暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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この世界でもソフィーさんはそれなりに有名人です。第一話での描写からも分かるように、畏怖とともに知られています。

全自動荷車とか、かなり凄いものを発明したというのもありますが……

それ以上に、やってきた業績が次元違いだからですね。


4、無力感

ソフィー=ノイエンミュラーの話は、ロジェも知っていた。

 

特異点とまで呼ばれる、歴史を変える錬金術師。

 

単独で上級ドラゴンに圧勝する。

 

錬金術師として、史上最強の声さえある。

 

そんな存在だと。

 

だが同時に。

 

深淵をあまりにも深く覗き込みすぎて。

 

帰ってこられなくなった存在だという話も、聞いた事があった。

 

ブライズウェスト平原で何があったのか、良くは覚えていない。多分だけれども、記憶を消し飛ばされたのだ。

 

それでも分かる事はある。

 

あのソフィー=ノイエンミュラーは、尋常な存在では無い。

 

雷神ファルギオルなど、まるで小虫に過ぎないほどの。

 

この世界そのものを壊しかねないほどの力を持ってしまった、文字通りのイレギュラー中のイレギュラー。

 

いてはいけない存在。

 

それが彼奴なのだと、ロジェは悟っていた。

 

だが、どうにもできない。

 

口惜しいが、手が動かないのだ。

 

妻を失った。

 

双子の母であり。騎士団から嫁いでくれたオネット。

 

助けられなかった。

 

ラスティンで公認錬金術師圏を突破した自分に、治せない病などないと思っていたのに。どうにもできなかった。

 

後から聞いた話によると、流行病などではなく。もっと致命的な、本来摂理を曲げないと対処さえできないという凶悪な病だったらしいが。

 

それでも、対処できなかったのは事実。

 

何処かに、幼児的な万能感があったのかもしれない。

 

それを、木っ端みじんに。

 

徹底的に打ち砕かれた。

 

だからどうしようもない。

 

あれ以降、まともに調合も出来なくなった。

 

酒を飲んで、己を罵ることしか出来なくなった。

 

かろうじて双子に手を上げることはなかったし。

 

調合器具を壊したりすることもなかったが。

 

酒を飲んで、自己嫌悪に浸るだけの男になってしまった。それが自分でも、情けなくて仕方が無かった。

 

兄貴が時々様子を見に来て。

 

もう稼いでいる姪が、時々支援のお金を入れてくれるけれど。

 

娘達に、その気になればもっと楽な生活だってさせてやれたはずだし。

 

錬金術だって、イルメリアのような超越的な錬金術師では無く。

 

身の丈に合った自分で教えられたはずだ。

 

それらが全て台無しになったのも。

 

自分が不甲斐ないからだ。

 

悶々としている内に。

 

声が聞こえた。

 

オネットの声だ。

 

この世界は、星空の下みたい。とても綺麗で、住んでいる者達もみな夢があって素晴らしいわ。

 

そんな無邪気な言葉。

 

オネットは戦いになると鬼神のように強かった反面。無邪気なところがあった。

 

騎士団からも、子育てが一段落したら、教導役でかまわないから復帰して欲しいと何度も打診があったほどの戦歴の持ち主で。

 

事実、あの病気さえなければ。

 

双子が手が掛からなくなったくらいで、騎士団に戻り。

 

隊長になっていたかも知れない。

 

何故。

 

あの病気が起きてしまったのか。

 

双子には流行病と教えているが。

 

実際には違う。

 

人間を蝕む最悪の病気が。なんでまだ若いオネットを襲ってしまったのか。神に慈悲はないのか。

 

地下室で、ぼんやりと酒瓶に手を出し。

 

それが空になっている事に気付く。

 

新しい酒を買いに行こうかと思ったが。動く余力さえなかった。

 

「オネット……」

 

呟く。

 

必死に、色々自分なりに動いてみた。

 

イルメリアとフィリスにあってもみたが。

 

一目で分かった。

 

どちらも人間の範疇から既に外れてしまっている。

 

そして必死に足跡を追って見つけたソフィー=ノイエンミュラーに至っては。

 

もうあれは、邪神ですらすっ飛んで逃げるバケモノだった。

 

「俺には、何もできない……」

 

妻を亡くした後。

 

この世で最も大事な宝石である双子さえ守れない。

 

双子が、イルメリアとフィリス、そしてソフィー。この「三傑」によって、地獄に等しい場所に誘いこまれ。地雷原でタップダンスを踊っていることは分かっていた。それくらいの鼻は利くのだ。

 

だから、ずっと調べて廻り。

 

時には殴られながらも情報を集め。

 

そして双子を守るためには、どんなことでもしてきたが。

 

結局分かったのは。

 

自分には何もできないという事実だけだった。

 

錬金術師は才能の学問だ。

 

そしてその才能が、自分には備わっていない。

 

実家にいた頃には天才なんて言われたが。

 

世の中には上には上がいる。

 

もはや、為すべき事がないことを、ロジェは知っていた。

 

それでも死ねない。

 

今ロジェが死んだら、双子を守る、頼りないにしても最後の盾がなくなってしまう。

 

双子は自覚できていないが、自分達が思っている以上に子供だ。

 

情けない事に。

 

そんな子供さえ、ロジェは助けられない。

 

ソフィー=ノイエンミュラーの目を見た瞬間に悟ってしまった。

 

既に全ては。

 

あのバケモノの掌の上にあると。

 

例え全盛期の実力を取り戻し、総力をつぎ込んだとしても。

 

ソフィー=ノイエンミュラーには、傷の一つもつけられないと。

 

嘆きは地下室から漏れない。

 

ただロジェは、己の無力にうちひしがれるしかなかった。

 

 

 

(続)




本作でのロジェさんは、原作でのマッドなパパ上とちょっと違って、壊れた心をどうにか拾い集めて、双子のためになろうと必死にあがいています。

ですが、立ちふさがる相手があまりにも大きすぎて、どうにもできないのです……。
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