暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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本作ではワイスベルク一家は割とすんなり合流したりしています。

一家揃って戦略級の傭兵をしていただけあって、本職は基本的に戦士です。過酷な世界で生き抜いてきただけあって、実力も図抜けています。

人形作りや劇作家はあくまで副業なのです。

そんな中、戦士として一線を降りたグレースさんだけが、ちょっと異質な生き方を選んだと言えるのかもしれないですね。

立場が独特なので、本作では双子もアンパサンドもこの家族とは大きなつながりをもっています。


2、その家族は戦鬼

驚いた。教会で人形劇は何度も見た。だが、今回のは、ちょっと特別だった。

 

数日前に見たのは、演者がシスターグレースだけだった。人形も二体だけだった。

 

だが今日、教会に来ていたのは、あの怖い高笑いおじさんと、ドロッセルさんだったのである。そしてシスターグレースのことを、人形劇の前に、ドロッセルさんはお母さんと呼んでいた。お母さんが生きていて羨ましい。人形も、かなり大きなものを複数使うようだった。

 

シスターグレースが腕利きの傭兵だったことは知っている。

 

それも、家族揃って戦略級傭兵だった事も。

 

ただ、揃って人形好きとは。色々と、あらゆる意味で変わった家族である。

 

ともかく、だ。人形劇の前に、少し話を聞いてみると。色々と教えてくれた。

 

シスターグレースは、家族で昔は各地を回って、戦略級傭兵として活躍していたのだという。

 

多くの敵を屠り。

 

匪賊を壊滅させ。

 

場合によっては、錬金術師と連携して、ドラゴンを殺したりもした。

 

獣は数え切れないほど殺したし。

 

多くの隊商を守って、匪賊を返り討ちにしたり。

 

或いは街の中に巣くった賊を皆殺しにしたりもしていた。

 

旦那さん。おっかない高笑いおじさん。フリッツさんというらしいけれど。その間に出来た子供のドロッセルさんも、概ね似たような人生を送っていたが。

 

最初に「疲れた」のが、シスターグレースだったという。

 

犯罪組織の中には少年兵もいる。

 

悪辣な匪賊の中には、子供だって混じっていることがある。

 

たまにいるのだ。

 

子供の頃から、どうしようもない悪事に手を染める外道が。そして街にはいられなくなり、匪賊に落ちる者が。

 

一度匪賊に落ちると。

 

子供だろうが何だろうが、復帰は不可能。

 

見敵必殺するしかない。

 

だが、そうやって殺して殺して殺している内に。何もかも嫌になったと言う。

 

どこかで割り切れなかったのかも知れない。

 

これは匪賊であって、人間では無いと。

 

匪賊も元は人間であると。

 

子供が好きであったから、余計に辛かったのだろうか。

 

何もかも嫌になったシスターグレースは、夫と娘に話をして。一旦アダレットの王都に入り、傭兵を辞める事にした。

 

そこで、多くの理不尽に見舞われ、家族を失った人間を守る事を考え。

 

アダレットの王都でシスターになったのだそうだ。

 

罪滅ぼしのつもりだったのかも知れないと、シスターグレースは言っていたが。

 

殺して罪になるような存在を、シスターグレースは手に掛けてはいない。

 

匪賊の鬼畜働きについてはスールだって見た。

 

彼奴らは、人間が墜ちるところまで墜ちた最悪の姿だ。

 

それでも疲れ果てたと言うのだから。

 

シスターグレースは、きっと優しすぎたのだろう。

 

ドロッセルさんとフリッツさんは、その後も戦略級傭兵を続けて、各地で様々な戦いに参加していたが。

 

フリッツさんの一線からの離脱を契機にして。

 

アダレットに移り。

 

そして今では、家こそ違うものの。

 

家族として、再び集まって暮らしているという。

 

血塗られた戦鬼家族の。

 

最後の穏やかな居場所が、この教会というわけだ。

 

「はいみんな、人形劇を始めますよ」

 

シスターグレースが手を叩くと。

 

黄色い声が上がる。

 

そういえば、恨みも買っている筈だが。

 

この人に対して人質を取ったりしたら、それこそ賊は次の瞬間にバラバラだろう。多分普通の賊が反応できる速度では無い。

 

ドロッセルさんの実力は良く知っているし。

 

