暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
予定通りの日時にお城のエントランスに集まり。
そしてフィンブル兄にネックレスを渡す。
おうと、フィンブル兄は喜んでくれた。
戦力がこれでますと。
勿論おしゃれなものではないので。
皮鎧の内側にしまうようにして、いそいそと毛皮の中にしまい込んでいたが。
獣人族は、毛皮で身を守っている分。
寒さにはヒト族より強いが。
暑さにはヒト族より脆い一面もある。
更には。これで戦術に幅も出る。
アンパサンドさんが、多少見直したと口で言ったけれど。表情はまったく変わらなかったので。
相変わらずの鉄仮面だなあと思った。
今回はアルトさんとルーシャが揃っている。
フィリスさんもいるが、基本的に降りかかる火の粉を払う以上の事はしてくれないだろう。
後一回か二回。
それで決着を付けなければならない筈だ。
軽く戦術について話す。
灼熱地帯が更に減るので、動きやすくなるのは確実だ。スールもガンガン前衛に出て行ける。
それぞれ守りを固める位置を決めると。
アンフェル大瀑布に入る。
そして、村でフーコと合流。
フーコは。包帯も殆どとれていて、快活な笑みで迎えてくれた。
怪我の跡も残っていない。
ナイトサポートを使ったとは言え。
大した回復力である。
「じゃ、行こう」
「はい! お願いします!」
フーコに笑顔で頭を下げられて、悪い気はしなかった。
そう、この時までは。
手伝ってくれる戦力が単純に増え。
更にルーシャは、この間の戦いでの苦戦が悔しかったのか、傘を強化してきていた。
レンプライアも見かけ次第駆除して行くが。三日前にあの上位種らしいのを三体倒したからか。
前よりはだいぶ少ない。
これは、ひょっとしてかなり楽に、奥にまで行けるか。
そう思っていた。
事実、前回撤退を決めた場所よりも、更に奥に行く時、荷車を確認したが。かなり道具類に余裕がある。
これならば。行ける。
そう判断して、先に進む。
周囲はますます魔境になって行く。
溶岩の川が流れていて。その上に自然の橋が架かっている。というよりも、溶岩が岩の下に穴を開けた感じだ。
「ふーん」
フィリスさんが頷いている。
通れると言われたので、通るけれど。後で聞くと、岩に話を聞いていたという。
これくらいの重さまでは耐えられるよ、上では戦わないでね、とかいうような事を聞かされていたとか。
ギフテッドというのは凄いなあと思ったけれど。
実際、荷車は滑落することもなかった。
また溶岩の滝だ。
先に見た大瀑布ほどではないが。
此処では山が常に噴火し続け。
そして溶岩が流れに流れている、と言う事なのだろう。
恐ろしい話だ。
ただ、そのおかげで。
この世界の範囲は、狭いようにも思える。
何処まで行っても山と溶岩。
入れる所は限られるだろう。
ほどなく。
げっと、マティアスが声を上げる。そして、アンパサンドさんが、前に出て構えをとる。
広い場所に出た。
辺りに散らばっている無数の巨大な獣の骨。
そして、あからさまに巨大すぎる足跡。
嫌な予感しかしない。
その予感は、即座に適中した。
舞い降りてくるのは、翼を持つ巨大なる存在。姿は蜥蜴に似ているが、足は下に出ているし。顔も威厳というか、恐怖を感じるものだった。トカゲが怖くないというのではない。此奴が別格に恐ろしすぎるのだ。
一目で分かる。
ドラゴンだ。
「ドラゴネア……の変種なのです。 肌が赤い」
「こ、この面子なら、ドラゴネアくらい……」
そうマティアスが、アルトさんとルーシャをみるので。流石にちょっと露骨すぎるとスールも思った。
笑顔で、前に出たフーコが、頭を下げる。
「みなさん、ありがとうございました。 これで役目を果たせます」
「……っ」
「役目って、そういえば具体的に何をするの?」
「ドラゴンは人間に対する上位存在なので、我々はその地位確認をするために、定期的に巫女を選んでドラゴンに捧げます。 フーコが巫女に選ばれたのは、とても名誉な事なので、嬉しいです。 次に会うときに身を捧げることになっていたんですよ。 これで役目を果たせます」
絶句。
思考が一瞬、クラッシュした。
目の前が暗くなる。
待って、と反射的に叫んでいた。
ドラゴンは口からよだれを流していて、早く食わせろと促している。
フーコは、ドラゴンに食べられることを、名誉だとまで思っている。
ドラゴンとの共存というのは。
そういう事なのか。
「待って待って待ってっ!」
「?」
「か、仮にそのドラゴンを倒したら、どうなるの?」
