暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、来るべきその時

ミレイユ王女が会議を終えて、自室に戻ろうとしたその時である。

 

時が止まる。

 

ああ、来たなと悟ったが。

 

既にそれは、目の前にいた。

 

ソフィー=ノイエンミュラーである。

 

一瞬前までいなかったのに。

 

これでも、武芸に覚えがあるミレイユだが。それでも、此奴には何をやっても勝てる気がしない。

 

しかも念のためなのだろう。

 

護衛に、とんでもないのを連れている。

 

ソフィーの後ろにいる短髪のヒト族の女は、童顔に無邪気な笑顔を浮かべているが。宮廷闘争の中でも見たことが無いほどの危険な狂気と。騎士団の敵を殺し慣れている騎士達の中でも嗅いだことがないほどの血の臭いを感じる。

 

何となく、覚えがある。

 

鏖殺と呼ばれる匪賊殺しがいるという。

 

そいつが現れると、もはや匪賊は逃げる事も許されず、ただただ皆殺しにされていくだけ。

 

故に匪賊は、鏖殺の噂が流れるだけで、必死に逃げ出し。

 

しかしながら、逃げてもそのまま鏖殺されてしまう。

 

ここ数年で、鏖殺によって消された匪賊は千を軽く超えているとさえ言われている。それほどまでに、鏖殺の恐怖は轟いているのだ。

 

此奴がその鏖殺で、間違いないだろう。

 

「ミレイユ王女、お久しぶりですね」

 

「定期的に話をしているような気もするけれど。 それで如何なる用事かしら」

 

「雷神ファルギオルの正確な復活日時が確定したので連絡ですよ」

 

「!」

 

多分だが、違う。

 

確定したのではない。

 

確定させたのだ。

 

ソフィーの目は相変わらず深淵そのもので。此奴が戦えば、すぐにでも雷神を殺せる事なんて、分かりきっている。

 

それなのに此奴は。

 

どうして無理矢理な育成計画を立てて。

 

膨大な国家予算までつぎ込んで。

 

雷神抹殺のための準備を、アダレットぐるみで行わせているのか。それが、どうしても分からない。

 

探ろうにしても無理だ。

 

どんな腕利きの密偵でも、此奴相手にかなうはずがない。

 

単独で上級ドラゴンを殺すような奴だし。

 

隙を見せたことは一度もないと、手練れの密偵が揃って報告してきている。そればかりか、密偵はそれぞれ後ろに回られて、「遊ばれて」いるという。歴戦の密偵達が、子供扱いなのだ。

 

「復活は二週間後。 恐らく時間は正午過ぎ。 出来るだけ早めに準備を整えておいてください」

 

「……分かったわ」

 

「それでは」

 

最初から何もいなかったように。

 

ソフィー=ノイエンミュラーも。

 

付き従っていた鏖殺も。

 

いなくなっていた。

 

呼吸を整える。

 

時間が止まっていた間、蚊帳の外にいた侍女達が、慌てて駆け寄ってくるが。何でも無いと、はぐらかす。

 

さて、此処からだ。

 

ソフィー=ノイエンミュラーは何を目論んでいる。

 

分かっているのは、深淵の者はソフィー=ノイエンミュラーに全面協力体制をとっている、と言う事。

 

何しろ首領であるルアードが出てきているほどなのだ。

 

アルファ商会も、相当な金を動かしていて。

 

アダレットの国家予算十年分に達する金が動いたのではないか、という話さえ出てきている。

 

勿論経済の表面には出てきていないが。

 

深淵の者とアルファ商会が密接につながっている、どころか。アルファ商会のトップであるアルファが、深淵の者幹部である事はとっくに調べがついている。とてつもない巨大な何かが、蠢いているのだ。

 

唇を噛むと、歩く。

 

例え相手が何者であろうと。

 

アダレットを守りきらなければならない。

 

無能な先代王を幽閉するのに協力してくれた恩はあるが。だからといって、好き勝手をさせるわけにもいかない。

 

更にソフィー=ノイエンミュラーほどではないにしろ。三傑の残り二人、イルメリアとフィリスも相当に厄介だ。本当に、どうして此処までの凄まじい力が、アダレットに集まっているのか。

 

大臣の一人が来て、耳打ちされる。

 

頷くと、眠るのは中止して、会議に戻る。

 

また、やる事が出来た。

 

雷神復活に備えて、準備はしている。それに対して、幾つか決定的な証跡をとる必要が出てきている。

 

ソフィー=ノイエンミュラーは恐らく嘘をついていない。

 