この人も、異様な見かけの若さ。後進指導の的確さからしても、実力が落ちているとは思えない。

 

或いはお礼参りに来た賊もいたのかも知れないが。

 

全員がもう、獣の腹の中か、土の下、なのだろう。

 

そんな事を考えもしない子供達。リディーもスールも、一時期あの中に混じっていた。

 

だから、人形劇を、少し離れて見守る事が出来た。

 

フリッツさんは、高笑いおじさんの時が嘘のように、落ち着いたイケボで安心感のあるナレーションをしてくれる。

 

話によると、ラスティンに生まれた偉大な錬金術師の物語、だそうだ。

 

苦労して育ち。

 

おばあちゃんに錬金術を習ったその錬金術師は。

 

ある日偉大な師匠にであって。

 

ぐんぐん力量を上げていった。

 

やがて様々な襲いかかる悪夢のような障害を撃退して行き。

 

地固めをしていく。

 

そして最後には、錬金術の究極にまで手を届かせ。

 

長く続いていた、不幸で不毛な戦いを終わらせたのだった。

 

難しい話ではあったけれど。

 

掛け合いなどがとても生き生きとしていて。

 

見ていてぐっと来る物があった。

 

子供達も最初は騒いでいたが。

 

人形のあまりにも生き生きとした動きや。

 

息もつかせぬ展開に、途中からはじっと黙って人形劇を見ていて。

 

劇に出てくる怖くないように考え抜かれた獣やドラゴンの人形も、その精巧な出来に驚いているようだった。

 

これで、人形劇はおしまい。

 

わっと歓声が沸く。

 

歓声は、子供達が騒がないように見張っていたシスター達さえも、笑顔で。手を叩きながら上げていた。

 

リディーもスールも例外では無かった。教会で今までみた人形劇で一番凄かった。

 

今だから、何となく分かる事もある。

 

その錬金術師の家庭はきっとくらかった。

 

だって、おばあちゃんしか出てこないのだ。

 

おじいちゃんは仕方が無いかも知れない。

 

だけれども、どうしてお父さんとお母さんには一切合切触れない。何か問題があったのは分かる。

 

そのおばあちゃんも亡くなって。

 

独学で苦労していたところに。

 

師匠になる人が現れたのだろう。

 

才能がそれによって開花したのだ。

 

息をつかせぬ面白い話だったけれど。そういう暗い背景も色々と脳裏に浮かび上がってくる。だけれども、それでも面白い話だった。

 

片付けを手伝う。

 

その途中で、やっとフリッツさんと話が出来た。

 

それまでは高笑いおじさんのイメージが強くて、怖くて話しかけられなかったのだけれども。

 

向こうは此方を認識していた。

 

「何だか怯える気配があるとは思ってはいたが、君だったか。 今日は怯えていないようで何よりだ」

 

「ごめんねー。 お父さん、人形造りの時はああなっちゃうから」

 

「はっはっは、娘よ。 お前も脚本を作り出すと、寝食を忘れてしまうではないか。 最近も小説を売り出したが、締め切り前には三日三晩寝ていなかっただろう」

 

「そうだったね。 あはははは」

 

なんだか、目の前で恐ろしい会話がされている。

 

三日三晩寝ないとか、どういう体力だ。

 

ドロッセルさんが色々おかしいのは分かっていたが。

 

何というか。その実力が裏付けられる一言だった。

 

シスターグレースとも、上手く息が合った片付けをしている。今度はまた、別の人形劇をやるという話なので。

 

それもまた、とても楽しみだった。

 

ただ、少し気になる事を言われた。

 

「あの人形劇を気に入ってくれたのは嬉しいよ。 ただ、あの話は殆ど実話でね。 多少わかり易いように登場人物を減らしたり姿を変えたりはしているが、あの中に私もいたんだよ」

 

「フリッツさんの体験談なんですか」

 

「ああ。 錬金術師として現在世界最強である事は間違いない人物と、私は色々な仕事を一緒にしたんだ。 戦略級傭兵としては、一番大きな仕事の一つで。 そしてとても衝撃的なことを知る事にもなる事件だった」

 

何だろう。

 

フリッツさんの目は。

 

歴戦の傭兵らしい、鋭い光に満ちていた。

 

戦略級の傭兵になってくると、腕っ節だけではやっていけないと、ドロッセルさんは言っていた。文字通り戦略級の活躍を要求されるからだ。

 

