。

 

もし強かったら、獣が大人しくなる森なんて周囲に作るわけがない。獣を自力で駆除して、王都に近寄らせさえしないはずだ。

 

その証拠に、森のすぐ側には、滅ぼされた集落が点々と見える。

 

いずれも復興の見込みさえなさそうだ。

 

これが現実。

 

スールはぴんとこないようだったが。

 

王都の側でさえ。

 

騎士団は絶対防衛圏を確立できていない。多分街道を行くのも命がけの筈だ。

 

人間の力なんて、そんな程度のものなのだ。最初にメルヴェイユの外に出たとき、リディーはショックだった。

 

今回は、日帰りコースと言う事で。

 

森の中にできた、小さな草原に出向く。

 

此処に出る獣は小型のぷにぷにや兎などの、比較的大人しい獣で。しかも森の中だから、更に性格も大人しい。

 

騎士団も、森の中の大人しい獣まで駆除するつもりは無い様子で。

 

ホムの珍しい騎士も、無言で双子が採取するのを横目に。周囲の警戒を続けていた。

 

一応小物の獣はいるが。

 

一度だけ、近づいて来たのを。

 

目にもとまらぬ速度で騎士が切り刻み。

 

そして倒してしまった。

 

ヒト族の子供くらいの大きさの兎だったけれど。それでも殆ど瞬く間に、である。

 

スールがあんぐりと口を開けている。

 

スピードには自信があるらしいスールなのだけれども。

 

そもそもホムの騎士と言う事でどこかで侮りがあった所に。

 

こんな実力を見せられれば、それは唖然ともする。

 

はっきりいって、足が速いと自慢しているスールなんて、及びもつかないスピードだった。残像ができるのなんて初めて見た。

 

戦士として決定的に向いていないと言われるホムだが。

 

こんな凄い人もいるのか。

 

採取を一旦終える。持っている籠はそれほど大きく無いし、図鑑を見ながら薬草や茸を集めていると、すぐに一杯になってしまう。

 

できれば荷車が欲しいのだけれど。

 

アルファ商会で売っていた荷車は、目が飛び出すような値段だった。それも戦略物資だという話で、国に話を通さないと売って貰えない。

 

それは早い話。

 

今のリディーとスールには、とても手が届かないという事だ。

 

お日様が真上に来た。

 

朝二番くらいに外に出てきたので、丁度良いタイミングだろうか。

 

「騎士さん、お昼にしましょう」

 

「アンパサンドなのです」

 

「アンパサンドさん、ホムには確か例外的にたまに凄く身体能力が高い人がいるって聞いたけど、それ系?」

 

「ちょっと、スーちゃん」

 

いきなりずけずけと聞くスール。

 

なおお昼だが。

 

経験的に食べても大丈夫なキノコを、そのまま焼いて食べるだけだ。それを見て眉をひそめたか。

 

アンパサンドと名乗った騎士は。

 

無言で先ほど仕留め、血抜きをしていた兎を。

 

捌き始めた。

 

手慣れた様子で皮を剥ぎ、肉を切り分けていきながら、淡々と説明をしてくれる。作業は非常に手慣れていて、血も一滴も無駄にしていない。

 

「自分は残念ながら、身体能力に関してはホムの中でも平凡なのです」

 

「でも、さっきヒュンって凄い動きしてたじゃん」

 

「それは鍛錬の賜なのです。 幼い頃から、騎士になるために効率を重視して精神論を排除して論理的に徹底的に鍛えて来たのです。 それでも他の騎士達よりも出世は遅れに遅れ、ようやく騎士に就任した今も、周囲からは先輩と呼ばれて馬鹿にされているのです」

 

「あ、その……ごめんなさい」

 

ぴんと来ていない様子のスールの代わりに、リディーが謝る。

 

そもホムの騎士が護衛につくという時点で、リディーとスールは錬金術師としては半人前以下、護衛を出すとしてもみそっかす、という判断をされているのかも知れないと思ったが。

 

このアンパサンドさんは、護衛もしっかりやってくれているし。立派な騎士だ。強いししっかり仕事もしてくれている。

 

何よりも、それだけじゃあない。

 

獣の捌き方。

 

焼き方。

 

後処理まで、丁寧に教えてくれる。こっちのことを、良く想っていない筈なのに。教え方はとても丁寧で、メモを取るときとても分かり易かった。

 

「本来は少し寝かせて、美味しくなるのを待つのですが、今日はすぐに食べるのです」

 

