暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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本作では冒頭でソフィー先生に文字通り手も足も出せずにキュッとされましたが、それでもこの作品世界では間違いなく最上位に入る存在。

原作における壁ボスにて、アトリエシリーズでは珍しい程の難敵として立ちはだかる雷神ファルギオル。

復活の時が近付いております。


最凶の復活
序、雷鳴の園で


四日間でどうにか準備は整った。必死に準備を進めて、騎士団への納入も済ませたし。アンパサンドさんとリディーの分のネックレス。レシピ通りに測定装置「ドナーエンデカー」も作った。更にはイル師匠から教わって、浮遊避雷針と、足につける雷撃緩和装置も作った。

 

もう殆ど寝ている暇も無かったけれど。

 

兎に角間に合わせることは出来た。

 

これでどうにか、指示されているブライズウェストでの作業には間に合うはずだ。

 

浮遊避雷針は、仕組みが正直よく分からない。

 

レシピ通りに作れとイル師匠に言われて作って。そして本当に自動で上空を守ってくれたので、驚くしかなかった。

 

雷撃緩和装置も、イル師匠が平然と雷撃の魔術を使って、その威力を確認することが出来た。

 

確かによっぽど至近で雷が直撃しない限り。

 

これで大丈夫だろう。

 

城門で、ドロッセルさんとルーシャがいるのを確認。オイフェさんも、相変わらず無口で置物のようにしてその場にいる。

 

かなりの出費だけれども。

 

今回は試験を兼ねた緊急任務だ。

 

相当の報酬が出るはずなので。

 

回収は出来る筈。

 

この間の、アンフェル大瀑布の一件で、すってんてんになるまでお金は使い果たしたので。

 

金に五月蠅い事を自覚しているスールは、少しイライラしていたけれど。

 

今はそれどころじゃない。

 

雷神ファルギオルの復活が間際だというのである。

 

もし伝承の雷神が復活したら。

 

どうやったら止められるのか、さっぱり分からない。本当に倒せるのか、最高位の邪神を。

 

最近、とうとうリディーがおかしくなりはじめた。

 

それをスールは敏感に察知していた。

 

力を得れば得るほど深淵に近付くという話だったけれど。

 

スールより覚えが早いリディーが、深淵に近付くのが早いのは、ある意味では当たり前とも言えた。

 

きっと、狂っていくんだ。

 

そう思うと、胸が張り裂けそうに苦しい。

 

お父さんはあんなになってしまった。

 

お母さんはこの世から去ってしまった。

 

リディーまでおかしくなってしまったら。

 

スールはどうすればいいのか。

 

怖い。

 

本当は、シスターグレースの所にでも駆け込んで、ずっとめそめそしていたいくらいには怖い。

 

でも、今はそれより先に。

 

多数の人命が掛かっている、危険な仕事を片付けなければならないのである。出来る人は、そう多くない。

 

やらなければならないのだ。

 

打ち合わせを軽くする。

 

以前使った街道を利用して、ブライズウェストに行く。

 

ドナーエンデカーを配置する場所。

 

測定の方法は聞いている。

 

一日ぴったり配置して。

 

その後、持ち帰って納入すれば良い。

 

現地まで、急ぎ足で一日。つまり往復で二日。

 

ブライズウェストでドナーエンデカーを置くのに一日。

 

諸作業で一日。

 

合計で四日という所だろう。

 

四日前に、二週間後に雷神が復活すると聞かされている。既に四日経過している。予定通りに進んだとしても、ドナーエンデカーを納入して六日後には雷神ファルギオルが復活する事になる。

 

見ると、確かに城門には騎士が多数いて。

 

順次ブライズウェストに出発する準備を整えているようだった。

 

これは、冗談抜きに。

 

本当に、十日後には復活するという噂は、嘘では無いのだろう。

 

王都内でも、雷雨が間断なく到来していて。

 

色々と状況がおかしい。

 

体調を崩している人も多いようで。

 

更には、年老いた、一線を退いた騎士達まで出張って、避難訓練を始めている有様である。

 

噂は本当なのだと。

 

