暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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絵画世界という異世界とはいえ、あからさま過ぎる悪習に直面した双子。

悪習ではありますが、かといって代案を出さなければ意味がありません。

苦悩の末双子は、周囲に頼る事にします。

それだけでも、双子は少しずつ成長できているといえます。


広がり始める闇
序、解決の糸口を探せ


アンフェル大瀑布の中にある村にまで戻る。その途中、危険地帯を通っているとは言え、ずっとぴりぴりした空気が漂っていた。

 

フーコは小首をかしげていて分かっていない。

 

でも、これは。

 

絶対に解決しなければならない問題だ。

 

この絵の中には、ドラゴンと人の共存という可能性がある。

 

でもそれは、ドラゴンにイケニエを捧げるという形で、恭順する形であってはならないはずだ。

 

恭順までは百歩譲っても。

 

イケニエは絶対に認められない。

 

村まで戻ると。

 

フーコに一旦戻って貰い、マティアスさんを問い詰める。

 

「マティアスさん、知っていたんですね」

 

「どうなの、マティアス!」

 

「……ああ。 俺も前にこの絵に入ったからな。 何の躊躇も無くイケニエになる村の「巫女」を見て、ぞっとした。 今回は、或いは倒せばと思ったんだが、そもそも倒しても駄目って聞いた時には、目の前が真っ暗になった」

 

「ふふ、しっているかい。 ドラゴンは、この絵の外……僕達の世界でも、世界に一定数が常に存在していると言われているんだ」

 

不意に話に入り込んで来たアルトさんが。

 

絶望的な事を言う。

 

それは、本当なのか。

 

それでは、例えドラゴンを倒せたとしても。

 

此処と同じというのか。

 

「勘違いしないで欲しい。 ドラゴンと言っても、積極的に人を襲いに来る奴から、射程距離内に入らないと襲ってこない奴まで、色々個体差がある。 外では優れた錬金術師達が、危険な性格のドラゴンを間引いて、現在の比較的安全な状況にまで持ち込んだんだよ、何百年も掛けて。 とはいっても、それでも時々ドラゴンは予想外の行動に出るし、被害も出るんだけれどね」

 

「……どうにもできないって言うんですか」

 

「さあね。 僕が知らない何か方法があるのかも知れない」

 

ルーシャを見る。

 

悔しそうに俯いていた。

 

この様子だと、ルーシャもやはり知っていたのだ。

 

ルーシャも最初からランクを与えられていたとは言え、低ランクからだった。つまりこの絵には入っている筈。

 

ならば、見たのだろう。

 

嬉々としてドラゴンに食われる「巫女」を。

 

絶対に。

 

これ以上、犠牲は出してはならない。

 

そう、覚悟を決める。

 

冷めた声で。

 

むしろ楽しそうにフィリスさんは言う。

 

この人、血は通っているのだろうか。

 

「で、どうするの?」

 

「村で、ドラゴンについて確認します。 その性質から何まで。 何か知っている人が、いるかも知れないので」

 

「それじゃあ手分けして聞き込みだね」

 

「フィリスさんもお手伝い、お願い出来ますか?」

 

きょとんとした後。

 

ふふっとフィリスさんは笑う。

 

「わたしは監視役だよ?」

 

「絵の中の存在とは言え、人命が掛かっているんです……! お願いします」

 

「んー、どうしようかなー。 試験は試験だしなあ」

 

「……っ!」

 

スールはどうしてだろう。

 

真っ青になって震えあがっていて、会話に参加してこない。いつもだったら、真っ先にブチ切れそうなのに。

 

ともかくだ。

 

今は時間が惜しい。

 

「それなら、他の人達、お願いします」

 

「分かったよ。 僕は手伝おう」

 

「俺様も、この村の可愛い子達がこれ以上殺されるのは嫌だしな。 手伝うぜ」

 

「自分も」

 

フィンブル兄は、無言で動いてくれたし。

 

ルーシャは無言のまま、オイフェさんと一緒に聞き込みにいく。

 

フィリスさんは、少し村から離れると、其処で座って笑顔で様子見。なお、レンプライアが後ろから襲いかかったが、振り向きさえせず裏拳一発で塵にしてしまった。一応レンプライアを処理してくれているので文句も言えない。