「え、そうなの」

 

「肉は腐りかけが一番美味しいのです。 後、どうせ管理できないので、今食べない分は燻製にするのです。 燻製にすれば一冬くらいはもつのです。 錬金術師は外で野営もするのだし、覚えなければならないのです」

 

「野営ってまさか野宿? やだあー」

 

スールが嫌がる。殴りたくなるが、ここは我慢するしかない。

 

スールは二つのものが生理的に大嫌いだ。

 

一つは虫。

 

一つはお化け。

 

外での野営となると、どっちも出る可能性がある。特に虫は絶対と言って良い確率で出るだろう。

 

焚き火を囲んで、兎の肉を焼いて食べる。煙を使って、食べない分を燻製にする方法も教わる。メモを取る。内臓も、食べられる部分は全て燻製にしてしまう。骨を割って軟骨を取り出して、それも焼いて食べる。非常にワイルドな調理だったが、一応何とか吐かずに耐えられた。

 

それに、だ。

 

新鮮なお肉なんていつぶりだろう。

 

おいしくて、つい焼けたばかりのお肉にむしゃぶりついてしまう。

 

ホムらしい無表情さで。美味しい嬉しいと言っているリディーとスールに対し、アンパサンドさんは冷ややかに言う。

 

「時に二人とも、護身用の爆弾は。 錬金術の道具は」

 

「え、持ってないよそんなん」

 

「……二人とも、外を舐めているのですか。 今のは獣とも呼べないような相手でしたが、大物の獣は強い騎士でも、それこそ魔族の騎士でも手こずるのです。 ネームドになると、手練れが討伐隊を組んでも倒せないことがある程なのです。 ましてや人間を喰らうつもりで襲ってくる匪賊に囲まれたらどうするつもりですか。 ……今の状態、外に死にに行くようなものなのです」

 

「そ、そんなつもりは」

 

気付く。

 

アンパサンドさんは、ホムにしては感情が豊かだ。今も、目の奥に、明らかに怒りが宿っている。

 

騎士団は人員の損耗が激しいと何処かで聞いた。

 

つまり手だって足りていないはず。

 

ヒラの従騎士ではない。戦いをくぐり抜け、武勲を積んで来た騎士が護衛に出てきているのだ。

 

それならば。確かに爆弾もロクに作れないような半人前以下錬金術師の護衛など、腹が立って仕方が無いだろう。

 

「外で仕留めた獣は、騎士が私物にして良い事になっていますが、今回は二人にお譲りします。 獣の爪も皮も肉も骨も、錬金術に応用できると聞いていますのです」

 

「え、くれるの? 気前がいいじゃん」

 

「……」

 

更に苛立つ様子のアンパサンドさんに、リディーは平謝りするしかなかった。

 

いずれにしても、貰った毛皮やら骨やらで、籠は一杯になってしまった。食糧も薬草も、薬とは言えないようなゴミを作るための材料も、一応揃った。少し早くに切り上げられる。

 

食事を終えた後、焚き火の後始末をして、その場を離れる。

 

アンパサンドさんとは城門で別れ。

 

そして、スールが開口一番に言った。

 

「何だか気むずかしい人だったね。 職場のストレスかな」

 

「スーちゃん。 あの人、ホムでしかも自分は凡庸で、努力して騎士になったって言ってたでしょ」

 

「うん」

 

「騎士団って、従騎士から始めて、騎士になるまで相応の武勲を重ねなきゃいけないから、騎士って凄い人達だって、スーちゃんいつも目きらきらさせて言ってるよね。 スーちゃんがいつも自慢にするお母さんもあの人と同じ騎士だったんだよ。 あの人さっきの小さな兎を倒した時に見せた動きも凄かったけれど、多分すっごく訓練して、武勲積んで、周囲に馬鹿にされても無視して頑張り続けて、やっとその凄い騎士になったんだよ」

 

ぴんと来ない様子のスールに。

 

順番に説明していく。

 

「騎士団の手が足りてる訳ないよね。 それが私達みたいな半人前以下のために、従騎士ではなくそんな努力家の責任感もある騎士が一人、出てきてくれたんだよ。 そして実際に私達を見てみたら、爆弾も作れない半人前以下。 騎士はみんな仕事が命がけで忙しいのに、どう思う?」

 

「バカンス?」

 

「スーちゃんのバカぁっ!」

 

身体能力はリディーの方が低いけれど。

 

