暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
あるものを利用しきらないと、生き残る事は出来ないのです。
突貫工事での調合を行って。
どうにか、リディーを中心とした周囲の温度を安定化させる道具を作り上げた。ネックレスの形にして、首からぶら下げる。これによって、熱による消耗を避ける事が出来るのである。出来たのは一つだけだが、それが限界だ。
鎖と、エメラルドを収める部分は鍛冶屋の親父さんにやってもらった。
スールがエメラルドの研磨を行って。
その後、鍛冶屋で組み合わせて貰う。
そして、ガワに魔法陣を刻み込む。
魔法陣はバステトさんにアドバイスをリディーが受けて来たものだ。
これをイル師匠の所に持ち込み。
そして、立ち会いのもと。
ペンチで丁寧にスールが挟みながら。
リディーが魔法陣を刻み込んでいった。
魔法陣については、イル師匠も合格を出してくれたので。まず満足して良い出来だとは思う。
ただしその後が大変で。
殆ど徹夜の泊まり込みになった。
最終的に中和剤につけて変質させ。
更に効果を倍増させて完成。
出来たには出来た。
実際問題、以前作った超劣化人工太陽と考え方は同じ。機能を更に縮小して、その代わりコンパクトにしただけだ。
今回は温めるのでは無く、温度を一定に保つ、だが。
いずれにしても、小さくするだけでこれほど難しくなるとは思わなかった。
とにかく、騎士団には声を掛けてある。
急いでアトリエに戻って、眠れるだけ眠って。
そして、王城のエントランスに出向いた。
既に皆待っていた。
今回はフィリスさんと、ルーシャがいる。アルトさんは、別口で仕事が入ったらしく、今日は来られないそうだ。何しろ超格上の錬金術師。そういつも此方には来られないだろう。
リディーは残念がったが。
スールはあの人何処か苦手なので、むしろこっちの方が安心した。
ルーシャも当然この絵には入った事があるようで。
対策はばっちりしているようだったが。
アンパサンドさんが、冷え切った声で言う。
「それで、熱対策は」
「はい、してきました」
「温度を一定に保つので、周囲一定範囲は熱くも寒くもないです!」
「それなら安心なのです」
フィンブル兄に、アンパサンドさんが、リディーとスールの護衛につくように指示。
頷くと、フィンブル兄は、今回は支援に徹することを明言。
先に軽く打ち合わせをしておくと。
戦闘はやりやすくなる。
スールが突貫しなければならない場面はどうしても出るが。
フィンブル兄と連携してなら、多分かなりやりやすくなるはず。
その一方で。
敵が罠を張っていた場合、密集していると一発で全滅、という可能性が出てきてしまうので。
それについては、暑さ対策が出来ているらしいルーシャやマティアス、アンパサンドさんを、それぞれ離れた場所に配置して、警戒して貰う事で対応する。特にアンパサンドさんは、かなり陣列より前に出て貰う事で、敵の攻撃を集中的に受けて貰う予定だ。
フィリスさんは今回も監視だけ。
アルトさんがいなくなって戦力低下は仕方が無いが、代わりに今回はオイフェさんがいるので。近距離戦での手は足りている。
勿論ルーシャの実力が、オイフェさんを足してもアルトさんに及ばないのは承知しているけれど。
それをいうならば、今の双子ではセットでルーシャに及ぶかさえ怪しい。
だから、我慢するしかない。
絵の中に入る。
以前は、入った瞬間に「痛い」と感じるほど厳しい暑さだったが。
今度は、瞬時に周囲の温度が下がっていき。ある程度の所で安定した。これなら大丈夫だろう。
すぐに、丘の下に見えている村に行く。
フーコは、まだ包帯を巻いていたが。
それでも、起きだして歩いている様子で。
まったく姿が同じように見える一族の人達に、心配されているようだった。
「あ、みなさん。 待っていましたよ!」
「フーコさん、もう動いて大丈夫ですか!?」
「包帯してるけど!」
「大丈夫大丈夫。 戦ったりしない限りはへっちゃらです。 良く効くお薬ありがとうございました!」
快活に笑うフーコ。