腕力もだが、それ以上に老獪さが必要になるという。

 

フリッツさんは剣術に関しては、騎士団で時々声が掛かって教導をするほどの腕前らしいのだけれども。

 

それでも言う。

 

「錬金術はね。 もう知っているかも知れないが、世界の真実に触れる学問なんだ。 何でも出来る夢の学問かも知れないが、その夢が何処につながっているかは、少し考えた方が良いかもしれない」

 

「……難しくて、よく分かりません」

 

「今はそれでいい。 だけれども、そもそも君達は、錬金術で何をしたい? 知っていると思うが、ドラゴンや邪神さえ条件が整えば倒せる力が手に入るほどの学問だ。 それをどう使う?」

 

片付けが終わったという声に、鷹揚に応えているフリッツさん。

 

リディーは黙り込んだまま。

 

スールも同じだ。

 

頷くと、フリッツさんは言う。

 

「多分、同じような事を、近いうちに身内に聞かれるだろう。 そして、当分答えは出せないと思う。 考えてはおいた方が、良いかも知れない。 さもないと……」

 

「な、何ですかっ」

 

「深淵に引きずり込まれるかも知れない」

 

人形劇の最後で。

 

錬金術師は、ずっと仲違いをしていた二人を仲直りさせ。

 

みんなで仲良く一緒に生きていけるようにした。

 

それはとても素敵な話だと思った。

 

だけれども、フリッツさんは、どうしてあの暖かい終わりをした人形劇の後で、こんな話をする。

 

ひょっとして、だけれども。

 

真相は、もっとおぞましくて。

 

そしてくらいものなのではないのだろうか。

 

フリッツさんはほぼ実体験だと言っていた。

 

何かとんでもないものを見て。そして経験したのでは無いだろうか。

 

子供達にお菓子が配られていた。

 

これはリディーが錬金術で作ったものだ。

 

殆どスールはこの手のができない。

 

錬金術でも同じだ。

 

みんな美味しい美味しいと喜んでくれるので。リディーは目を細めて喜んでいたけれど。

 

スールは、帰って行ったフリッツさんと、意味ありげに手を振っていたドロッセルさんの事が気になる。

 

二人とも、何かとんでも無いものを経験し。

 

見聞きしたのではないのだろうか。

 

あの人形劇は。

 

ひょっとして。

 

ぞくりと背筋に悪寒が走った。

 

深淵に引きずり込まれる。

 

その言葉が、嫌に強烈に、耳に残り続けていた。

 

フリッツさんがその言葉を口にしたときの表情。とてもではないけれど、冗談を言っているものではなかった。

 

或いはフリッツさんは。

 

深淵に落ちる錬金術師の姿を実際に目にしたのかも知れない。

 

一瞬で落ちたのだろうか。

 

徐々に落ちていったのだろうか。

 

それは分からないけれど。

 

もしも、錬金術を極めることが、深淵に落ちる事だというのなら。それは、どういう意味なのだろう。

 

人間性を喪失していくのだろうか。

 

それとも、何かもっと別の恐ろしい事なのだろうか。勘が告げている。本当に恐ろしい事が、其処にあるのだと。

 

リディーに帰ろうと言われたので。

 

頷いて、帰る。

 

数日は錬金術の練習をしながらも、あのおっかないファルギオルの粘土像に触って虫になれるようにと言われている。

 

凄く嫌だけれど。

 

虫嫌いはどうにかしなければならない事は良く分かっている。

 

だから、克服しろと言われた事に反発はない。

 

むしろ虫なんかを怖がっている自分に腹が立つくらいだ。

 

それよりも、気になり続けた。

 

深淵に落ちるというのは、どういうことなのだろう、と。

 

 

 

フリッツがドロッセルと共に自宅に戻ると。

 

見慣れた顔があった。

 

壁に背中を預けて、腕組みしているその姿。

 

ドロッセルも一瞬だけ緊張したようだけれども。

 

相手に敵意がない事は分かっている筈だ。

 

もしも相手に敵意があったら、この家に入った瞬間、知らないうちに死んでいたのだろうから。

 

「久しぶりだね、フリッツさん。 それにドロッセルさんも」

 

「ソフィーか。 久しぶりと言っても、時々家に来ているでは無いか」

 