スールにさえ分かる程だ。

 

「それでは、駆け足で現地までお願いします」

 

「よし……」

 

フィンブルさんが頷く。

 

アンパサンドさんは、無言で頷いた。

 

それからは、手続きを済ませて。

 

城門を出る。

 

後は一直線に、雨が降る中を走る。雷もドカンドカン落ちていて、スールは時々首をすくめた。

 

二連に連結している荷車も、時々嫌な音を立てる気がする。

 

その内、この荷車も、浮くようにしたい。

 

数年前から、「飛行キット」というものが出回っているらしく。

 

取り付けるだけで、荷車を飛ぶように改良できるという。サイズによっては、船を浮かせることも出来るのだとか。

 

作成難易度は高いものの。

 

もう少し腕が上がれば、多分作れる筈で。

 

もし作れたら、悪路でも荷車を引く苦労がほぼ無くなる。引く必要さえ生じなくなるかもしれない。何しろ、指示を出せば、それに従って動いてくれると言う話なのだから。

 

そうなれば、こういう状況でも、走るだけで良い。

 

リディーも、最近は装備品による補助で、走るのを苦にしていない。スールも、ずっと楽だ。

 

体力が常時回復するというのはとても大きい。

 

ひたすら走り続けるが。

 

緑化作業の成果か、三つ目の。ブライズウェストの近くの街まで、街道は緑によって守られていた。もう此処まで作業が進んでいたのか。

 

雨は凄まじいが。

 

緑化された森はびくともしていない。

 

この辺りは、あのオスカーさんという人の腕が単純に凄いのだろう。

 

ただ、街に入ると。

 

既に周囲は傭兵と騎士で一杯。

 

街の中も外も、天幕だらけになっていた。

 

そして街の住民は、既に避難している様子で。

 

宿に入ると、一斉に此方を見られる。

 

見てきたのは、騎士か、従騎士か。いずれにしても、そういう軍属の人達ばかりのようだった。

 

咳払いしたアンパサンドさんが、騎士二位である事を告げて、此処の責任者に会いたいという。

 

本当は騎士一位のマティアスが動くべきなのだろうけれど。

 

もう期待していないのか。

 

或いはミレイユ王女に、動かないときは自分で動いて良いと言われているのか。

 

戦闘で指揮を執るつもりはないようだけれども。

 

アンパサンドさんの方が、騎士として頼りになるのは事実だったし。

 

それに、珍しいホムの騎士がいて。

 

回避盾として活躍を続けていると言う話を聞いてもいるのだろう。

 

すぐに騎士達は態度を改めて、動いてくれた。

 

二階から窮屈そうに降りてきたのは、魔族の騎士である。騎士一位だそうで、敬礼をアンパサンドさんとかわす。マティアスも一瞥したが。事情を察しているか、何も言わなかった。

 

状況について話しあった後。

 

少し休憩したい旨を告げる。

 

いきなりブライズウェストに直行することは流石にしない。

 

今回は出来るだけ急いでドナーエンデカーを置いてくるだけのお仕事だけれども。それでも彼処は行くだけで余りにも危険なのだ。

 

此処まで走ってくるのに、少しとは言え消耗している。

 

回復してからでも遅くない。

 

騎士は頷くと、暖炉の前を開けてくれた。助かる。リディーとスール、それにルーシャが休んでいる間に。

 

アンパサンドさんは、愛用のナイフの手入れをしている様子だ。

 

そろそろ、聞いても良いかも知れない。

 

この間認めてくれたようだし。

 

「アンパサンドさん、そのナイフって、ひょっとしてプラティーン?」

 

「……騎士二位に昇格した時に、支給された業物なのです」

 

はぐらかされた。

 

だが、支給されたという話は嘘ではないのだろう。

 

見ると、上位の騎士は、皆それぞれ、自分にあっているだろう武器を手にしている。それぞれが、大事な軍事力として見なされているというわけだ。戦略級傭兵ほどの信頼はおかれていないにしても、それでも騎士団としては、歴戦の猛者に相応しい装備を支給したいのだろう。

 