そして笑うとわかるのだけれど、フーコの口の中には、やっぱりヒト族としては大きすぎる牙がある。
角が生えているし、これで背中に翼と。おしりに尻尾があれば。完全にドラゴンと人間の合いの子だ。
勿論それを言うつもりは無い。
そもそもこの絵の中では、ドラゴンと人間が上手くやっているという話である。
フーコが巫女だかの仲介役だというのなら。
信用するしかない。
「それにしても寒いですね?」
「あ、フーコには寒いんだ……」
「フーコちゃん、その、私達には暑すぎるから、ちょっと錬金術で温度を一定に保っているの。 もしも辛いようなら、少し後ろからついてきてくれる?」
「いや、耐えきれないほどではないので、大丈夫です!」
元気いっぱいである。
こんな包帯だらけの痛々しい姿で。
ともかく、側から離れないように念押しすると。一旦丘の上に戻って、何処へ行けば良いのか確認する。
コンパスが役に立たない状況だ。
地図を作りながら、少しずつ進んでいくしかない。
「ええと、彼方に行って、ずっと奥に行ったところです。 殆ど一本道なので、迷う事はないと思います。 それにフーコが何回かドラゴンの所には出向いていますので……」
「良くレンプライアに襲われなかったね!」
「最近増えてきたので、困っていたんです。 処理してくれるなら助かります」
「見かけた奴は全部やっつけるよ」
スールはそう安請け合いしたが。
レンプライアは、新しい絵に入る度に強くなっている気がする。
弱点はあるものの。
多分だけれど、雑兵しかまだこの絵の中では戦っていない。
強力な奴が出てくると、相応に苦戦する事になるのではあるまいか。
そんな嫌な予感が、止まらなかった。
少し前をアンパサンドさんが歩き。
右側に少し離れてルーシャ。
左側にマティアス。
そして、そのちょっと後ろにフーコ。
真ん中にリディーとスール、フィンブル兄。
そういう変則的な、少し大きめの陣形で進む。なおオイフェさんは、影のようにリディーとスールの少し後ろに着いてきていた。ルーシャの指示なのだろう。
やはりというかなんというか。
レンプライアが、どんどん姿を見せる。
暑くてもまるで気にしないらしい。
此奴らにドナーストーンが有効なのは分かっていたが。
それだけで突破出来るほど。
やはり状況は甘くなかった。
すぐに通用しないのが出てくる。
まず、下半身がない奴の、上位種らしいのが姿を見せた。前は丸っこい頭だったのだが。今度は頭に角が生えていて、少し魔族を想起させる姿である。此奴は大きさも凶悪で、見上げるような巨体だった。
早速しかけるが。
レンプライアは即応。奴が雄叫びを上げるだけで、一瞬にして周囲に炎の弾丸が降り注ぐ。それも、抱えるような巨大なものが、無数にだ。
慌ててルーシャがリディーとスールの前に飛び出してシールドを張るが。
次の瞬間には、空中に奴はいた。
しかも至近。
一瞬で、間合いを詰めてきた、と言う事か。
シールドと激突。
ルーシャが悲鳴を上げて吹っ飛ばされ。奴は左手を振り上げていた。
息を合わせて、マティアスとフィンブルさんが、左右から切り込み、突き掛かるが。しかし、それでも止めきれない。
横っ面にオイフェさんが強烈な蹴りを叩き込み。
皆が離れた瞬間、ドナーストーンを叩き込んで、跳び離れる。
しかし、雷が炸裂した後。
奴はまだ無事で。
そして、唸り声を上げながら、息を吸い込んでいた。詠唱だ。
アンパサンドさんが、ふわりとレンプライアの顔面に布をかぶせ、飛び退く。
うなりを上げて、頭を振り払うレンプライア。詠唱中断。視界も塞いだ。
その時には、リディーとスールは、右側に移動。
そして、ドナーストーンを準備していたが。
死の臭いを至近で嗅ぐ。
残像を作って移動したレンプライアが。
真後ろで、腕を振るい上げていたのだ。
あ、これは。
死ぬ。
前に、ネームドの尻尾の直撃を受けたとき以上の衝撃が来る。それを悟ったスールの前に、ルーシャが飛び出し、傘を開いて押し潰す一撃を受け止める。
周囲にクレーターが出来る。
この圧力。
尋常ではなさ過ぎる。
マティアスとフィンブル兄が間断なく攻撃を繰り返しているし。
アンパサンドさんが嫌がらせを続けているが。