どうしてか、精神的な優位はリディーの方にある。

 

スールが首をすくめる。

 

家に戻るまで口をきいてあげない。

 

それに、あの人が獣の皮やらを、換金できる筈なのにくれたのは、多分見かねての情けだ。普通、ホムはそんな事しない。あのリディーでも分かった重苦しい怒りからも。アンパサンドさんは、かなりホムとしては変わり者なのだろう。

 

情けを受けている方ではいけない。

 

錬金術師は驚天の技を操る者であって。

 

そもそも困っている人を助ける側の存在の筈だ。

 

お父さんが元気だった頃に、聞いた事があるけれど。

 

錬金術師と戦士が組む場合。

 

錬金術師は火力要員を担当する。

 

つまり、ロクな爆弾も、錬金術の道具も作れない今のリディーとスールは、護衛する価値も意味も無いと言うことだ。

 

悔しいが、ルーシャが言う通り。

 

しっかり勉強して、力をつけていかなければならない。

 

家に戻ると、お薬を作る。

 

お師匠様がいれば良いのだけれど。

 

お父さんは地下室に籠もりっきりか。

 

外をフラフラ。

 

お酒を飲んで暴れないだけましと考えるしか無いし。

 

どっちにしても、錬金術を教えてくれる訳も無い。

 

独学だと限界がある。

 

見聞院で頭を下げて、初歩の錬金術の本は借りてきて読むけれど。どうしても試行錯誤になってしまう。

 

時間を浪費している。

 

その焦りが強い。

 

スールは感覚がするどくて、釜の火加減などを見るのが上手いけれど。

 

それでも薬草をすり潰したりする作業は苦手だし。

 

細かい作業は更に苦手だった。

 

中和剤を作るのも一苦労。

 

ぼろぼろの器具を使って、あまり精度が高いとは言えない蒸留水を作るのだってそうだ。井戸は少し離れた所にあるし、其処から汲んでこなければならない。

 

兎の血を使って中和剤を造り。

 

参考書に書かれている通り、薬草をすり潰し。

 

中和剤を媒介にして混ぜ合わせる。

 

しばしして、出来上がった薬は。

 

やっぱり、とてもではないが、アルファ商会で売っている品には、及びもつかないような粗悪品でしかなかった。

 

大きな溜息が出る。

 

一応小さな傷に塗ってみると、良く効く。錬金術の薬なんだから当たり前だ。一応、最初に作った、その辺で売っている効きもしない薬と同レベルの代物に比べると、明確に傷が治るようにはなった。

 

「はー、まーた上手くなっちゃったかー」

 

調子に乗っているスールを小突く。

 

そして、お薬と薬草を納品に行く。

 

お父さんが無駄にある程度使ってしまうだろうけれど。

 

それでも、生活費はこれで稼げた。

 

幸いなことに、燻製肉はあるから、今晩はしのげる。日持ちする食材を近くのお店で買い込んで、久々に雑草の炒め物ではないまともな食事にする。

 

ふと、思い出す。

 

あのチラシだ。

 

あくびをしているスールを横目に、チラシを取り出してみる。

 

其処には。

 

アトリエランキング制度開始、という説明が書かれていた。

 

 

 

翌朝。

 

起きだしてきたスール(低血圧で朝に猛烈に弱い)に、ゆっくり説明していく。

 

アトリエランキング制度。

 

アダレットは錬金術師が少なく、その恩恵を受けることもまた少なかった。近年ではラスティンから錬金術師を呼んで仕事をして貰う事も増えたが。いずれにしても、手は足りていない。

 

そこでアトリエのランクを作成し。

 

報奨金を出すことで。

 

錬金術の恩恵を、より強く受けられるようにする。

 

それがこの制度の目的である。

 

おお、と思わず声が漏れた。

 

勿論支援金も出るという。

 

支援金と聞いて、目を輝かせるスールだけれど。リディーは小突いていた。

 

「スーちゃん、忘れたの、私達の夢」

 

「忘れるわけないじゃん。 国一番のアトリエ、でしょ」

 

「これで上手くアトリエのランクを上げていけば、国一番になれるかもしれないよ」

 

「アハハ、底辺錬金術師のスーちゃん達が?」

 

頭を振りたくなるが。

 

妹に愛想を尽かす訳にはいかない。

 

それにスールは何処か焼け鉢になっている。

 

昔は可愛いいたずらっ子だったのに。

 

