暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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アダレットでは昔ある事件が起き、それで錬金術師が迫害されました。この世界では錬金術が最大の人間の天敵であるドラゴンや邪神に対応するための切り札になるというのに、です。

その結果、アダレットは一時期国家の存続すら危うい状況に陥ったほどです。

そのアダレットの崩壊を食い止めたのが、先代の騎士団長。

人間四種族の中で、もっとも戦闘に優れている魔族の中の、更にレアな種族である巨人族の伝説的な騎士だった人物です。

それから時間を掛けて少しずつ状況を改善してきたアダレットは、ミレイユ王女の辣腕によって現在錬金術師の優遇策を漸く採ろうとしています。


2、箱の中の楽園

リディーはスールと一緒に、アトリエランキング制度の紙を持って、王宮に出向く。

 

既に山師を含めて、よく分からない人も何人か来ているようだったが。それらの人は、さっといなくなっていった。

 

つまり何かしら、錬金術師とも呼べないような人間は、門前払いする仕組みがあるという事だ。

 

それは当然だろう。

 

今、アダレットを統治しているのは、「血染めの薔薇竜」とも呼ばれる女傑、ミレイユ王女だ。

 

今はまだ王様が幽閉されている状態なので「王女」だが。

 

その内強制的に王様を退位させて女王になると言われている。実のところ退位はさせているのだけれど、正式な「即位」をしていないので、未だに王女だそうだ。この辺り、国の面倒な決まりがあるのだろう。

 

この国の人は、誰も先代の王様が戻ってくる事なんて望んでいない。

 

国が腐っていたら望んでいる人もいたかも知れないけれど。腐った役人もそれと連んでいた商人もミレイユ王女が全部掃除してしまった。だから血染め。だけれども、その血染めがなければ、税金ばっかり取られて、恐ろしい獣や匪賊から皆を守るための街を壊して「美しくする」なんて事は、とまらなかったのだ。

 

血染めかもしれないけれど。

 

みんなミレイユ王女には感謝しているし。

 

その辣腕も知っている。

 

そんなミレイユ王女が盗人に都合が良い仕組みなんて作る訳がない。

 

受付で、軽く話をすると。

 

受付にいるホムの、モノクロームをつけた役人は身柄を照会した後。奥に一旦消えていった。

 

そういえば先代の王様の時は、おべんちゃらが得意な役人ばかりを重用していたらしいけれど。

 

今では有能な事で知られるホムが、役人としてかなり活躍しているらしい。

 

まあ、噂に過ぎないけれど。

 

確かに今みたいに、ホムが役人として仕事をしてくれれば、がっちり国は回ってくれると思う。

 

そして代わりに現れた人を見て。思わずリディーは息を呑んでいた。

 

無能な前の王様、実の父親を玉座から追い払い。

 

圧倒的な豪腕でこの国をまとめ上げた女傑。血染めの薔薇竜、ミレイユ王女。鎧はつけていないが、最小限の化粧だけして、豪華すぎない動きやすい絹服で、それでいながら圧倒的な炸裂するような迫力を放っている。

 

容姿の美醜とは関係為しに、オーラが違う。いや、凄く綺麗な人だけど、ただの飾りの美貌ではない。美しい金髪も、整った顔立ちもメリハリの効いた体型も。オーラの飾りにしかなっていない。

 

多分、背負っているものが違う。

 

味わって来た経験が違いすぎる。

 

ぞくぞくした。恐い、という意味でだ。

 

この人は綺麗だけれど、そんな事は関係無い。竜と言われるのも納得だ。

 

「貴方たちがロジェ師の娘ね。 自己紹介の必要はあるかしら」

 

「ひいっ! あ、ありませんっ!」

 

「ス、スーです! よろしくお願いしますっ!」

 

失礼なことをほざきまくるスーちゃんだけれど、今日は流石に違う。

 

この人の機嫌を損ねたら、文字通り一瞬で首が飛ぶ。翌日には城壁の外で獣に死体を荒らされているだろう。

 

なるほど、そういう事か。

 

これでは、山師の類が逃げる訳だ。文字通り国を掛けたプロジェクトで、故にこの人が主導しているというのだろう。

 

「アトリエランク制度については、読んできましたね」

 

「はいっ。 アトリエとして実績を上げていけば、国として補助金を出してくれる制度だって」

 

「生活が苦しいもので……」

 