レンプライアはどうも、リディーとスールを優先的に殺すつもりらしい。そのまま、ルーシャごと押し潰しに掛かってくる。
その時。
オイフェさんがすっと構えをとると。
ジグザグに移動後、地面を踏みしめ、跳躍。
レンプライアの腕の関節を、蹴り折っていた。
レンプライアが悲鳴を上げながら下がる所に、数個のドナーストーンを放り込む。爆裂。まだ足りないか。
だが、マティアスが渾身の一撃をレンプライアの顔面に突き刺し。
更に脇腹に出来ていた傷に、フィンブル兄が体ごとぶつかった事で、ハルバードが体の奥にまで食い込み。
それがとどめになった。
崩壊していくレンプライア。
呼吸を整える。
辺りの破壊跡が凄まじい。
岩も崩れて。
珍しそうな鉱石が、たくさんでていた。
ルーシャが傘を見て、苦虫を噛み潰したような顔をする。自慢の防御道具も、相当なダメージを受けたのだろう。
「みなさん、大丈夫ですか?」
「フーコこそ平気!?」
「平気です。 でも、あんなやばそうなの、良く倒せましたね」
「……」
苦笑いが浮かぶ。
正直、さっさとバトルミックスのドナーストーンで消し飛ばすべきだった。
イル師匠に指定された条件を満たしていない。
そう最初に判断したのが間違いだった。
勘は鋭い方なのに。
まだ敵の適切な戦力分析はあまり出来ているとは言えない。この辺りは、未熟が故である。
レンプライアの欠片を回収。なんと、それに混じって宝石がゴロゴロ落ちていた。
死ぬと、魔力が結晶化するのかも知れない。
また、辺りの岩の中にも、珍しそうな鉱石がたくさん入っていたので、全て回収する。或いは使い路があるかも知れない。
カーエン石も豊富に落ちている。どれも非常に品質が高いようで、触ると熱いほどだった。
「あの辺りで一旦休憩するのです」
アンパサンドさんが、見渡しの良い場所を指さす。
一緒に移動して、警戒態勢を取ると。
少し休憩にする。
それからフーコに話を聞くが。
レンプライアがどんどん強くなり、そして数が増えているそうだった。
さっきのような奴も、何度か見かけているという。
どれも別個体のようだった、と言う話で。
そうなると、非常にまずいかも知れない。
ルーシャはお手伝いという立場上、教えてくれる事はないだろうし。此処で試験を受けた錬金術師は、皆こんな地獄を生き抜いたのだろうか。想像するしか無いのが厳しい所である。
手当を終えると、後は無言で先に進む。そうすると、凄まじい光景が目に映る。
溶岩が文字通り、滝となって流れているのだ。
大瀑布とは滝の、それも凄く大きな滝のことだという話は聞いていたけれど。
これは凄まじい。
溶岩のしぶきも散っているようなので、危なくて近づけたものではない。
溶岩が降り注いでいる下は、グツグツ煮えたぎった灼熱の池になっていて。落ちたら100%助からない。ぞっとして、崖から離れる。崖下では溶岩の川が流れていて、何処かへまた流れているようだった。
この世界は。
あまりにも苛烈すぎる。
ドラゴンと心を通わせる人間がいる、というのは凄い事だと思うけれど。
しかしこれでは、普通の人間はとても生きていく事など出来ないだろう。多分、あの村に辿りつくことさえかなうまい。その後も、とてもではないが生きていく事は無理だ。
それにリディーと一緒にスールは調べた。
火山が噴火するときむしろ危険なのは、噴出する溶岩よりも、その前に押し寄せてくるガスらしく。凄まじい熱を持ち、猛毒も持つという、悪夢のような代物だという。
この様子では、噴火の度に恐ろしいガスが押し寄せてきているのではないかと、心配になる。
辺りには、外にもいるような獣もいるが。
今、丁度レンプライアが、その側を通り過ぎる。
獣は無視。かなり好戦的な大型の熊なのに。
レンプライアも、相手がいないものとして、扱っているようだった。
それなのに人の姿に近いフーコは攻撃するのか。
レンプライアの正体は、絵に宿る悪意らしいという話は聞くけれど。
この絵を描いた人の悪意は、どんな風に作用していたのか。正直、よく分からない。
ハンドサインで指示を出し合った後、一気にしかけて、獣もレンプライアも、一緒に仕留めてしまう。