今では言動に棘が露骨に出るようになってきているのを、リディーは感じていた。勘が鋭い分、ものの本質を見抜く力が強いのだろうけれども。

 

咳払いをする。

 

強く。

 

それで、スールも真顔になった。

 

「今のお父さんは頼りにならないし、お母さんとの約束を守れるのは私達だけだよ」

 

「そうだけどさ……ルーシャにだって勝てっこないよ」

 

「だから鍛えるの」

 

「でも、勉強はしてるし、お薬だって作ってるじゃん。 ぜんぜん上手になってる気配ないよ」

 

その通りだ。

 

スールは頭は悪いのに。

 

こう言う本質はずばりと突いてくる。

 

だからリディーも時々助けられることがある。要するに直感が鋭いのである。きっとお母さんの血なのだろう。

 

「多分、お師匠様になってくれる人がいるね。 独学で限界があるのは事実だと思う」

 

「だよねー。 でも誰に頼むの?」

 

「このアトリエランキング制度ってので、凄い人がひょっとして来てくれるかも知れない」

 

ルーシャに頭を下げて教わるという発想はない。

 

アトリエヴォルテールが流行っているのは、ルーシャの実力では無い。

 

ルーシャは確かに今のリディーとスールよりずっと格上の錬金術師だけれども。本当に凄いのはそのお父さんだ。

 

昔、お父さんがまだ凄かった頃、言っていた事がある。

 

ヴォルテールの大黒柱は、ルーシャの父親で。

 

実際に騎士団に頼りにされているのもそうだ、と。

 

「とにかく、錬金術を教えてくれる人を探すしかないよ」

 

「他人任せだね情けない」

 

「情けないよ。 でも、スーちゃん。 アンパサンドさんに言われて、思うところ無かった?」

 

うっと、スールが口をつぐむ。

 

一晩経って、やっと分かったのだろう。

 

アンパサンドさんは、錬金術師の驚天の技で、少しでも騎士団の被害を。更に言うならば、脅かされる人々の被害を減らしたいのである。

 

街の外はあんなだ。

 

脅かされている人は幾らでもいる。

 

恐ろしい獣。

 

更にそれを超えるネームド。

 

人間を喰らうようになった鬼畜ども、匪賊。

 

ドラゴン。

 

そして伝説に出てくるような邪神も実在しているという話だ。

 

そういうバケモノから、人々を守れるのは誰か。他ならぬ錬金術師では無いか。それが爆弾も作れない。

 

怒るのも無理はない。

 

騎士達は充分に命を張って戦ってくれている。

 

それならば、彼らの奮戦を無駄にしないように頑張るのが、錬金術師の責務であって。

 

火力要員として、人々を虐げる暴悪を退ける者こそ。

 

錬金術師であるべきだ。

 

「スーちゃん銃上手で私と違って運動神経もいいけど、それでも騎士団の人に勝てると思う?」

 

「100パー無理」

 

「でしょう。 錬金術師はあくまで錬金術があっての錬金術師なんだよ。 どんな手を使ってでも、強くならなくちゃ。 お父さんみたいになりたい?」

 

「うっ……それは嫌……」

 

言った後。

 

若干の自己嫌悪に襲われるが。

 

それはもう仕方が無い。

 

今のお父さんを見て、好きになれるわけが無い。お母さんが生きていれば、きっと今でもキラキラした平和な世界が続いていたのだろうし。或いはお父さんに錬金術をしっかり教われたかも知れない。

 

でも、死んだ人はどうにもならない。

 

お母さんが生きていれば。

 

泣いてもお母さんは戻ってこない。

 

そんな事は分かりきっているのだ。

 

それに、錬金術を止めたりしたら、リディーとスールに未来はない。錬金術師だからある程度特別扱いがされているのであって。

 

それも終わる。

 

ロクなスキルもないリディーもスールも。

 

社会の底辺で生きていくしかなくなる。

 

それはきっと、今より何倍も酷い地獄になるだろう。十万都市であるアダレット王都でも。近付いてはいけないと言われる場所は普通に存在している。お母さんにも何度も注意された。

 

そういう場所で、身も心も腐りきって。

 

命を投げ捨てて行くに違いなかった。

 

「まず何とか凄い錬金術師に接触しないと……」

 

ふと。その時。何か声が聞こえた気がした。

 

気のせいかと思ったが。

 

それは、地下室。

 

今お父さんがいないはずの、地下室から聞こえてきたように思った。

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