余計な事をスールが言いかけたので、脇腹を小突くが。

 

笑いを維持したまま、ミレイユ王女は言う。

 

さっきより更に恐い。

 

「元々アダレットは錬金術師が少なく、此方でも事情は把握しています。 腕利きで知られ、一族でもトップと言われたロジェ師の没落は悲しい限りです。 貴方たちには、その挽回を願います」

 

「は、はあ」

 

一族。

 

なんだろう。

 

リディーは小首をかしげそうになったが。

 

すぐに咳払いを受けて、背筋を伸ばす。

 

真っ青になったスールは、ずっとブルブル震えていた。

 

勘が鋭いスールだ。

 

とんでもなく怖い人の前にいると、肌身で感じている、と言う事なのだろう。リディーでさえ恐いくらいなのだから。

 

「まずは試験を受けて貰います。 その試験を突破したら、アトリエランク制度への参加を許可します。 ランクは8段階。 Gが最低ランク、FEDCBAと上がっていって、Aの上のSが最高ランクです。 なお、貴方たちは実績がないため試験を受けて貰いますが、ラスティンから招いている錬金術師の中には、飛び級で高ランクに最初からなって貰っている方もいます」

 

「飛び級、ですか」

 

「既にラスティンから招いて、多くの実績を上げて貰っている方々です。 世界の宝とも言われる錬金術師が既に数名来ています。 その方々はあくまで牽引役。 この国で実力を持つ錬金術師を育てるために、指導を兼ねて来ていただいている方々です。 くれぐれも失礼がないように」

 

最後の所を強調されたので。

 

また背筋が伸びる気がした。

 

試験の内容については、おって伝える、と言う事だったが。

 

それと同時に、もう一つ伝えられる。

 

「貴方方は、実績さえ上げていませんが、それでもアダレット出身の貴重な錬金術師である事には変わりはありません。 近々護衛を手配します」

 

「護衛、ですか」

 

「資金面の援助はそれほど大規模にはできませんが、騎士を二人つけます。 意味はわかっていますね」

 

「はいっ!」

 

やっぱり一言一言が恐い。

 

騎士を護衛につけるのだ。

 

実績を上げろ。

 

そう厳しい言葉を浴びせられている、という事である。

 

だが、リディーとスールは、最低限の薬もまともに作れない腕前だ。

 

やっぱり感じていたように。

 

師匠になる人が必要だ。

 

「何か質問は」

 

「え、ええと。 そのラスティンの凄い錬金術師さんに会えますか」

 

「ええ。 それがどうかしましたか」

 

「その、情けない話ですけれど、私もスーちゃ……妹も、独学では限界を感じていましたから、その……」

 

しらけた目で見られる。

 

息を飲み込みそうになるが。

 

堪える。

 

呆れられていることは分かったが。

 

此処で露骨に怯えたら、王宮からつまみ出されるかも知れない。そうしたら、試験どころじゃあない。

 

「良いでしょう。 手配はしておきます」

 

「有難うございますっ!」

 

「それでは下がりなさい。 試験内容については後日連絡します。 その時に、錬金術師についても話をしておきましょう。 護衛についても、詳しい内容は一緒に知らせます」

 

後は有無を言わさず、帰る事になった。

 

リディーは、城を出ると。

 

腰が抜けそうになる。

 

相手がいつでも此方を殺せる事は分かっていたし。

 

何よりもだ。

 

ずっと見られていた。

 

事情は知っていると言っていたからには、当然知っていたはずだ。

 

リディーとスールが、まだ半人前以下だという事を。

 

お髭の目立つ中年に足を踏み入れたばかりの錬金術師が、城に入っていく。堂々とした人物で、年を重ねるべくして重ねたという雰囲気があった。山師では無いだろう。従騎士らしい城の衛兵が挨拶をしている。

 

「パイモンどの、朝早くからお疲れ様です」

 

「うむ。 依頼されたものを納品に来た。 品を確認して欲しい」

 

「わざわざ城までですか。 ありがとうございます」

 

パイモンと呼ばれたおじさんが、指を鳴らすと。

 

自動で荷車が此方に来て。

 

荷物を、魔族も含む騎士達が改め始める。

 

薬に爆弾、それに武器もあるようだった。おおと、声が上がっている。

 

「今活動しているヴォルテール家だけでは手が足りないという声が上がっていたところです。 質もヴォルテールのものにまるで劣りません。 助かります」

 