 

一瞥だけして、スールと一緒に聞き込みに行くが。

 

途中で聞いてみる。

 

「ねえ、スーちゃん、どうしてさっき黙ってたの?」

 

「ばかっ!」

 

「ど、どういうこと!」

 

「分かってなかったの!? フィリスさん、多分これ以上洒落臭い事いうようだったら、リディーとスーちゃん殺すつもりだったんだよ!」

 

青ざめて、立ち尽くす。

 

スールが此処まで怯えていると言う事は。

 

勘で察知していた、と言う事だ。

 

フィリスさんは、口の利き方がなっていないリディーに腹を立てていて。

 

場合によってはその場で塵にするつもりだった、と言う事なのだろう。

 

今更ながら。

 

膝が笑い始める。

 

あの人が本気になったら。

 

そう、ネームドをゴミのように蹂躙するほどの実力者で、しかも遊びながらそれをやるほどの人。イル師匠と同格の三傑の一角、破壊神とまで言われる程の人だ。屈強な人夫数十人分の働きをしているのを、インフラ事業の時見たではないか。それこそ、今のリディーとスールの首を折るくらい、瞬く間もなくやるはずだ。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「……こっちこそ、取り乱してごめん」

 

「まず今は、話を聞こう?」

 

「うん……」

 

スールを促して。

 

村の中で聞き込みを開始する。

 

順番に話を聞いて、少しでもドラゴンの情報を集めなければならない。

 

まずそもそも、どうしてドラゴンが、この村の人間をイケニエとして食らうようになり。この村の民もそれを受け入れたのか。

 

どうすれば対応策を講じられるのか。

 

死ぬのは怖くないのか。

 

いろいろ聞いていく。

 

そして聞けば聞くほどわかってくるのは。

 

対策の方法がない、ということだった。

 

そもそも話を聞くと、この村の民は、常に一定数が保たれているという。誰かが死ぬと、即座に村の中に別の新しい誰かが出現するというのだ。

 

聞いたばかりだ。

 

ドラゴンは常に世界に一定数が保たれていると。

 

この世界では、この人たちがそうだ、というわけだ。

 

ドラゴンと人間の特徴をそれぞれ持った結果。

 

こういうことになったのかもしれない。

 

そして皮肉にも。

 

村に同じ見かけの女性しかいないこともこれで説明がつく。ここの村の人たちは、互いに見分けがつくようだが。

 

どう客観的に見ても。

 

それほど大きな差があるとは思えないのである。

 

それでは死に鈍感になるわけだ。

 

火山が噴火して、村が壊滅したらさすがにどうにもならないだろう。

 

ドラゴンが死んだ場合がそれに該当する。

 

こんな世界は滅びてしまえ、というのはさすがに傲慢である。

 

だってこの村の人たち。

 

リディーが暑いを通り越して痛いと思うほどの灼熱の中でも。

 

みんな笑って楽しそうに暮らしているのだ。

 

価値観も。

 

生き方も。

 

何もかもが違うのである。

 

そういう異世界なのであって。

 

ドラゴンに定期的にイケニエを支える事には何の疑問も持っていないし。この村に住む人達にとっては、それが当たり前であって。不思議な事でさえない、と言うことなのである。

 

其処へ、リディーとスールの理屈を無理に持ち込んでも。

 

上手く行くはずが無い。

 

勿論、どう客観的に見ても、この関係はいびつだ。

 

是正しなければならない関係だ。

 

外の世界と違って、此処のドラゴンは必ずしも究極の害獣、というわけではない。むしろ世界にとっての神に等しい。

 

だが、会話は出来た。

 

対案があるならば聞こうとも言われた。

 

それならば。

 

村の人に負担も掛からず。

 

ドラゴンも満足する方法を考えつけば。

 

このいびつな搾取によって成り立つ世界を。

 

或いはどうにか出来る可能性も出てくるのではあるまいか。

 

スールが戻ってくる。

 

「リディー、どう? 収穫は……」

 

「ごめんなさい、こっちは駄目みたい」

 