「まあプラフタのメンテを頼まなければならないからね。 それに……」

 

「戦略級の話か」

 

頷く。

 

幾つかの話をした後。

 

フリッツはソフィーに聞かれた。

 

双子はどう仕上がっているか、と。

 

「……そうだな。 親離れに失敗した子供が、必死に何とか大人になろうとして、もがいているように見えるな。 君とは別方向でいびつだ」

 

「ふふ、そう」

 

「彼女たちが例の双子だろう。 まだ姿は見せていないのか」

 

「手札が揃っていないので」

 

そう。

 

フリッツは、ソフィーと以前一緒に戦略級傭兵として仕事をした事がある。

 

そして深淵の者とプラフタの歴史的な和解にも立ち会ったし。

 

あの創造神パルミラの顕現も目の当たりにした。

 

創造神の言葉は今も忘れていない。

 

下手をすると発狂していたかも知れない。

 

それほどまでに圧倒的なまで恐ろしい真実を、目の前に突きつけられたのだった。

 

人間四種族という存在は。

 

あまりにもおかしい。

 

そういう仮説は何処かで聞いた事があった。

 

この苛烈な世界で。

 

互いに交わることがない四つの種族が、どうして共存できているのか、どうしても分からない。

 

そういう研究書も読んだことがある。

 

だけれども、だ。

 

真相を知ってしまうと。

 

そんな疑問が、消し飛んでしまった。

 

文字通り四種族は、滅亡の寸前にこの世界に招かれた。

 

そしてどうにもならずにこの状態で生きている。創造神は別に苦にもしていない様子だが。

 

あまりにもおかしい数字がポンポン飛び出していて。

 

思わずフリッツは。

 

いつも飄々としているフリッツさえ。

 

口をへの字に引き結ばざるを得なかった。

 

「そろそろ考えてくれないかなと思って。 フリッツさんもドロッセルさんも、アンチエイジング処置を受けて、深淵の者に加入してくれないかな。 もしも加入してくれるのなら、その場で「世界の固定」をしてもいいくらいなんだけれど」

 

「今まで協力はしてきているだろう。 アンチエイジング処置は、私の性にはあわない」

 

「同じく」

 

「そう。 まあ協力してくれているだけでも良しとするかな。 二人と敵対するのは、あまりにももったいないからね」

 

ソフィーは他に幾つか重要な事で意見を求めてくる。

 

この娘が。錬金術をやっていく過程で。腕を上げれば上げるほど、加速度的に病んでいったのをフリッツは知っている。

 

幼なじみのモニカとオスカーが眉をひそめるほどに。

 

元々苛烈な性格だったが。それさえも生ぬるくなるほどに壊れた。

 

今のソフィーは、深淵そのもの。

 

もはや人間と呼ぶのは、無理がありすぎるかも知れない。

 

意見に答え終わると。

 

ソフィーは頷いた。

 

「うん、あたしとしても参考になった。 流石に年の功だね」

 

「いや、お前さんはもう私よりも遙かに長生きしているも同然なんだろう?」

 

「視点の違いというのは有効なんだよとても。 あたしが前も話したけれど、この世界の終焉を打破するには、後二人は超越級の錬金術師がいる。 そして、あたしと決定的に意見が異なる存在がそれには相応しい」

 

「……」

 

ドロッセルが唇を引き結んでいる。

 

双子に対しては不満を零しているドロッセルだが。

 

ドロッセルなりに双子を心配しているし。

 

何よりドロッセルの方は、ソフィーではなく、フィリスが錬金術を極めれば極めるほど病んでいく過程を見てきているのだ。

 

親子二代で因果なものである。

 

超越級の錬金術師が壊れていく姿を、ともに見る事になったのだから。

 

そして深淵に近付けば近付くほど錬金術師は力を増す。丁度、ソフィーやフィリスのように。

 

「じゃあ、またプラフタのメンテか、意見が聞きたいときに来るよ。 それはお土産だから、使って」

 

「ああ……」

 

机の上には。

 

最高級の布であり。

 

国宝としても扱われる事がある、ヴェルベティスの反物がぽんと置かれていた。

 

流石に人形劇の人形に、そのまま着せるわけにはいかないから。裏地に使うのだけれども。

 

場合によっては国宝ともなる品を。

 