「そうか、此方も被害を減らせるならなんでもしよう。 勿論討伐任務にも声を掛けてくれ」

 

「分かりました」

 

隠れて見ているしか無い。

 

あの人は、多分相当な凄い錬金術師だろう。

 

騎士団の反応からしても、それがすぐに分かる。何しろ騎士団が腰を低くして、心からの感謝を述べているのだ。

 

「あのおじさまに頼んでみる?」

 

「リディー、時々バカだよね」

 

「何よ」

 

「あのおじさん確かに凄そうだけれど、私達みたいな小娘弟子に取ったら、どんな噂が流れるか分からないよ。 ただでさえこの国じゃ錬金術師の立場が悪いのに」

 

「あ、そっか……」

 

リディーは時々抜けていると言われる。

 

勘が鋭いスールは普段は頭が良くないが。妙なところで切れる。二人揃って一人前なんて言われるのは、それが理由だ。

 

「女の人の錬金術師を探すしかないね」

 

「うん。 スーちゃん、時々本当に鋭いね」

 

「リディーが肝心なところで抜けてるんだよ」

 

「そうかも知れないけど」

 

これで、もう少し真面目に家事とかやってくれれば。

 

溜息をつきながら帰宅。

 

とにかく疲れ果ててしまったので。その日は適当に夕食を食べる。貰った兎の肉の燻製がまだ残っていたので。

 

それと野草を炒めて、食べてしまった。

 

お父さんは帰ってきていたけれど。

 

地下室に籠もりっきり。

 

顔もあわせなかった。

 

ベッドで寝る。

 

アトリエはそれなりに広く。

 

今は極貧生活をしているけれど。

 

昔は違ったと言うことが良く分かる。

 

ベッドもそれなりに広くて。

 

少なくともお父さんのと。リディーとスールが使うのと。二つのベッドがきちんとある。

 

勘が鋭いスールは特に消耗したからだろう。

 

ベッドに横になると、すぐにこてんと落ちてしまった。

 

お母さんに絵本を読んでとねだっていた頃の事を思い出す。

 

あの頃は。

 

リディーも幸せだった。

 

お母さんの手は柔らかくなくて。

 

戦士の手だったけれど。

 

それでも嬉しかった。

 

スールに銃の使い方を教えてくれたのはお母さんだ。

 

弾もまだまだたくさん残っている。

 

でも、弾は確か結構高いと聞いている。

 

すっかりケチになったスールも、弾を売り払おうという話だけはしない。外で身を守るために、最後に必要になることを、良く知っているからだ。

 

ほどなく、リディーも眠くなってきたが。

 

不意に声がまた聞こえた。

 

地下室の方から。

 

お父さんの声じゃない。

 

しかも断片的な声だ。

 

何だろう。

 

分からなかったけれど。

 

ただ、酷く懐かしい。

 

そんな気がした。

 

疲れていたのだろう。いつの間にか眠ってしまったけれど。はっきり分かっていることがある。

 

あの声は幻聴ではない。

 

起きだして、朝ご飯を何とか無い材料から四苦八苦して造りながら。

 

リディーは、何か嫌な予感を覚えていた。

 

 

 

お父さんがまた浪費していた。絵筆と絵の具に、生活費をつぎ込んでしまっていたのだ。

 

お父さんと話しても無駄。

 

リディーとスールの共通認識である。

 

昔だったら違っただろう。

 

お母さんが生きていた頃のお父さんは、本当に立派な錬金術師で。とても穏やかで優しかった。

 

今は荒れている。

 

暴力さえ振るわないけれど、リディーとスールの言葉は届かない。

 

最初はショックで散々泣いたけれど。

 

涙が涸れると、すっと愛想が尽きた。

 

だから、もう何も期待していない。

 

仕方が無いので、クソ親父ダメ親父と罵るスールを引っ張って、仕事の掲示板を見に行く。

 

毛皮の納品のお仕事があったので。

 

あのアンパサンドという騎士の人に分けて貰った兎の皮を納品してしまう。

 

思った以上に良い値段になったので驚く。

 

外に出ると言うことは、それだけリスクが伴うのだけれど。

 

アンパサンドさんの処置が良くて、毛皮の状態が凄く良かったのが原因でもあったらしい。

 

手放すのはもったいなかったかな。

 

そう思ったけれど、背に腹は替えられない。

 