ドロッセルさんが、タオルで頭を拭きながら、視線で外を指す。

 

「それで、この間より多分更に雨と雷が激しいけれど、いつ出るの?」

 

「休憩が終わったらすぐに。 もう時間がありませんから」

 

リディーの言葉にひやりとしたが。

 

まあ周知の事実だろう。

 

マティアスはまったく信頼されていない。姉のミレイユ王女からも、である。

 

そのマティアスの所まで、雷神復活の日時について情報が降りてきているのだ。

 

此処にいる騎士達が、知らないとも思えない。

 

ドナーエンデカーを置く場所。

 

回収する時間。

 

それらについては、しっかり決められている。

 

ドナーエンデカーは、筒状の形状をした装置で、ただ置くだけで周囲の電気について調べてくれる優れものだ。

 

そして、配置するのは。

 

200年前の戦いで、雷神ファルギオルを倒したとされる場所。

 

地図としては、ブライズウェストの端に当たる。

 

要するに、端まで追い込まれたという事だ。

 

このブライズウェストの防衛線を突破されたら、王都までもうロクな戦力がなかった状態らしかったので。

 

本当にギリギリの戦いだったのだろう。

 

退屈な本を、無理矢理読んで事前に調査しただけの意味はある。

 

事前に地図を開いて、場所を確認。

 

最短ルートと。

 

川を出来るだけ避ける方法を考えて、移動路を先に決めておく。

 

二階にいつの間にか上がっていたフィンブル兄が降りてくる。

 

「二人とも、いいか」

 

「はい」

 

「何?」

 

「偵察から話を聞いていたが、殆ど橋は駄目になっているそうだ。 何か川をやり過ごす手を考えなければならないかも知れないな」

 

それは、そうだろう。

 

この豪雨続きである。

 

雷もたくさん落ちている。

 

地盤は緩みきっているだろうし。橋が駄目になっているのは、予想できていた。

 

頷くと、皆で地図を囲んで、ルートを決める。

 

少し迂回して、街の南側から移動。少し西に行くと、大きめの橋がある。そこからぐるっと回り込んで、ブライズウェストに行き。

 

さっさとドナーエンデカーを置き。

 

そして帰る。

 

相当数の獣が、道中に出ることが推察される。

 

ネームドもいるかも知れない。

 

だが、此方も戦力を上げている。その筈だ。

 

だからきっと。

 

怖れるには足りない。

 

弱めのネームドが相手だったら、もうルーシャもいるし、対応は出来る筈。ドラゴンとかが出てきたら逃げるしか無いが。

 

後は幾つかの戦略について話した後、宿を出る。

 

そして、もうこの時点で。

 

用意してきた、浮遊避雷針を展開した。

 

皆の靴にも、雷緩和のためのバッチをつけて貰ってある。

 

これで、多少の落雷には対応出来るはず。

 

恐らくイル師匠が頼まれて納品したのだろう。

 

前線基地となっている街の上空には、三十を越える浮遊避雷針が漂っていて。

 

街に落ちる雷を、完全に防ぎ切っているようだった。

 

時間は、一瞬でも惜しい。

 

油紙で守った荷車を引いて、走る。

 

街から出て、少し南に行った後、予定通り西へ。川が増水して凄まじい事になっているが。

 

何とか其処にある大きめの橋は無事だった。

 

基礎からして、何か強力な錬金術の処置をしている様子で。この強烈な水害にもびくともしていない。

 

橋を渡りきった後。

 

一気に泥沼を蹴散らしながら走る。

 

途中、雷が何度も至近に落ちる。

 

目の前が見えないほどの豪雨だ。

 

それでもなお、先に進まなければならない。雷神が復活する事を、しっかり確認しないと。

 

どんな不意打ちを食らうか分かったものではないからだ。

 

雷神は文字通り稲妻のように動く事が確認されている。

 

そんな相手に不意打ちなんて喰らったら。

 

文字通り騎士団は全滅する。

 

イル師匠でも危ないかも知れない。

 

あらゆる不測の事態を防ぐためにも。

 

