暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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基本的に不思議な絵画の世界はルールが違っています。

双子が入った今度の絵は、色々な意味で灼熱地獄の理が支配している場所でした。


共存の形
序、灼熱地獄


最近酷い目にばかりあう。

 

スールはそう感じていた。

 

この間も、とうとう虫嫌いにブチ切れたアンパサンドさんに、超気持ち悪いナメクジみたいな獣の解体をさせられて。その体内から、たくさん虫が出てくるのを見せられてしまった。それだけじゃない。夕食を食べた後、あのナメクジと寄生虫の肉だと言われて、吐いたら殺すとも言われた。

 

アンパサンドさんは、脅すような雰囲気を作らず。

 

淡々と言う。

 

いつも冗談は言わないし。

 

実際にやるといったらやる。

 

前衛で回避盾なんて恐ろしい戦い方をしている事からも分かるように。吐いたら本当に何をされるか分からなかった。

 

だからずっと涙が止まらなかったけれど。

 

泣くことは禁じられなかったので。

 

どうにか耐えられた。

 

しかもその後、リディーが虫みたいな邪神像を造って。

 

それにずっと触って慣れるとか言う訳が分からない苦行を強いられた。何か呪われているのではないかとさえ思う。

 

一応、昨日人形劇を見たりもした。シスターグレースが行ってくれたとても楽しい人形劇だったけれど、沈んだ気分はどうにもならなかった。

 

そして、今日である。

 

呆然と立ち尽くす。

 

今、お城のエントランスにいるけれど。

 

目の前にあるのは、見るからに今までで一番ヤバイ絵だった。

 

溶岩が煮えたぎり。炎の滝が岩の間を流れ落ち。

 

そしてドラゴンが吠え猛っている中。

 

角の生えた人達が、何事もないかのように生活している。角が生えているといっても翼はないので、多分魔族では無い。見た感じ、ヒト族や獣人族くらいの上背にも見える。

 

この絵に入ると言うのか。

 

「よーリディーにスー。 これがこの間話題になったアンフェル大瀑布だ。 暑さ対策はした方がいいぜ?」

 

「……」

 

絶句したまま固まっているスール。

 

これ、中に入ったら多分、溶岩とかが流れている奴だ。本当にいつでも一瞬で外に出ることを意識しないと。

 

文字通り秒で消し炭になる。

 

しかもドラゴン。

 

ネームドにさえ四苦八苦している今のリディーとスール程度で、どうにか出来る相手ではない。

 

描かれている以上。

 

中に入れば出てくるのは確実だ。

 

今回はフィリスさんが監視役として来てくれる。

 

アルトさんもいると言う事は。

 

相応に危険な絵、という判断なのだろう。

 

パイモンさん辺りがいてくれると、話しやすくて嬉しいのだけれど。まあそうもいかないか。

 

生唾を飲み込んだ後。

 

今回も手伝わないと笑顔を浮かべているフィリスさんを見る。

 

やっぱり監視役であって。

 

手伝って戦ってくれるわけではないのか。イル師匠は、あれだけ色々してくれたというのに。

 

まあ、この人の破壊力が振るわれたら。

 

多分周囲が地獄絵図になるのだろうし、色々仕方が無いのだろう。

 

そう思って、我慢することにする。

 

「ま、まず今日は下見と言う事で……」

 

「別に良いけれど、わたしはいつも来られる訳じゃあないからね?」

 

リディーの言葉に。

 

フィリスさんが笑顔のまま、とても凶悪な圧力を掛ける。

 

何度もモタモタ探索しているようだと、試験を落とす。

 

そう言っているのと同じだ。

 

そして多分試験を落とされたら。

 

次の試験は、更に厳しい条件でやる事になるだろう。フィリスさんは、この間のインフラ整備の時以来、少しずつ厳しい面を出し始めてきているけれど。この人は元々こうだったのか。

 