「そう。 スーちゃんもあまり良い話は聞けなかったけど」

 

「詳しく何か教えて」

 

リディーは勘は鋭いが、頭そのものは自覚するほどあまり良くない。ならば話を聞いてみる価値はある。

 

自分が見つけられていないだけで。

 

何かヒントがあるのかも知れないからだ。

 

一通り話を聞いてみる。

 

ドラゴンは何が好きか。

 

一つだけ、それに相当するものがあった。

 

「イケニエ以外に何をドラゴンが食べているのかを聞いてみたんだけれど、主に溶岩だって」

 

「溶岩を好物にしている」

 

「そうみたい」

 

「……」

 

考え込む。

 

何だか妙だ。

 

溶岩なんて食べて、栄養になるのだろうか。

 

それはひょっとすると、神としての存在をアピールする行為なのではないだろうか。

 

この村の人達でも、この世界を覆い尽くしている溶岩には流石にひとたまりもない。

 

ドラゴンは溶岩さえ平気で食べる。

 

それ自体が、神の証明となっているのであれば。

 

何か、思いつくかも知れない。

 

神は村の人達に、平和な暮らしそのものを与えている。

 

事実、村の外に凶暴な獣は出るが。

 

村の中に押し入ってくると言う話は聞いていない。

 

レンプライアですら、村の中には侵入しない様子だ。

 

となると、恐らくドラゴンの神としての威光は絶対であり。その影響力は、この絵全てに及んでいると言う事だ。

 

ルーシャが戻ってくる。

 

話を聞いてみるが、首を横に振られた。

 

そうか、仕方が無い。

 

程なく、他の皆も合流した。話は一通り聞いたと言うことなので。

 

一旦フーコに話をして、絵から出る。

 

そしてエントランスで、軽く話をした。

 

まずはアンパサンドさんとフィンブルさんに。

 

「三日後にまたお願いします」

 

「分かったのです」

 

「俺はかまわないが……何とか出来るのか?」

 

「というか、次で最後ね」

 

フィリスさんの冷酷な宣告が入るが。

 

頷くしかない。

 

逆らうという選択肢は無い。

 

フィリスさん自身も、インフラ整備の作業で毎日忙しいのに、時間を割いて来てくれているのである。

 

そしてフィリスさんがインフラを圧倒的豪腕で整備することで。

 

どれだけの人が平穏に暮らせるか分からない位なのである。

 

出来の悪いリディーとスールのために、いつまでも時間を割くわけにはいかない。

 

当たり前の話である。

 

フィリスさんが行った後。

 

皆に、村で聞く事が出来た話を順番に聞いていく。

 

流石に状況が状況だからか。

 

マティアスさんさえも、今回は真面目に話をしてくれた。

 

しかしながら、そもそも村の人達は、状況を受け入れていて。

 

世界の理を、おかしいと思ってもいない。

 

ルーシャの表情からして。

 

ルーシャも対策は考えたはずだ。

 

どうにもならなかった、と言う事なのだろう。

 

「新しい情報はないね……」

 

「そういえば一つ、気になる事を聞いたんだ」

 

「えっ?」

 

「ドラゴンが話をしてくれたらしいんだが、溶岩は適温、人間の肉は冷たい。 冷たい食べ物をたまに食べるのもいいってな」

 

マティアスは、それをさらっと言ってから。

 

じっと見ているリディーとスールに気付いて、青ざめる。

 

「い、いや、すまん。 配慮に欠けるなとは思う」

 

「……ううん、マティアスさん。 他にも何か無い?」

 

「いや、俺様はこれくらいしか」

 

「自分が聞いた話では、ドラゴンは溶岩を好物にする以外にも、獣も普通に食べるそうなのです」

 

それはそうだろう。

 

アンパサンドさんの言葉には、あまり魅力を感じなかったが。

 

スールがそれに食いつく。

 

「そういえば、リディー、ドラゴンは、人間を美味しいって一度でも言ったっけ」

 

「!」

 

「人間を美味しいってドラゴンが食べるっていうような話、誰か聞いている?」

 

スールが見回すが。

 

誰もそれに応えはしない。

 

つまり、ドラゴンにとって。

 