だが、此方でも、やるべき事はあるのだ。

 

会議をしたあと。マティアスを呼んで、双子にスクロールを届けさせる。

 

そして、騎士団に。

 

総力戦の準備を開始させた。

 

今はまず。

 

雷神ファルギオルを仕留めなければならない。

 

 

 

リディーはマティアスさんからスクロールを受け取り、内容を確認する。

 

Dランクに昇格。

 

今後義務として、以下のものが追加される。

 

騎士団の騎士用に、錬金術で作った装備品の納入。毎月五つ。

 

以上である。

 

この装備品には、最低限以下の機能を必要とする。防御力の常時強化。身体能力の常時強化。

 

読み終えると、頷いていた。

 

この機能なら、ナックルガードで充分だろう。

 

たくさん作ったので、かなり慣れても来ている。材料だってたくさんある。金属に魔法陣を彫り込むのも慣れた。

 

それにこのナックルガード、汎用性が非常に高い。

 

シールドの常時展開、身体能力の常時強化の他には。体力の常時回復と、魔力の底上げで良いだろう。

 

ナックルガードの変則レシピはたくさんつくってあるので。

 

それに沿ってやるだけ。

 

スールと手分けすれば、すぐに出来る筈だ。

 

「分かりました、マティアスさん。 これなら簡単だと思います」

 

「心強くなってきたな。 だけれど、悪い連絡があるんだよ」

 

「何?」

 

「すぐに試験だ。 それも危険な奴」

 

もう一つ、スクロールを渡される。

 

レシピが記載されていた。

 

雷撃を集めて。

 

その数値を記録する装置らしい。作れないものではないが、これは恐らくだが。

 

「これって……」

 

「そうだ。 あのおっそろしいブライズウェストに設置してくること。 それが試験内容だ」

 

単純な試験内容だが。

 

問題は、錬金術師の補助が恐らく一人だけ。それもルーシャだけしか出せないだろう、という事だった。

 

ルーシャは確か昨日Cランクに昇格したと聞いた。そうなると、Dランクの錬金術師と、Cランクの錬金術師を一緒に出すというので、コスト的には限界なのだろうとも思うが。しかしながら、前にブライズウェストに赴いたときに比べて、飛躍的に力が増しているわけでもない。

 

これは、本格的な準備が必要だ。

 

今、ネックレスを人数分用意するべく、頑張って二人で手分けしている所だ。

 

ルーシャとオイフェさんは必要ないだろうけれど、できるだけ急がないといけないだろう。

 

最悪アンパサンドさんとリディーの分だけでもいいか。

 

後出来れば、イル師匠に話を聞いて、雷撃避けの装備を借りたい。あれがないと、ちょっと危なくてブライズウェストには足を踏み込めない。

 

大体雷神の復活が近いと聞く。

 

この装置の設置意図なんて、分かりきっている。

 

覚悟は決めなければならなかった。

 

「雷神ファルギオルが、もう復活するんですね」

 

「噂によると、二週間先だって話だ」

 

「そんなに近いの!」

 

「そうだぞスー」

 

笑おうとして失敗するマティアスさん。

 

それはそうだ。

 

ファルギオルとの戦闘記録は見た。騎士団も記録的な被害を出しているし、その恐ろしさは騎士団にも語り継がれているはず。

 

幾ら山師同然の連中とは言え、錬金術師をまとめて薙ぎ払うようなバケモノである。

 

下手をすると、それと戦わなければならないのだ。

 

四日後に出る約束を取り付けると。スールに、フィンブルさんに声を掛けてきて貰う。あと、予算がごっそり振り込まれたので、ドロッセルさんにも来て貰う事にする。これで戦力はどうにかなるか。

 

あと、自身はイル師匠の所に行く。

 

雷撃対策が出来ないと、彼処にはもはや入り込む事も出来ない。

 

最悪ネックレスを放置してでも、雷撃対策の装備を作らなければならない。

 

さて、ここからが勝負だ。

 

時間は、一秒でも無駄に出来ない。

 

リディーは頬を叩く。

 

いつまでも、恐怖に打ち震えてはいられない。

 

また雨が降り出す。

 

怖くてまだ膝が笑いそうだけれども。

 

それでも、走らなければならなかった。

 

 

 

(続)




余談ですが、ソフィー先生はがっつりアダレットのクーデターに噛んでいます。

まあ本人が暴れたら文字通り王都が消し飛んでしまうので、あくまで最小限の介入しかしていませんが。

それだけで充分過ぎるのです。
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