それとも後天的にこうなったのか。

 

それはよく分からない。

 

ただ、ツヴァイさんの話を見る限り、世界の汚い、邪悪なものをたくさん旅の過程で見てきた筈で。

 

それで変わったのだとしたら。

 

この人を責めることは、出来はしないだろう。

 

「ええと、荷車の中の準備は問題なし……ドナーストーンも試運転してみる、リディー」

 

「う、うん……」

 

「それじゃあ行こう?」

 

「……」

 

今度はリディーの腰が引けているか。

 

だったらスールが何とかしなければならない。

 

この間醜態をさらしたのだ。

 

今度は挽回しなければならない。

 

スールがリディーの手を引いて、最初にアンフェル大瀑布に入る。そして、入った瞬間。

 

痛いと感じた。暑いではない。既に痛い、である。

 

これは灼熱とかそういう話では無い。

 

夏の一番暑い時期でも、此処まで酷い状態ではないと思う。

 

アンパサンドさんでさえ、鉄仮面な顔を一瞬歪めた程である。

 

マティアスは意外に平気そうだ。

 

鎧に多分冷却機能でもついているのだろう。

 

フィンブル兄は、うんざりした様子で周囲を見回している。

 

なお、フィリスさんとアルトさんは、平然としていた。まあ、先に教えたら試験にならないし、仕方が無いのかも知れないが。何か一言言って欲しかった。

 

「何コレ……暑いとか、そういう話じゃないよ!」

 

「……」

 

アンパサンドさんが、ハンドサインを出してくる。

 

村のようなものが見えた。

 

絵に描かれていた人達だろうか。

 

それよりも。

 

周囲を見る。

 

地獄と言うのも生やさしい有様だ。

 

ぐつぐつと煮立つ溶岩。

 

峻険な山岳地帯。

 

しかも溶岩は川になって流れていて。その行く手にあるもの全てを焼き尽くしているようだった。

 

話に聞く活火山、だろうか。

 

それだけじゃあない。目に入る山の全てが、あんな調子で噴火している。激しく溶岩をぶちまけているような山はそうはないけれど。

 

どの山からも、さながら水源から水が湧き出すように。

 

溶岩が流れ出し続けていた。

 

これは、尋常では無い恐ろしさだ。

 

更に、黒い影。レンプライアの姿も見える。

 

数はさほど多くはないようだけれども。近付くだけで、問答無用で襲ってくると考えて間違いないだろう。

 

ぞっとする。戦闘中、溶岩を浴びたりしたら、絶対に助かるわけがない。

 

こんな恐ろしい世界だったとは。

 

氷の世界は恐ろしく寒かった。

 

だけれど、分厚く服を着ればどうにかなった。

 

此処は、何というか。

 

裸になっても、暑くて溶けそうだ。

 

彼方此方で陽炎が見える。

 

空気がゆらめいているのだ。あまりにも暑すぎて、である。

 

最初に入ったこの場所は、ちょっとした丘のようになっていて、周囲を見回せるのだけれども。

 

ともかく、まずはさっと地形を書き起こして。

 

溶岩の流れについて、書き記さなければならなかった。

 

コンパスを使おうとしたら。

 

ぐるんぐるんと回って役に立たない。

 

絶句するが。

 

コレは正直、どうしようも無いかも知れない。

 

何とか周囲を見ながら、地図を少しずつ作りつつ、進んでいくしかないだろう。レンプライアの脅威をどうにかしつつ、である。

 

情報収集が最初だ。

 

リディーがハンドサインを出して、村のような場所へと向かう。

 

丘からまっすぐ降りていけば良い。

 

途中には幸いレンプライアも殆どいなかったが。此方に気付いた数匹。兵士のようなのが、向かってくる。

 

暑くて、頭が朦朧としている中でも。

 

とにかくやらなければならない。

 

真っ先に突貫するアンパサンドさんが注意を惹いてくれている内に。

 