人を食べると言う事は、単なる地位確認であって。

 

別に美味しいから食べているというわけでは無い、と言う事だ。

 

そして多分だけれども。

 

村の人達にとっても、他の形で地位確認を出来るのであれば。

 

何もドラゴンにイケニエを毎度捧げる必要はないのではあるまいか。

 

突破口が見えてきた。

 

一旦解散する。

 

エントランスから、荷車を押して引き上げる最中。ルーシャが、手伝ってくれた。珍しくアトリエまでついてきたので、何か話があるんだろうと思って、黙って待つ。もうルーシャに対する侮蔑は一切無い。

 

コンテナに回収した鉱石などを格納し。

 

フィンブル兄やマティアスさんが帰って、ルーシャとオイフェさんだけが残ると。

 

ルーシャは少し悲しそうな目で言う。

 

「本当に、どうにかするつもりですの?」

 

「ルーシャも……なんとかしようとしたんだよね」

 

「ええ。 わたくしの時はドラゴンを二日がかりで説得しようとしましたのよ。 しかし、相手は聞く耳を持ちませんでしたわ。 この世界はこれで上手く行っているのに、どうしてそんな話を聞かなければならない、と。 確かに正論ではありましたけれど、その後嬉々としてイケニエになった子のことを思うと」

 

ルーシャが顔を手で覆う。

 

オイフェさんが背中を撫でるが。

 

体を震わせているルーシャに。

 

掛ける言葉なんて、見つかるはずがなかった。

 

つまり言葉による説得は無理だ。

 

そういえば、以前ぷんぷん怒りながら、パイモンさんがエントランスから出てくるのを見た事があったが。

 

あれはひょっとして。

 

アンフェル大瀑布の真実を知ったからではないのか。

 

パイモンさんは、アンチエイジングまでして、出身の村のために尽くそうとしたほどの人である。

 

きっと、ドラゴンにイケニエを捧げるという行為に。

 

相当に思うところがあったのだろう。

 

他にも、あの悪習に怒りを感じた人はいたのだろうか。

 

フィリスさんは平然としていたが。

 

あの人は何というか、もう色々ねじが外れてしまっている印象を受ける。

 

と言う事は、だ。

 

いずれにしても、今まで、アンフェル大瀑布のいびつな関係を改善出来る可能性がある人はいても改善しなかったし。

 

改善しようとしてあがいた人もいたが、それでもどうにもならなかった。

 

そういう事なのだろう。

 

だが、突破口はあると思う。

 

ルーシャにも話を聞いて貰う。

 

「ドラゴンは地位確認のためにイケニエを食べているのであって、別に人間なんか食べなくても生きていける。 それは確認できたと思うの」

 

「それは、知っていましたわ」

 

「うん、それでどうするの?」

 

「ドラゴンは人間の上位に立ち、世界を管理する。 人間はそれに従い、ドラゴンを崇拝する。 この関係性が、アンフェル大瀑布の構造そのもので、これを壊してしまうときっと中に住んでいるフーコちゃん達みんなが死んでしまうと思うんだ」

 

思う、ではなくほぼ確実にそうなる。

 

あの絵を描いた人は、或いは。現実のドラゴンと戦い、そのあまりの圧倒的な強さに、恐怖を抱いてしまった錬金術師なのかも知れない。それを責めるのは無理だ。ドラゴンと戦える錬金術師なんて、世界中を探しても一握りだと聞いている。

 

「その関係を崩さずに、ドラゴンも満足して、村の人達も死なずに済む方法を探さないといけないと思うの」

 

「具体的には?」

 

「……ルーシャ、知恵を少し貸して」

 

「イルメリアさんではなくて、わたくしでいいんですの?」

 

頷くと。

 

目をまだ擦っていたルーシャは、嬉しそうに笑みを浮かべて、頷いてくれた。

 

さて、此処からだ。

 

現実世界と違い。

 

あの絵の中にいるドラゴン、フラン=プファイルは、会話も出来れば理性もある。それならば、できる事はあるはず。

 

時間は限られている。

 

勿論イル師匠にもレシピは見てもらうが。この考えは。間違っていないはずだった。

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