イル師匠達一線級の下にいるリディーとスールが。

 

全力で頑張らないといけないのだ。

 

止まれと、声がした。

 

アンパサンドさんだ。

 

この豪雨、前もロクに見えない状態。

 

ハンドサインを使える状態には無い。

 

危険度は増すが、短く言葉でやりとりするしかない。

 

足を止めたのには理由がある。

 

どうやら決壊したらしい川から、水が流れてきて、路を塞いでいる。それほど深くは無さそうだが、流れは速い。

 

気合いを入れないと、危ないかも知れない。

 

「飛び越せる?」

 

ドロッセルさんが聞いてくるので、頷く。

 

今なら、装備品の強化もある。荷車無しなら、飛び越すのは難しくないはずだ。此処にいる全員が、である。

 

ドロッセルさんは、それを聞くと。

 

荷車を担ぎ上げて、跳躍。

 

濁流の向こう岸に、降り立っていた。

 

うっそおと声を上げたくなるが。

 

岩を放り投げていたような人である。これくらいは出来て当然、と言う事か。色々凄い。勿論錬金術装備による強化もあるのだろうけれど。

 

だとしても、二両目の荷車も担ぎ上げて、ひょいと濁流を飛び越えているのを見ると、生唾を飲み込んでしまった。

 

「続くのです」

 

アンパサンドさんも、ひょいと濁流を飛び越える。

 

ネックレスで身体能力を更に数倍に引き上げたことで、動きのキレが上がっている。それでも、魔族には自力で劣るだろうが。アンパサンドさんは、ヒト族の半分、魔族の四分の一しかない上背で、前線でバリバリに戦うほどの技巧派だ。それがこれだけ身体能力に倍率を掛ければ、もう多分隊長クラスの騎士より強いのではあるまいか。

 

他の皆も濁流を飛び越える。

 

ルーシャもひょいと余裕を持って飛び越えていたので。

 

相応の身体能力強化をしている、と言う事だ。

 

ただ、ちょっとリディーだけは危なっかしくて。

 

しかも濁流を飛び越えた直後、至近に落雷が直撃したので。

 

思わずひやりとした。

 

リディーも真っ青になっていたが。

 

こればっかりは、憶病だなんてとてもいえない。ドロッセルさんでさえ、閉口した様子で耳を塞いでいた程である。

 

手を引いて、濁流から遠ざける。

 

まだ、予定の設置地点は遠いのだ。兎に角急ぐ。

 

そして、此処に時間をおいて、もう一度来なければならない。

 

邪神が復活すると言う事は、これからもっと雷雨が激しくなることはほぼ確実というか絶対だろうし。

 

もはや何も言うことも無い。

 

無言で走る。

 

獣の姿は殆ど見かけなかったが。

 

時々すっとアンパサンドさんが飛び出て。

 

そして、一瞬置いて、凄まじい戦闘音が響きはじめることが何度かあった。勿論真っ先に気付いて、囮になってくれている、という事である。すぐに加勢して。決して弱くない獣を集中攻撃して仕留め。乱暴に荷車に乗せて、次へ急ぐ。

 

ライデン鉱も拾っておきたかったが。

 

正直その時間さえも惜しい。

 

ドナーエンデカーを配置する地点が見えてきたが。

 

うわっと、思わず声を上げたくなる。

 

周囲には、円形にえぐれた地形だらけ。当然其処には水がたくさん溜まっている。

 

此処でどんな戦いが行われたのか、正直考えたくも無い。

 

人もたくさん死んだだろう。

 

ドナーエンデカーを取りだすリディー。

 

スールも、少し遅れて、設置に協力。設置している間も、雷は周囲に、ドカンドカンと落ち続けていた。

 

時計を確認して、時間をメモ。

 

後は、予定通りの時間になったら、回収すれば良い。

 

戻ろうと、振り返ると。

 

其処には、普通のより三倍も大きいキメラビーストが、ゆっくり歩いて来ていた。

 

交戦は避けられないだろう。

 

雷雨の中でも響き渡るほどの凄まじい雄叫びを。

 

キメラビーストが上げていた。

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