ぽんとおいていくとは。

 

この反物一つで、屋敷が一つ二つ簡単に建つ。

 

しかもこの反物で作った服は、それこそ生半可な攻撃など、受付もしない。

 

そういう布なのだ。

 

嘆息すると、フリッツは黙り込んでいる娘に聞く。

 

「久々の家族揃っての人形劇だったが、つまらなかったか」

 

「いや、人形劇は楽しかったよ」

 

「ああ、そうだな。 ソフィーがどうしてこのタイミングで姿を見せたか、だな」

 

「多分何かしらの問題が近いんだろうね。 そして十中八九それは、雷神ファルギオルの復活に絡んでいる……」

 

フリッツには何となく分かる。

 

ソフィーは。

 

あの双子を雷神と戦わせる気だ。

 

勿論勝ち目なんてある筈が無い。

 

それでも、何かしらの条件を満たすまでは戦わせるはずだ。死のうがかまわないのだろう。死んだら多分次を模索するはずだ。

 

前に聞いた。

 

既に双子の育成は、一万回以上やり直していると。

 

そしてその壁の大きな一つが。雷神ファルギオルなのだろう。そして普段よりも、今回はソフィーが望む達成条件が近い。

 

今回わざわざフリッツに話を聞きに来た、ということは。そういう事だ。

 

「ねえお父さん。 深淵の者に協力するのは良い事だと思う。 実際、この世界の裏側から、二大国にまとまるまで、人間を導いた集団だしね。 私利私欲でも動かないし、何より実際に多くの民を救ってきている。 でも、解せないよ。 アンチエイジング処置まで受けて、この世の終わりまで手伝うことを、どうしてお母さんは選んじゃったんだろうね」

 

「罪滅ぼしのつもりだろう。 グレースはあれで優しかったからな。 私も犯罪組織を処理した時に、相手が子供だったりした場合は心を痛めたことがあったが、グレースは私以上に苦しんでいたのだろう」

 

「罪滅ぼしで、其処までする? 永劫の地獄と何が違うの?」

 

「自分で自分を罰している。 そういう事なのかも知れないな」

 

ドロッセルは、それからその日は、一言も口を利かなかった。

 

フリッツも外に出ると、剣の手入れを武器屋の親父に頼む。

 

この街の武器屋の親父は、音痴なのが玉に瑕だが。とても腕が良い。ハルモニウムで出来たフリッツの剣を見て眉一つ動かさず。きちんと手入れをできる程には、実力もあったし。それにハルモニウムの剣を見て、何一つ言わないほどに口も堅かった。ただ、どれくらい人を斬ってきた剣なのかは、一言で当てたが。

 

今も、仕事によっては。

 

匪賊を斬っている。一線級を退いても、仕事は来る。

 

騎士団は手が足りない。

 

たまにくる大きな仕事では、ドロッセルともども出て。

 

大きめの街に巣くった犯罪組織や。

 

匪賊などを処理している。勿論、匪賊の場合は逃げる暇も与えず皆殺しだ。

 

一人で騎士一部隊分以上の仕事をするフリッツやドロッセルは、騎士団からもここぞと言うときに活用する切り札として扱われていて。そして自分達で出来る範囲で世界を良くしようとも想っている以上。

 

それを断る理由も無かった。

 

人形の手入れを始める。

 

ドロッセルも気持ちを入れ替えたのか、脚本を書き始めた。

 

今度はフィリスの話を人形劇にするか。

 

フィリスも劇的な人生を送っている。

 

側でフィリスを見てきたドロッセルが証言しているが。

 

やはり深淵に引きずり込まれていくような人生であったらしい。

 

世界を旅していく内に。

 

どんどん世界のおぞましい闇に触れて。

 

加速度的に病んでいった。

 

そして今のフィリスは。

 

破壊神と渾名されるほどの存在になってしまっている。

 

それが良い事なのかは。

 

フリッツにも分からない。

 

ドアがノックされる。

 

騎士団の人間だ。それも隊長クラスの魔族騎士である。隊長クラスが直接話をつけに来る程の扱いを受けている。それがフリッツとドロッセルである。

 

「お二人ともいたか。 丁度仕事が舞い込んでいてな」

 

外に雨が降り始めている。

 

これは本降りになるな。

 

仕事の内容を聞きながら。フリッツは、そう思った。

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