リディーが支援魔術を掛けて。

 

順番に、一人ずつ支援してくれる。

 

兵士は氷の世界にいた奴よりも強かったが。

 

ハンドサインを出してから、ドナーストーンを放り込み。

 

ある程度傷つけてから直撃させると、びくりと痙攣して。

 

それで動かなくなる。

 

死ぬと、溶けて欠片になって行くのは。

 

他の不思議な絵に棲息するレンプライアと同じか。

 

うんざりしている様子の人と。全然平気そうな人との温度差があまりにもありすぎる。

 

リディーはその場で倒れそうな顔をしているし。

 

スールも呆然としながら歩いている感触だ。

 

体に触る部分の服すらもが熱い。

 

空気が焼け付くようなので、それはもう仕方が無い、としか言いようが無いのかも知れないけれども。

 

村に辿りつくと。

 

歩哨らしき人が、槍を向けてきた。

 

絵画の世界だから、なのか。

 

みんな同じ顔をしていた。

 

或いはホムのように、ヒト族には見分けがつかないだけかも知れない。ともかく、良く焼けた肌に。ヒト族に角を生やしたような姿。薄着で、胸と腰だけを覆っていて。基本槍と弓矢で武装しているようだった。

 

全員が女性である。

 

「誰だ! ……む? 貴方は」

 

「お久しぶりです。 状況はどうですか?」

 

「おお、奇蹟の技を使う人フィリスどの。 それらはまた貴方の従者ですか」

 

「うーん、そんなものかな」

 

そうか。多分ルーシャやパイモンさんも含めて、試験で監視役としてこの絵に何度も入っているのだろう。

 

フィリスさんは、友好的に門番らしい人達と話をしてくれる。

 

しかし幾ら薄着とは言え。

 

この人達、この世界で暑くないのだろうか。

 

氷の世界だったあの絵とは真逆に。

 

今度は灼熱地獄だなんて、色々と趣味が悪すぎる。

 

「フィリス殿の知り合いであるのなら、中にどうぞ。 ただし奥にある池の辺りには、危険な獣が出るので気をつけてくだされ」

 

「うん、大丈夫。 出たら駆除しちゃうから」

 

「は。 頼もしい限りです」

 

挨拶をされると、村の中に通して貰う。

 

村の中にも、やはり女性しかいない。みんなハンコを押したように同じ顔で、服装にも違いは一切無かった。

 

コレは所詮、絵の中の世界という限界なのだろうか。

 

家はどれもとても開放的な造りで。

 

雨露さえしのげれば良い、という思想が表に出ている。

 

というか、この暑さだ。

 

密閉された空間なんて作ったら、それこそ中で蒸し焼きになってしまう。

 

「話が通じるのは幸いなのです」

 

「……」

 

そうは思えない。

 

何だか嫌な予感がぴんぴんするのだ。

 

そしてそれは、すぐに適中した。

 

空を横切る影。

 

アレは、間違いない。

 

ドラゴンだ。

 

絵に描かれていたのだ。多分出てくるだろうとは思っていたが、思ったよりもずっと早かった。

 

ドラゴンが現れると同時に。

 

村の人達が、一斉にひれ伏し。

 

そして何やら歌い始める。

 

この言葉だけはまったく聞き取れなかったが。

 

皆同じ声なので。

 

揃っていると非常に美しくもあるし。

 

同時にとても何処かで不可思議で、恐ろしくもあった。

 

やがて歌が終わる。

 

一人を呼び止めて聞いてみると。

 

ドラゴンはこの世界では、人を襲わないという。

 

条件が整えば、だが。

 

絶句。

 

ドラゴンと言えば、理不尽と暴力の権化である。

 

手練れの錬金術師が数人、錬金術師の装備を身につけた手練れの壁役と連携して総力戦を挑み。

 

やっと倒せるかどうかの相手。

 

魔術師では絶対に勝てない。

 