悪い事に、今日は粗悪品でも良いお薬の依頼はなかったのだ。

 

一瞬、一番お父さんがダメになっていたとき、世話になっていた救貧院のシスターの所に仕事がないか聞きに行こうかと思ったが。

 

それはいくら何でもプライドが許さない。

 

泣いてばかりだったリディーを励まして、立ち直らせてくれたシスターグレースは、本当に良い人だった。

 

元々歴戦の傭兵だったらしいのだけれど。

 

やんちゃなスールに戦い方の基礎を教え直してくれて。

 

それでスールも立ち直るのが早まった。

 

そんな大恩人に。

 

金を集るなんて、許される訳がない。

 

そして、救貧院を兼ねている教会には、訳ありの子供。主に親を失った孤児がたくさん生活している。

 

彼らのためになるものを。

 

今のリディーとスールでは作れない。

 

たまに、世話になった教会に、子供達のためにと寄付をして行く出身者もいるらしいのだけれども。

 

今のリディーとスールでは、生きていくので精一杯。

 

とてもではないけれど。そんな余裕などありはしなかった。

 

あんなにお世話になった教会に粗悪品の薬なんて納入できない。

 

人として絶対に超えてはいけない線くらい。

 

リディーだってわきまえているつもりだった。

 

「ねえリディー」

 

「なあにスーちゃん」

 

「あのさ、爆弾作ろう」

 

「この間、アンパサンドさんに言われた事?」

 

スールは頷く。

 

確かにその通りだ。ホムにしては暗い目をしている人だったけれど、あの人の言う事は正論だった。

 

お母さんも言っていた。

 

正論は耳に厳しい言葉がとても多い。

 

だけれども、正しいから正論なのだと。

 

王様は正論を聞けるようなじゃないと、とてもではないけれど王座に座る資格は無いし。

 

普通の人でも、正論をきちんと聞けるようなじゃなければ、バケモノになってしまう。

 

だからリディー、スール。

 

正論を言われたら、反論をするのではなくて。

 

その言葉が正しいのか考えて。

 

そして正しいなら、どんなに苦しい言葉でも、きちんと飲み込むようにしなさい。

 

そう何度も言われた。

 

スールはきちんと、飲み込んでいると言う事だ。

 

「でも、爆弾難しいし、危ないし……」

 

「やってみようよ。 この間、騎士が出てくれたのは事実だし、今後は専門の護衛がつくって話なんだよ。 今後は森の中なんて安全な場所じゃなくて、騎士でも危ない場所に出ることだって増えるでしょ」

 

「それはそうだけれど、スーちゃん、釜を何度爆発させ掛けたか、覚えてる?」

 

「うっ……」

 

爆弾は。

 

師匠ができてからにしよう。

 

そう決める。

 

そして、判断をする。

 

「師匠になってくれる人をまずは探そう。 その間数日はあると思うから、また外に行って材料集めて、お薬を少しでも上手に作れるようにしよう。 前にルーシャが言ったこと覚えてる?」

 

「ええと、はんぷくれんしゅうとふくしゅう?」

 

「そう、反復練習と復習が、結局は近道だって話をしていたよね。 悔しいけれど、事実だと思う。 生活に一杯一杯で、それさえロクにできていなかったし。 それに、古いけれど参考書もある。 もう一度読み直して、しっかり勉強しよう」

 

「本やだあ……でも仕方が無いよね」

 

スールがだだをこねかけるが。

 

しかしながら、それでもその言葉を飲み込んだ。

 

お母さんがいたら何というか。

 

二人とも、そう考えるように常にしている。

 

お父さんがあんなになってしまった今。

 

二人を支えているのは、もういなくなってしまったお母さんなのだ。

 

一度家に戻る。

 

いつも作っているお薬のレシピをもう一度読んだ後。

 

どうして今までロクな薬が作れなかったのか、きっちり調べ直す。

 

幾つも原因は出てくる。

 

分量がいい加減。

 

ロクな中和剤を使っていない。

 

薬に使う薬草の葉脈などを丁寧に取り除いていない。

 

更には、使っている器具を、きちんと蒸留水で洗浄していない。

 

素材の質が低い。

 

全部クリアするのは大変だけれど。

 

やるしかない。

 

リディーは少しは魔術が使える。

 