今のは弱めのだから良かったけれど。
フーコと一緒に進む度に、どんどん凶悪なレンプライアとの遭遇率が増していく。
駆除しなければ、害を為す存在だ。
とにかく見かけ次第片付けなければならないが。
三度目の、下半身がない牛頭との戦いが終わった頃には、物資が尽きた。
二度目以降は、最初ほど大きいのは出なかったが。それでも万一を考えて、ドナーストーンを惜しみなく使って、速攻で仕留めたのだ。故に物資も尽きた。
フーコを此処に放置して戻る訳にはいかない。
一度フーコと一緒に村まで戻る。地図は覚えたので、次は今回より楽に行けるはずだが。
帰り道も、結局途中、時々レンプライアが出るし。
フィリスさんは一切手伝ってくれないし(たまにレンプライアの攻撃を素手で弾き返したり、襲いかかってきた獣を素手で捻り殺していたが)、行きよりはマシとは言え、帰りも辛かった。
村に辿りついた頃にはへとへと。
ただし、目につく範囲の獣とレンプライアは全部処理したとフーコが説明すると。
村の人達は、喜んでくれたようだった。
まあ、命が掛かっているのだ。
素朴だからというのもあるだろう。
それに、フーコが何かしら特別な立場にいるのも分かる。
ただ、どうしても。ルーシャは黙りこくっていて。それが嫌な予感にしかつながらないのだった。
一度切り上げて。
また三日後に、と言う事で話をする。今回は、先に次の探索予定を話しておく事で手間を減らす。それに道具類を計画的に増やしておくことで、次は更に動きやすくもなるはずである。
レンプライアの上位種には色々驚かされたが。
しかしながら、多少の金銭的損額は被ったものの、人的被害は出していない。
それだけで充分。
初見の、まったく分からない能力持ちが相手だったのだ。
それで満足しなければならない。
アトリエに戻ると。
無心に二人でドナーストーンを作る。材料は、まだまだ山ほどある。安易にブライズウェスト平原に行く訳にもいかないが。
そして、イル師匠の所に行って、宝石を見せる。
ルーペを取りだして確認しつつ、イル師匠は言う。
「カットからして、即座に使えるわね。 これがルビー、これはサファイア、これはエメラルド……金剛石はないわね」
「これ、レンプライアの体から出てきたんですよ」
「恐らく他にも出てくるわ」
「?」
イル師匠によると。
レンプライアが悪意の具現化だとすると。
その体内には、触媒として人間の悪意を増幅させるものが詰まっている可能性が高い、というのだ。
例えば黄金。
見た目が似ていても、ゴルトアイゼンと違って、通貨にしか使えない代物だが。
それでも、多くの人間を喜ばせる。
換金できるからだ。
武器や鎧。
悪意によって相手を殺すためのもの。
身を守って相手を圧倒するためのもの。
人間の営みに必要なものが、悪意の具現化から出てくるのは、不思議では無い、というのだ。
でも、今までのレンプライアは。
そう言いかけて、思い出す。
どんどんレンプライアが強くなっている。
と言う事は、今後は。
更に人間の悪意の産物に近いものが出てくるのだろうか。
強いレンプライアを倒すほど。
宝石は好きだ。
ざくざく宝石が出てくると思うと、嬉しいとも感じる。
だがその正体が、人間の悪意だと考えてしまうと。
ちょっと嬉しさも、四半減してしまう、と言うのが本音である。
人間の悪意の恐ろしさは、あの氷の洞窟の絵で、思い知らされた。
ルーシャを助ける過程で。
自分達の中に宿っていた悪意のおぞましさに、何度も涙した。
ぞっとして、宝石を投げ捨てたくなるが。
イル師匠が、ぴたりという。
「それは出自がどうであろうと宝石よ。 コルネリアの所に売ってもお金には換えられるし、錬金術の道具を作るのにも充分な性能がある。 どんなものでも使いなさい。 事実、今までも獣の毛皮や肉を、色々活用してきているでしょう。 レンプライアがどうそれらと違うと言うの?」
「いえ、違いません……」
「でも、イル師匠。 その、怖い……」
「怖いから何。 恐怖を感じるのは人間なら当たり前よ。 恐怖と上手につきあっていく方法を覚えなさい」
怖いものは、誰にでもある。
最近聞いた言葉だ。