「ドラゴンは山の怒り。 自然の力の権化。 一瞬で溶岩が村を押し流し、皆を焼き尽くしてしまうでしょう」
マティアスが、無表情のまま、俯いている。
さてはこの残念イケメン。前に入ったときに、誰か、あの村のフーコじゃない誰かがドラゴンに食われるのを見たな。さっきのは、或いはドラゴンを無力化出来るかと思ったのか、今フーコが言った事を知らなかったのか。
ドラゴンを殺しても一瞬で破滅。
かといって、ドラゴンはエサ……つまり「巫女」との関係性がなくなれば、或いは村を襲って威を示すかも知れない。
リディーが、真っ青になりながらも、手を上げた。
フィリスさんは、薄笑いを浮かべながら、様子を見ている。
それがまた。
とてつもなく恐ろしかった。
「フーコちゃん、ドラゴンと、意思疎通は出来る?」
「はい、出来ますが」
「お願いがあるの。 ドラゴンが、何を望んでいるか聞かせて欲しいんだけれど」
「え? うーん、分かりました」
リディーは怖がっているが。
それでも、ドラゴンを前にして、スールよりはまともに動いてくれた。
ヒスを起こして戦闘を開始するのでもなく。
ドラゴンに為す術無くフーコが食われるのを見ているのでも無く。
フーコが話しかけると。
ドラゴンは、キーンという空気音の後。頭の中に、直接語りかけてくる。
「異邦の民よ。 我はフラン=プファイル。 この土地の支配者であり、この「竜の民」の主である」
「フラン=プファイル……さん。 竜の民を食べるという以外で、上下関係を確立することは出来ないんですか!?」
「この地の理に異邦の民が介入しようというか」
「竜の民も納得しているようではありますが、絶対にいずれ良くない結果になります!」
もし竜の民に、戦える力が備わったりしたら。
竜の民に、誰かがドラゴンを倒せる力を渡したら。
この世界そのものが破綻してしまう。
この関係はいびつだ。
搾取と被搾取だけで成立している。
そう、リディーはゆっくり、言葉を選びながら説明した。フラン=プファイルという赤いドラゴンは、ドラゴンとも思えない理性的な返事を返す。
「では対案は?」
「……っ」
「竜の民が我を崇め、我はそれに何を持って応える。 我の気分次第でこの世界は溶岩に沈むが、我がいなくなってもこの世界は溶岩に沈む。 我は殺されぬ限りは死なぬ」
対案か。
それもそうだ。
何かを解決するには、ヒステリックに噛みつくだけでは駄目だ。何か、対案を示さなければならない。
スールはバカだ。
何も思いつかない。
拳を固めているスールの前で、リディーは言う。
「三日だけ、時間をお願いします」
「ほう」
「竜の民を食べずとも良く、竜の民も納得出来る。 そんな案を考えてきます」
「面白い。 我も退屈していたところだ。 せめて我を楽しませよ」
ドラゴンが飛び去る。
フーコが、不思議そうに言う。
「ドラゴンに巫女として食べられることは、ドラゴンと一つになる事、つまり意思を通わせることで、とても名誉な事なのですが……どうしたんですか?」
「な、なんでもないよ……大丈夫、だから」
「?」
まったくフーコは分かっていない様子で小首をかしげる。
フィリスさんは、恐ろしい程冷たい目で此方を、薄笑いのまま見ていた。
さて、どうする。
この間のトカゲの王と違い、今回は相手が何が欲しいかという、具体的な話さえもしていない。
そしてあのドラゴン、フラン=プファイルはこの世界の法則。殺せば絵の世界が終わるというのも、多分事実だろう。
完全に理屈が違う世界なのだと。
徹底的に思い知らされる。
それでも、何とかしないと。
「辺りにいるレンプライアを狩るだけ狩ったら、フーコちゃんを村まで守って引き上げます」
リディーが言うと。
マティアスが頷き。アンパサンドさんが、しばししてから頷いていた。
フィンブル兄が、ぽんとスールの頭を叩く。
「大丈夫だ。 リディーを信じろ。 お前自身も信じろ。 フーコをドラゴンの餌になんかしなくてもいい方法が、絶対にある筈だ」
唇を、血が出そうなほど噛みしめながら頷く。
これほど悔しく、悲しい思いは。
ひょっとして、お母さんが死んだとき以来かも知れない。
死ぬ事を何とも思っていないフーコが痛々しすぎる。法則が違う世界だからと言って、こんな事許されて良い筈が無い。
絶対に何とかする。
決意を、スールは固めていた。
(続)
ルールが全く違う世界で、自分のルールを通す事。
相手も納得している状況で、自分のルールを通す事は、一歩間違うと押しつけになります。
それが碌な事にならないのは色々な事例が示しています。
上手く双子は悪習をどうにか出来るのでしょうか。