出力が違いすぎるのだ。

 

技術者でも無理。

 

どんな強力な武器でも、そもそもドラゴンの装甲は、ハルモニウムの材料になるほどなのである。

 

だから、ドラゴンと言えば誰もが怖れる存在なのだが。

 

この世界では、どうやら違うらしい。

 

村の中を歩き回って。

 

それで気付く。

 

村のすぐ側で、溶岩が煮立っている。

 

ぞっとするが。

 

この世界では、それが当たり前の事なのだろう。だから何でも無い、と言う事だ。勿論近付くだけで蒸し焼きになりそうに暑い。

 

奥の方には水たまりがあったが。

 

水たまりには、半身をつけるようにして、巨大なオオトカゲのような生物がいて。周囲を睥睨している。

 

この村の人達が水を必要とするときには。

 

別の水源を使うか。

 

あれを追い払うか。

 

どちらかなのだろう。

 

一通り村を歩き回った後。

 

村の外に再び出て、一旦周囲を探索しようという話をしていたとき。村の人が一人、此方に来る。

 

「フーコを見ませんでしたか?」

 

「ごめんなさい、その……誰が誰か、見分けがつかなくて」

 

「ああ、そうでしたね。 フィリス殿にもそう言われました。 フーコは……」

 

特徴を言われるが。

 

基本的によく分からない。

 

例えば、顔の型を取ってみれば。少しずつそれぞれ違うとか、そういう違いはあるのかも知れないが。

 

それ以外に違いは見て分からないのである。

 

いずれにしても、話を聞いていくと。

 

フーコという子が、村の外に出て、帰っていないという事だけが分かった。

 

それはその。

 

どうすればいいのか。

 

この状況である。

 

レンプライアだらけ。

 

周囲は溶岩の川。

 

生きているとは、とても思えない。フィリスさんはしらけた様子で此方を見ていたけれども。

 

ともかく、気力を振り絞るしかない。

 

対策をしようにも、レヘルンでも周囲に放り投げながら歩くくらいしか思いつかないし。

 

そんな事をやっていたらあっと言う間にレヘルンも尽きる。

 

頭がクラクラするが。

 

リディーが、とにかく探してみると言うのを聞いて、意識が飛びかけた。

 

フィンブル兄も、うんざりした様子で、犬の顔で苦虫を噛み潰している。獣人でも、何となく表情は分かる。

 

「次までに対策はしてくるよ、フィンブル兄……」

 

「うむ、頼む……」

 

「とりあえずどう探す?」

 

「さっきの丘に戻りましょう」

 

リディーが提案。彼処なら、かなり高い位置から、周囲を見渡せる。上手くすると、そのフーコという子も、見つかるかも知れない。

 

一度戻る。

 

流石にレンプライアは、立て続けに襲っては来なかった。

 

そして、丘から、周囲をじっくり観察。

 

かなり起伏が激しい土地で、周囲が分かりづらくはあったけれど。

 

遠くに、何か人影のようなものが見える。

 

槍もなく、素手で何かしているようだった。よく見ると、レンプライアと戦っているのではあるまいかアレは。

 

リディーが走り出すが、即座にばてる。

 

スールも、彼処まで走る自信はあまりない。

 

仕方が無い。

 

レヘルンを地面にぶちまけて、一旦クールダウン。何度も使える手ではないが、こればかりは仕方が無い。少し遠くに投げないと、凍ってしまうのだけれど。その辺りは磨いた勘が助けてくれる。

 

アルトさんが手をかざして、にこにこしつつ言う。

 

「おっと、相手が二体に増えたね」

 

「ちょ、ちょっと、待ってください……」

 

「レンプライアに言わないと」

 

「……っ」

 

確かにその通りだ。

 

呼吸を整えて、少し涼しい中、必死に体力を整え直すと。

 

スールは頬を叩いて。

 

真っ先に走り出していた。

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