きっとイル師匠にも。
こわごわだが。
聞いてみる。
「イル師匠は、どうやって恐怖と向き合っているんですか」
「……まだ少し早いと思ったから教えていなかったけれど、良い機会だから教えておこうかしらね。 私には絶対に勝てない相手がいる。 それが恐怖よ。 その恐怖と向き合うには、事実を受け入れるしかなかったわね」
「……」
「勿論これは方法の一つよ。 恐怖を克服するのには、色々な方法がある事を認識しておきなさい」
お礼を言うと。
アトリエに戻った。
後は無心に調合を続ける。
この間見た、人形劇が。
良い感じで、心に優しさと勇気をくれている。勿論そんな精神論だけでは解決しない事も分かっている。
ただしそれをいうのであれば。
恐怖も精神論の一種ではないのだろうかとも思う。
レンプライアが悪意の権化だというのなら。
悪意を上手く利用することさえも。
考えなければならないのか。
ぞくりとした。
悪意を、利用する。
そんな恐ろしい事、今まで考えたことも無かったのに。
あまりにもさらりと、心の中にその考えが滑り込んできたからである。悪意を利用するって、どういうことか。
勿論、敵を殺すために、敵の心理を読んで罠を張ったりする。
それについては、散々今まで実地で習ってきた。
だが、それはそれだ。
スールにドナーストーンの作成を任せ。
代わりにリディーが合金を作り始める。
作成の完全許可が出たのだ。
その許可が出た日に、アリスさん立ち会いで、炉を徹底的に綺麗にして。使い方をもう一度徹底的に習い。試運転もしっかりした。
合金を作り始めるリディーを尻目に。
スールは、黙々とドナーストーンを作る。
悪意を利用するという考えを。
リディーに話すべきなのか。
いくら双子でも、話せない事はある。
一番精神的に追い詰められていたとき、リディーの首を絞めて殺そうとしたことまであったけれど。
それを話してはいけないように。
何度となく。スールは思い知らされる。
少し前までの自分が如何にバカで、どうしようもない子供だったか、を。
そして今、必死に一人前になろうとする過程で。
どうしてもどうしようもない恐ろしい現実を徹底的に見せつけられ、それにとても抵抗できていないという事実も。
呼吸を整える。
ドナーストーンは、見た目で分かるように、雷を思わせる意匠をしているが。
これを放り込んだあと、雷撃が爆発するのを見ていると。
むしろ雷撃というのは、ジグザグだとか枝分かれとかではなくて。
動けるところに動いているのではないか、という気もしてくる。
深呼吸をもう一度。
丁度リディーも、ゴルトアイゼンを作った所らしかった。
良い品質の鉱石が、アンフェル大瀑布からはゴロゴロ採れる。今までのシルヴァリアやゴルトアイゼンよりも、数段品質が良い。
シルヴァリアとゴルトアイゼン、ツィンクがめちゃめちゃに混ざっている鉱石もあって。
それらは使う時、熱で最初に分離しなければならなかった。
殺そうとしたことは、とても口にはできない。
だが、この考え、悪意の利用は。
共有しなければならないとも思った。
「リディー、ちょっといい?」
「どうしたの、スーちゃん」
「あのさ、レンプライアが悪意の塊だとするでしょ。 イル師匠は事実を受け入れる事も必要だっていっていたでしょ。 だとすると、悪意を利用する事も、考えなければならないのかな」
「……」
リディーは、拳を固めて俯いているスールをじっと見つめていた。
冷ややかと言うよりも。
哀れみを向けているように思えた。
何だろう。
心の中に。恐ろしい程冷えた何かが浮かんでくる。それは嫉妬だろうか。それとも、怒りだろうか。
どれだけ練習しても絶対に錬金術が追いつかない相手への。
ドロドロした感情だろうか。
失敗しただろうかと思った矢先に。
リディーは言う。
「剣は相手を殺すためのものだよ。 武器はみんな基本的に全部そう」
「そんな事……分かってる」
「悪意の利用も、同じなんじゃないのかな」
「……」
そうだろう。
何となくだけれど。
リディーはそう答える気がしていた。
納得は出来た。
それで今は、良しとするべきなのかも知れない。
とにかく、三日後だ。