教会でシスターグレースが。正確には、シスターグレースの指示で、何人かいるシスターの内、猫顔の獣人族シスターが教えてくれたのだ。獣人族は魔術に関してヒト族に劣るが、あの人は魔術の名手で、教え方も上手だった。回復魔術一本でやっているという話だったし。

 

少なくとも、あの人の回復魔術を超えられなければ。

 

薬として納品はできないだろう。

 

子供達が使うのだ。

 

それを考えると、とてもではないが。恥ずかしくて、そんな事は出来なかった。

 

まず、蒸留水を作ろう。

 

幸いコンテナはある。

 

内部に強力な魔術が満たされていて、中に入れてしまえばまず品質は落ちない。

 

何にでも蒸留水は使う。何度も蒸留すれば、質はどんどん上がっていく。質の高い蒸留水で丁寧に器具を手入れすれば、手入れするだけできる薬の質だって上がる。

 

錬金術師だったら基礎の基礎。

 

ルーシャに前、馬鹿にされながら言われた事だ。

 

でも事実だと思う。

 

ならば、それをしっかり守って行くしか無い。

 

「スーちゃん、お湯湧かして。 蒸留水、今のうちにできるだけ作ろう。 それも一回湧かすだけじゃなくて、今回から蒸留水を更に蒸留しよう」

 

「ええー、面倒」

 

「そう思ってたから、薬がダメだったんだよ」

 

「うっ……分かったよう」

 

スールを急かして、黙々と湯を沸かす。

 

湯を専門の器具で捕らえて冷やし。蒸留してできた水で、まずフラスコを徹底的に洗う。

 

そして蒸留水をフラスコに移す。

 

その間、水汲みはスールにやって貰う。

 

湯を沸かしていると、すぐに分かってくる。湯を沸かすのに使っている鍋が、すぐに汚れていく。

 

つまり井戸水は。

 

これだけ汚れていると言う事だ。

 

基本的に水は湧かして飲む。

 

誰でも知っている事だけれども。

 

こうやって煮詰めてみると。

 

どれだけ汚いか、よく分かってくる。

 

半日がかりで蒸留水を造り。

 

そして更にその蒸留水を使って鍋を一度綺麗にし。そしてまた蒸留する。見た目はよく分からないけれど。

 

これで前とは、桁外れに質が上がっているはずだ。そう信じる。

 

大きくため息をつくと。

 

マスクもした方がいいかと思う。

 

だけれど、そうなると。

 

多分アトリエを徹底的に綺麗に掃除することも必要になるはずだ。

 

埃とかが蒸留水には入り込んでいる筈で。

 

それを考えると、今後はアトリエそのものも、綺麗にしていく工夫が必要になってくるだろう。

 

そして、である。

 

腕を見る。

 

細い腕だ。

 

獣の攻撃を食らったら、それこそひとたまりもない。折れるどころか、消し飛ぶかも知れない脆い腕。お母さんは散々外で色々な敵と戦ってきた、騎士である以前にまずホンモノの戦士だった。スールも天性の勘の持ち主で。流石にこの間本職の騎士を見て驚いていたけれど。それでも運動神経は抜群にいい。

 

リディーは違う。

 

スールや、ましてやあの騎士アンパサンドさんみたいに動けない。

 

動けないのだとしたら。

 

なおさら爆弾とかを投げて、味方を支援するか。

 

それとも騎士団が使っているような、自分の力を高める道具で、魔術の力をめちゃめちゃにパワーアップして。

 

それで味方を支援するしかない。

 

とりあえず、充分な量の蒸留水はできた。丸一日掛かってしまったけれど、仕方が無い。コンテナにしまい込む。それだけでかなりの重労働だった。

 

「やだー、腕パンパンー」

 

「スーちゃん、思うんだ」

 

「何が?」

 

「今まで、こういう手間暇を掛けてこなかったから、錬金術上手にならなかったんだと思う」

 

スールはベッドで横になったまま聞いている。

 

リディーは、自分の手に回復の魔術を掛けながら、続けた。大した回復はしないけれど、やらないよりはマシだ。

 

蒸留水を作る過程で、ちょっと火傷していたのだ。

 

「お師匠様ができたとして、何て言われるんだろうね」

 

「天才って褒めて貰えるかな」

 

「絶対無い」

 

「そうだよね……」

 

楽天的な所はスールの良い所だが。

 

最近は、それもリディーにとっては、情けなく思えてきていた。

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