また、レンプライアと戦いつつ。
フーコと一緒にドラゴンの様子を見に行く。
気になるのは、ルーシャの様子だ。
どうしてあんな口を引き結ぶような事を。あれでは何か、知っているかのようではないか。
「次の戦いまでに、もう一つ今私がつけているペンダントを作るよ。 スーちゃんも手伝って」
「がってん。 あ、フィンブル兄の分?」
「そうなるね」
「……うん。 そうだね」
フィンブル兄は、元々一傭兵。それも名前が売れている訳では無い。腕は良いかも知れないけれど。良い腕の傭兵止まり。
ドロッセルさんやシスターグレース、それについ最近正式に知り合いになって色々話もしたフリッツさんほどの規格外じゃない。
経済的にも知れているし。
温度緩和の術式を常に掛けられた鎧とか、そういう装備を自前で用意するのは無理だ。
更に言うと、前の戦いでは、そのせいでフィンブル兄に動きの不自由を強いてしまっていた。
今度は此方が手を回して。
戦術の自由度を上げなければならないだろう。
一緒に、フィンブル兄の分のネックレスも作る。
このネックレス、刻み込む魔法陣を強烈に増幅することが出来るから。
範囲内の味方全員の能力を強制的に引き上げたり。
常時回復の空間を周囲に展開したりと言った事が出来るかも知れない。
魔法陣を工夫して、範囲を絞れば。
魔力を極限まで跳ね上げる事も出来るかもしれないし。
リディーにそれをつければ。
強力な能力強化の魔術を。
更に数段、強烈に進化させられる可能性もある。
リディーは広域回復の魔術を覚えたいと前々から言っていたが。
魔力量のブーストが出来れば。
それも不可能ではなくなるだろう。
このペンダントを作るノウハウを蓄積しておけば。
いずれ必ずや、大きな力になってくれるはずだ。それは、確信的に言えることである。だから、ペンチで掴んで。加工するリディーを見守る。
イル師匠に、金属加工の完全許可をせっかく貰ったのだ。
確実に、ものにしていかなければならない。
副産物と言えるのかどうか。
金属加工をしている時、リディーがペンダントをつけていることで。
もの凄い炉の暑さからは。
ある程度解放された。
ただし、下手をすれば手足を失うレベルの大けがをする事に代わりは無い。恐ろしさは嫌と言うほど分かっているので。
常に恐怖とは、向き合い続けなければならなかったが。
一生懸命努力を続けて。
当日までに、ドナーストーンを必要量と。
ペンダントをもう一つ揃える。
実際に使ってみて、効果を確認する。
外は大雨で、雷がドカドカ落ちていて。
相変わらず不安定そのものだったけれど。
それで寒いくらいだったのが。
丁度良いくらいまでに、気温を切り替えることが出来た。
文字通り、抜群の効果だ。
これならば、行ける。
頷いて、準備は整ったと思った。時間的にも、徹夜をしなくても、間に合わせることが出来た。
ただ疲れたので、リディーが出来合いを買ってくる。
近所のパン屋さんがセールをしていたとかで。安くて、暖かくて、美味しいパンを仕入れてくる。
小麦粉はちょっと高い事もあって。
良いパンはそれなりに値が張る。
お母さんがいなくなるまえは。
時々利用していたパン屋さん。
しばらくご無沙汰だったのだけれど、経済的に余裕が戻ってきたから、また利用できるようになりはじめた。
其処で買ってきたパンと、
干し肉、それに卵。
後は野菜を使ったスープ。
随分と食事の品も増えてきた。体も健康になって来た気がする。
ただ、寝る前に、あの恐ろしい邪神像に触るように言われたので、泣きそうになったが。これも仕方が無い。
慣れるんだ。
そう言い聞かせながら、必死に邪神像に触って。体の震えを押し殺す。兎に角今は、この虫嫌いをどうにかしなければならない。
言われなくても分かっているのだ。
今後、巨大なムシの姿をした獣と戦う可能性だって少なくない。実際にも、今までにもあった。
その時、皆の助けがあったから何とかなっていたが。
今後は、怖れずに戦えなければならないのだ。
その事実を、受け入れなければならない。
イル師匠の言葉を思い出しながら。
スールは必死に。
邪神像にさわり。恐怖と戦い続けたのだった。